39-B -散りゆく蒼-
月の大地へと現れたイーバ幹部の男、ダーク。蒼輝達は月の女神アルテミスを守護する月の四使徒と奈樹を宮殿に残して外へ出た。そして、先に外へ出た勾玉、マテリア、風魔、刹那、レイは、ダークを待ち構えた。
そして……ダークは都へ侵入し、前へ現れた。
ダーク「ククク……これはこれはお揃いで……。とりあえず初めまして……カナ」
レイ「何の目的でここへ……?」
ダーク「ククク……先に自己紹介をしておくカナ……。吾輩はイーバ幹部……Dr.ダーク。月へやってきた理由はすぐに教えてあげるカナ……ククク……」
不気味な笑いを起こしながら、ダークは刹那を見た。
ダーク「元……DD部隊の刹那……。速さにのみ性能を与えすぎて、他に取り柄の無かった兵器……。君達と手を組むとは面白くなっているカナァ? イーバの兵器、刹那」
刹那「……刹那は……皆と一緒にイーバと戦うもん! もうイーバじゃないもん!」
勾玉「一体何をしに来たと聞いている。答えろ」
ダーク「それはこっちの台詞カナァ? 君達こそ月……そう、ここは月カナ。こんな辺鄙な大地、月で何をしてるのカナ?」
風魔「質問を質問で返してちゃ、キリがないと思わない?」
勾玉「風魔……だったらお前も質問で返すな……」
こんな状況でもマイペースな風魔に呆れる勾玉だった。
ダーク「ククク……」
レイ「どうせ戦いは避けられないんだ。違うかい?」
勾玉「貴様も開錠という力を持っているのだろう? どんな能力だろうと、ねじ伏せるまでだ」
ダーク「ククク……なかなか面白い連中カナ……。しかし、吾輩は陽子やハルベルトとは一味も二味も……全然違うカナ」
そう言って、ダークは白衣を摘み、大きく広げた。
ダーク「それでは始めるカナ……咎霧領域」
白衣の裏から緑の霧が勢いよく噴き出す! 瞬く間に周囲を包み、イーバ幹部が戦う空間を生み出す。
ダーク「これで戦いに必要な咎値は溜まる。それじゃ遠慮なくゲーム開始といくカナ……」
続けて頭を下げ、両腕を左右に広げた。
ダーク「ククク……開錠」
開錠。制限されている能力を60%まで開放することを可能にする行為。黒い暗闇がダークを覆う。
風魔「これは……!」
銀楼が連れた200体近いE兵器。その死骸が引力によって引きずられるようにしてダークを包む闇へと集結してゆく……!
レイ「合体か……!?」
ダークの纏う闇は膨張と収縮を繰り返し、形を変えてゆく……。
ダーク「未知闇鵺」
身体は闇に包まれて顔が出ている状態。そこから大きな四つのアームを持った姿に変化した。
ダーク「さぁさぁ、間もなく開戦開戦……ククク……。吾輩の正義を邪魔するものは排除するカナ」
不気味な笑みを浮かべるダーク。
レイ「君が正義だなんて笑わせるね。イーバは悪だ。闇は消し去るのみ」
勾玉「非道な行為をしていながらも、それを認めようとはしない。悪とはそう言うものだ」
レイは手に光を、風魔は手に風を、勾玉は両手に炎を発生させる。
勾玉「双蛇炎……!」
風魔「飄風・八朔の荒れ」
レイ「光術……狩槍彗矢」
三人でダークへ攻撃を行う! ダークは身動きすら取ることなく、その攻撃は完全に命中したが……。
勾玉「何……!?」
レイ「無傷……みたいだね」
ダーク「ククク……。吾輩の開錠の前では君達の能力は無意味……。既に解析済みカナ……」
勾玉「どういうことだ……?」
ダーク「知ったところで、どうしようもないので教えてあげるカナ……。吾輩の未知闇鵺は解析したデータを参照に相手の攻撃を無力化する。事前に入力されているデータは勿論のこと、開放した時にE兵器の中に入っているデータを吸収することが出来る……」
風魔「なるほど。通りでE兵器達が粒子化されないと思ったよ。死骸同然のE兵器に、どれだけ攻撃しても飛んでいかないのは月に居るからだと思っていたけど、違ったみたいだ」
ダーク「吾輩が吸収するために特殊な仕様にしたE兵器……ククク……」
レイ「月の都の防衛のためにE兵器と戦った者、全ての攻撃が効かない……そういうことみたいだね」
マテリア「それじゃ……このままじゃ……!」
これで打つ手はない。見守っていたマテリアだったが、今のダークの話では幻召獣による攻撃も解析されている。
他の幻召獣なら攻撃が通るのではと考えたが……。
ダーク「幻召獣は召喚者の血……その血から得た咎力を糧にする。つまりぃ……幻召獣から放たれる攻撃は、全て召喚者と同じ力ということになるカナ」
過去に召喚術師を研究したダークは、その術の仕組みを把握していた。
マテリア「私の召喚術も……全て封じられているです……!」
風魔「月の都を守るために張り切りすぎたのが裏目に出たらしいね」
勾玉「厄介な能力だな……」
レイ「完全無欠……に、等しいね」
早々にダークに対抗する完全に手は絶たれたと思われた。その時だった。
『氷遊折花紙四式 手裏剣』
氷の無数の手裏剣が襲いかかるが、ダークに触れる直前に氷が消え去る。
ダーク「これはこれは……」
刹那「月花様!」
月花「ダーク……久しぶりだな……」
現れたのは月花。その視線は、ダークを真っ直ぐ見ていた。
ダーク「ククク……ギルドに雇われた黒猫……。名は月花」
勾玉「月花……知っていたのか」
月花「ノスタルジアへ来る前に少しだけね……」
ダーク「吾輩が金雀児 奈樹の抹殺を依頼したギルドの者……しかし、それを成し遂げずに島に住み着いた者……」
月花「俺は奈樹ちゃんが殺されるべき存在ではなく、イーバこそが敵だと……月と花の導きを受けたまでだ。一つ聞きたい……お前が銀楼を利用したのか?」
刹那「どういうこと?」
月花「銀楼は咎力の扱いに長けたタイプじゃない。つまり俺の咎力を探し当てる術は無かった。それなのにノスタルジアへやってきた。それはこの男が絡んでいたってことさ」
マテリア「月花さんの咎力を一体どうやって……」
月花「俺がイーバに滞在していた数日の間に、何らかの方法で解析されていた。それを確かめるために咎力で攻撃を仕掛けたのさ」
月花がイーバからの刺客として奈樹を殺すために雇われたと知っていた風魔は、『なるほど』と二人の関係に納得していた。
ダーク「ご名答……君の咎力は解析済み……。あの男は八つ当たりなのか世界各地に撒いておいたE兵器を次々に倒していた。だから銀楼という男は何者かを探り、優しい吾輩はコンタクトを取った。そして話を聞いてあげたカナ……」
……―――
銀楼「月光嗔という男を探している」
ダーク「なるほどなるほど……それはどういった男カナ……?」
銀楼「黒い髪。氷の力を持つ。今は武器を持っていないかも知れねぇ」
ダーク「黒い髪に氷……それならこんな男を知っているカナ……」
ダークは機械のキーボードをカタカタと音を鳴らしながら叩く。そしてそこに映し出された写真は……。
銀楼「月光嗔……! コイツだ! 今どこにいる!?」
ダークが出した写真は月花。ギルドの依頼で雇いイーバに訪れさせた際に、その姿を影で撮影しておいたものである。
ダーク「ククク……落ち着くカナ……。教えるには条件があるカナ……」
銀楼「条件?」
ダークは銀楼から事情を聞き出した。銀楼は月光嗔を見つけるためならと、ダークに教えた。月のこと、女神のこと、都のこと、四使徒のこと、宝具の存在……月光嗔のことを。
ダーク「月……なるほど……。異界……死神……合点……。ククク……」
銀楼「月光嗔は何処にいる。こっちの情報は教えただろうが」
ダーク「焦るんじゃないカナ……ここはお互いに協力し合うべきカナ……」
銀楼「協力だと?」
ダーク「吾輩は男の現在地を教えよう……。その報酬として、月への行き方を教えて貰うカナ……」
銀楼「いいだろう。俺には今更捨てるものはない。協力してやる」
月の都の秘密を売る行為だが、今の銀楼に躊躇はなかった。月光嗔を探して1年が経っていた。どれだけ探しても……求めても見つからなかった者。その存在を探し続けた銀楼にとって、千載一遇のチャンスだった。
ダーク「ククク……月……そしてあの島の連中が関わってくる……つまり奈樹……。とうとう奈樹が吾輩のモノに……」
気味の悪い笑みを浮かべるダーク。イーバの技術力ならば、銀楼の漏洩したデータで月へ転移することが可能だったからであった。そして……銀楼はノスタルジアへ降り立った。島の何処かにいるという月花を誘き出すために、島の者を手当たり次第襲った。
しかし、その思惑はサツキによって阻止された。その後、アルテミスが訪れた時に月と地上を繋ぐ光の柱を見た銀楼はダークと連絡を取り、イーバへ戻った。
ダーク「どうやら見つからなかったみたいカナ……」
銀楼「それだけならまだいい……。どうやらアルテミスのババァが気付いちまったらしい」
ダーク「ククク……それで……君はどうしたいのカナ……?」
銀楼「……」
ダーク「君の所属していた月の女神とやらが島の者と接触してしまった……月光嗔が月の都に戻ったのであれば……君は追い求める者と戦えなくなるかも知れないカナ……」
銀楼「俺はアイツと戦うためだったら、なんだってしてやる。月の都に侵入してでもだ」
ダーク「ならば協力するカナ……。吾輩の兵器を連れて行くといいカナ……ククク……」
こうして銀楼は、ダークの手下である二百の兵器を連れて月の都へ転移した……。
―――……
ダーク「銀楼の手下として用意したE兵器は粒子化されない特殊仕様……受けたダメージを分析して、吾輩のデータとなる……君達が月の都と協力していたことでデータは十分集まったカナ……ククク……」
マテリアはミニナイフを取り出した。召喚術の準備だった。例えダメージを与えられなくとも、何もしないよりかはマシだと考えたからだった。
ダーク「無駄カナ……。君達の得意とする召喚術、発炎能力、風術、水術、光術、氷術……そして月の宝具である星弓サザンクロスと月影ルーンブレイドは解析済み……これらの攻撃では吾輩にダメージを負わせることはできない……ククク……」
突然、ダークは影に覆われた。
月花「つまり、俺の宝具は解析できていないということだ」
高くジャンプしている月花。その手には月の宝具、月詠七星剣。この宝具はE兵器を攻撃していなかった。
ダーク「し……しまった……!」
動揺を見せるダーク。月花は剣を振り、斬撃と飛ばそうとした……が。
月花「……っ!」
腹部に大きな衝撃を受けた。他の者からは見えていた。突如、月花に膝蹴りをしている男の姿を。月花は吹き飛んで宮殿の壁に衝突し、うつ伏せで地面に落ちた。
刹那「月花様!」
すぐに駆け寄って揺り起こそうとするが、不意打ちによる強烈な一撃で気絶していた。
風魔「今の蹴りは……」
膝蹴りをした男がダークの前に着地した。
『模倣タイプ・エビル』
逆立った金髪。前髪にメッシュで赤色の入った男が片足を上げたまま着地した。月花に攻撃をしたのはこの男だった。
金髪の男「最高にキメちまったぜ。流石幹部の技だ」
ダーク「ククク……」
勾玉「どういうことだ……今のはエビルの得意技……」
ダーク「ククク……今のは吾輩の開発した模倣システム……。その実験を兼ねて連れてきたカナ……」
刹那「アナタは……疾速……!」
疾速「久しぶりだな、刹那チャン。覚えててくれて嬉しいな」
刹那「……」
疾速「なんだい? 素っ気ないなぁ。久々の再会だってのに。一緒に『神速』の称号を目指して最高に勝負した仲じゃないか」
マテリア「神速……?」
ダーク「神をも超えるほどの疾さ……最も速く、最も強い者に与えられる称号カナ……。吾輩は一つの力に特化したE兵器を何体も生み出して自分の部隊に所属させていた……。一点特化こそ兵器の美カナ」
疾速「ダークの旦那。ここは俺に任せてくれ。模倣システム、色々使ってみたいんでね」
ダーク「構わないカナ……それでは、イーバ騎兵士である疾速に任せるカナ……ククク……。それでは吾輩は月の女神様を捕まえに行くカナ」
マテリア「アルテミス様を……!?」
ダーク「それが吾輩の目的の一つカナ……。神だなんて素晴らしい研究材料じゃないカナ? わざわざ月にまで来ておいて、金雀児 奈樹だけ狙うなんて燃費の悪いことしないカナァ? 是非とも女神を身体の内も外も隅々まで調べ尽くしたいと考えるのが当たり前……違うカナ?」
己の欲望を淡々と語るダーク。だが、止めることは出来ない。皆の攻撃は全て無力化されてしまうのだから……。
蒼輝「暗黒剣ルシフェル……!」
ダーク「……!」
宮殿へ向かおうとしたダークに振り下ろされた一閃。ダークはアームを利用して大きく後方へ移動し、着地した。
蒼輝「コイツは俺に任せてくれ」
月の宝具を持つ蒼輝が、ダークと対峙した。
ダーク「ククク……君に興味は無い……。もう一つの、本命である目的……吾輩の愛しい金雀児 奈樹はドコかな……? 君が奈樹に入れ込んでいることは知っているカナ」
蒼輝「奈樹を探してなんのつもりだ?」
ダーク「んんっ……? そんなことも解らないカナ? 金雀児 奈樹を捕まえて弄るに決まってるかな……改造のし甲斐がある逸材……ククク……」
蒼輝「……」
蒼輝は眉をひそめ、不機嫌な表情でダークを見ていた。
ダーク「咎力の検査だけじゃない……身体の隅々まで調べたい……どこにどんな痛みを与えれば苦しむのか、叫ぶのか、喘ぐのか、許しを請うのか……調べ尽くしたいカナァ……。あの透き通る蒼い瞳をくり抜きたい……あぁ……解剖して臓器まで覗きたいカナ……きっと内臓さえも艶やかで美しいはずカナ……ククク……」
蒼輝はダークに斬りかかった! しかし、アームによって妨害された! ギリギリと刃を押し付けたまま、ダークを睨みつける。
蒼輝「テメェなんかに……奈樹を渡してたまるかよっ……!」
ダーク「ククク……その言い方からすると……つまり、この地に金雀児 奈樹はここにいると自白したということカナ……」
蒼輝「関係ねぇ……! テメェはここでぶっ殺す!」