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蒼咎のシックザール  作者: ZERO-HAZY
第一章 ノスタルジア
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2-B -炎の一族-

 悠久(ゆうきゅう)の島 ノスタルジアに降り立ち、一夜を過ごした奈樹(なじゅ)蒼輝(そうき)勾玉(まがたま)風魔(ふうま)の三人と少しずつ打ち解けることができてきた。

 目を覚まし、朝食を買いに出た蒼輝。その間、奈樹と勾玉は雑談(ざつだん)をした。勾玉は最初に会った時から気になっていたことを奈樹に聞いた。

 その内容は「人を殺したことがあるか?」だった。




奈樹「……」


 表情(ひょうじょう)(あき)らかな変化が見えた。その顔は(おどろ)き…というより動揺(どうよう)だった。


勾玉「…どうした…? 答えられないか?」


奈樹「…どうして…そんなことを聞くんですか…?」


 二人の間には、しばらく沈黙(ちんもく)。ほんの十秒であっても永遠(えいえん)と思える時間だった。奈樹にとっては…。




 一方その頃…。


蒼輝「商店街に到着(とうちゃく)っと」


 パン屋に入ると早速(さっそく)いい(にお)いがする。まだ奈樹の(この)みはわかるわけでもなく、適当な惣菜(そうざい)パンや菓子パンやサンドイッチ、飲み物を少し多めに買う。


蒼輝「パンだったら(だれ)でも問題なく食うよな…昨日も用意してたの食ってたし」


 (ひと)(ごと)をいいながら店の外へ出る。


「おーい!蒼輝兄ちゃーん!」


 四人の子供が走ってくる。


蒼輝「おっす! 今日も元気そうだなー!」


 この四人の子供はイーバで(つく)られ、廃棄(はいき)されたE生物(スティグマ)。どうやって生まれたのかも知らず、親も居ない。いつも四人で行動している。


女の子「えへへ、恋夢(こゆめ)がいちばん早かったよ」


 四人の中で唯一(ゆいいつ)の女の子、恋夢(こゆめ)が言った。


太った子「ふぃー、やっと追いついたよ~。スンゲー(つか)れたぜー」


 頭部(とうぶ)に機械パーツが付いた一番太った子がやっと到着する。


恋夢「はい、まんじ君がビリ! かけっこ(おそ)いね」


まんじ「かけっこって…恋夢は走ってないから早いんだよ~。」


蒼輝「壁もすり抜けれるしな」


 まんじの言うように、恋夢は走っていない。恋夢は(ひざ)から下が()けていて常に浮いている。自身が意識すれば壁もすり抜けることができる。簡単に言ってしまえば幽霊(ゆうれい)E生物(スティグマ)だ。


一番小さな子供「蒼輝兄ちゃん…遊んでー」


 (あし)にしがみついてくる子供。


蒼輝「コータ、今日は急いでるんだ…。今日は遊べな…イテテテテ!」


恋夢「コータ君! ()めすぎ! 絞めすぎ!」


コータ「ご…ごめん…」


 コータは背から四つの触手(しょくしゅ)のようなもの…四人が言うにアームが()えてる。甘えるとアーム使って()きついてくるのだが力加減(ちからかげん)が下手だ。


蒼輝「気をつけてくれたらいいっていいって。で…ベン達は相変(あいか)わらず弁当売りか?」


ベン「オイラの弁当買う? まっ、まだ用意できてないけど」


 ベンは名の通り弁当を売る時の板のような物が身体から出てくる。4人は弁当屋の配達(はいたつ)の手伝いをして小遣(こづか)いを(もら)っている。


蒼輝「じゃあ、昼にホームに届けてくれるか?」


 蒼輝はベンに四人前の通貨(つうか)手渡(てわた)す。


ベン「まいど! って…四人前?」


まんじ「とうとう二人前(ににんまえ)食っちまうのか! 蒼輝兄ちゃんやるなー!」


蒼輝「(ちげ)ーよ! いやー新しく島に住むことになった人が居てな。俺と年の近い感じの女の子だぞ」


 四人は(おどろ)いた顔をした。


恋夢「えぇ~! カノジョ!?」


まんじ「スンゲー!」


蒼輝「彼女とかそんなんじゃないって! 弁当届けに来てくれたときにでも紹介するから! じゃあまたな!」


四人「バイバーイ!」


 蒼輝は四人に手を()り、ホームに向かって走る。


蒼輝「ほんと元気な奴らだなー。アイツらと遊べば奈樹も、もっと打ち解けれるかもな…」


 今後の事を考えながら帰路(きろ)を急いだ。




 一方その頃…長い沈黙(ちんもく)を打ち破ったのは勾玉だった。


勾玉「この島に来るずっと前…子供の頃のことだ…。俺には妹がいた…」


奈樹「えっ…?」


勾玉「殺されたんだ」


 奈樹を強く見る。


勾玉「妹は俺の目の前で突然(とつぜん)(おそ)われた…E兵器(クリミナル)と思われる者に殺された。そいつは…蒼い髪と蒼い瞳をした…人型の女だった。」


 (わず)かに震え、(おどろ)きの表情を隠せない奈樹の(ほほ)から汗が()れる。


勾玉「お前が似ている…いや、一致(いっち)しているんだ…奈樹。あの時のアイツの…全てに!」


奈樹「…うっ…!」


 奈樹は勾玉の視線に()え切れなかったのか、座り込み両手で頭を抱える。


奈樹「私が…私が…? 殺し…妹…」


勾玉「違うと思いたかったが…その反応だと…心当たりが全くないわけではないらしいな。答えてもらおうか…まず人を殺したことがあるかどうかを…」


 勾玉は、その場から動かずに座り込む奈樹に向かって言った。


奈樹「………」


 奈樹の息が少し(あら)くなる。


奈樹「…ある…。…あり…ます…」


勾玉「………」


 その言葉に対して勾玉は(おそ)ろしいほど冷静(れいせい)だった。昨日話をした時点で、この答えは有り得ることだと感じていた。更に言えば、この発言だけでは妹を殺した者という確証(かくしょう)が無いからである。


奈樹「けど…私の意思じゃない…。私…殺したくない…私は力を無理矢理…」


 思い出したくない過去があるのか座り込み、頭を(かか)え、(ふる)える奈樹。その様子に罪悪感(ざいあくかん)さえ覚えた。だが、勾玉は続けた。


勾玉「…朱理(しゅり)…」


奈樹「……!」


勾玉「朱理…それが妹の名前だ」


奈樹「ああああああああ!」


 頭痛(ずつう)がするのか、(さけ)びながら頭を(かか)えていた手の指の力が強くなる。


奈樹「私が…殺した…! 叫んでいた…その…名…うぐっ!」


 言葉を(さえぎ)り、勾玉は左手で奈樹の首を正面から(つか)んだまま立たせ、背後の木に背中から(たた)きつける!

 つま先立ちで足がギリギリ地面に届こうかどうかという状態に、奈樹の顔が(くる)しい表情に変わる。


勾玉「ずっと復讐(ふくしゅう)することを考えて生きていた…。まさかこんな形で再会することになるとはな…」


奈樹「うっ…! くっ…!」


 奈樹は抵抗(ていこう)しなかった。頭痛のせいか(あきら)めかはわからないが(うつ)ろな瞳で勾玉を見ている。

 勾玉は()いた右手に握りこぶしを作り再び開く。その瞬間、手に炎が発生する!


勾玉「復讐の炎は…いま…消える!」


ゴオォォォォォ!


 奈樹の顔に向けて手を…だが、奈樹と勾玉は引き離された!



蒼輝「何やってんだよ!勾玉!」


 蒼輝が割って入り、奈樹を(かかえ)えて勾玉と距離を()けて(あいだ)に立つ。抱えていた奈樹をそっと下ろす。


蒼輝「大丈夫か!?」


奈樹「ケホッ! …ゴホッ!」


 首を(つか)まれていた状態から開放された奈樹。()き込んだ後、呼吸を(ととの)える。


勾玉「……」


蒼輝「おい…! どういうことだよ勾玉! お前が理由もなくするはず…!」


勾玉「復讐だ」


 蒼輝の言葉を(さえぎ)った。


勾玉「俺の妹を殺したのは…」


 奈樹を指さす。


勾玉「その女だ」


奈樹「……!」


 奈樹は悲しみとも困惑(こんわく)とも取れる表情を浮かべる。


蒼輝「なんだって…!? 奈樹が…!?」


 信じられない…といった驚いた表情で奈樹を見る。


奈樹「あれは…あれは私の意思じゃないんです…。記憶は残ってるけど…(あやつ)られて…無理矢理…」


勾玉「俺の復讐の相手であることは事実。それにどれだけ言おうと関係無い…

罪人(ざいにん)とは、必ず言い逃れをするものだ」


蒼樹「勾玉…!」


勾玉「止めるな。もし止めるというのであれば…蒼輝…お前にも容赦(ようしゃ)はしない。」


蒼輝「俺は…奈樹を守る!」


奈樹「私は…私は…」


 何も言うなという合図か、蒼輝が奈樹の前に手を出す。


勾玉「そんなに大切か…? その女は…『他人の空似(そらに)』とわかっているだろう? 少なくとも俺と風魔は別人だと割り切っているぞ…?」


蒼輝「…!」


 奈樹には今の会話の内容が理解できなかった。ただ…蒼輝が自分に優しくしてくれる理由…。それが今の言葉の中にあると悟った。


勾玉「…奈樹から距離を取って戦ってやろう。巻き込まれて死ぬか、後で死ぬかの違いだ」


蒼輝「死なせねぇよ…。奈樹も…もう誰も…! 人の心には(いん)(よう)…影と光がある…。 俺が勾玉の影を…光に変えてやる! そして俺は約束したんだ…俺は…奈樹を守る!」


 蒼輝と勾玉が奈樹から距離と()けて歩いていく。一人は復讐の相手を殺すため、一人は復讐の対象者(たいしょうしゃ)を守るために、友とぶつかり合うことを選んだ二人。

 奈樹は…その戦いの行方(ゆくえ)を見ていることしかできなかった…。

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