39-A -散りゆく蒼-
ノスタルジアの住民への闇討ちにより始まった月花と銀楼との因縁。月の都にて、銀楼との熾烈な戦いに決着をつけた月花であった。
そこに起こった突然の地響き。アルテミスが宝具の力で映像化した。映し出される月の大地。そこへ現れたのはイーバ幹部のダークだった。
月花「……!」
奈樹「……」
蒼輝「アイツは……!?」
刹那「ダーク……」
名前を呟いた皆は刹那を見た。ダークの映る画面から目を離せず、驚きの表情を見せていた。
刹那「イーバ幹部のダーク。刹那は……掘鎧とあの人の部隊に居たの」
月花「ダーク……」
刹那の言葉の後、月花は小さく呟いた。
レイ「……月にまでやってくる技術があるなんてね……イーバが何かを企んでいるのは確かだと思っていたけど……ここまでとはね」
風魔「……」
風魔は映像をジッと視ていた。冷たい眼差し。そう……まるで、ダークが来ることを知っているかのように落ち着いていた。
アルテミス「この者を知っているのですか?」
奈樹「イーバ……。生幽界の研究所で、E兵器という兵器を生み出している組織の幹部です」
マテリア「E兵器だけじゃなく……どうして幹部が月に……」
ルーン「イーバねぇ……どうやらその様子じゃ因縁があるみたいだな」
勾玉「ここは俺達に任せて貰いたい。奴が月へやってきたのなら、この都にとって不利益になる目的があるはず。必ず倒してみせる」
レイ「生幽界だけでなく、月までその驚異を広げようとしているのなら……その闇は消し去るのみ」
アルテミス「わかりました……。ここは貴方達に任せます」
風魔「それじゃ……イーバとの戦いへ赴きますか」
勾玉、マテリア、風魔、刹那、レイは廊下に出て、宮殿の外へと走っていった。
奈樹「蒼輝、私達も行きましょう!」
蒼輝「ダメだ! 奈樹はここに居るんだ!」
蒼輝は皆の後に続こうとする奈樹の行く手を遮った。
奈樹「蒼輝……どうして……」
蒼輝「また……奈樹にあんな姿になってほしくないんだ」
悪魔のゼパイルと戦った時、柊アリスと戦った時。奈樹が悪魔のような髪と瞳が紫色に変貌して暴走した姿のことだった。あの戦い以降、危険と思えるようなことは避けてきた奈樹。そうさせなかった蒼輝。
蒼輝「あれ以来、戦うことは避けてきた。だからずっと、あんなことにはなってないだろ?」
奈樹「……」
奈樹は見上げて、蒼輝の目を見ていた。それは訴えかけるような目だった。自分は戦いに行かなければならない使命を持っていると言っている。そんな視線だった。
蒼輝「ダメだ」
奈樹「イーバは……私の敵。イーバと戦うと誓ったの」
蒼輝「ダメだ」
奈樹「……」
頑なに奈樹を戦わせたくない。そう思う蒼輝だったが、奈樹のことを所有物のように扱って独占し、拘束している気がして、いい気分じゃなかった。
奈樹が『私は蒼輝の所有物じゃない』などと言ってくれば、何も言い返せない。それでも、戦わせることだけはさせたくなかった。
奈樹「……」
奈樹は一歩前に出て、蒼輝に近付いた。何故か芙蓉にビンタされる時を思い出し、反射的に身体が動きそうだったが……。
蒼輝「奈樹……」
奈樹は腰に手を回して抱きついてきた。蒼い髪の少女の頭が蒼輝の胸より下の位置にくる。
奈樹「我儘言いそうになったけど……我慢する」
ギュッと強く抱きしめる奈樹。蒼輝も優しく包み込むように抱き締め返した。
奈樹「絶対に……戻ってきてね」
一瞬でもビンタするのではと疑ってしまった自分を悔いた。奈樹は自分のことを、信じてくれた。自分も奈樹をもっと信じていかなければならないと思った。
蒼輝「あぁ……。待っててくれ」
見つめ合う二人。奈樹はゆっくりと蒼輝から離れて後退し、月花、ルーン、セレーネの傍にいるアルテミスの隣に立った。
アルテミス「宮殿の中の侵入はルーンとセレーネが。都の建物は私の力で守護します。貴方達は存分に戦って下さい。月の都を、頼みます」
蒼輝「あぁ。行ってくる」
蒼輝は廊下を走った。奈樹は、その後ろ姿を見守っていた。だが……奈樹は胸騒ぎがしていた。ダークを目にした時からずっと、拭い切れない不安を内に秘めていた……。