2人目
慌てて振り返り
全力で走る。
走り慣れていないせいで、思ったよりも足が上がらない。
息が詰まる。
何度も転びそうになったが、振り返ってあの店が見えないことを確認して一息つく。
息が整う前に私はへたっと地面に座り込んでしまった。
目の前に、またあの店がある。
首を鷲掴みされているような気分が襲い、自分はもう逃げられないことを察した。
「はい、どうぞ」
そう言って、ポイントカードほどの大きさのスクラッチを渡してきた。
私は、何も言えずお金を渡して逃げるように帰宅した。
握りしめていたせいか、スクラッチは少し湿っていた。
就寝前。昨日と同じようにスクラッチを削っていく。今度は一体誰の体験を見るのか。冷えた頭で考えると、先ほどの恐怖よりも興味心が勝っていた。そうだ、私はこの退屈で単調な生活に終止符を打ちたかった。前向きに考えよう。こんな体験そうそうできるものではない。
そう言い聞かせながらごりごりと削っていく。
松村隼人
誰だ?
必死に記憶を辿ってみるが、知らない人という結論に達した。いつもは、カーテンを閉めて寝るが今夜は月を眺めながら三日月のゆりかごの中で眠りに落ちた。
意識がはっきりとしてきた。
また、身体は自由に動かせない。
身体の主は、のっそりとマットから身を起こし洗面台へ向かっていった。
寝癖がひどかったがそれは見覚えのある顔だった。
菊池の友達である天パーーそれが、松村隼人。