↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蒼咎のシックザール  作者: ZERO-HAZY
第二章 剣と聖
72/176

17-C -季節外れの雪月花-

 船の移動で激(はげ)しく酔った颯紗(さらさ)は回復し、なんとか自力で歩けるようになった。予定通り花の屋敷(やしき)へと向かうことになり、家から出た。すると蒼輝(そうき)達の前に居たのは刹那(せつな)と黒コートの男、月花だった。

挿絵(By みてみん)


刹那「あー! 奈樹(なじゅ)様! 会いたかったよお!」


 すぐさま甘えるように奈樹に抱(だ)きつく。


奈樹「ただいま刹那。いい子にしてた?」


刹那「うん!」


蒼輝「あれ? こっちは?」


 蒼輝は月花を見た。刹那に連れられ島を見て回っていて、たまたま奈樹の家の前に来ていた。

 

刹那「この人は月花様だよお! 刹那を助けてくれた優しい人なんだよお!」


月花「…よろしくお願いします」


蒼輝「助けたって?」


月花「いや、俺は何もしてませんよ」


刹那「コケそうになった刹那を助けてくれたの」


 刹那は抱きついたまま、奈樹の後ろにいる女性に気が付いた。


颯紗「あ…えっと…」


 人付き合いに慣(な)れていないため、少し戸惑(とまど)う様子を見せる。奈樹は代わりに紹介した。


奈樹「颯紗よ。ファラル大陸に住んでいたんだけど、今日からノスタルジアに住むことになったの。刹那も仲良くしてね」


刹那「うん! 刹那です! よろしくお願いします! 颯紗さん!」


颯紗「よ…よろしくお願いします」


 奈樹から一旦(いったん)離れ、元気よくペコリと頭を下げて挨拶(あいさつ)する。颯紗も頭を下げ、刹那と月花を交互(こうご)にチラリと見つつ、少し怯(おび)えながら挨拶(あいさつ)をした。


蒼輝「とりあえず皆で花の屋敷行くか。仲間も紹介したいし、月花についても色々聞きたいしな」


月花「俺は別にどっちでもいいですけど…」


 皆で花の屋敷に向かって歩き出した。刹那は奈樹に抱(だ)きついていたかったが、月花も放っておくことはできなかった。悩(なや)んだ結果、奈樹は颯紗に話しかけ始めたので、自分は月花の隣(となり)で歩くことにした。


月花「………」


刹那「ねー! 月花様! 聞いてる?」


月花「え…? あぁ、なにかな?」


刹那「月花様もノスタルジアに住むでしょ?」


月花「いや、俺は特になにも…」


蒼輝「この島は来る住民、誰でも拒(こば)まずの精神だからな。その気があるなら歓迎(かんげい)するぜ?」


刹那「やったー! 月花様! ねーねー! 一緒に住もうよー!」


奈樹「刹那…月花さんに用事があって島を出なきゃいけないようだったら、あまり言うと断(ことわ)り辛(づら)くなるから…」


月花「…」


 月花は常(つね)に刹那に張り付かれていて、未(いま)だに任務(にんむ)対象が書かれた封筒(ふうとう)の中身を確認できずにいた。しかし、この中に対象の凶悪兵器(きょうあくへいき)がいるとは、とても思えなかった。 


 島に降り立った自分に最初に声を掛けてきて、島民と打ち解けるキッカケを与えてくれた刹那。多少キツイ言い方だけど面倒見のいい芙蓉(ふよう)。明るく元気いっぱいで自分に構ってくれる桔梗(ききょう)。オドオドしているが優しい心を持った桜羅(さくら)。

 

 特に理由もなく受けたギルドの依頼だった。居場所も過去の記憶も持たず、ただ死に場所を求めていた気がしていた自分。だが、このノスタルジアで今朝(けさ)から住民と触れ合ったことで、この島にいるという凶悪兵器の驚異(きょうい)から皆を護(まも)りたいと思うようになっていた。けど、そう言った気持ちの表現が苦手だった。人付き合いは慣れたものではない。

 そんな足踏(あしぶ)みして停滞(ていたい)している自分を、不器用(ぶきよう)な自分を刹那が引っ張ってくれた。だから乏(とぼ)しい感情表現(かんじょうひょうげん)の一つとして…刹那も、芙蓉も、桔梗も、桜羅も、さっき出会った蒼輝、奈樹、颯紗も、自分が護ろうと決意していた。

 

蒼輝「そういえば月花は、どこから来て、この島へなにしに来たんだ?」


月花「えっと…」


 話をすべきか迷(まよ)った。この中に凶悪兵器がいるとは思えない。しかし自分の任務(にんむ)の内容を言っていいとも思えない。もしかしたら凶悪兵器が島のどこかで息を潜(ひそ)め、皆の命を狙っているのかも知れない。

 やはり言えなかった。凶悪兵器が潜んでいるのであれば、皆を不安にさせるわけにはいかなかった。


 結局うやむやな返事で誤魔化(ごまか)しながら、蒼輝、奈樹、刹那、颯紗、月花は花の屋敷に到着(とうちゃく)した。

 中には勾玉(まがたま)、風魔(ふうま)、マテリア、芙蓉、桔梗、桜羅、バサラ、レイ、ディアナ、ブラック、ムト、サツキ。

 奈樹がノスタルジアへ降り立ってから仲間になった者は、誰一人欠けることなく集まっていた。


 大きな和室の一室に輪(わ)になるように座布団(ざぶとん)が敷(し)かれていた。桔梗と桜羅が皆にお茶を出した。そして全員が座ったのを確認すると、自己紹介を始めることにした。


 ファラル大陸へ渡った蒼輝、奈樹、勾玉、マテリア、バサラは紹介が終わっている状態に等(ひと)しいので手短(てみじか)に済ませた。そして島に留守番(るすばん)していた風魔、刹那、芙蓉、桔梗、桜羅の順番に自己紹介を済ませる。そこから蒼輝達が知り合った順番に名乗(なの)っていくことにした。



バサラ「それじゃ、レイからでヨロシク」


レイ「僕は光芒(こうぼう)結社のレイ・ハーレット。力添(ちからぞ)えで成果が出せるように頑張(がんば)るよ。よろしくね」


 皆は快(こころよ)くレイを受け入れ、返事をした。一人を除(のぞ)いて…。


風魔「……」


 風魔はレイから、ただならぬ咎力(きゅうりょく)とオーラを感じ取っていた。自分の考えを見抜かれぬよう、この男は敵に回すべきではないと本能が察知(さっち)していた。



マテリア「それでは…次はディアナさんですね」


ディアナ「私はディアナ。こっちは友達のブラック!」


 ディアナは座っているブラックの背中を撫(な)でながら自己紹介をした。


芙蓉「爪で畳(たたみ)をボロボロにしないでよね?」


ディアナ「ブラックは賢(かしこ)いから大丈夫!」


 ディアナの言う通り、ブラックはこの部屋に来た時に爪を立てないようにして歩いていた。ディアナは自分のことのように、えっへん! と、威張(いば)っていた。



勾玉「それでは次はムトだな」

 

ムト「ワシは発明家のムト。頭脳が必要と言われ、この島へ呼ばれた身じゃ。医療(いりょう)関係も詳(くわ)しくての、体調が悪かったらワシのところへに来るといい」


 溶接(ようせつ)マスクに作業着を纏(まと)い、機械で加工されたの音声で自己紹介をするムト。


刹那「お医者さんなのお?」


ムト「そうじゃよ。お嬢ちゃんも診(み)て欲しければいつでもきてよいぞ」


刹那「刹那、今は元気だからまた今度お願いします! 奈樹様と一緒に診てもらおっと!」


奈樹「わ…私はもう遠慮(えんりょ)しておく…」


 奈樹は全裸になって隅(すみ)々まで検査(けんさ)されたことを思い出し、顔を赤くした。ムトはサツキを見る。


サツキ「ワタシはサツキ。ムト様の家政婦(かせいふ)をしております」


ムト「サツキはワシが作ったロボじゃ。まだまだ調整が足りんがの」


レイ「ロボットか…実戦ではどのくらい戦えるのかな?」


ムト「ワシは戦えんがサツキにはある程度の武装(ぶそう)は施(ほどこ)しておる。スクラップだらけの街でかき集めた者じゃから性能は低いのは仕方ないといったところじゃがな」


蒼輝「その性能低い奴(の)に、足追いつかなかったんだが!?」


ディアナ「一生懸命(いっしょうけんめい)走ってあれだったの? だったの? まだまだだねー」


蒼輝「うっせーやい! そっちはブラックに乗ってただけだろ!」


ディアナ「私とブラックと一心同体(いっしんどうたい)、運命共同体(うんめいきょうどうたい)だもーん!」


 その後も蒼輝とディアナの言い合いを中断させるかのように、奈樹が口を開いた。



奈樹「それじゃ…次は颯紗」


奈樹の隣(となり)に座る颯紗は緊張(きんちょう)で震(ふる)えていた。視線は皆で輪を作って座っている真ん中の、何もない一点を見つめている。心臓(しんぞう)の鼓動(こどう)を落ち着かせるため、深呼吸(しんこきゅう)を何度も繰り返している。


芙蓉「……。大丈夫(だいじょうぶ)なの…?」


バサラ「芙蓉の姫も気を遣(つか)うってできるんだな。てっきり…」


芙蓉「なに? 悪いの?」


バサラ「なんでもございません」


奈樹「颯紗…」


 そっと手を握(にぎ)る。ハッとして顔を上げ、紅い目が奈樹を捉(とら)える。震(ふる)える唇(くちびる)にキュッと力が入り、覚悟を決めたかのように僅(わず)かにリラックスしてから口を開いた。


颯紗「私は…。さ…颯紗…」


 勇気を出して名前を言った。皆はしばらく黙(だま)っていたが、颯紗はその先の言葉を紡(つむ)げずにいた。


奈樹「あの…皆さん、颯紗は戦える人じゃないから…その…」


桔梗「よろしくね! 颯紗おねーさん!」


桜羅「ボクと桔梗ちゃんも戦えないから…一緒だね?」


芙蓉「戦えないもの同士、仲良くしましょうか」


 真っ先に口を開いた桔梗、それに続くように桜羅、そして颯紗が怯えないように優しく芙蓉が言った。颯紗の視線が三人に向いた。


ディアナ「私もブラックも戦えないから仲間に入れてよー!」


芙蓉「何言ってるのよ、もう仲間でしょう?」


颯紗「…!」


ディアナ「やったやったー!」


颯紗「よろしく…お願いします…」


 ようやく口を開く勇気を持つことができた颯紗。皆の優しい言葉が、不安だった心に安心感をもたらした。奈樹、そして皆に笑みが溢(あふ)れる。



蒼輝「それじゃ次は月花で…」


月花「…はい…。その…まだ島に住むと決まったわけじゃないんですけど…」


 そう言っていると月花は芙蓉と目が合う。『自己紹介なんだから、まず名乗りなさいよ』とでも言いたげな表情で、不機嫌(ふきげん)そうに見ていた。


月花「……俺の名前は月花です。よろしくお願いします」


 ビンタをもう一度喰らうのだけは勘弁してほしかった。


勾玉「月花は戦うことはできるのか?」


月花「できますよ」


バサラ「おぉ! これでまた戦力が一人!」


月花「戦力?」


レイ「あれ? 君は聞いていないのかい? ここはイーバと戦うために結集(けっしゅう)しているんだ」


月花「イーバと…?」


 イーバ。自分の依頼主。月花の中に様々な疑問(ぎもん)と疑念(ぎねん)が渦巻(うずま)いていた。依頼主は、この島に凶悪兵器を始末しろと言った。最初はなんとも思っていなかった。だが、刹那達と触れ合うことで、それはこの島の人を助けるためなのだと思っていた。

 

 しかし、この島の人達はそんなイーバを敵対視(てきたいし)している…? そうなれば…この中の誰かが凶悪兵器である可能性がある…? そう考え事をしていると、次の質問が来ていた。


蒼輝「月花のファイトスタイルってどういうのなんだ?」


月花「俺は…そうですね。せっかくなんでお見せしましょうか」


 月花は顔の前に広げた手を出した。そこに小さな冷気(れいき)が集まる。


マテリア「咎力(きゅうりょく)…」


 掌(てのひら)の冷気は、小さな雪の結晶(けっしょう)になり、まるで氷の絨毯(じゅうたん)のような平(たい)らなものになる。


奈樹「すごく繊細(せんさい)な操作…綺麗(きれい)…」


 平らだった氷は幾度(いくど)となく折れ曲がってゆき、まるで折り紙のように形を変えてゆく。皆は黙ってその様子を見ていた。


月花「ほいっと…これで出来上がり」


 咎力の冷気から作られた氷の鶴(つる)は、月花の手から離れてスーっと飛んでゆく。


ディアナ「わっ!」


 氷鶴はディアナの所へ向かい、止まった。


ディアナ「なになに?」


月花「全ては月と花の導(みちび)きのままに…その鶴が勝手にディアナちゃんを選んだだけで、俺の意思ではない…意味はないよ」

 

 ディアナは両手で掬(すく)うような形を作ると、氷鶴は手に乗った。物珍(ものめず)しそうなキラキラした瞳で見入っていた。


風魔「氷の力を使って戦うってことでいいのかな?」


月花「そういうことになりますね」


桔梗「いいなー! アタシにも作ってよ! おにーさん!」


桜羅「ボ…ボクも欲しい…」


芙蓉「コラコラ、そういうことは後にしなさい」


月花「ふふっ、いいよ。後でね」


 喜(よろこ)ぶ桔梗と桜羅。そうして全員の自己紹介が終えた。マテリアは最後に抱(かか)えていた幻召獣(げんしょうじゅう)のプリプムを紹介した。ピョコピョコ飛び跳(は)ねている。


奈樹「結局、一度も戻ることなくノスタルジアにまで来ちゃったのね、この子」


マテリア「はいです…。全然帰りたがらなくって…」


プリプム「プリー! プリップリー!」


桔梗「あーん! 可愛(かっわ)いー! こっちおいでー」


桜羅「…おいでおいで」


 プリプムは少し迷(まよ)ってから、手を広げる桜羅の所へ行った。桜羅が愛(いと)おしそうに抱きしめ、頬(ほほ)でスリスリする。


プリプム「プッリプッリー」


桔梗「桜羅ずるーい! こうなったらアタシが桜羅を抱(だ)っこしてやるー!」


 プリプムは桜羅に抱(だ)かれ、桜羅は桔梗に抱かれた。月花は二人を見ながら少し落ち着きがない様子だった。


月花「……」


ディアナ「ん? どうかしたの?」


月花「いえ…なんでも…」


 そうして今日は花の屋敷で歓迎(かんげい)パーティーをすることになった。

 勾玉、風魔、バサラ、ディアナとブラックは買い出しに商店街へ。奈樹、マテリア、刹那、颯紗は芙蓉、桔梗、桜羅と一緒に食事の準備をした。ムトはサツキのメンテナンスを軽くすることにして、蒼輝とレイは雑談しながら、ムトの手伝いをしていた。



 そして月花は…一人で丘の上に来ていた。ここまで離れれば刹那もすぐには来れないだろうと思ってたからだ。ポケットから封筒(ふうとう)を取り出し、糊(のり)付けされた封を開いた。


月花「……」


 中身を見るのが少し怖かった。鼓動(こどう)が高鳴(たかな)る。一体どんな名前の、どんな姿をした凶悪兵器なのだろうか。この島のどこにいるのか。不安な気持ちを抱(かか)えながら、中身を取り出した。


月花「これは…」


 その顔は驚愕(きょうがく)。全(まった)く予想していなかった。写真を持つ手が震(ふる)えた。


月花「月と花の導(みちび)き…その答えがこれなのか…?」


 写真を中に戻す。念(ねん)のために名前を確認することにした。そこに書かれていた名前は…。



 金雀児(えにしだ) 奈樹(なじゅ)



 写真は見間違(みまちが)えではなかった。自分の抹殺(まっさつ)対象は…イーバの言う凶悪兵器とは、自分にとっての恩人(おんじん)のような存在である刹那が慕(した)う、あの心優(こころやさ)しい蒼髪の少女だった。

 月花は黙って封筒を閉じてポケットに閉まった。しばらくの間…独(ひと)り言(ごと)も、溜息(ためいき)すら出なかった。ただただ目を閉じて考えていた。

 

 凶悪兵器。あの中で可能性のある人物を、自分なりに予測はしてみていた。しかし、奈樹であることは想定していなかった。

 そして長い時間が経過(けいか)し、月花は気持ちを落ち着かせるように、大きく深呼吸(しんこきゅう)した。


月花「全ては…月と花の導きのままに…」


 目を開き、月花は花の屋敷へと歩き出した。そう…奈樹のいる花の屋敷へと…。




 第十七話 -季節外(きせつはず)れの雪月花(せつげつか)- End

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。