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人生くじ  作者: 夢の芽
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松村隼人その1

部屋全体の雰囲気は、私のそれと似ていた。簡素な部屋で不必要な物がごろごろと転がっていない。一つの空間だけが趣味を剥き出しにしたロックバンドのポスターやアルバムが取り揃えてある。


起きてしばらくの間、ボーッとベッドの上に座り込んでいるようだ。焦点が定まっていないので、どこを見ているわけでもないと判断できる。菊池と違い天パは朝が苦手なようだ。こんなちょっとしたことで親近感を覚えるほど私は、最近人と接する機会がなくなっていた。


ようやく立ち上がったと思うと、カーテンを片側だけ開け、窓の外を眺めている。暖かな日差しが差し込んできて視線がぐっと高くなったので伸びをしたのだと理解する。感覚というものがシャットアウトされているため、視線の動きで身体の動きを把握しなければならない。


のそのそと着替え、朝ご飯も食べずに家を出て、大学へ向かう。工学部棟のリラクゼーションるーむに入っていく。どうやら誰かと待ち合わせをしているようだ。


スマホを取り出しカレンダーや時間割表アプリを眺めている。今日は、講義がなく菊池と藍原と3人で会う約束をしているらしい。かなりマメな性格なようで、手元の手帳にも同じことが書かれている。最終ページにはきっちりとした文字で住所や電話番号が記されている。


10分ほど後に菊池と藍原が一緒にやって来た。藍原は髪は茶色だがおっとりとした眉毛と柔らかな顔の輪郭から髪の色ほどチャラけた奴ではないと分かる。


ここに集まったのは、講義のレポート課題を仕上げるためのようだ。確かに、円形のテーブルで3人で作業をするにはうってつけのスペースだ。

私は大抵一人だからこんな場所は活用した事がない。誰かとこうして課題をやるとどうしてもペースが落ちてしまうからだ。

効率を考えて行動していたらいつの間にか常に1人で行動するようになっていた。


3人をどこか羨ましさ混じりに馬鹿にしていると、途中で菊池が根を上げた。


「ああー。わっかんねえってこんなの。藍くんの頭の良さを分けて欲しい。」

「すぐ諦めるなって。何で、勉強に関してはそんな我慢できないんだよ。僕も全然頭いい方じゃないんだから。」


天パは、菊池の方を見ているようだが無造作に行き交う前髪が邪魔をして表情は読み取れない。


「藍くんで頭悪いんなら俺は、もう人類で1番頭の発展が遅れたやつだわ。」

ほんとに、勉強にうんざりしているようだ。菊池の方を見たいが視線は下のレポート用紙に集中されている。


「俺の頭が発展途上国なら、藍くんの頭は先進国だね。」

手よりも口がしきりに動き出した菊池を止めるのは容易ではない。

天パは少し顔を上げてぴしりと言った。

「発展途上国の方が先進国よりも見どころ多いからよかったじゃん。」


「誰の頭が観光名所じゃ。」

藍くんがクスクスと笑っている。男子でこういう笑い方をするのは珍しいと思いつつ、この空間の居心地の良さを私は感じていた。


天パはどうやら人の目を直視するのが苦手なようで、視界に映る前髪と相手の目を重ねるようにしている。

ふと、この輪の中に自分が居たとしたらーー

なんて考えている自分がいる。その後も、たわいのない話をしながら課題を進めていった。


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