8-A -深淵の巫女-
前回のあらすじ
ノスタルジアへの刺客を送り込まれることを一時的とはいえ阻止できると考え、ポッドと転送装置破壊を目的としてイーバへと乗り込んだ一同。
二組に分かれて、刹那の目的である掘鎧の生死確認と転送装置を破壊する。脱出しようにも警備兵に追われてしまい、咄嗟にE兵器のいる部屋へ避難する。
そこで出会ったE兵器の芙蓉。彼女の協力によって脱出口へと移動できた。蒼輝は恩人である芙蓉をノスタルジアへ連れて脱出した。
ノスタルジアへ帰還した一同。ホームは芙蓉に譲ることにし、奈樹と刹那は蒼輝の家に、マテリアは勾玉の家に泊まった。
翌日…奈樹は刹那に抱きしめられたまま、寝苦しい状態で目覚めた。刹那が起きるまでゴロゴロして、目覚めるのを待った。
そして朝食後、準備をしてホームにいるはずの芙蓉の所へ向かう蒼輝、奈樹、刹那の三人。
ガチャ
蒼輝「おーい芙蓉ー。起きてるかー?」
元気に声を出し、蒼輝が扉を開ける。
芙蓉「………」
奈樹「あ…ちょっと…!」
蒼輝「………」
バタン
扉を開くと、風呂上りだったのか、身に纏うものがタオルだけの芙蓉がいた。蒼輝と芙蓉の目が合い、後ろから中を覗いた奈樹が何故か顔を赤くした。蒼輝は見て見ぬふりをして、そっと扉を閉めた。
蒼輝「………」
中で見た光景が軽く脳裏に焼き付いていていたが雑念を振り払い、とりあえずビンタされる覚悟だけしておいた。
奈樹「………」
奈樹も何も言えなかった。この後に起こるであろうことであろう出来事に対して、蒼輝のフォローを考えていたが、特に有効な言葉が思い浮かばなかった。
ガチャ…と扉が開いた。芙蓉が出てくる。脱出してきた時と同じ、薄汚いボロ切れのような布を着ている。
芙蓉「おはよう」
刹那「おっはよー!」
奈樹「おはようございます…」
蒼輝「お…おはよう…」
芙蓉は気にも留めていない様子で挨拶した。それに続いて刹那が元気よく、奈樹は機嫌を伺うように、蒼輝は怯え気味に挨拶した。
蒼輝「えっと…ドア開けてごめん…」
とりあえず先手を打たれる前に謝ることにした。
芙蓉「…バカじゃないの…?」
蒼輝「えっ…」
芙蓉「E兵器の裸なんて見ても楽しくないでしょ?」
蒼輝「いや、だって女の子だし…」
軽くため息をついた芙蓉は呆れた様子だった。
芙蓉「E兵器は兵器なのよ? 男とか女とか気にしてるとか、おかしいでしょ?」
蒼輝「おかしいわけないだろ! 芙蓉だって、奈樹と刹那だって兵器だけど…それでも女の子だ! 心があるなら人間と変わりなんてない! 俺はそう思ってる!」
奈樹「蒼輝…」
蒼輝は芙蓉に熱弁した。その言葉に、奈樹は少し喜びを感じていた。
芙蓉「そっか…私のこと、一人の女の子として見てるのね…」
芙蓉は蒼輝の前に歩いてくる。
芙蓉「それじゃ…人間の女の子らしい反応してあげないとね」
蒼輝「えっ?」
バシッ!
蒼輝がビンタされて軽く3メートルは吹き飛んで倒れた。
奈樹「そ…蒼輝!」
駆け寄る奈樹と刹那。
刹那「おー! ほっぺた赤くなってる!」
芙蓉「ふん…。望み通りでしょ?」
奈樹「……」
奈樹は何か言いたげだったが、黙っていた。蒼輝が頬をさすりながら起き上がる。
蒼輝「イテテテテ…。よし、芙蓉…それなら女の子らしく服も揃えないとな」
芙蓉「服…?」
蒼輝達は、しばらくホームで待機する。すると勾玉とマテリア、風魔も来る。
今日集まったのは、やらなければならないことがあったからだ。
蒼輝「ここ数日でだな…随分と人が増えて賑やかになった」
風魔「ナッちゃん、マテリアちゃん、刹ナッちゃん、芙蓉ちゃんの四人」
奈樹「…(刹ナッちゃん…?)」
勾玉「四人がこの小屋に住むというわけにも行かなくなってきた…そこで今日は四人にやってもらうことがある」
マテリア「やってもらうこと…ですか?」
刹那「なになにー?」
蒼輝は椅子から勢いよく立ち上がった。
蒼輝「それは…それぞれ家を所持してもらうことだ!」
奈樹「家…って、そんなすぐに建てられるはず…」
風魔「それがあるんだな…」
風魔がカタログと収納札を取り出す。
ノスタルジアでは収納札の収縮化技術を利用して、建築済みの家を販売している。但し収納札と違い、一度建ててしまうと直すことはできない使い捨て。風魔が出した収納札に実際に家が入っているわけではなく、説明を解りやすくするために見せたものである。
マテリア「色んな家があるですね…」
ペラペラとカタログを見る奈樹、マテリア、刹那。少し遠巻きに見る芙蓉。
蒼輝「自分達で好きな家と場所を選ぶといいさ。よっぽど無茶な地形じゃなきゃ、何処にでも建てられるからな」
奈樹「うーん…好きな場所…。結局この島って全部を渡り歩いたわけじゃないのよね…」
勾玉「カノンと間違われ騒ぎになることを考慮して商店街に行かせていなかったが…」
風魔「もう、いいんじゃない? これから先のことを考えたら島民登録しないといけないし」
目的は四人の島民登録。そしてボロボロの布を纏うだけの芙蓉に服を買うこと。そして島全体を渡り歩き、好きな場所に家を建てることである。その目的を実行すべく、一同は商店街へと向かった。