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蒼咎のシックザール  作者: ZERO-HAZY
第一章 ノスタルジア
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4-C -降り立つ刺客-

 「奈樹(なじゅ)」と呼び続け、丘の上に誘導(ゆうどう)した声の主。その正体は奈樹の友人である少女、マテリアだった。イーバから脱出してきたマテリアとの再会に奈樹は(よろこ)んだ。会話を()わした後、島の仲間に紹介するべく丘を下ろうとした。前をゆく奈樹に向かい、マテリアは両手で傘を握り、大きく振り上げていた。




 ブンッ!


 マテリアが傘を思い切り振り下ろし、(くう)を切る音がした。


奈樹「!」


 ガシッ!


 傘は手で受け止められていた。その手は奈樹のものではなかった。


勾玉(まがたま)「一体…なんのつもりだ?」


 勾玉が奈樹を背に(かば)うようにし、マテリアの傘を受け止めていた。マテリアが傘を(ひね)り、握られた手を振り払い後ずさる。


奈樹「勾玉さん…!」


マテリア「……」


奈樹「マテリア…? 一体…何が…」


 (まった)警戒(けいかい)していなかったため、背後で何が起きたかわからなかった奈樹。


勾玉「新たな刺客か…。いいだろう…俺が相手になってやる…」


 手に炎が宿る。前に出ながら勢いよく手を突き出す!


奈樹「待って! 勾玉さん!」


勾玉「蛇炎(じゃえん)!」


 炎が蛇のようにうねりながら、マテリアへ向かう!


奈樹「!」


マテリア「散日傘(さんさんさん)…。リジェクト・フォース…」


 平然とマテリアは傘を広げ、身を隠すように防御(ぼうぎょ)した。炎が傘に(はじ)かれるように分かれていき、火の()となって(ちゅう)消滅(しょうめつ)してゆく。


勾玉「……。」


奈樹「咎力(きゅうりょく)を…分散させた…!?」


勾玉「なるほど…。ただの傘では無いようだな」


奈樹「待って下さい!勾玉さん! 戦ってはいけません!」


 勾玉が(わず)かに振り返り、奈樹を見る。


奈樹「あの子は…マテリアは…私の友人なんです! だから…!」


勾玉「アイツはお前の後頭部(こうとうぶ)を狙っていた。イーバからの刺客でないはずがないだろう?」


奈樹「…! そんな…! マテリア!?」


 マテリアは奈樹を見つめている。その(ひとみ)憎悪(ぞうお)()ちていた。


マテリア「…奈樹…。一族の…(かたき)…」


勾玉「…!」


 妹のことを思い出した勾玉。奈樹がマテリアの一族を(ほろ)ぼした。まだ奈樹には()った(つみ)があったのかと感じた…。


奈樹「マテリア! 待って! それは…」


マテリア「ああああああっ!」


 奈樹の(さけ)びは(むな)しく(ひび)き、マテリアは傘の先端(せんたん)を勾玉に向ける! 咎力(きゅうりょく)を込めた光の弾丸が発射される!


奈樹「!」


 勾玉が片手で弾丸を真上に(はじ)いた。アッサリと。弾丸は花火のよう空宙(くうちゅう)で消えていった。


マテリア「!」


勾玉「どうやら戦闘に特化したタイプではないようだな…」


マテリア「うああああああっ!」


 マテリアが復讐心(ふくしゅうしん)に取り()かれ(くる)ったかのように声を出し、傘を振り上げた! そのまま前進しようとしたが、それは(かな)わなかった。



蒼輝(そうき)「勝手にいなくなったと思ったら…。何が起きてんだよ…これ」


 蒼輝がマテリアの傘を後ろから止めていた。


奈樹「蒼輝…!」


マテリア「くっ…!」


勾玉「奈樹、どういうことだ? 一族の仇とは…」


奈樹「…! マテリア! 聞いて!」


マテリア「一族の仇…! 滅ぼされた仇…!」


奈樹「私はマテリアの一族を滅ぼしてない! 思い出して! なぜなら…」


 奈樹は辛そうに、精一杯の力で声をあげた。


奈樹「私と出会った時にはもう、一族は滅んでいたのよ!」


マテリア「……!」




…―――――


 幼い少女が泣いていた。


 イーバ内部。外部から連れてこられてた人間が入る施設があった。


 幼い少女が泣いていた。


「くすん…くすん…」


 どれだけ泣いたかわからない。涙が出ているかもわからない。けど泣いた。ずっと泣いていた。


「どうしたの?大丈夫?」


 蒼い髪の女の子が、泣いている女の子に言った。


「くすん…くすん…。みんな…みんな…しんじゃったです…。おとうさんも…おかあさんも…村のみんなも…くすん…」


「……」


「わたし…ずっと一人です…くすん…。みんな…みんな…いない…しんじゃったです…」


「わたしと友達になろう」


 泣いている少女は蒼い髪の少女を見た。


「わたしも…友達がいないの…だから友達…。一緒にいれば…きっと悲しくない」


「くすん…友達…」


「わたしは金雀児(えにしだ) 奈樹」


「くすん…マテリア…です。マテリア・シェル・クロウディア…」


奈樹「元気出して、マテリア。わたし、いつでも会いに来るから」


マテリア「くすん…奈樹…」


 マテリアの両手を握る奈樹。マテリアは、その両手を強く握り返した。


―――――…




マテリア「奈樹…!!」


 傘を手離(てばな)し、頭を(かか)える。


奈樹「マテリア!」


 (そば)()け寄る奈樹。


マテリア「そうです…。一族は…奈樹に…殺されたんじゃないです…。私以外の村人は…目の前で…イーバの…研究員に…」


奈樹「マテリア…」


マテリア「奈樹じゃない…殺したのは…奈樹じゃないです…」


 意識が徐々にハッキリしてきている。


勾玉「(おそ)らく…記憶を操作されたか…」


 蒼輝、奈樹、マテリアが勾玉を見る。


蒼輝「そんなことができんのか?」


奈樹「記憶操作(メモリーリプレイス)…そんな言葉を聞いたことがある…」


勾玉「奈樹には友人と再会させ油断(ゆだん)させる。マテリアには一族への仇討(かたきう)ちとして、奈樹を抹殺(まっさつ)させる。記憶を操作した理由はこんな所だろう」


マテリア「私は…そんなことを…」


 座ったまま泣きそうになりながら、ガタガタ震え出す。


奈樹「大丈夫よ、マテリア」


 奈樹がマテリアの肩に手を乗せ、顔を(のぞ)き込む。


奈樹「私はここにいる、大丈夫。マテリアも無事よ、落ち着いて」


マテリア「…奈樹…」


 奈樹と顔を合わせ、少し落ち着いた様子。


蒼輝「いやー、しかし無事で良かった良かった」


勾玉「こんな風に刺客を送って来たんだ。(おそ)らくだが使い捨てるつもりだったのかも知れん。そうであれば、マテリアは今後イーバから狙われる可能性は低い」


蒼輝「そうなると…やっぱりまだ奈樹は狙われてるってことか…」


奈樹「……」


 少し表情が(くも)るが、すぐに平静(へいせい)(よそお)う。マテリアを心配させないために。しかし、その想いは(かな)わなかった。


奈樹「…!」


 急いで立ち上がるとマテリアから離れ、遠方(えんぽう)を見つめた。


蒼輝「奈樹…!?」


勾玉「これは…」


 座るマテリアを背にし、勾玉も構える。


奈樹「殺気(さっき)がする…」


蒼輝「…そんな…まだ刺客がいるってのか!?」


 警戒(けいかい)していると、二つの影が前に現れた。


 (しのび)のような装束(しょうぞく)を着たマスクとゴーグルをした男と、同じく装束を着たポニーテールの女の子が赤紫色の髪を揺らして現れた。


挿絵(By みてみん)



女の子「これだけ警戒されたら隠れる意味なくなっちゃったね」


男「………」


女の子「まぁ、いっか。見つけちゃったからには、もう誰も逃がさないもん」


寡黙(かもく)な男に対し、女の子は腕をブラブラと振って呑気(のんき)そうに言う。


蒼輝「お前達は…」


勾玉「何者だ」


 男が一歩前に出る。


男「E兵器(クリミナル)掘鎧(ほがい)…」


女の子「E兵器(クリミナル)刹那(せつな)


 名乗った刹那が掘鎧の隣に立つ。


掘鎧「対象は金雀児 奈樹…」


刹那「アハッ、対象者(たいしょうしゃ)抹殺(まっさつ)任務だってさ」


 刹那は奈樹を見て、無邪気(むじゃき)に笑った。


奈樹「…!」


 イーバから送られた刺客は、マテリアだけではなかった。掘鎧と刹那、二人のE兵器(クリミナル)が蒼輝、勾玉、奈樹、マテリアの前に現れた。

 E装甲兵(ポーンズ)とは比べ物にならない力を持つであろう刺客を相手に、果たして戦いの行方(ゆくえ)はどうなってしまうのか…。



第四話 -降り立つ刺客- End

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