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日日是好日。  作者: こさじ
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備えあれば憂いなし

 ……とはよく言ったもんだ、と思うが、備えはどれだけしたところで『万全』とは言えない。

 けれど、備えることにこしたことはない。

 いつ何時、どこで地震に遭うかは誰にもわからないだろう。もしかしたら、いつ地震が来るのか確実にわかる日が来るかもしれないが…期待したい…でも、どこで何をして過ごしているかなんてわからない。

 だから、いつもスマフォなり携帯なりは持っておけ。入浴中は風呂場までとは言わないが、自室に置きっぱなし、居間に置きっぱなしにはせず、脱衣所まで持っていけ。「充電するの忘れてた!」なんて、大袈裟だが命取りなので気をつけろ。

 そして、財布には余分に金を入れておけ。使わずお守りの如く大事に入れておくのだ。今や懐かしのテレホンカードも忘れずに、手動充電器もあればなお良し。電気がすぐに復旧すると思うな、隣街が、隣の県が被災していないと思うな。しかし、役人の働く地区は復旧が住宅地よりも早く、その近くの学校等と住宅地の中にある学校では雲泥の差があるから覚えておくといい。

 また、車のガソリンは満タンにしておけ。ただしそれで道路を普段通りに走れるだなんて勘違いはしちゃいけない。道が大丈夫だと思うな。エコノミー症候群に気をつけながらの第二の避難場所だと考えておけ。行動は徒歩か自転車にしておくんだ。車は乗らない・買わない派でも自転車は乗っておけ、買っておけ。

 車の中も衣替えしろ。団扇を常備、冬なら毛布までとは言わないが包まれるものでも置いておけ。ホッカイロも役に立つ。テントと寝袋もいいだろう。備えだけ、なんてことではなく、道具はちゃんと扱えるように平和な休日にはキャンプでもして慣れておくのもいいかもしれない。

 ガスは天然よりプロパンの復旧が早かった。家が天然ガスなら…いや、オール電化天然ガスプロパンどの家庭にしたってカセットコンロまたはバーベキューセットでも買っておけ。水は確保しろ。まとめて買い溜めしておくといいが水にも期限がついていることは忘れるな。風呂の湯も常に一定は入っているようにしておけ。近場の学校の貯水槽へ汲みにいくのもいいが、重労働であることを頭に入れておけ。

 炊き出しはありがたく貰え。コンビニがどんなときでも24時間営業してるはずがないだろう。コンビニの開店よりもスーパーの青空市の方が早い。しかし、誰しも同じ被災者であることは忘れちゃいけない。順番は守れ、一人いくつまで買えるのかを守れ、もう一度長蛇の列に並ぶことは許されているのだから……

 しかし、まだ元気があるなら近場のスーパーをまわれ。スーパーだけでなく、酒屋、駄菓子屋、デパ地下など食料品店の場所は把握しておくんだ。自販機はすぐに売り切れになっているから、あまり頼りにするんじゃない。

 ロウソクは用意しておけ。アロマキャンドルでもいいだろう。どちらにしても多ければ精神的に少しは安心する。月がいつも顔を出しているわけじゃない、外灯もついていない、信号も同じ。道路は真っ暗な闇に支配され、泣きたくなるように静かだ。

 手動式の懐中電灯がいいだろう。太陽で充電出来ると思うな。月と同じく、いつも晴れているとは限らない。天候が被災者、被災地の味方であるなんて思っているならただの馬鹿だ。

 助け合うことも重要だろう。けれど、皆、自分と家族のことだけで必死なんだ。食料確保、水確保、休息場所確保、そしてトイレ――

 公園のトイレはすでに汚物で溢れている。公共のトイレも水洗であるのだから。汲み取り式なんて……避難場所にやっと置かれた簡易トイレくらいなものだ。それすらもう少しで溢れ出る程に溜まっている。トイレがいつでもどこでも清潔なんてことはない。処理する人間だって被災者だ。合同庁舎近場の学校のトイレは使用者一人あたりバケツ一杯分自由に流せたけどな。

 復旧の格差があることを羨む気持ちがうまれてしまうのも仕方がない。――が、更に自分よりも被災している人たちがいるんだ。帰れる場所がある、金を払えばなんとかなる、行動出来る余地がある、それはとてつもなく恵まれた状況だ。自分が一番大変なんじゃない。自分よりも大変な人たちがいる。生きてる、食えてる、飲めてる、排泄している……それがわかっているのに自分のこと・家族のことにしか頭が働かなくなるのは、悪いことなんだろうか?

 前の状態に戻りやすいものから戻っていく。特に重要な地域から電気はついていく。

「最低限だけ稼働させているだけですので、こちらの方には一般の方は入らないで下さい」と、見えたのは無駄につけられた廊下の電気……市民に与えられたホールではタコ足配線。繋がれた充電器の数、雑魚寝でテレビを見る人々、そして帰る方角には真っ暗な住宅街。でも、津波に襲われていない。でも、沈んでいく気持ち。でも、ニュースを見たせいか「早く復旧させて欲しい、電気通してよ」の文句は喉から先には出せなかった。

 それが、地震から何日目のことだったかは覚えていない。絶え間なく車が走っていたはずの幹線道路はど真ん中に立ってもひかれることはなく、灰色のくすんだ丸が三つ並んだ信号を見上げ、背中にした復旧のあかりで紺色の空を見た。


 いつどこに自分がいるかなんて誰にもわからない。自宅かもしれない、仕事場かもしれない、電車の中、地下駐車場、スキー場、船に乗っているかもしれない。飛行機かもしれない。日本にいないかもしれないし、自宅でも風呂に入っていたらどうする? 酔っ払っていたら? 病院のベッドの上だったら? 手術中、出産中、明日のことを誰に聞けば答えてくれるのか?

 地震は縦揺れなのか、横揺れなのか、津波はいつ到達するのか、何メートルになるのか、土砂崩れはどこで?雪崩はおきるのか? この家は大丈夫? このビルは大丈夫? この橋は? この道路は?

 完全に大丈夫だと言い切れることはないと思う。離れた地域が、隣の県が、海を渡った県が、被災地になっていない保証はどこにもない。たまたまそっち方面が大丈夫だっただけ、たまたまこっち側に大地震が来ただけ、たまたま津波の来ない土砂崩れもしないところで過ごしていただけだ。

 金で解決出来ることがほとんどだろう。でも、金を使う場所までなくなった瞬間、どうやって生きていかなきゃいけないのも考えておかなければいけないとも思う。更にはその状況を抜け出せたあとのことも……

 災害によって何がどうなるか想定はいくらでも出来るが現実がピッタリ合わさることはないと思うし、完全に防げないだろうとも思う。

 でも、もし、明日にでも今にでもあの日の地震が発生したら、今の自分は生きながらえることが出来るだろうか? そして家族は? 今、ライフラインがストップしたら、飲める水はあるか、明日の朝の食料はあるか、情報を得ることに戸惑い――


 スマフォの電池は充分か、赤く点滅しだしたらどうする? 財布にはいくら入っているのか、公衆電話は? 緑色を探せ! 灰色は使えない! お金を持つんだ、食料を確保しろ!お菓子だって、インスタントラーメンだって何だっていい! お湯がわかせなくても食えるだろう!

 家は一応無事だ、いつでも避難できるように貴重品を鞄に詰め込んで、出るなら玄関だろうそこにまとめて、散らかった部屋は座れる場所だけ作っておくんだ、水道が無事か?ガスは?電気は……ああそうだった地震直後にはもう信号機真っ黒になってたもんな…

 寒いね、毛布全部居間に持ってこよう、ちっさいアロマキャンドルだけど暗いよりはマシかな……ねえ、みんな外に出てるよ?小学校にでも避難してるのかな?

 ――違う!みんな食料買ってる!ほら、あそこの酒屋にも入ってるよ、ビニール袋になんか一杯入ってる!買わなきゃ!食い物と、飲み物と…ああやっぱり自販機のは全部売り切れになってる。

 ねえ、みんなペットボトルとかポリタンク持って小学校に向かってるよ!家にも水入れるやつあるじゃん、スーパーの天然水入れるやつ!……五本でどれくらいもつかな?……おしっこしたくなってきた……どうする? おしっこだったら少しの間ためてから一気に流そう。大の方だったら、水使って明日また汲みにいこう。

 あ!揺れてる揺れてる、また地震だよ! 家の中ヤバくない? ミシミシいってない? 毛布と食い物と、持ってけるだけ持って車行くか? それとも小学校に避難しておく?

 ……ダメだ、いっぱいだよ。玄関のほうまで人がいるじゃん。……ニオイもすごいね…車に戻ろうか。一回車の中温めてから、ガソリン節約でいこう。食料あとどれくらい残ってる? 明日、またスーパー巡りしてみよう。同僚に連絡しておいたし、情報交換しないと……ああ、高速ダメだって。下道もヤバイって。ガソスタもやってないし、実家まで持つかもわからないし、途中で止まったらどうする? 賭けでガソリン使って移動するよりここに残ってた方がいいかもね。

 明日、どうなってるか、それで次の行動考えよう。



 思い出せる範囲で、地震がおこってからの私のとった行動です。

 何が、いつ、どうなるかわからないのなら、最低限、出来るとき出来ることを心掛けていたほうが良いと思います。用意し、準備しておいた中で、全部無駄に終わること使えなくなるかもしれない状況に陥るかもしれないが、役立つかもしれないのだ。

 頭の中のどこかに“覚悟”を備えておくこと、「ああ、また地震?揺れてるね、でも震度はそうないでしょ、大丈夫だって」の考えは排除しておくことをおすすめする。

「ここからどう動こうか?動けばいいっけか?」

 備えは、物だけでは不十分なのだ。

 


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