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蒼咎のシックザール  作者: ZERO-HAZY
第三章 冥幽との邂逅
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21-A -地獄との同調- 

 誰もいない夜空。一面の赤。炎に包(つつ)まれた瓦礫(がれき)の世界。生臭(なまぐさ)い血の匂(にお)い。裸足(はだし)の足の裏から伝わる石の冷たさ、感覚。バチバチと木材(もくざい)が焼(や)け、炭(すみ)へと変化してゆく音。


 ガラッ…と、崩れた家の一部から音が聞こえる。私は無造作(むぞうさ)に、その地点へと歩いていた。そして音のした場所へと、乱雑(らんざつ)とした瓦礫(がれき)の山の隙間(すきま)に手を入れる。石の破片(はへん)で腕が擦(す)り剥(む)ける。食い込む。それでも漁(あさ)る。その暗闇に包(つつ)まれた、その中を、弄(まさぐ)る。


 そして私は掴(つか)んだ。柔(やわ)らかくも弾力(だんりょく)のあるもの。これは肉。人の身体。首。その部位を強く握(にぎ)り、持ち上げて石の地中から廃墟(はいきょ)へと引きずり出す。

 

 炎の景色で赤く染まった肌。いや、血に塗(まみ)れている。死んではいない。このまま手放せば、この命は助かるのだろう。首を握っているせいか、身体は酸素を求めて口をパクパクとさせている。まるで陸に上げられた魚のようだった。


 そう、魚のようだった。魚のように、どんなに命乞(いのちご)いをしても、口を動かすだけでは意味を理解することは出来ない。出来たところで放すことはない。


 だって、殺すつもりなのだから。


 私は、首を掴む手に徐々に力を込めた。指が肉に食い込んでゆく。足をバタバタとさせて暴(あば)れ出す。死を予感しているのだろう。その瞬間が最(もっと)も抵抗(ていこう)する時間。私にとっても、永遠とも思える時間。

 浮き上がる血管。柔(やわ)らかな肉が限界を超(こ)え、グニュリと動く。私の締め付ける指が内部へ侵入する。赤い液体が首から流れる。私の指に流れる。より一層と暴れだす身体。けど私は放さない。絶対に。


 そして…グチュリと握りつぶした。ゴキッ。と、音が聞こえた。暴発した体内からニュルリと臓器(ぞうき)が、器官が指に絡(から)みつく。気にせずに掴んだ内部の骨。掴んでは折っていた。ゴボゴボと切断部分(せつだんぶぶん)から流れる人間の生きていた証である液体。頭部と身体だった部分は二つに分かれ、そこから溢(あふ)れ出た赤は私の手に、体に、顔に付着していた。ドロリとして頬(ひたい)を伝ってゆく。



 人を殺したのだと自覚する。



 ヒト……? 人は死んだ時点でヒトでは無くなるの? それでは殺した瞬間は、それは人なの? ヒトなの? どちらでもいい。私は人であったモノを葬(ほうむ)ったことに間違いはない。


 私の手には骨。そして絶命(ぜつめい)して口と目を大きく開いた頭部。その奇妙(きみょう)な物体を、綿菓子(わたがし)でも持つかのように握っていた。いらない物だと判別して、頭部を投げ捨てる。ゴツンと落ちた後、血痕(けっこん)を残しながら転がった頭部は私を視た。


 私の周囲に転がっているヒトであったモノ。その骸(むくろ)達の目は全て、私を視ていた。

 


 視ていた。視ていた。視ていた。視ていた。視ていた。視ていた。視ていた。視ていた。視ていた。視ていた。視ていた。視ていた。視ていた。視ていた。視ていた。視ていた。視ていた。視ていた。視ていた。視ていた。視ていた。視ていた。視ていた。視ていた。視ていた。視ていた。視ていた。視ていた。視ていた。視ていた。視ていた。視ていた。視ていた。視ていた。視ていた。視ていた。視ていた。視ていた。視ていた。視ていた。視ていた。視ていた。視ていた。視ていた。視ていた。視ていた――。




『―……!』



 私は飛び起きるようにして起き上がっていた。真っ暗。カーテンの隙間から僅(わず)かに月明かりが覗(のぞ)いていた。


奈樹「はぁはぁはぁはぁはぁ……ハァ……ハァ……」


 家の寝室のベッドの上だった。額も、顔も、身体全身も、パジャマも、下着まで汗でビッショリ濡れていた。過呼吸(かこきゅう)気味に息を切らしている。徐々に息を整(ととの)える。余程(よほど)うなされていたんだと思う。もう何度も見てきた夢。夢…? 現実…。過去…。思い出したくない過去…。


 私は布団(ふとん)から出て、フラフラとおぼつかない足取りでクローゼットから替えの着替えを探す。着替えを持ったまま廊下へ出る。別室で眠っているであろう颯紗(さらさ)が起きないように、ゆっくりと歩いて脱衣所へ向かい、汗でボトボトになったパジャマを脱ぐ。逃げるようにバスルームに入り込み、シャワーからお湯を出した。

 

奈樹「くっ…」


 早く汗を流したかっただけではない。洗いたかった。けど。汚(よご)れていない。どこも汚れていない白い肌。なのに赤い血液が身体に、指にまとわりついていた気がした。それは恐らく過去に犯(おか)した罪の意識から。それらをいつか清算し、私自身が命を絶(た)たねばならない日が来るのかもしれない。


奈樹「私は…」


 怖かった。いつしか死が怖いと思っていた。今の自分の置かれている現状(げんじょう)が、毎日が大好きになっていたからだった。

 私のことを守ってくれると約束して、常に気を遣ってくれる蒼輝(そうき)。親友であるマテリア。私自身が支(ささ)えになると誓(ちか)った颯紗(さらさ)。私を慕(した)ってくれる刹那や、島の仲間達。

 皆が大切に思う。だからこそ死ぬのが怖くなっていた。この夢は、罪を償(つぐな)おうともせずに幸(しあわ)せに酔(よ)いしれていた私への贖罪(しょくざい)なのかもしれない…。


 しばらく見ていなかった夢…。けど…なぜ突然…。


 奈樹は震えた。その寒気をシャワーを浴び続けることで、誤魔化(ごまか)し続けていた。まるで、過去を隠して生きている自分自身を投影(とうえい)するかのように…。

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