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蒼咎のシックザール  作者: ZERO-HAZY
第二章 剣と聖
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12-A -それぞれの旅立ち-

 ―――嘘(うそ)…。報告(ほうこく)を聞いた私の身体は自分でも驚(おどろ)く程(ほど)にビクリと動いた。聖衣(せいい)のスカートが激しく動いた。


「どうして…誰の遺体(いたい)も無いのですか…!?」


 私は目を閉じていないはずなのに、視界が真っ暗になった錯覚(さっかく)に襲(おそ)われた。絶望感から声を漏(も)らしてしまったけれど、叫(さけ)びをできるだけ堪(こら)えた。

 大きな屋内に私の声が響いた。聖職者(せいしょくしゃ)が集う『聖クレア教会』大聖堂。私は項垂(うなだ)れて座り込み、高貴な刺繍(ししゅう)が施(ほどこ)されたカーペットに手を着いていた。自身の銀色の髪がフワリと揺れたのが僅(わず)かに視界に入る。


 今朝(けさ)、隣国(りんこく)である桜黤(ろうあん)王国は陥落(かんらく)していることが判明した。それだけではなく、楼黤(ろうあん)王国は誰一人いない、もぬけの殻(から)。血の痕跡(こんせき)は大量にあり、争(あらそ)った形跡(けいせき)もあった。しかし遺体だけは見つからなかった。


 私は励(はげ)まされた。私が落ち込んでいることに関(かん)して詳しい事情を知っている者はいないけれど、ショックを受けていることは誰の目から見ても明らか…。しばらくすると皆がその場を去った。私は一人で座り込んでいた。


 …どうしても未確定の事実を調べる必要性があった。


「私は…確かめなくてはならない…」


 純白の聖衣(せいい)を整(ととの)え、私は自室に戻った。出そうになる涙を我慢(がまん)しながら、遠出する支度(したく)をする。そして部屋を出る前に母から譲(ゆず)り受けたロッドを握(にぎ)り、立ち鏡を見る。鏡の中の水色の瞳(ひとみ)をした聖女と目が合う。もう私は、あの頃の弱い私ではない…部屋を出た私は教会から外出許可をいただき、外の世界へと旅立った。


 楼黤(ろうあん)王国へ向かった。先ほど報告を受けただけで、自分の目で確かめていなかった。報告に間違いは無いことはわかっていたけど、自分の目で遺体の有無(うむ)を確認したかった。

 その次に行(ゆ)く宛はない。大陸を渡り歩く覚悟はあった。別の大陸へ行こうとも私は探し続ける。


「もう私には…何も残っていない…この旅路で死んでしまっても構わない…」


 教会の敷地内(しきちない)から出て、楼黤(ろうあん)王国へ向かうために広大な草原を歩いた。たった一つの希望を探しに歩いた。





 ―――ここは…どこだ?


 俺は気付いたらガラクタだらけ街…鉄骨(てっこつ)の骨組みが乱雑(らんざつ)に入り乱れる路地裏(ろじうら)で眠っていた。


 俺は自分の名前しか覚えていない。それ以外は何も思い出せない…。所持しているものから俺の身元がわかるような物はなかった…。身につけているのは黒いスカーフ…黒い指空きグローブ…そして黒いロングコートの内ポケットにはタバコやお菓子…。タバコはともかく、お菓子は…いつ、どこで買ったのかは覚えていない。


「昨晩(さくばん)は月を眺(なが)めながら寝たんだっけ…」


 寝るまでずっと月を眺めていた。月を見ていると少しだけ気持ちが高ぶると同時に、なぜか懐(なつ)かしい気持ちにさせてくれる。しかし今は月は見えない。俺は小さな花が咲いている場所を目印にした寝床(ねどこ)から去るために、上体をゆっくりと起こした。

 街から聞こえてくる機械音の喧騒(けんそう)を掻(か)き分け、静かに歩きながら一つの建物へ向かって歩いていた。


 薄汚(うすぎたな)い鉄の扉(とびら)を開ける。ギギギと音が鳴り、その音で中にいるガラの悪い男達が睨(にら)むように室内へ入る俺を見た。その視線を全(まった)く気にせず中に入り、老人が受付をしているカウンターへ向かう。


 「いらっしゃい、『黒猫(くろねこ)』さん」


 黒いコート。この街で誰とも接(せっ)しない。気まぐれでブラブラしている。そんな俺を特に理由もなく気に入らないと思う奴らは何人も居た。何度も、何十人も返り討(う)ちにした。俺と絡(から)むと『不吉』だとまで言われるようになっていた。

 そして、いつしかここのギルドでは『黒猫(くろねこ)』と呼ばれていた。だが俺の名前は別にある。しかし誰にもその名を言っていない…俺は独(ひと)り…『黒猫』のままでも良かった。

 老人から手渡された紙に書いてあるリストを見た。ここには何度か来たが、一週間以上前から誰一人受けていない依頼(いらい)がある。


 依頼者:開示(かいじ)せず 目標:数日後に依頼者から通達 危険度:10


 危険度は依頼者が決める、おおよその難度(なんど)と報酬(ほうしゅう)の額。実際はどんなに危険でも7か8くらいまでしか設定しない。何故なら依頼を請(う)ける者がいなければ、依頼主が困(こま)るだけだからだ。ここは嘘(うそ)を書いてでも危険度を下げて提出(ていしゅつ)する。それが依頼者側の暗黙(あんもく)のルールだった。

 危険度に応(おう)じて支払われる報酬額も跳ね上がる。このケースは本当に危険な依頼なのか、依頼者が馬鹿(ばか)なのかの区別がつきにくい。いくら汚(よご)れた仕事が蔓延(はびこ)っているギルドでも最大値である10を請け負う無謀者(むぼうもの)はいない。そこに匿名(とくめい)で目標も不明であれば怪(あや)しくて誰も関わりたがらない。



 俺は気が付いたら一つの依頼を受けていた。


 特に理由はない。漫然(まんぜん)と死に場所を探していたのかも知れない。依頼者からは数日後に連絡が来る。俺は外へ出た。またガラクタだらけの街の、排気(はいき)ガスが漂(ただよ)う空間を歩いた。俺が必要とされる、その時まで自由気ままな時間を過ごす。


 「全ては…月と花の導(みちび)きのままに…」

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