冬の女王と旅人の話
あるところに、春・夏・秋・冬、それぞれの季節を司る女王様がおりました。
女王様たちは決められた期間、交替で塔に住むことになっています。
そうすることで、その国にその女王様の季節が訪れるのです。
ところがある時、いつまで経っても冬が終わらなくなりました。
冬の女王様が塔に入ったままなのです。
辺り一面雪に覆われ、このままではいずれ食べる物も尽きてしまいます。
困った王様はお触れを出しました。
「冬の女王を春の女王と交替させた者には好きな褒美を取らせよう。
ただし、冬の女王が次に廻って来られなくなる方法は認めない。
季節を廻らせることを妨げてはならない。」
そのお触れを見て様々な人が冬の女王様を塔の外に出そうと説得に来ました。
国で一番頭のいい学者の先生が塔の外へ出る必要性を訴えました。
国で一番おもしろいピエロが芸をして、外で一緒にショーを見ようと誘いました。
国で一番勇敢な戦士が私があなたを守るから出てほしいと頼みました。
しかし冬の女王様は首を縦に振りません。ただ黙って泣き続けていました。
冬の女王様の涙は氷となり次第に塔は凍り付いてしまいました。
氷によって扉は固く閉ざされ誰も入れなくなってしまったのです。
誰も来なくなった塔で一人、冬の女王様は泣いていました。
そのとき窓から一陣の風が吹き込み王女様の涙をそっと吹き飛ばしました。
冬の女王様がふと窓の方を見るとそこにはぼろぼろの緑の服を着た青年が立っていました。
「あなたはだあれ?」
「僕は旅人、ただの旅人。そういうあなたはどこの誰?どうして泣いているのかな?」
「私は冬の女王。私は私の子供たちがかわいそうで泣いているの。」
歌うように答えた旅人でしたが、冬の女王様の目には再び涙が溜まっていきます。
「私の子供たちは誰にも歓迎されない。春は花が咲き乱れ新しい息吹をみんなが喜んでくれるわ。夏は暑いお日様の中をみんなは駆け回り、その日差しを浴びて草木もぐんぐん育つわ。秋は出来た野菜や果物を収穫できてみんなが喜ぶの。でも冬は違う。冬だけはみんなが喜ばない。誰にも歓迎なんてされないの。私の子供たちはいつもそう。それが悲しくてつらいの。」
冬の女王様の目から涙が零れ落ちました。
「冬は歓迎されないの?自分で見たの?どうしたの?」
「自分で見ることは出来ないわ。だって私は冬の間この塔にこもりっぱなしだから。」
「それじゃあ一緒に見に行こう。お空の旅にさあ行こう。」
青年は冬の女王様の手を取ると窓から飛び出しました。
「キャー!!」
冬の女王様は塔から落ちてしまうと思いましたが、体はふわりと浮きあがり空へと飛びあがりました。
空から見える景色は一面の銀世界。それ以外の色がすべて無くなってしまったかのような美しい光景でした。
「うわぁ、きれい。」
「そうだね、そうだよ。冬は綺麗。辺り一面銀世界。他の誰にもまねなど出来ぬ。」
旅人は歌うように言うと空中でくるりと回りました。
「でも人が一人も出ていないわ。」
銀世界はとても綺麗でしたが外には人の姿がまったく見えません。まだ日が出ている時間なのに。
「それじゃあ行こう、見に行こう。みんなの家まで見に行こう。」
旅人と冬の女王様は近くの家を見に行くことにしました。
そこにあったのは小さな小さなお家でした。庭にヤドリギが一本植わっている、赤い屋根にえんとつが一本生えたかわいいお家でした。お家の中では小さな男の子と女の子が暖炉の前で固まっていました。
「ほらほらいたよ、人がいた。どういう風に過ごすかな?」
冬の女王様はじっと静かに二人を見ていました。
燃えている暖炉の前で二人の兄妹が毛布に包まって固まっています。兄は妹の方へたくさんの毛布をかけるようにし、妹は兄にくっついていました。
「寒いな。」
「うん、寒いね。」
暖炉の薪がときどきパキッというはじける音を聞きながら、二人はゆらゆらと揺れる炎をみています。
「外で遊べないな。」
「うん、遊べないね。」
兄は時々新しい薪を暖炉に入れながら火が消えないようにしています。
「今年は冬が長いよな。早く終わってくれないかな。」
「うん、そうだね。」
二人はぎゅっと身を寄せ合いました。それを見ていた冬の女王様の目から再び涙が零れ落ちました。
「やっぱり私の子供たちは誰からも歓迎されないのよ。」
そんな女王様を見ながら旅人はまたくるりと回って歌いだします。
「ほんとにほんとにそうなのかい?冬はただただ嫌いかい?」
その歌声に冬の女王様ははっと顔を上げました。
「でもね・・・」
妹が言いました。
「でも、私は冬が好きだよ。家の中でみんなで過ごしてお兄ちゃんといっぱいくっつけるから。みんなで笑って話せるから。」
「そうだな、シチューも美味しいな!」
「うん!」
二人は笑いあいました。その笑顔は本当に幸せそうでした。その笑顔を見て冬の女王様の涙も止まりました。
「初めて冬を好きだといってくれる子を見つけたわ。うれしい、うれしい。」
冬の女王様は再び泣いてしまいましたがその涙が凍ることはありませんでした。そのあとも旅人と冬の女王様はいろいろな場所を見て回りました。森の中から海のそばまで。
そこにはいろいろな人が冬に苦労しながらも楽しそうに生きていました。
「どうかな、どうかな、冬の女王。みんなの気持ちわかったかい?」
「ええ、私の子供たちは確かに人にとって厳しいかもしれない。でもちゃんと人に幸せを与えて歓迎されることもあるのね。」
旅人はうれしそうにくるりとまわりました。
いよいよお日様も沈み夜がやってきました。お家から漏れる光のほかは真っ暗で何も見えません。
「それじゃあそろそろ帰りましょう。」
「それじゃあ最後に冬の女王、振り向きお空を見てごらん。」
冬の女王様が空を見上げるとそこにはお月様やお星様がとてもきれいに輝いていました。まるで星の海を泳いでいるかのようでした。
「冬のお空はとってもきれい。星月全てが輝くよ。」
「ええ、本当に。」
旅人と冬の女王様は満天の星が輝くお空でダンスを踊りだしました。二人でくるくると回りながら星の海を泳いでいったのです。
楽しい時間も終わり、冬の女王様は塔へと戻ってきました。もう冬の女王様は悲しくなんてありません。
「それじゃあさよなら、冬の女王。」
旅人がくるりと回りながら歌いました。
「本当にあなたはだあれ?」
冬の女王様が聞きました。
「私は旅人、風の旅人。また来年もやってくる。廻る季節の風に乗って。あなたの元へやってくる。」
そういい残すと、ビューっという強い風が吹き、冬の女王様は思わず目を閉じました。そして目を開けるとそこには誰もおらずただ開け放たれた窓があるだけでした。
「夢?」
冬の女王様は考えました。しかし一緒に空を飛んだ感触、ヤドリギに隠れながら家の中をのぞいた時の気持ち、星の海でのダンス全てをはっきり覚えていました。
そのとき頭の上からはらりとヤドリギの黄緑色の花が落ちてきました。
「夢じゃないわ。」
冬の女王様は確信しました。
そして冬の女王様は塔の氷を全て溶かすと塔から出てすぐに王城に向かうことにしました。
冬の女王様は季節を廻らすことにしたのです。
冬の女王様はもう悲しくはありません。だって冬が愛されていないとはもう思わないから。
冬の女王様は季節が廻るのがとても楽しみになりました。またあの変わり者の、でもとても大切なことに気づかせてくれた風の旅人に会えるからです。
それからこの国の冬はちょっと優しくなったそうです。
いかがでしたか?
冬の女王様の涙をうまく止められたでしょうか?
稚拙な話を最後まで読んでくださり、ありがとうございました。