40-B -覚醒の予兆-
月花「解放せよ……月詠七星剣……!」
剣をダークに向かって振る! 月を連想させる形の斬撃を飛ばす!
ダーク「そんなもの当たらないカナ……!」
回避するダーク。そこへ勾玉、風魔、レイがダーク後方のポッドに集中する!
ダーク「そんな行動は読めてるカナカナァァ!」
叫び、半回転してアームで薙ぎ払って三人を弾き飛ばす!
月花「ここだっ!」
今度は月花がダークに斬りかかる! ダークは再び半回転して月花を見るが、勾玉、風魔、レイもダークの背後へ迫る!
ダーク「前後の挟み撃ちィィ! 全て想定済みカナァァ!」
アームの先が割れるように開き、斥力のバリアを発生させて月花達を吹き飛ばした! 全てデータ通りの、読み通りの動き。そのことにダークは優越感を覚え、徐々に声が大きくなっている。
ダーク「クククゥゥゥ! 君達の狙いは解っているカナァ! 絶ッッッッッッ対にぃぃぃぃ! 奈樹は手放さないカナァァァ!」
叫ぶダーク。バリアが徐々に弱くなり……消滅した瞬間だった。
ガシャアアアアアァァァァン!
ガラスの割れた音。それはダークの背後から聞こえた。ポッドが破壊された音が響いた。ポッドには刃が突き刺さっていた。
ダーク「ナ……ナナナ!?」
刃は徐々に短くなってゆく。その湾曲した、月のような刀の持ち主。それは……。
月花「まさか……!?」
月花が見た者。銀色の髪をなびかせ、月の宝具である聖刀・三日月を持つ男。銀楼だった。
ダーク「クァアアアアアォォォ……! 銀楼……! 何故……吾輩のジャマヲヲヲヲヲヲッッ!?」
銀楼の眼は、睨むようにダークを見ていた。
銀楼「ババァの能力で会話は全部聞かせてもらったぜ」
月花「銀楼……まさかお前……月の四使徒に戻って……!」
銀楼「勘違いするんじゃねぇ。アイツにイイように利用されてたことにムカッ腹が立ってるだけだ」
ダークの背後のポッド。そこから光の粒子が漏れ始める。
ダーク「あぁぁぁ……零れ落ちる……吾輩の……吾輩の……奈樹が……」
宙を舞い流れる粒子を寄せ集めようとするが、虚空を掴む。
蒼輝「な……奈樹……」
長らく四つん這いの状態で動かなかった蒼輝は顔を上げた。その姿、髪や瞳は元の状態に戻っていた。
蒼輝の前に集まる粒子。それは徐々に人の形となってゆく。 そして……光が凝縮された瞬間、奈樹が横たわっている状態で蘇った。
ダーク「ヌオオオォォォ!」
虚を突かれ、一度は手にした奈樹を手放してしまったダーク。それにより冷静さを失い、勢いよくアームを奈樹へ振り下ろす!
蒼輝「奈樹!」
まだロクに動かせない身体。だが、力を振り絞り、急いで駆け出した蒼輝は気を失っている奈樹を抱え、ダークのアームによる攻撃から助け出す!
ダーク「クッ……!」
銀楼「聖刀……三日月!」
ダークが蒼輝と奈樹に追撃をしようとした、その時……ダークの身体へと刃が湾曲しながら伸びる!
ダーク「馬鹿カナァアァァァアァ!? 吾輩が! この吾輩が一度手を組んだ君の宝具を解析していないとでも思ったカナァアァーーー!?」
解析済みのデータ。避けるまでもないと、その場を動かないダークだった。
銀楼「そいつはどうかな……」
ダーク「ナナッ……!」
身体を貫通する刃。実感していた。体感していた。その貫かれたダメージを。その光景を見ている宮殿のアルテミス達……。
ラミア「やったぁ! 銀ちゃんカッコイイー!」
大喜びしてピョンピョン飛び跳ねるラミア。
ルーン「イイ一撃だったな」
アルテミス「やはり……手を施した聖刀・三日月の攻撃は無力化できなかったみたいですね」
セレーネ「相手に悟らせないで攻撃を仕掛ける銀君も、なっかなかの演技派だねー」
ラミア「やっぱり銀ちゃんは強いんだよ! 頑張れー! 銀ちゃーん!」
アルテミスの映し出す映像に向かって応援するラミア。
銀楼の持つ三日月が貫いた者。ダークは震えていた。想定外の事態に困惑していた。
ダーク「何故……何故カナ……まさか……」
銀楼「テメェに調べられたことで三日月は邪気を帯びていたそうだ……。それをババアが取り払ったのさ……。ただ、それだけだ」
風魔「なるほど……ルーンとセレーネの武器は今の状態からイジリようがないが……あの聖刀・三日月だけは例外で、ダークに解析されたものと違う状態に書き換えることができたのか」
解析した際に、ダークに触れられることによって邪気を帯びていた月の宝具、三日月。その邪気を取り払えば、ダークが解析したものとは別の武器という扱いになると考えたアルテミスの行為だった。
ダーク「ナナナ……!」
銀楼「解析ってのはムズイんだろ? だから少しでも数値をイジられると思うように無効化できねぇ……違うか?」
ダーク「……おの……れ……! 吾輩を出し抜くとは……許しがたいカナァァァ!」
激昂して顔に血管が浮かび上がるダーク。その身体から溢れ出す闇の咎力。そのおぞましい瘴気に、気を失っていた奈樹は蒼輝の腕の中で目を覚ました。
奈樹「う……」
蒼輝「奈樹! 良かった……」
安堵した表情を浮かべる蒼輝。ボーッとしている奈樹の焦点が、蒼輝に合った。
奈樹「蒼輝……私……」
蒼輝「皆が……助け出してくれたんだ。無事で良かった……」
奈樹「ごめんなさい……私……私……」
謝罪する奈樹。本当に悲しげな、申し訳なさそうにしている。
蒼輝「無事だったんだ……それでいいさ」
奈樹を抱える手に力が入る。もう、もう二度と奈樹を傷付けない。粒子化なんて絶対にさせない。そう誓う蒼輝だった。
ダーク「奈樹ウゥゥぅぅぅ! 吾輩は諦めてないカナァァァァ!」
蒼輝「!」
ダークのアーム二本が、両手を組むような形で合わさる! そこへ強大な闇のエネルギーが収束してゆく……!
ダーク「コイツで……! また奈樹を粒子化させてやるカナ……! 邪魔するものは全て消すゥゥゥ!」
動けない奈樹は、荒ぶるダークに萎縮していた。蒼輝は奈樹を背にし、暗黒剣ルシフェルを構えた!
ダーク「ククク……! 盾になっても無駄カナァーー! 今から撃つ暗黒同化砲を受けた者は……必ず死ぬことになるカナァ……!」
蒼輝「なんだと……!?」
ダーク「受けた者は吾輩と共に闇の空間に誘われる……そこから脱出することは出来ない……吾輩と二人だけの領域。徐々に闇に喰われ、時間が経てば闇の一部となるカナァ……。つまり……確実に死ぬ!」
つまり、奈樹に当てれば確実に粒子化させることが出来る。庇うことで他の者に当たれば……その者が死ぬことになる。
蒼輝「その空間の中で……テメェを倒せばいいんだ!」
ダーク「ククク……それは正しいカナァ……。さっきの大荒れした君ならともかく……正気に戻った君相手に吾輩が屈するはず無いカナァァ……!」
砲台を蒼輝に向ける。正確には、蒼輝の後ろに居る奈樹を狙っている。
レイ「あのままじゃ……蒼輝が……」
月花「あの砲台を破壊するしかない!」
銀楼「行くぜ!」
皆が動き出そうとした、その時だった……!
疾速「模倣タイプ……ハルベルト」
突如、高速で勾玉達の前に、両手を広げて立ち塞がった疾速! そして、ハルベルトの結界能力を使用した。
疾速「鉱石球体場…アレキサンド・ランド」
月花「しまった……!」
勾玉、風魔、レイ、月花、銀楼……そして疾速自身を包むように結界が発生する!
疾速「最高のタイミングでキメちまったなぁ。これでアンタらは逃げられ……」
結界が完成してしまうと思われた、その瞬間……!
結界の中の者、疾速を除いて何かに攻撃されて吹き飛ばされた! その衝撃で完全に閉じこもる前に結界の外へ出た!
月花「刹那ちゃん!」
刹那「奈樹様を、お願い!」
皆を攻撃して、結界の外へ弾き出したのは刹那だった。たった一人で、疾速と一緒の結界に入ったのだ。
月花は再び中へ入ろうとしたが、完全に中と遮断される!
月花「刹那ちゃん! どうして……!」
結界の中。刹那が対峙するのは疾速。
疾速「へぇ……まさか君と一騎打ちになるなんてね。嬉しいよ」
刹那「刹那が外にいるより……皆が外にいたほうが……絶対いいもん」
疾速「自分が犠牲になるってこと? 優しいんだね」
刹那「……」
疾速には絶対なる自信があった。模倣を使わなくても刹那とは階級が大きく違う。その時点で、刹那に負ける要素は一切無かった。
疾速「戦いにもならないだろうけど……許してよ?」
刹那の目の前から、疾速の姿は消えた。超速で移動する疾速の持つ鉄パイプが、無情にも刹那の身体に打ち付けられた。
外に居る月花は、刹那を救い出そうとした。
月花「確かこの四つの柱を倒せば……結界は解除されたはず……!」
勾玉「月花! お前はダークを阻止するべきだ!」
ダークに解析されてダメージを与えられない勾玉、風魔、レイ。この状況では、ダークを阻止できるのは月花と銀楼しか居ない。
銀楼「チィッ!」
三日月をダークの砲台に向けて伸ばす! 月花もダークへと走る! しかし、刹那の安否に気を取られて反応が遅れた短時間、この差が砲台の発射を許してしまった。
ダーク「エネルギー充填完了カナァァァァァ……! 暗黒同化砲……発射!」
奈樹「蒼輝! 逃げてっ!」
蒼輝「くっ……!」
構える蒼輝はその場を動かない。もう、絶対に奈樹に手を出させるつもりはなかった。そのためなら……自身が死ぬ覚悟をもしていたからだった。
ドオオォォォォォォォン!
着弾による激しい爆音と砂煙! 月花と銀楼は間に合わなかった。目を閉じていた蒼輝は、自身に直撃する攻撃に耐えようと構えていた。が……その衝撃は身体に無かった。
恐る恐る目を開く。その視界に映るのは……赤いマフラー。
蒼輝「お……オイ……!」
蒼輝の前に、盾になるように両手を広げて立っていた者が居た。
勾玉「風魔……!?」
風魔が蒼輝の前に立ち、暗黒同化砲を、その身に受けていた。
奈樹「風魔さん!」
蒼輝「風魔! お前……!」
ダーク「思わぬ邪魔が入ったカナ……まぁいい……最初の犠牲者は君カナ! 暗死空間の中で、順番に吾輩の闇の一部にしていってやるカナァァ!」
風魔がダークと共に闇に包まれてゆく!
奈樹「風魔さん! どうして……!?」
風魔「……犠牲になったなんて思わないでいいよ。これは――……」
風魔は、誰にも見えないようにニヤリと笑った。
風魔「……ただの好奇心さ」
完全に闇に飲み込まれた風魔とダーク。
蒼輝「風魔……風魔あぁぁぁぁぁーーーーー!」
勾玉「……何か策があるのか……? 風魔……」
風魔が無策で何かをするとは思っていない。しかし不安に駆られる勾玉。外からは闇の中の様子は見えない。この先、風魔がどうなってしまうのか……それを知るのは風魔自身と、ダークだけだった……。
奈樹「風魔……さん……」
奈樹は立ち上がろうとするが、まだ身体全体が痺れたような様子で動けていない。
月花「風魔さん……刹那ちゃん……!」
月花はハルベルトの能力の結界を思い出した。周りにある四つの柱から出てくる鉱石戦士を倒せば、刹那を助けられると考えた……。
暗黒同化砲の効果で暗死空間の中に居る風魔とダーク。
風魔「二つほど聞いていいかな?」
キョロキョロと暗闇の中を見渡す風魔。
ダーク「ククク……冥土の土産ってやつカナ……?」
風魔「そういうこと……。どうせ消えるんだ。教えてくれてもいいんじゃない? 聞きたいことの一つは……」
最初の質問に答えるダーク。風魔は頷いた。
風魔「なるほど……。それじゃあ、もう一つ……この空間が、外から見たらどうなってるかってことだけど」
ダーク「ククク……そんなことカナ? 単純な話カナ……君の死に様は誰にも知られないカナ……」
風魔「つまり……この中は外から見えないってことか?」
ダーク「ククク……そういうことカナ……。闇の一部となって吾輩に吸収され消えゆく……その様は外からじゃ見えない……」
風魔「なるほどね。安心したよ」
ダーク「自分の無様な死期なんて見られたくないもの……誰だってそう……ククク……」
風魔「誰にも見られる心配がないなら―――……『思う存分戦える』ってことだ」
ダーク「オヤオヤァ? それはつまり吾輩を倒すつもりカナ……? 残念ながら君の咎力は未知闇鵺が既に解析済み……。今更なにをしたって無駄カナ……ククク……」
風魔は時間が経てば、闇と同化する。風魔の力を解析済みであるダークからは、もはや手を下すまでもないと言った状況だった。
風魔「今から見せるのは……アンタらの得意分野の力だ。今から目の前で起こることを、夢物語じゃない現実と認識して、その身に刻み付けるといい」
ダーク「一体……何を言って……」
ダークが言い終わらない内に、風魔の周囲に暴風が巻き起こった。
風魔「皆を強くするために……この力は、エビル相手に見せるには早過ぎたんだ」
ダーク「ナッ……!?」
フワッと身体が浮き上がり、風魔は内なる力を解き放つ言葉を口にした。
風魔「開錠」