1-B -悠久の島 ノスタルジア-
空から落ちてきたポッドを発見し、森の落下地点に到着した三人。
影葉 蒼輝、飛竜 勾玉、風魔。物陰から開かないポッドの様子を伺っていた。
蒼輝「まーた変なE生物が増えるんかな…」
風魔「いや…あの型は脱出用だ。ポッドに赤い丸の記号があるだろ? イーバのポッドは侵略用に三角、脱出用に丸、廃棄用にバツ印で見分けられるようになってる」
勾玉「侵略用なら俺達の敵。廃棄用なら危害がないので味方と判断できるが…」
蒼輝「脱出用じゃあ…イマイチ敵か味方かわからないってことか」
そう言った直後、ポッドの扉が機械音を鳴らしながら重々しく開く。三人は不安な気持ちを抱えながら扉を直視していた。
しばらくすると中からフラフラと、地面に触れそうなほど長く蒼い髪で首に大きめのリボンをした少女が現れた。落下の衝撃によって足元がおぼつかないのか膝が折れ、緑の雑草が生える地面に手を下ろし、四つん這いになった。
蒼輝「……!」
勾玉「…! 待て、蒼輝! 近付くのは安全か判断してから…!」
勾玉の制止を聞かず、蒼輝はすぐに少女の元に向かい走った。
蒼輝「おい! 大丈夫か!?」
急いで駆け寄り、少女の隣でしゃがみ、そっと肩に手を置いた。
少女「……」
少女はゆっくりと顔を上げ、元気の無い疲れたような表情で蒼輝と目を合わせた。髪と同じで蒼い瞳をした少女が、小さな声で言った。
少女「…貴方も…私を…」
勾玉と風魔も、ゆっくりと歩いて来る。
勾玉「まったく…突然飛び出して行くとはな…」
風魔「おー、すっごい美少女じゃん? まるで…」
風魔が何かを言いかけたが止めた。勾玉を、風魔を、少女は不安そうに見上げる。
少女「…貴方達も…私を…」
蒼輝「ん?」
少女「私を…傷つけるの…?」
少女の言葉に空気が凍りついた。この少女に、ただならぬ事情がある事を察したからだ。
蒼輝「俺達はそんな事しない、安心していいぜ。約束する。俺の名前は蒼輝。こっちの二人は勾玉と風魔、俺の友人だ」
安心させようと、少女に向かってニッと笑う。
少女「蒼…輝…さん…」
怯えた様子だったが、蒼輝が名乗ったことで少し安心したようだ。
蒼輝「えっと…名前は…?」
少女「な…じゅ…。私の名前は…奈樹…」
蒼輝「そっか…よろしくな、奈樹!」
勾玉「とりあえず、危険な存在で無いのであれば歓迎しよう」
風魔「よろしく、奈樹サン」
軽く言葉を交わし、奈樹が歩けることを確認した後、四人で森の中にある木造の小屋へと移動した。
蒼輝「ここは俺達のホーム。家とは別の…まぁ隠れ家みたいなもんさ」
風魔「自作で建てたんだけど、雨漏りもしないし頑丈なんだよね」
四人は中に入る。中はそれなりに広い。隅に積まれた缶詰などの非常食や飲料水。テーブルと椅子とベッド、トイレに洗面所と風呂場もあり、ここで生活できるように揃っている。
勾玉「ベッドで横になるか?」
奈樹「いえ…座るだけで大丈夫です」
風魔「じゃあ、ベッドに座ったら? 急に疲れたりしたらすぐ横になれて楽だしさ」
そう言われて奈樹はベッドに腰掛けた。ギシッっと木の音が鳴る。勾玉と風魔は椅子に座り、蒼輝は新品の水のペットボトルのキャップを開ける。そのペットボトルを奈樹に渡した。
奈樹「あ…ありがとう…」
蒼輝「それ飲んで落ち着いたら、色々教えてくれるか?」
奈樹は頷き、ゆっくりと口を付けコクコクと水を飲む。少量を何度かに分けて飲み、三分の一ほど減った辺りで深呼吸をした。
奈樹「…あの…私は…」
言いにくそうに俯いて手元のペットボトルを見つめている。
風魔「E兵器かい?」
奈樹は驚いた顔で、発言した風魔を見る。
風魔「廃棄用のポッドでなく、脱出用だったからね。そうなれば研究員か脱走したE兵器くらいじゃない? 君みたいに私服のような服装じゃ研究員とも思いにくい」
風魔の的確な分析に対し、申し訳なさそうに顔を伏せる奈樹。
奈樹「その通りです…私は脱走したE兵器です…。私がここにいたら…追っ手が来るかも知れない…だから…」
蒼輝「出て行くとか言うなよ?」
その言葉に、奈樹が再び驚いた表情で蒼輝を見る。
蒼輝「行く宛て無いんだろ? それにもし追われてないのなら、ずっとこの島に住めばいい」
奈樹「けど…追っ手が来たら…」
蒼輝「俺が守る」
奈樹の目をまっすぐ見て蒼輝は言った。
蒼輝「約束する。奈樹は俺が守る」
奈樹「…!」
勾玉「…心配しなくていい。追っ手が来たのなら俺も協力しよう」
風魔「まー、イーバは不法投棄とかしすぎで気に入らないからね」
勾玉と風魔が奈樹を匿う意思表示をした事に、蒼輝は喜びの笑みを浮かべる。
蒼輝「サンキューな! 勾玉! 風魔!」
奈樹「でも…」
不安からか、申し訳なさそうにする奈樹。
蒼輝「心配するなって。こう見えても俺達けっこう戦えるんだぜ?」
奈樹「ありがとうございます…」
ベッドに座ったまま深く頭を上げる。
蒼輝「いいっていいって!」
奈樹が遠慮しないように、明るく振舞う蒼輝。
勾玉「…さて…俺はそろそろ…」
勾玉が立ち上がる。それを見て風魔も机に手を付き、立ち上がる。
風魔「なーんかいいムードだし、こっちも帰ろかな。まぁ出会った初日だし行き過ぎないようにね」
ジーッと横目で蒼輝を見る風魔。
蒼輝「そんなつもりないって!」
思わぬ言葉に対して蒼輝が焦る。よく意味がわからずハテナな表情の奈樹。
勾玉は何も言わず、風魔は奈樹に軽く手を振ってから出て行く。二人きりの空間になった途端に沈黙してしまう。
蒼輝・奈樹「………」
蒼輝「えっと…散歩でもする? 外の空気吸いたいなら…」
奈樹「えぇ…お願いします」
外で勾玉と風魔は歩きながら話をする。
風魔「いやーしっかし驚いたねー」
勾玉「あぁ…俺も驚いたが…やはり一番反応したのは蒼輝だったか…」
二人は少し考え事をしつつ歩き続ける。
勾玉「風魔、お前はどう見る?」
風魔「んー、奈樹サンかぁ。低身長で可愛いらしいと思うけど蒼輝が狙ってるしなー」
勾玉「そんなことは聞いていない。あの奈樹の危険性についてだ」
風魔「わかってる、わかってるって。冗談だよ」
勾玉「追われる可能性がある事を自覚しているレベルの個体。傷つけられる事を恐れていた様子…。恐らく強力な戦闘能力を持ち合わせているが、内面的な理由で戦いが苦手。暴力を振るわれ、無理矢理戦わされていたという経緯があると考えたが…」
風魔「脱走したE兵器ねぇ…。勾玉の言うように戦闘能力はあったとしても、性格は好戦的じゃなさそうだし…とりあえず様子見でいいんじゃないの? 今、みたいに」
勾玉「…気付いていたか…」
風魔「追っ手が来てないかの見回りの為に外に来たんだろ? 何年友人やってると思ってんのさ」
軽くドヤ顔をするが、勾玉は見ていなかった。
勾玉「…何事も無ければ…いいがな…」
風魔「しかし運命ってのは酷だねぇ…蒼輝にあんな出会いをね」
勾玉「あの奈樹の外見なら…蒼輝がああなってしまうのは仕方ない…あれはまるで…」
勾玉と風魔は話をしながら森を歩いた。この時は、二人はまだ気付いていなかった。
背後から尾行する影の存在に。