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人生くじ  作者: 夢の芽
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端緒

帰宅した時には、星が見えるほど暗くなっていた。冷蔵庫からもやしやキャベツを取り出し焼肉のタレを準備する。一人暮らしの大学生にはよくある男飯だ。


同じ工学部の菊池は、パエリヤやピラフ、とにかくカタカナの料理が多い。以前、翔太にも教えてやろうかとこれ見よがしに言ってきたので私は断固拒否した。もやしの袋を破く勢いで開き、脂を敷く。作った料理をSNSに投稿する私の嫌いな人種である。けど、それ以外に菊池の汚点は見つからない。サークルでもかなりモテていたらしい。妙に気分が暗くなってしまった。


脂がここから出してくれと言わんばかりにぱちぱちと跳ねる。夕方のニュースが私の背中を通過していく。私は、出来上がった野菜炒めを黙々と食べる。この閉鎖的な空間であと1年も過ごすのか・・・


私は、思い出したようにさっき買ったスクラッチを取り出した。眠る前に削ればいいんだよな。時計を見ると8時を示す手前だった。

「何が当たるんだよ」

私は、何も期待していない。ただスクラッチを削って何かしらの当たり外れが記されていて、興味もなさそうに捨てる。ーーただ、それだけだ。

しかし、おもて面をびっしりと銀色で敷き詰められているその紙自体には興味があった。まだ、絵をまともに描いたことのない幼稚園児が描く辺り一面の鉄といったところか。


一通り食器を片付けた後、特に理由もなくテレビを流し続ける。とりあえずパソコンを起動する。隣の部屋からは、わやわやとした会話が聞こえてくる。自分の部屋には、余計なものが一切ない。誰かに自慢するためのアンティークな食器や有名雑誌の特集を思い出させる家具なんて一つもない。引っ越せと言われればすぐに引っ越せるように片付いた家だ。その空間が心地よく感じる。


しかし、今日は何かが違う。自分の中の感覚がぞわぞわと全身を張り巡らせている。まるで、今から親の仇と出会うかのような(両親は健康そのもので暮らしているが)警戒信号を身体が発しているような気がする。


もう今日は寝てしまおう。夜の11時を回ったところで風呂に入り布団に入った。ふと思い出し、スクラッチを乱暴に削った。何が書いてあるか突き止めたいという気持ちがベッドの上の私の体を揺り動かした。削っていくと文字が見えてきたのでさらにごしごしと、しつこい油汚れを落とすように削る。そこには、ただただ名前が書かれていた。


「菊池裕太」


枠いっぱいの大きな文字でそうかかっている。

「菊池・・・」

あのカタカナ料理野郎の名前だった。

到底、あなたの運勢はーーなどと、占いの類であると思っていた私は、固まってしまった。頭の中がショートしそうだ。考えたところで今、結論は出ないし、明日あのおばあちゃんに聞こう。そして私は考えるのを止めた。


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