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005

 改めてフィーネに向き直る。

「まずは現状確認だ。いくら必要で期限はいつだ?」

「えっと、銀貨17枚と銅貨50枚が必要で、返済までは今日を除けばあと26日しかない」

「銀貨のレート、いや、銀貨1枚ってのは銅貨何枚の価値なんだ?」

「銅貨100枚、だけど?」

「………そうか。あと、今日の稼ぎいくらって言ってたっけ?その、よく聞こえなかったからさ」

「もー、銅貨32枚って言ったよ」

 そこまで聞いて一旦考え込む。単純計算だと毎日銅貨67枚稼ぐ必要があるが、それは全て返済に当てればの話だ。生きていくだけでも金は掛かるし、怪我をしたり体調を崩したりして稼げない日が出来る可能性もある。効率よく稼がなければ厳しいだろう。

「手元にどれくらいお金残ってるんだ?」

「ちょっと待ってて」

 フィーネは立ち上がり、部屋の隅に置いてある篭の中をガサゴソと漁る。そして中から金属同士が擦れる音が聞こえてくる布袋を持って来た。フィーネがその袋の口を開き逆さまにすると、くすんだ茶と銀色の2種類の金属がジャラジャラと出て来る。精巧な日本の硬貨に見慣れた俺には、それが硬貨だと一瞬分からない程度に歪な形をしていた。

 フィーネが1、2、3………と茶色の硬貨、まあ銅貨であろうそれを数えていく。

「銀貨3枚に銅貨73枚あるよ」

「返済日までとその後しばらくの生活費には、どれぐらい掛かるか分かるか?」

「銀貨1枚半あれば当分暮らせるよ」

「ふむ………」

 手元の銀貨2枚と銅貨55枚をどう活用するかが肝になりそうだ。だけどその方法を判断するには情報が足りない。

「フィーネはどう稼ごうと考えてたんだ?」

「どうって、ダンジョンに行ってだけど?」

「あー………そうじゃなくてさ。メウィスとかそういうモンスター?生き物を狩って稼ぐのか、魔結晶だっけ?そういうのを集めて稼ぐのか。どういうのなんだ?」

 俺の質問にフィーネは少し考えてから答える。

「えー………っと、魔結晶を集めて、かな。でもその手段として、狩りも採取も有りだから、どっちかだけっていうのは考えてなかった」

「………つまり、フィーネは何が言いたいんだ?」

 フィーネの言葉に俺が困惑していると、少し困ったような難しい顔で口を開く。

「ユーゴは別の世界のヒトなんだから、ここの事知らなくて当然なんだよね。………なんて説明したらいいんだろ。その、ユーゴはあたしが最初に拾った魔結晶とメウィスから採った魔石を別物だと思ってるんだよね?」

「まあ、そうだな」

 魔結晶はフィールドの採取アイテム、魔石はモンスターからのドロップアイテムだと考えていた。

「呼び方は違うけど、魔結晶も魔石も同じ物なんだ。どっちも魔力の塊」

「その呼び方を変えてる理由はあるのか?」

「さあ?あたし魔術師じゃないからそんな事知らないよ。ただ大きさとか質の違いで決まってるらしいって事しか知らない」

 つまり同じ鉱石でもサイズで岩、石、砂利のように呼び方が変わる、ぐらいの認識で問題なさそうだ。

「ん?あれ?魔術師じゃないって………フィーネが俺を召喚したんじゃないのか?」

「違うよ。あたしはあくまでユーゴと契約しただけ。召喚したのはヴィリアナさん………召喚室に一緒にいたお姉さんだから」

 その言葉に喚び出された部屋にフィーネの他に緑髪の女性がいた事を思い出す。召喚者と契約者が異なるとはどういう理屈なのか、この世界の魔法とか魔術とかファンタジーな部分に興味が湧いてきたのが、フィーネの声によって思考が遮られた。

「そんな事より、どうやって稼ぐかでしょ!他に聞きたい事はないの?」

「後は………。そうだな、その魔結晶、魔石でいいか。その魔石はどうやってできるんだ?」

「ダンジョンに落ちてるのは正直よく判らない。いつの間にかできてるんだ。ダンジョンの中の魔力が月日を掛けて結晶化してるんじゃないかって言われてる。魔物、メウィスみたいなダンジョンに住んでる生き物の事なんだけど、そっちは結構判ってる。魔物はダンジョンに満ちてる魔力を食べてるんだ。それが体内で蓄えることで魔石ができる。だから魔力を食べる生き物、魔物って呼んでる」

「ん?魔力って目に見えるものなのか?どうやって魔力を食べてるって分かったんだ?」

「魔結晶を食べてるのを見た人がいるんだってさ。けど、特に上層では魔結晶の数に対して魔物が多いから、大気中の魔力を食べてるんじゃないかって。ダンジョンには普通の食べ物なんてないしね」

 魔石の発生条件とかが判れば効率よく探せるかと思ったが、そう甘くはないようだ。

「じゃあ、その魔石の価値ってどう決まってるんだ?」

「魔力の量と質だね」

「量と質………。それはどうやって判断してるか知ってるか?」

「うん、それは知ってる。量は単純に石の大きさで、質は色を見れば判るよ」

「色?」

「魔力には5つの属性があるんだけど、それがたくさん混ざっていると透明に近い薄い色で、逆に1つの属性が多いと綺麗に濃く属性の色になるんだ」

 その言葉に道で拾った魔結晶とメウィスから採った魔石で色が違っていたのを思い出す。

「もしかして、魔物から採れる魔石の方が質が良いんじゃないのか?」

「うん、その通り!どういうわけか、ダンジョンに落ちてるのより魔物の方が質が良いんだ。特に魔物を食べる魔物から採れるやつ。まあ、そういう魔物は凶暴だからあたし達じゃ無理なんだけどね。あとダンジョンの下層の方が魔力が濃いらしくて、下に行くほど魔石が大きくなるって話」

「つまり、下層の魔物を倒せば大きくて質の良い魔石が手に入るって事か………。難しいな。フィーネはどこでどうやって魔石を集める予定だったんだ?」

「だいたい10層ぐらいから魔物食いが出てくるから、5層辺りでメウィスみたいな魔力食いの魔物を狩るついでに落ちてる魔石集めしようと思ってたんだけど………」

 ちらりとフィーネが俺の方を見る。その視線にフィーネが飲み込んだ言葉を察し、いたたまれない気持ちになる。

「まあ、魔力食いで大人しいと言っても反撃してきたら十分強いって今日で分かったから、やっぱりこの案は練り直さないとだね」

 俺はともかく、もしフィーネがメウィスに噛まれて怪我でもしていたら、しばらく動けなくなっていただろう。できるだけ安全かつ確実に稼がなければならない。そうなれば、魔物との交戦は避けて魔石拾いをメインにした方がいいだろう。

「その魔力食いってのはこっちから手を出さなければ襲わないって認識で大丈夫か?」

「えーっと、うん。下層のはともかく上層で手を出してないのに襲われたって話は聞いたことないよ」

「それじゃあ、魔物食いが出ないギリギリの層で、魔力食いには手を出さずに魔石集めをするってのはどうだ?」

「うーん………ちょっと厳しいかな。その辺りは駆け出し冒険者がたくさん潜るって話だし、狩りと平行ならともかく魔石集めだけだと、他の人が未探索な場所を見つれないと稼ぐのは難しい、と思うよ」

「そうか………ん?なら逆に人がほとんど行かない場所なら、魔石がたくさんあるんじゃないか?ほら、1層目の側道とか」

「確かにそうかもしれない………。あそこは初心者でも通り道って感覚だし、その側道に入る人はいないと思う。あるとしたら魔結晶だと思うけど、行ってみる価値はあるんじゃないかな?」

「よし、じゃあ明日は1層の側道に行ってみるか」

「了解。明日の準備は……荷物は今日と同じで大丈夫かな。あ、ユーゴの分の鞄用意した方がいいよね。ちょっと待ってて」

 そう言うと再び奥の部屋へと入る。何かを探しているのかガサゴソという物音が聞こえてきた。しばらくして物音が止むと、大きくしっかりとした作りの革製のリュックを手に持ったフィーネが戻ってきた。

「ユーゴはこれ使って」

 とそのリュックを手渡してくる。

「あ、ああ。分かった」

 明らかにフィーネの体格に対して大きいリュックは大人の物、しかもデザイン的にどちらかと言うと男性向けの物に見える。もしかしたらフィーネの父親の物だったのではないかと思うと、自分が使っていいのかと聞きたくなるが、フィーネが何も言わないのに突っ込む方がよくないだろう。

「そうだ。出来ることなら、新しい服と靴が欲しいんだけど、大丈夫か?」

 穴が空いてるジャージでは格好がつかないし、裸足で外を歩くのは地味に痛い。

「服がそれ1枚じゃ大変だし、うん、いいよ。………ユーゴって靴必要な人だったんだね。てっきりそういう文化かと思ってたよ」

 そんな風にフィーネが思っていたのかと、少し苦笑する。

「家で寛いでる時に召喚されたから裸足なだけで、そういう文化はないよ」

「そっか。ん、明日は帰りにユーゴの服も買いに行かないとだね。服買いに行くの久しぶりだからちょっと楽しみ」

 そう言って少し楽しげにフィーネが笑った。


 その後、手分けして俺のジャージの破れた箇所を繕っていると、フィーネがもう眠気の限界なのか、うつらうつらと船を漕ぎ出した。

「針持ったままだと危ないぞ。ほら、後は俺がやるから横になってろ」

「………うん」

 フィーネの手からジャージの上着と縫いかけの裁縫針を取ると、すぐにフィーネは絨毯の上で横になる。

 早く修繕を終わらせようと続きを縫い始めるが、ちょっと、というか大分荒い縫い目になってしまった。大昔の家庭科の授業でやった以来なので仕方ないとは思うが、フィーネの綺麗な縫い目と比べると粗さが際立つ。

 穴が繕えれば問題ないと自分にいい聞かせジャージを着直す。そして、もうほとんど眠ってると言っていいフィーネに向き直った。

「おーい、フィーネ。聞こえるか?寝る場所は何処だ?」

 フィーネの体を揺さぶりながら、耳元で話す。

「んー………あっち」

 体を動かすのも億劫そうな緩慢な動きで、玄関から左手のドアを指さす。

「分かった」

 そう言ってフィーネを抱き上げた。見た目よりも軽い。そしてフィーネが指指したドアを開け、部屋に入る。

 入ってから右手奥の方に、おそらくベッドであろう、敷き詰められた藁にシーツのような布が被さっている物がある。その上には何か動物の毛皮の様な物が置いてあった。

 シーツの上にフィーネを下ろし、上から毛皮を掛ける。そこまでして、ふと気づく。

(これ、俺が寝る場所あるのかな………)

 この藁ベッド自体はダブルベッド以上の大きさがあるので俺も一緒に寝れない事はない。俺自身ロリコンではないので、フィーネに対してやましい気持ちも手を出したいとかそういった類の欲求は全くないが、フィーネ自身がどう思うかは別の話だろう。

 もう一つの部屋にベッドがあるかもしれないが、何度かフィーネが物を取りに行っているので恐らく物置部屋だろうし、そこにベッドがあったとしても許可なく使うのは気が引ける。となると、寝れる場所は中央の部屋に限られた。

 昼間と比べて大分気温が下がっていて肌寒い中、掛け布団も無しに寝るのは風邪を引く可能性もあるが、一晩ぐらいは何とかなるだろう。そう考えて寝室から出ようと、藁ベッドから身を起こすと誰かに袖の裾を引っ張られた。

「ユーゴ………どこ行くの………?」

 振り向くと眠たげな目でフィーネが俺の服を掴んでいる。

「ほら、灯り消すの忘れてたから消しに行こうとしてたんだ」

 開きっぱなしにしていたドアを指差してそう言った。流石に絨毯の上でそのまま寝ようとしてた、とは言い辛い。これで離してくれるだろうと思ったら、予想外の言葉が飛んできた。

「………別にそのままでいいよ。それより………ユーゴも………一緒に寝よう………」

 そう言うなり、俺の腕をぐっと引っ張る。バランスを崩してベッドの上に倒れ込むと、今まで全く感じていなかった眠気に襲われた。

 抗いがたい眠気に包まれていると、フィーネの声が近くで聞こえる。

「おやすみ………ユーゴ………」

「………ああ、フィーネ………おやすみ」

 何とかそう答えると、瞬く間に俺の意識は深い眠りに落ちた。

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