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蒼咎のシックザール  作者: ZERO-HAZY
第一章 ノスタルジア
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2-C -炎の一族-

 商店街に朝食を買いに行った蒼輝(そうき)。その間、二人で話をする勾玉(まがたま)奈樹(なじゅ)

 その中の会話から勾玉が子供の頃、妹を殺した者は奈樹だと発覚する。勾玉は即座に復讐(ふくしゅう)を成し()げようとしたが、蒼輝が奈樹の助けに入る。復讐を阻止(そし)するため、蒼輝と勾玉の(たたか)いが始まるのであった。




奈樹「蒼輝…」


「なーんか大変そうだねぇ」


 木の上から奈樹の(となり)に降りてきた一人の男。


風魔「また喧嘩(けんか)か。あの二人」


奈樹「風魔さん…! 二人を…止めてください!」


風魔「ん? 奈樹さんを(めぐ)って(あらそ)うんでしょ? そりゃ止められないなぁ」


奈樹「意味は合ってるけど何か(ちが)ってます!」


風魔「蒼輝を信じてやりなよ。どうせそっちに()けてるんでしょ?」


奈樹「賭けとかそんなの…。風魔さんは二人が心配じゃないんですか…!?」


 能天気(のうてんき)な風魔に、(あせ)る奈樹は翻弄(ほんろう)されていた。


風魔「一切(いっさい)喧嘩(けんか)しない間柄(あいだがら)に友情なんて生まれないよ。時には衝突(しょうとつ)することで、(たが)いを理解し合えるんだ」


奈樹「……!」


風魔「今回も分かり合えるさ。きっとね。だから俺は止めないよ」


奈樹「…難しいです…」


風魔「男の友情なんてそんなもんさ。奈樹さん、君のために蒼輝は戦うんだ。だから今は信じて見守っていてあげなよ」


奈樹「……」


 奈樹は蒼輝と勾玉の二人を見た。その表情は不安で(くも)っていた。


 殺されたくないわけではない。自分は復讐を遂げられて当然なのだから。


 心配なのは自分のことを必死になって(かば)ってくれる蒼輝。戦いの行方(ゆくえ)が気になり、表情が()えないのだ。


勾玉「こうして戦うことは何度もあったが…自分の勝率(しょうりつ)を知っているのか?」


蒼輝「…10%…もないかな…。」


奈樹「…!」


風魔「あの二人だと勾玉の勝率が圧倒的(あっとうてき)…。」


勾玉「お前の暑苦しい想いだけでは(くつがえ)せん差だ…行くぞ!」


 手に発生させた炎がうねり出す。


勾玉「蛇炎(じゃえん)!」


 蛇のように左右にうねらせながら炎が蒼輝に向かう!

 それを()け、蒼輝が瞬時(しゅんじ)に剣を取り出し勾玉に向かって走り、振り下ろす! 勾玉も瞬時に取り出した剣で受け止める!


 二人が距離を()ける!


奈樹「剣…どこから…どうやって…?」


 (さや)も無しに突如(とつじょ)(あらわ)れる剣。問いかけるように奈樹は風魔を見た。


風魔「コイツさ」


 一枚のカードプロテクターのような物を見せる。


風魔「収納札(イクリプス)。地上では結構(ケッコー)流通(りゅうつう)してるものでね。

コイツの中にある程度(ていど)の大きさの物なら縮小化(しゅくしょうか)して、仕舞(しま)うことができるのさ。真ん中辺りから取り出し口に向かって指をスライドさせれば、中の物が前に出現する。

あんな風に出現させた物を即座(そくざ)(つか)んで戦うなんて、慣れないとできないけどね」


奈樹「だから…あの時も…。」


 イーバ装甲兵(ポーンズ)と戦った時に蒼輝は瞬時に剣を出していた。それは収納札(イクリプス)から取り出されたのだった。


蒼輝「その剣の形…牙蛇剣(がじゃけん) ファング・ブレード…。勾玉もマジってことか…。」


勾玉「ふっ…容赦(ようしゃ)はしないぞ! 行くぞ、牙蛇剣…! レンクスウェイズ!」


 5メートル以上ある距離から、蒼輝に向けた剣の突き!


奈樹「!」


 剣の刃が蒼輝に向かって()びていく! 蒼輝が左手方向へ移動すると、(やいば)もそちらへ向かっていく。


勾玉「一度向けられた牙は、獲物(えもの)を追い続けるぞ!」


蒼輝「だったら…」


 蒼輝が刃を飛び越え、勾玉に向かって走る!


風魔「追尾(ついび)速度より走行速度が上」


奈樹「これなら…!」


 蒼輝が急停止し、後方(こうほう)に飛び退()いた瞬間だった。



 ドゴォォォォォォォ!


 爆音とともに、勾玉の前に炎の壁が現れた!


蒼輝「チッ!」


 木の(かげ)に隠れると、ファング・ブレードの刃は木に刺さり、一度停止する。


蒼輝「ファイア・ウォール…得意技だよな」


勾玉「いつものようにはいかんようだな…蒼輝」


 お互いに手の内を知っていることを確認するような会話だった。


奈樹「突然炎が…さっきといい…あの人は…」


風魔「飛竜(ひりゅう)一族。得意技は発炎能力(パイロキネシス)。炎の秘術(ひじゅつ)を扱うことができる一族さ。勾玉は伸縮(しんしゅく)する剣の小回りの利かなさ…近寄られたら危険と言う弱点を、あの炎でカバーできる…相手にしたら厄介(やっかい)な戦法さ」


奈樹「じゃあ…元々勝率の低い蒼輝は…この戦い…」


風魔「いいかい? 奈樹さん。よーく見ておくんだ」


 奈樹は風魔を見た後、言われたように対峙(たいじ)する二人を見る。


風魔「夢物語(ゆめものがたり)のようだけど…人間って言うのは守るべき対象がいると強くなる不思議(ふしぎ)な生物だから」



勾玉「レンクスウェイズ!」


 伸びてきた剣先から逃げるように蒼輝が再び左手方向へ走る! すかさず剣が伸びてくる! さっきと同じように蒼輝は勾玉に向かって走る!


奈樹「ダメ…!同じことをしても…!」


ドオォォォォォォォォン!


勾玉「ファイア・ウォール…」


 炎の壁が現れ、視界(しかい)炎一色(ほのおいっしょく)になる。


勾玉「同じことをして一体何を…。……!」


 突然剣に重みが()かり、重心(じゅうしん)が前に向く! 勾玉は炎に巻き込まれそうになり、目の前のファイア・ウォールを解除(かいじょ)する。


 しかし、その蒼輝はその瞬間を待っていた。


 蒼輝はファイアウォールを回避(かいひ)した後、伸びてきたファング・ブレードの刃の側面(そくめん)に乗り、その上を()けて、勾玉に接近(せっきん)していたのだ。


勾玉「!!」


 蒼輝は剣を持っていない方の手で(こぶし)を作り、勾玉の(あご)を下から(なぐ)り上げた。


風魔「……」


 勾玉が吹き飛び尻餅(しりもち)を付く。その瞬間、蒼輝が勾玉の(かた)の上に剣を向ける。


蒼輝「勾玉…!」


 蒼輝はやや呆然(ぼうぜん)として息を切らしている。緩急(かんきゅう)を付けた動きをしたこともあるが、自分の(さく)が成功したことへの驚きもあった。


勾玉「お前の勝ちだ…蒼輝…」 


 座り、(うつむ)きながら勾玉は言った。


蒼輝「勾玉…。今…まだ復讐したいか?」


勾玉「………」


蒼輝「………」


 勾玉は答えなかった。答えられなかった。自分でもわからなくなっていたのだ。

 自身の復讐を成し遂げるためには、蒼輝が守ろうとしている者を犠牲(ぎせい)にしなければならない。ぶつかり合うことで復讐に()えていた炎も弱くなっていた。



蒼輝「その…さ…。奈樹が過去にやったことかも知れないけど…けどさ…今の奈樹の姿を見て…それでもまだ殺したいか!?」


勾玉「………」


奈樹「勾玉さん…」


 勾玉の近くに来て座り、(うつむ)く勾玉をまっすぐ見て話をする。


奈樹「本当に…ごめんなさい…。言い訳になってしまいますけど…私は自分の意思で…人間を殺すなんてしたいと思いません…。それに…私は…」


 少し言葉が()まる。それは(まよ)いではなく、決意の発言をするための()だった。


奈樹「必ず(つぐな)います…(ちか)います…もう二度と誰も殺さないって。勾玉さん…妹の朱理(しゅり)さん…ごめんなさい…。私…死にたくないんです…ずっと…ずっとこの島にいたい。

私はこの島で…皆さんと一緒に生きていきたい…」


 その奈樹の心からの言葉を聞いた勾玉は、しばらくすると返事をした。


勾玉「わかった…奈樹…。蒼輝とお前の気持ちは伝わった…」


 立ち上がり、二人に背を向ける。


勾玉「奈樹…俺への信頼は(みずか)ら勝ち取れ」


奈樹「…はい…!」


 勾玉が歩いていく。風魔が蒼輝と奈樹の所へ歩いてくる。


風魔「一難(いちなん)去ったって感じ? 奈樹さん来てから二十四時間(にじゅうよじかん)()ってないのに、結構(けっこう)ドキドキな展開(てんかい)多いねー」


奈樹「ごめんなさい…」


蒼輝「(あやま)ることないって。勾玉も行っちまったけどさ、すぐにまた元通(もとどお)りになってるさ」


風魔「次はどんながトラブルあるか、ちょっと楽しみだけどね」


奈樹「うぅ…迂闊(うかつ)なことしないように気を付けます…」


蒼輝「オイオイ…不吉(ふきつ)なこと言うなよなー…」


風魔「ハハッ、不吉だなんで大袈裟(おおげさ)だなぁ」


 風魔は笑いながら、二人に背を向けた。その瞬間、表情は真剣(しんけん)な顔付きになった。マフラーの先端を指でこねりながら考え事をする。


風魔「……(それにしても勾玉のヤツ…。蒼輝に殴られる前に回避できたはずなのに…避けなかったな…)」


 蒼輝は奈樹に買ってきたパンと飲み物を渡し始めた。その様子を(なが)めながら、風魔は考え事を続ける。


風魔「……(それに奈樹の言葉に(たい)してすぐに許した…アッサリ感情に流されるなんて勾玉らしくない…。

それだけ奈樹には何かを思わせる力があったのか…?)」


 そう考えた風魔は…次は自分が奈樹に接触(せっしょく)する番と考えた…。しかし当然ながら口にも表情にも一切出さなかった。

 ただ、興味深そうに奈樹を見ていた。





勾玉「………。」


 勾玉は一人で(たたず)んでいた。その手に持つお守りを見つめていた。


勾玉「…朱理…悪いが…俺の(うち)なる復讐の炎…それを上回(うわまわ)った蒼輝の想い…。そしてアイツと同じ顔をした奈樹の言葉を…今は信じさせてくれ…」


 目を閉じて(うつむ)き、しばらくの間お守りを(ひたい)に強く当てた…。



第二話 炎の一族 End

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