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しらゆりのゆびわ  作者: 優月黒乃
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【chapter2:白樺(しらかば)】

chapter2 白樺(しらかば)


駅前で踊ることが僕の金稼ぎだった。得意の体術と柔軟で観るものを魅了する。一度留めてしまえば終わりまで離すことができない。

そこに悲しそうな哀れな子犬でも演じれば金を投げ込んでくれる。

体術は父から教わったものだ。けれどその父はもう側には居ないのだが。


――にしても今日は客が少ないな。


うちの家系は少し複雑で、僕とトルマは母方の連れ子。アスベルクは父の連れ子だった。父は会社のオーナーのため、お父さんや、パパなどと呼ぶことすら、会うこともクリスマスくらいだった。

そんなある日。


「ルーチ君。長男の君はお母さんと妹と弟を守らないといけない。私はこんな仕事をしているから、いつ逝くかわからん。だから私は君にCQC(対人物用近接格闘術)寄りの体術を教えようと思う。」


嬉しかった。その一言に尽きる。僕の事を信頼し技を仕込んでくれる。父親とようやく

親子らしいことができる。どんなに辛くても決して諦めずに体術をマスターしようと思った。術は簡単なパターン制だった。

前方からの敵に対しは蹴り上げ。横方向の敵に対しは関節技。

しかし。

いままで全く鍛えていなかった体では限界があった。特に敵を力で抑え込むなどの技ではまったく進展しない。

そこを補ったのが天性の柔軟性と身軽さだった。力で抑え込まなくてもツボを刺激し、足を掛ければ重心は傾く。そこに飛びついて見せると

父はとても褒めてくれた。

幸せだった。

それに父といるときは些細な悩みなど忘れてしまえたし本音では妹に対する優越感なるものも確かに存在していた。


――客が増えてきた。


そんな感情を読み取ったのか(女の勘で)だんだんとトルマも勿論アスベルクも父親との溝を埋めていった。釣られて母も。

しかし。

平和に見えた、いや平和だったネル家はすぐに破滅した。


原因は父の汚職。


毎晩家に借金取りがやってくる。ドアを叩く。

不思議なことに木のドアはいくら叩いても壊れなかった。


壊れろ。そして家族全員殺されますよう。と祈った。


その頃はまだ家族があると思った。


数週間がたち。ようやく南京錠が割れ、ドアが壊れた。


子を守らず逃げ惑う父と母。


絶望し、愕然した。期待を裏切られた。


僕は術で、親ではなく妹と弟を守った。皮肉だ。


もう。



あんなに好きだった父も母も嫌いになった。





日が暮れ始める、今日は快晴だったため茜色に輝く太陽が線路のレールを照らし。

レールも、上を通過する電車の腹と僕らを照らした。

さあ帰ろう。

踊りを止める。

そして転びながら最後まで、数刻前から見ている少年少女を楽しませ路地に駆け込んだ。

路地は暗く、魚の骨を漁る猫の巣窟だった。光る眼でこちらを見てくる。

また過去がフラッシュバックした。

「ネルさん、おかしいでしょ! 払ってくださいよ!」

ドアがない大きな家を逃げ出し、郊外へ小さな小屋を設けたがそんな努力も空しく。

すぐに居場所は知れた。


「こ、今月中には…」

「それ何回目~?」


物語の中だけだと思っていた情景が展開される。

必死に腕の中の二つの体を抱きしめた。


「んじゃ。わかりました。あなたの奥方を貰ってきます。これで2週間は生活させてあげますよ」

「冗談じゃない!!! 彼女は今、精神を病んでいるんだぞ!」

「そうなったのも皆、あんたのせいでしょ!!」

「私じゃなく! 私の会社が!!」

「だからあんたのせいだろ? 大口叩いてるとホントにここの小屋。解体ですよ?」

「…っ!!」

「連れてさしあげろ。元オーナーの嫁だ。高く売れるから傷つけるなよ」

取り立ての男は二人の部下に命令した。

家の中にずかずかと入りこみ、母の腕を掴み上げた。

母は何も言わない。目は死んでいた。


その時。


部下が母を連れて家から出ようとした瞬間だった。

僕らの人生が父の一言で狂った。


「うちには子供が3人いる。」


それからは記憶から消した。多分売られたんだろう。


でも忘れられない事件がある。

屋敷に売られてしばらく経つころ、

トルマは顔立ちがよかったため屋敷のデブ次男坊のラックの部屋に連れ込まれそうになった。

力も弱くまだ幼かったトルマは泣きながら引きずられていった。

その現場を。

アスベルクはみてしまったのだ。


次の日の朝、トルマはアスベルクの部屋で毛布をかぶり震えていて。

ラックは部屋で血を流し、死んでいた。


アスベルクは血の付いたナイフを握ったままラックの部屋の前に座っていた。

僕はアスベルクの肩を叩きこう囁いたと思う。

「よくやった。」と。

ようするにそれだけ極限で、それだけ病み、この生活から抜け出せる「きっかけ」を欲していたのだ。


そして人殺しの罪を三人で着た。


そこから、今なお及んでいるスラムの生活が始まったのだ。



仮面を外すと疲れがドッと沸いてきた。帽子の中に投げ込まれたのは銀貨4枚と紙屑。


ん?


紙屑を開くと何か文字が書いてあった。


『本日夕刻7にて、スラム街5番地旧センター噴水前にて待つ』


旧センター噴水といえばもう水は出ず、ゴミ捨て場になって、人も寄り付かない場所だ。

そんなところで誰が待つというのだ。

自筆がばれぬ様、定規が使われて直線で文字が書かれている。

あれこれと考えたが大雑把に四つ折りし、浅いポケットにしまい帰路につくことにした。


相談しよう。

なんせ今は「大切な家族」が二人も居るのだから。



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