6-B -E生物(スティグマ)が崇めた女神-
刹那と掘鎧と戦った翌日、目が覚めた奈樹。昨日までいた蒼輝がいない時ことに気付き、心配していた。奈樹とマテリアは勾玉と風魔に連れられ港へ来た。そこのセンチョーから渡された写真にを見て奈樹は驚いた。
そこに映るカノンと言う女性は、自分自身そっくりだったのだ。
奈樹「これ…」
マテリア「奈樹…!?」
センチョー「その子がカノンじゃ。見間違えるのも無理なかろう」
顔だけでなく、蒼い髪と蒼い瞳。長さは違うが髪型も似ている。そして首には見覚えのある蒼いスカーフをしていた。奈樹は写真を見つめて黙ってしまっている。
センチョー「なんじゃ? こんなに瓜二つなのにカノンのこと教えとらんかったのか?」
不思議そうに奈樹をまじまじと見る。
風魔「写真あんがとね、センチョー。これから教えていくつもりだよ」
奈樹から写真を返してもらい、風魔はセンチョーに手渡した。
センチョー「また来るんじゃぞ。奈樹ちゃんと、そっちの子は…」
マテリア「あっ…マテリアです…」
センチョー「マテリアちゃんもの。船が必要になったらいつでも来てよいぞ。なんたってワシは、まさしく船長じゃからの!」
風魔「よっ! カッコイイよ! まさしくセンチョーだ!」
奈樹・マテリア「……(まさしく…?)」
こうして四人はセンチョーに挨拶をして、港を後にした。奈樹は写真を見てからというものの、ずっと黙ってしまっている。そのまま近くの公園へと来た。噴水近くのベンチに奈樹とマテリアが座り、勾玉と風魔は二人の前に立っている。
マテリア「奈樹…」
奈樹は俯いたまま…小さな声で、一番聞きたくもあり、一番聞きたくなかった質問した。
奈樹「…その…カノンという人は…今どこにいるんですか?」
勾玉と風魔はしばらく黙っていた。目でお互いを見て、どちらが話をするかを決めていた。深呼吸を一つし、勾玉が話を始めた。
勾玉「カノンは…もういない。四年前に亡くなっている」
奈樹「……!」
奈樹の予感は的中していた。驚きはしたが、そこまで動揺はしなかった。
マテリア「カノンさんは…どういう人だったですか? この島でなにが…あったんですか…?」
勾玉が噴水を眺め、腕を組む。
勾玉「蒼輝には悪いが…全て話させてもらう」
風魔「話せば長くなるけどね…けど、もう隠していけない…いや、知らなければならない。
だから語ろう。ノスタルジアの過去。そして…蒼輝の歩んだ辛い運命を」
大陸から離れた島。まだこの島にノスタルジアという名のない頃。幼い人間の少女が、たった一人で住んでいた。
島には廃棄されたE生物が徐々に増えていった。
そのE生物達は、生きる術を知らず、何もできずに怯えた。少女はどんな外見であっても、どんな者であっても、新しい島民として笑顔で歓迎した。
生き方を、食べ方を、話し方を、そして笑顔を、身寄りのないE生物達に与えた。
今から四年前――――――
森の泉。切り株に座る14歳の蒼い髪で蒼い瞳、首に蒼色のスカーフをした少女は居た。ひたすらペンで紙に書き連ねている。
そこへ来た当時14歳の勾玉。
勾玉「何か用か? カノン」
カノン「おっ、勾玉君、来たね! これよろしくぅ!」
カノンはクリップボードに挟んでいた紙を5枚ほど外し、勾玉へ渡した。
勾玉「…雑用か」
軽く溜息を吐き、呆れたように言った。
カノン「そんな顔しないでー。もっと笑顔笑顔!」
勾玉「雑用を任されて笑顔になれと言うのか?」
カノン「お願い! 一人じゃ手が回らないの! 風魔君にも頼んであるから一人じゃないよ?」
勾玉「わかったわかった。手伝おう」
カノンは一人でE生物達の生活を管理していた。その島民数は50以上にも及ぶ。
必要な支給品や食料をチェックして、島の外へ発注する物を毎日最低でも50枚以上、紙に書いていた。
例え疲労していても明るく笑顔を見せ、老体のE生物の介護をし、寂しい思いをしている子供達と遊ぶ。
その献身的で屈託のない真っ直ぐな姿から、いつしか島民達から『女神様』と呼ばれていた。
別の日…
カノン「おっはよー、蒼輝君、勾玉君、風魔君!」
三人でいた所に、カノンが走ってくる。
蒼輝「カノンか…」
気怠そうに蒼輝が言った。
カノン「また嫌そうにするー」
カノンに対して冷たく当たる蒼輝に対して、ふてくされる。
蒼輝「そんなことないけどさ…。」
カノン「今日は時間が空いたからさ、一緒に遊ぼ? ねっ?」
笑顔のカノン。しかし、その顔は少し寝不足気味に見えた。しかしカノンにとっては、皆と一緒に居ることが一番の癒しだった。三人はそれを理解していたので、基本的に断ることはしなかった。
風魔「よっし! じゃあ港に行こっか! 今日はセンチョーさんもお休みだし」
カノン「賛成! 船乗せてもらおうよ!」
勾玉「俺は構わんが…」
風魔「俺は15分したら降りるよ? 長いこと乗ったら酔うし」
カノン「オッケーオッケー! それじゃ、レッツゴー!」
腕を絡ませ、ぐいぐいと蒼輝を引っ張るカノン。
蒼輝「お、おい!」
半ば無理矢理に蒼輝を引っ張っていき、四人は港に到着した。センチョーにお願いして船に乗せてもらう。普段は島から出ないため、船で揺られながら海を眺めるのは、貴重な体験だった。
風魔「最初の内は波を眺めてるのもいいんだけどねー」
勾玉「15分が限界か」
カノン「んー、勿体無いねー。ホラ! アタシ達が住んでる島が見れるなんて、何だか嬉しくない?」
蒼輝「……」
カノンはいつも笑っていた。船から自分の住む島を一望するのが大好きだった。
カノン「センチョー! いつもありがとうね! 他の島からいっぱい貰ってきてくれて!」
必要な物を書いた紙はセンチョーに渡され、いつも島へ運んできてくれていた。蒼輝、勾玉、風魔が手伝いで釣りをしたり、カノンがコツコツと島で作る野菜や果物ではとても食料は足りず、センチョーが他の島へ支給品を貰いに船で往復していた。
センチョー「構わんよ。島の者同士、協力し合わんとな。そうじゃ、フィルムが余っとるし写真を撮ろうじゃないか」
カノン「はいはーい、それじゃ皆集まって…」
カノンが蒼輝の肩に手を回し、傍に寄せる。
蒼輝「近いって…」
カノン「ワガママ言わないのー。ほら、笑顔だよ! 笑顔!」
センチョーがカメラを持った手を前に出して、自分と四人を撮影しようとする。
センチョー「もっと近寄らんと映らんぞ」
センチョーは空いたほうの大きな手で四人を近くに寄せる。カノンは蒼輝と頬が当たりそうなほど近くで寄り添う。
カノン「写真に映る時は、こうやってピースするんだよ?」
カシャ!
カノンが一人ウインクをしてブイサインをすると、すぐさまシャッターが押された。
カノン「もー! 三人ともピースしなきゃ!」
風魔「そこは自由でいいんじゃない?」
蒼輝「だよな…それに急だったし」
カノン「普段から明るくしてれば、すぐに対応できるんだよ! 笑顔を作ること! 約束だからね? わかった?」
カノンは蒼輝の手を取り、小指だけ立てさせる。自分の小指を絡めた。そして手を振りながら歌うように言った。
カノン「ゆーびきーりげーんまーん、うーそつーいたーら…」
蒼輝「…」
カノンはその先、何を言おうか考えている。
カノン「うーそつーいたーら、蒼輝君が笑顔になーる。ゆーびきった!」
絡んでいた指を離す。
蒼輝「それ、どっちにしてもカノンが得するんじゃ…」
カノン「いい考えでしょ? 約束だよ? その代わり、私も笑顔でいるからさ。それが私と蒼輝君の約束!」
蒼輝「……」
カノン「返事ー!」
センチョー「女神様の言うことじゃぞ」
カノン「その呼び方さ、何気に恥ずかしいからカノンでいいよ…」
照れくさそうに言う。センチョーはガッハッハッと大きな声で笑った。
蒼輝「…約束…か…」
そして、また別の日…。ある日の夕方…三人で行動していた所、島の北西にある断崖にカノンが一人で座っていた。
風魔「カーノン」
カノンが振り返る。蒼いスカーフが風で靡き、蒼い髪が夕日に染まっている。
カノン「あっ…どうしたの?」
その表情は笑顔だったが、少し悲しそうにも見えた。
勾玉「森の泉もお気に入りみたいだが、ここにもよくいるな」
カノン「そうだね。ここからの景色が好きなんだ…島の平和を一番感じられる場所」
座るカノンの横に蒼輝が立つ。
カノン「悠久…」
蒼輝「ん?」
カノン「この平和が…皆の笑顔がずっと…永遠に続いて欲しい。悠久って言うのかな? それが私の描く理想郷…」
蒼輝「ふーん…」
カノン「わぁ、興味なさそう!」
蒼輝「いや…カノンだったらできると思うな」
カノン「…!」
風魔「これだけ頑張ってるんだからね」
勾玉「きっと成果は出るさ。俺達もこれからも手伝おう」
カノン「えへへ…急に褒められると、逆に反応に困るね。三人とも、ありがとうね! また明日からも頑張れるよ!」
カノンは勢いよく立ち上がる。その笑顔と元気な姿を見るのが、三人にとっても元気の源になっていた。
風魔「ファイト、女神様」
カノン「もう! それで呼んでいいのはE生物の皆だけ!」
皆で笑った。こんな日が、いつまでも続く。皆そう思っていた。
そうして、しばらくの時が流れる。島全体を悲しみに包んだ、運命の日まで…。




