2-C -炎の一族-
商店街に朝食を買いに行った蒼輝。その間、二人で話をする勾玉と奈樹。
その中の会話から勾玉が子供の頃、妹を殺した者は奈樹だと発覚する。勾玉は即座に復讐を成し遂げようとしたが、蒼輝が奈樹の助けに入る。復讐を阻止するため、蒼輝と勾玉の戦いが始まるのであった。
奈樹「蒼輝…」
「なーんか大変そうだねぇ」
木の上から奈樹の隣に降りてきた一人の男。
風魔「また喧嘩か。あの二人」
奈樹「風魔さん…! 二人を…止めてください!」
風魔「ん? 奈樹さんを巡って争うんでしょ? そりゃ止められないなぁ」
奈樹「意味は合ってるけど何か違ってます!」
風魔「蒼輝を信じてやりなよ。どうせそっちに賭けてるんでしょ?」
奈樹「賭けとかそんなの…。風魔さんは二人が心配じゃないんですか…!?」
能天気な風魔に、焦る奈樹は翻弄されていた。
風魔「一切喧嘩しない間柄に友情なんて生まれないよ。時には衝突することで、互いを理解し合えるんだ」
奈樹「……!」
風魔「今回も分かり合えるさ。きっとね。だから俺は止めないよ」
奈樹「…難しいです…」
風魔「男の友情なんてそんなもんさ。奈樹さん、君のために蒼輝は戦うんだ。だから今は信じて見守っていてあげなよ」
奈樹「……」
奈樹は蒼輝と勾玉の二人を見た。その表情は不安で曇っていた。
殺されたくないわけではない。自分は復讐を遂げられて当然なのだから。
心配なのは自分のことを必死になって庇ってくれる蒼輝。戦いの行方が気になり、表情が冴えないのだ。
勾玉「こうして戦うことは何度もあったが…自分の勝率を知っているのか?」
蒼輝「…10%…もないかな…。」
奈樹「…!」
風魔「あの二人だと勾玉の勝率が圧倒的…。」
勾玉「お前の暑苦しい想いだけでは覆せん差だ…行くぞ!」
手に発生させた炎がうねり出す。
勾玉「蛇炎!」
蛇のように左右にうねらせながら炎が蒼輝に向かう!
それを避け、蒼輝が瞬時に剣を取り出し勾玉に向かって走り、振り下ろす! 勾玉も瞬時に取り出した剣で受け止める!
二人が距離を空ける!
奈樹「剣…どこから…どうやって…?」
鞘も無しに突如現れる剣。問いかけるように奈樹は風魔を見た。
風魔「コイツさ」
一枚のカードプロテクターのような物を見せる。
風魔「収納札。地上では結構流通してるものでね。
コイツの中にある程度の大きさの物なら縮小化して、仕舞うことができるのさ。真ん中辺りから取り出し口に向かって指をスライドさせれば、中の物が前に出現する。
あんな風に出現させた物を即座に掴んで戦うなんて、慣れないとできないけどね」
奈樹「だから…あの時も…。」
イーバ装甲兵と戦った時に蒼輝は瞬時に剣を出していた。それは収納札から取り出されたのだった。
蒼輝「その剣の形…牙蛇剣 ファング・ブレード…。勾玉もマジってことか…。」
勾玉「ふっ…容赦はしないぞ! 行くぞ、牙蛇剣…! レンクスウェイズ!」
5メートル以上ある距離から、蒼輝に向けた剣の突き!
奈樹「!」
剣の刃が蒼輝に向かって伸びていく! 蒼輝が左手方向へ移動すると、刃もそちらへ向かっていく。
勾玉「一度向けられた牙は、獲物を追い続けるぞ!」
蒼輝「だったら…」
蒼輝が刃を飛び越え、勾玉に向かって走る!
風魔「追尾速度より走行速度が上」
奈樹「これなら…!」
蒼輝が急停止し、後方に飛び退いた瞬間だった。
ドゴォォォォォォォ!
爆音とともに、勾玉の前に炎の壁が現れた!
蒼輝「チッ!」
木の陰に隠れると、ファング・ブレードの刃は木に刺さり、一度停止する。
蒼輝「ファイア・ウォール…得意技だよな」
勾玉「いつものようにはいかんようだな…蒼輝」
お互いに手の内を知っていることを確認するような会話だった。
奈樹「突然炎が…さっきといい…あの人は…」
風魔「飛竜一族。得意技は発炎能力。炎の秘術を扱うことができる一族さ。勾玉は伸縮する剣の小回りの利かなさ…近寄られたら危険と言う弱点を、あの炎でカバーできる…相手にしたら厄介な戦法さ」
奈樹「じゃあ…元々勝率の低い蒼輝は…この戦い…」
風魔「いいかい? 奈樹さん。よーく見ておくんだ」
奈樹は風魔を見た後、言われたように対峙する二人を見る。
風魔「夢物語のようだけど…人間って言うのは守るべき対象がいると強くなる不思議な生物だから」
勾玉「レンクスウェイズ!」
伸びてきた剣先から逃げるように蒼輝が再び左手方向へ走る! すかさず剣が伸びてくる! さっきと同じように蒼輝は勾玉に向かって走る!
奈樹「ダメ…!同じことをしても…!」
ドオォォォォォォォォン!
勾玉「ファイア・ウォール…」
炎の壁が現れ、視界が炎一色になる。
勾玉「同じことをして一体何を…。……!」
突然剣に重みが掛かり、重心が前に向く! 勾玉は炎に巻き込まれそうになり、目の前のファイア・ウォールを解除する。
しかし、その蒼輝はその瞬間を待っていた。
蒼輝はファイアウォールを回避した後、伸びてきたファング・ブレードの刃の側面に乗り、その上を駆けて、勾玉に接近していたのだ。
勾玉「!!」
蒼輝は剣を持っていない方の手で拳を作り、勾玉の顎を下から殴り上げた。
風魔「……」
勾玉が吹き飛び尻餅を付く。その瞬間、蒼輝が勾玉の肩の上に剣を向ける。
蒼輝「勾玉…!」
蒼輝はやや呆然として息を切らしている。緩急を付けた動きをしたこともあるが、自分の策が成功したことへの驚きもあった。
勾玉「お前の勝ちだ…蒼輝…」
座り、俯きながら勾玉は言った。
蒼輝「勾玉…。今…まだ復讐したいか?」
勾玉「………」
蒼輝「………」
勾玉は答えなかった。答えられなかった。自分でもわからなくなっていたのだ。
自身の復讐を成し遂げるためには、蒼輝が守ろうとしている者を犠牲にしなければならない。ぶつかり合うことで復讐に燃えていた炎も弱くなっていた。
蒼輝「その…さ…。奈樹が過去にやったことかも知れないけど…けどさ…今の奈樹の姿を見て…それでもまだ殺したいか!?」
勾玉「………」
奈樹「勾玉さん…」
勾玉の近くに来て座り、俯く勾玉をまっすぐ見て話をする。
奈樹「本当に…ごめんなさい…。言い訳になってしまいますけど…私は自分の意思で…人間を殺すなんてしたいと思いません…。それに…私は…」
少し言葉が詰まる。それは迷いではなく、決意の発言をするための間だった。
奈樹「必ず償います…誓います…もう二度と誰も殺さないって。勾玉さん…妹の朱理さん…ごめんなさい…。私…死にたくないんです…ずっと…ずっとこの島にいたい。
私はこの島で…皆さんと一緒に生きていきたい…」
その奈樹の心からの言葉を聞いた勾玉は、しばらくすると返事をした。
勾玉「わかった…奈樹…。蒼輝とお前の気持ちは伝わった…」
立ち上がり、二人に背を向ける。
勾玉「奈樹…俺への信頼は自ら勝ち取れ」
奈樹「…はい…!」
勾玉が歩いていく。風魔が蒼輝と奈樹の所へ歩いてくる。
風魔「一難去ったって感じ? 奈樹さん来てから二十四時間経ってないのに、結構ドキドキな展開多いねー」
奈樹「ごめんなさい…」
蒼輝「謝ることないって。勾玉も行っちまったけどさ、すぐにまた元通りになってるさ」
風魔「次はどんながトラブルあるか、ちょっと楽しみだけどね」
奈樹「うぅ…迂闊なことしないように気を付けます…」
蒼輝「オイオイ…不吉なこと言うなよなー…」
風魔「ハハッ、不吉だなんで大袈裟だなぁ」
風魔は笑いながら、二人に背を向けた。その瞬間、表情は真剣な顔付きになった。マフラーの先端を指でこねりながら考え事をする。
風魔「……(それにしても勾玉のヤツ…。蒼輝に殴られる前に回避できたはずなのに…避けなかったな…)」
蒼輝は奈樹に買ってきたパンと飲み物を渡し始めた。その様子を眺めながら、風魔は考え事を続ける。
風魔「……(それに奈樹の言葉に対してすぐに許した…アッサリ感情に流されるなんて勾玉らしくない…。
それだけ奈樹には何かを思わせる力があったのか…?)」
そう考えた風魔は…次は自分が奈樹に接触する番と考えた…。しかし当然ながら口にも表情にも一切出さなかった。
ただ、興味深そうに奈樹を見ていた。
勾玉「………。」
勾玉は一人で佇んでいた。その手に持つお守りを見つめていた。
勾玉「…朱理…悪いが…俺の内なる復讐の炎…それを上回った蒼輝の想い…。そしてアイツと同じ顔をした奈樹の言葉を…今は信じさせてくれ…」
目を閉じて俯き、しばらくの間お守りを額に強く当てた…。
第二話 炎の一族 End