4-C -降り立つ刺客-
「奈樹」と呼び続け、丘の上に誘導した声の主。その正体は奈樹の友人である少女、マテリアだった。イーバから脱出してきたマテリアとの再会に奈樹は喜んだ。会話を交わした後、島の仲間に紹介するべく丘を下ろうとした。前をゆく奈樹に向かい、マテリアは両手で傘を握り、大きく振り上げていた。
ブンッ!
マテリアが傘を思い切り振り下ろし、空を切る音がした。
奈樹「!」
ガシッ!
傘は手で受け止められていた。その手は奈樹のものではなかった。
勾玉「一体…なんのつもりだ?」
勾玉が奈樹を背に庇うようにし、マテリアの傘を受け止めていた。マテリアが傘を捻り、握られた手を振り払い後ずさる。
奈樹「勾玉さん…!」
マテリア「……」
奈樹「マテリア…? 一体…何が…」
全く警戒していなかったため、背後で何が起きたかわからなかった奈樹。
勾玉「新たな刺客か…。いいだろう…俺が相手になってやる…」
手に炎が宿る。前に出ながら勢いよく手を突き出す!
奈樹「待って! 勾玉さん!」
勾玉「蛇炎!」
炎が蛇のようにうねりながら、マテリアへ向かう!
奈樹「!」
マテリア「散日傘…。リジェクト・フォース…」
平然とマテリアは傘を広げ、身を隠すように防御した。炎が傘に弾かれるように分かれていき、火の粉となって宙で消滅してゆく。
勾玉「……。」
奈樹「咎力を…分散させた…!?」
勾玉「なるほど…。ただの傘では無いようだな」
奈樹「待って下さい!勾玉さん! 戦ってはいけません!」
勾玉が僅かに振り返り、奈樹を見る。
奈樹「あの子は…マテリアは…私の友人なんです! だから…!」
勾玉「アイツはお前の後頭部を狙っていた。イーバからの刺客でないはずがないだろう?」
奈樹「…! そんな…! マテリア!?」
マテリアは奈樹を見つめている。その瞳は憎悪に満ちていた。
マテリア「…奈樹…。一族の…仇…」
勾玉「…!」
妹のことを思い出した勾玉。奈樹がマテリアの一族を滅ぼした。まだ奈樹には負った罪があったのかと感じた…。
奈樹「マテリア! 待って! それは…」
マテリア「ああああああっ!」
奈樹の叫びは虚しく響き、マテリアは傘の先端を勾玉に向ける! 咎力を込めた光の弾丸が発射される!
奈樹「!」
勾玉が片手で弾丸を真上に弾いた。アッサリと。弾丸は花火のよう空宙で消えていった。
マテリア「!」
勾玉「どうやら戦闘に特化したタイプではないようだな…」
マテリア「うああああああっ!」
マテリアが復讐心に取り憑かれ狂ったかのように声を出し、傘を振り上げた! そのまま前進しようとしたが、それは叶わなかった。
蒼輝「勝手にいなくなったと思ったら…。何が起きてんだよ…これ」
蒼輝がマテリアの傘を後ろから止めていた。
奈樹「蒼輝…!」
マテリア「くっ…!」
勾玉「奈樹、どういうことだ? 一族の仇とは…」
奈樹「…! マテリア! 聞いて!」
マテリア「一族の仇…! 滅ぼされた仇…!」
奈樹「私はマテリアの一族を滅ぼしてない! 思い出して! なぜなら…」
奈樹は辛そうに、精一杯の力で声をあげた。
奈樹「私と出会った時にはもう、一族は滅んでいたのよ!」
マテリア「……!」
…―――――
幼い少女が泣いていた。
イーバ内部。外部から連れてこられてた人間が入る施設があった。
幼い少女が泣いていた。
「くすん…くすん…」
どれだけ泣いたかわからない。涙が出ているかもわからない。けど泣いた。ずっと泣いていた。
「どうしたの?大丈夫?」
蒼い髪の女の子が、泣いている女の子に言った。
「くすん…くすん…。みんな…みんな…しんじゃったです…。おとうさんも…おかあさんも…村のみんなも…くすん…」
「……」
「わたし…ずっと一人です…くすん…。みんな…みんな…いない…しんじゃったです…」
「わたしと友達になろう」
泣いている少女は蒼い髪の少女を見た。
「わたしも…友達がいないの…だから友達…。一緒にいれば…きっと悲しくない」
「くすん…友達…」
「わたしは金雀児 奈樹」
「くすん…マテリア…です。マテリア・シェル・クロウディア…」
奈樹「元気出して、マテリア。わたし、いつでも会いに来るから」
マテリア「くすん…奈樹…」
マテリアの両手を握る奈樹。マテリアは、その両手を強く握り返した。
―――――…
マテリア「奈樹…!!」
傘を手離し、頭を抱える。
奈樹「マテリア!」
傍へ駆け寄る奈樹。
マテリア「そうです…。一族は…奈樹に…殺されたんじゃないです…。私以外の村人は…目の前で…イーバの…研究員に…」
奈樹「マテリア…」
マテリア「奈樹じゃない…殺したのは…奈樹じゃないです…」
意識が徐々にハッキリしてきている。
勾玉「恐らく…記憶を操作されたか…」
蒼輝、奈樹、マテリアが勾玉を見る。
蒼輝「そんなことができんのか?」
奈樹「記憶操作…そんな言葉を聞いたことがある…」
勾玉「奈樹には友人と再会させ油断させる。マテリアには一族への仇討ちとして、奈樹を抹殺させる。記憶を操作した理由はこんな所だろう」
マテリア「私は…そんなことを…」
座ったまま泣きそうになりながら、ガタガタ震え出す。
奈樹「大丈夫よ、マテリア」
奈樹がマテリアの肩に手を乗せ、顔を覗き込む。
奈樹「私はここにいる、大丈夫。マテリアも無事よ、落ち着いて」
マテリア「…奈樹…」
奈樹と顔を合わせ、少し落ち着いた様子。
蒼輝「いやー、しかし無事で良かった良かった」
勾玉「こんな風に刺客を送って来たんだ。恐らくだが使い捨てるつもりだったのかも知れん。そうであれば、マテリアは今後イーバから狙われる可能性は低い」
蒼輝「そうなると…やっぱりまだ奈樹は狙われてるってことか…」
奈樹「……」
少し表情が曇るが、すぐに平静を装う。マテリアを心配させないために。しかし、その想いは叶わなかった。
奈樹「…!」
急いで立ち上がるとマテリアから離れ、遠方を見つめた。
蒼輝「奈樹…!?」
勾玉「これは…」
座るマテリアを背にし、勾玉も構える。
奈樹「殺気がする…」
蒼輝「…そんな…まだ刺客がいるってのか!?」
警戒していると、二つの影が前に現れた。
忍のような装束を着たマスクとゴーグルをした男と、同じく装束を着たポニーテールの女の子が赤紫色の髪を揺らして現れた。
女の子「これだけ警戒されたら隠れる意味なくなっちゃったね」
男「………」
女の子「まぁ、いっか。見つけちゃったからには、もう誰も逃がさないもん」
寡黙な男に対し、女の子は腕をブラブラと振って呑気そうに言う。
蒼輝「お前達は…」
勾玉「何者だ」
男が一歩前に出る。
男「E兵器…掘鎧…」
女の子「E兵器の刹那」
名乗った刹那が掘鎧の隣に立つ。
掘鎧「対象は金雀児 奈樹…」
刹那「アハッ、対象者の抹殺任務だってさ」
刹那は奈樹を見て、無邪気に笑った。
奈樹「…!」
イーバから送られた刺客は、マテリアだけではなかった。掘鎧と刹那、二人のE兵器が蒼輝、勾玉、奈樹、マテリアの前に現れた。
E装甲兵とは比べ物にならない力を持つであろう刺客を相手に、果たして戦いの行方はどうなってしまうのか…。
第四話 -降り立つ刺客- End