1-A -悠久の島 ノスタルジア-
都市や国など大陸によって大きく文化や技術が違い、魔法と言われる力が存在する世界。その力は世界で共通して『咎力』と呼ばれていた。
咎力は全ての人が使えるわけではなく、素質や才能で個人差がある。生まれ持って使用できる者、施設で会得する者、一族特有の能力など多種多彩であった。
その咎力を利用する研究所が存在した。高々度を浮遊し徘徊する要塞研究所『イーバ』。
そこでは様々な開発・研究が行われていた。咎力を利用した実験や、生物兵器の改造。
イーバで創られた生物兵器は『E兵器』と呼ばれている。地上に廃棄される生物兵器は戦闘能力を大して持たない失敗作であり、『E生物』と言われる。
E生物は危害が無い上、中には人と違いがわからない者もいる。そのため世界の人々にとって危険な存在ではなかった。この世界では知ってか知らずか、人々は自然にE生物と共存していた。
そして舞台は、数ある大陸から遠く離れた自然溢れる孤島『ノスタルジア』。ノスタルジアではE生物が多く住んでいる。住宅と商店街を作り、それぞれが好きな商売をして生活している。
島で人と呼べる者は僅か三人の男。彼らはそんな一風変わった平和な島で自由に過ごしていた。
「こんな所に居たのか、蒼輝」
島を一望できる丘の上。大きな一本の木の影で寝ていた男は声を掛けられた。
影葉 蒼輝。平均的な体型と身長。蒼いスカーフと金色のハネた髪が特徴的な青年。
蒼輝「んー…よっと! なんだよ勾玉。何か約束してたっけ?」
蒼輝は軽く伸びをして、足で反動をつけて起き上った。
勾玉「用があるわけではないがな…たまたま見かけただけだ。こんな所で昼寝とは珍しいと思ってな」
飛竜 勾玉。蒼輝と同じ島民で、数少ない人間の一人。性格は冷静で真面目。
蒼輝「まぁ、俺だって自然と触れ合いたい時もあってだな…」
勾玉「食欲最優先の男のセリフとは思えんな」
突然丘に強い風が吹き、勾玉の腰まである黒い髪をなびかせる。木の枝ガサガサと揺れ、緑色の木の葉が数枚ヒラヒラと落ちてくる。二人は上を見上げた。
蒼輝「風魔か?」
そう言って少しすると、一人の男が木の上から降りてきた。
風魔「バレた?結構自然だったと思ったんだけどな~」
長く赤いマフラーをした緑の髪をした青年が、頭を掻きながら残念そうに言った。
風魔。蒼輝と勾玉の友。この島で人間は、この三人の青年のみである。
勾玉「丁度いい。さっきうどん屋の割引券を貰ったんだが、どうだ?」
勾玉はポケットから三枚セットの割引券を取り出す。
風魔「いいね~。行くか!」
蒼輝「お、俺はいいかな…」
勾玉「珍しいな…食べることが一番のお前が断るとは…」
風魔「どうせその店で食い逃げしてきたところなんだろ」
蒼輝「ババババ、バカ! ちげーよ!」
隠し事ができない分かりやすい態度だった。
勾玉「……」
風魔「違うのか~、それじゃ二人で行くか勾玉」
蒼輝「ズルいぞ! 裏切り者!」
風魔「やっぱ食い逃げしてきたんだろ!」
いつものやりとりに勾玉は呆れていた。ふと、空を見上げると黒い何かが目に入る。
勾玉「あれは…」
蒼輝と風魔が一度勾玉を見て、その視線を同じ方向へ向ける。
風魔「ポッド…? イーバから落ちてきたんじゃない?」
蒼輝「ヤバイ! 降ってきてる! 皆ぁ! 伏せろおお!」
蒼輝が急いで頭を抱えて伏せる。
ゴオオオオオオオオオオ
轟音を鳴らしながら、遥か遠方を通過する落下物。
ドォォォォォォォォン!!!
地面が少し揺れた。こんな非現実的と思える状況だが島民にとっては慣れたものである。
勾玉「森の方へ落ちたな」
風魔「行ってみるか! 中に何が入ってんだろーなー」
勾玉と風魔が丘から森に向かうように進む。伏せたまま放置された蒼輝が立ち上がる。
蒼輝「ちょっとくらいノってくれてもいいのに…」
トボトボと二人の後を追う蒼輝。三人はポッドの中身を確認すべく、森へと向かった…。