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蒼咎のシックザール  作者: ZERO-HAZY
第四章 銀の鎖と空の鏡
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38-B -終戦の音、開戦の闇-

 銀楼(ぎんろう)の三日月に刺された月花(げっか)。銀楼は勝利を確信し、ニヤリと笑った。


銀楼「俺の勝ちだ……。これで終わりだ……月光嗔(げっこうしん)!」


 月花は(うつむ)き、腹部(ふくぶ)()さった(やいば)を気に留めないかのうように急激に手を動かし、白蛇(はくじゃ)銀鎖(ぎんさ)(にぎ)った。そして顔を上げ、その()を見た銀楼は不思議(ふしぎ)な力を感じた。


銀楼「なに……!?」


蒼輝「一体……何が……」 


 月花は鎖を手放した後、刃を(つか)んで引き抜いた。銀楼は引き抜くのを阻止しようとしたが、どれだけ力を入れても、ビクともしなかった。銀楼は後方に跳んで距離を取る。

 月花からとてつもない咎力(きゅうりょく)を感じた。


月花「氷遊(ひょうゆう)折花紙(おりがみ)二十六式(にじゅうろく)……新式(しんしき) 氷雨鶴(ひょううかく)


 月花の頭上に小さな氷の(つる)が大量に発生する。上から降り注ぎ、月花の傷が(いや)されてゆく。その鶴の数は千匹。通常の氷鶴と比べると、急激(きゅうげき)な回復速度だった。


銀楼「チッ……もう一度、蜂の巣にしてやるよ! 邪刀(じゃとう)三日月(みかづき)! 聖刀(せいとう)三日月(みかづき)!」


 二本の三日月の(やいば)()び、立ったまま動かない月花を貫こうとする!


奈樹「月花さん!」


 ()ける動作を見せない月花を呼びかける奈樹。


月花「氷遊(ひょうゆう)折花紙(おりがみ)八十七(はちじゅうなな)……新式(しんしき) 桔梗(ききょう)


銀楼「……!?」


 月花の前方に発生した巨大な氷の花。その花弁で銀楼の攻撃を遮断(しゃだん)した。月花は続けざまに、次の術を展開した。


月花「氷遊(ひょうゆう)折花紙(おりがみ)八十七(はちじゅうなな)……新式(しんしき) (さくら)


 周辺に氷の()()える。天井まで氷の枝が()び、(またた)()開花(かいか)する。そしてその花びらが、ひらりひらりと散ってゆく……。


銀楼「ッ……白蛇の銀鎖!」


 何が起こるかわからない氷の花びらを近付けさせないようにする。だが……鎖は動くことはなかった。


銀楼「何……!? なぜ効果が出ない……!?」


 本来ならば、まるで生きた蛇ように動く銀色の鎖。それは今、力が失われたように垂れ下がっていた。


月花「氷遊(ひょうゆう)折花紙(おりがみ)八十七(はちじゅうなな)……新式(しんしき) 蓮華(れんげ)


 足元が氷で出来た蓮華の花で()()められる。それが銀楼の(あし)(とら)え、移動を(ふう)じる。手に持つ三日月で切ろうとするが、上から降り注ぐ桜の花が銀楼の腕の自由を奪う。


銀楼「なんだと……!?」


月花「氷遊(ひょうゆう)折花紙(おりがみ)八十七式(はちじゅうななしき)……新式(しんしき) 芙蓉(ふよう)


 月花の前に現れた氷の花。グルグルと回転を始め、(みずか)()()した桔梗、桜、蓮華の氷の花のパワーを吸収してゆく……!


銀楼「くっ……!」


 銀楼の足元には、銀楼の動きを封じるための僅かな桜と蓮華の花が残っていた。白蛇(はくじゃ)銀鎖(ぎんさ)の力を(うしな)った今、その氷を破壊する手段は無かった。


 氷の芙蓉の花から発射される氷弾(ひょうだん)! 高速の連射速度で発射し続ける弾は、銀楼に大きなダメージを与えてゆく!


銀楼「ぐっ……うおおおおおお!」


 発射され続ける弾によって銀楼を拘束する腕と足の氷にヒビが入る。気合で腕と足の拘束を外し、後方に一回転して着地した。


銀楼「……!」


 目の前に月花が居た。氷の道が発生させた刹那の(ごと)き速さで移動し、剣を持って足元で構えていた。


月花「終わりだ」


 月詠七星剣を切り上げ、銀楼を切りつけた。銀楼は身体から鮮血を出しながら10メートルほど吹き飛び、背から落ちて仰向けに倒れた。


蒼輝「……!」


奈樹「月花さん……!」


アルテミス「……終わりましたね……」




 チリン……チリン……




刹那(せつな)「これで全部だね!」


 都の門の前。大量のイーバ装甲兵(ポーンズ)を倒した風魔(ふうま)と刹那。


風魔「あぁ、そうだね。宮殿(きゅうでん)の銀楼はどうなったかな」


刹那「見に行こう!」


風魔「ちょっと疲れたし、どうせ(せつ)ナッちゃんには追いつけないからなぁ。先に行ってていいよ」


刹那「うん! それじゃあ、刹那は先に行ってるね!」


 刹那は大きな声で返事をした後、消えるように風魔の前から去った。


風魔「……」


 風魔は倒れているE兵器(クリミナル)の一体を見た。そして……近付き、手を向けた。




 チリン……チリン……




 上半身と下半身が切断(せつだん)されたイーバ装甲兵(ポーンズ)達。月の宝具で最高の殺傷能力(さっしょうのうりょく)(ほこる)月影(つきかげ)ルーン・ブレイドによって()(ぷた)つにされていた。

 

ルーン「これで全部だな……」


 その数は50体ほど。たった一人で全ての敵をなぎ倒した。ルーン自身は(つき)四使徒(しと)では月光嗔(げっこうしん)銀楼(ぎんろう)に実力が(おと)っていると考えているが、他の者から見れば実力は同程度にあると認識されている。

 二人と違い、ルーンに足りないものは更に強くなろうと思う貪欲(どんよく)さが()けていることだった。

 

ルーン「さて……地上の人らは大丈夫なんかね」


 門から敵が()れてこないため、風魔達は大丈夫だと判断(はんだん)した。宮殿前の勾玉達のところへ合流しに行くことにした。




 チリン……チリン……




 倒れたイーバ装甲兵(ポーンズ)達。勾玉、マテリア、レイ達は無傷だった。


レイ「これくらいなら召喚術だけで十分だったね」


マテリア「アースカンス、戻ってです」


 マテリアの指示で、幻召獣(げんしょうじゅう)地代魚(ちだいぎょ)アースカンスは姿を消した。


勾玉「銀楼の後を追おう」


レイ「そうだね……もう決着しているかもしれない」




 チリン……チリン……



 ()った傷で動けず、座っている銀楼。月花は前に立っていた。思い浮かべる者は、闇討(やみう)ちの被害に合った者達。その恐怖に(おび)えた者達。


銀楼「……()れ……」


 銀楼は倒れたまま自身の死を覚悟した眼で、月花を(にら)みつけていた。


銀楼「……」


 月花は迷うことなく剣を振り上げた。


奈樹「月花さん……」


蒼輝「月花……」


アルテミス「……」


 三人は見守っていた。どういう決断を下そうと、これは月花と銀楼の二人から始まったこと。だから、月花に判断を(ゆだ)ねるべきだと思っていた。

 月花は最初から銀楼を斬る覚悟で戦いを始めた。本人が粛清(しゅくせい)されることを望んでいるのであれば、迷うことはなかった。月光嗔(げっこうしん)として、(つき)四使徒(しと)のリーダーであったことの責任と、銀楼のプライドを想うならここで斬るべきと判断した。



 月花は剣を振り下ろした!




 チリン……! チリン……!




 鈴の音が聞こえた。月花は剣を止めた。


 銀楼を(かば)うように両手を広げて(ひざ)を立てて座り、目に涙を浮かべる銀色の髪の女性が居た。その頭のカチューシャには二つの(くれない)の鈴が付いていた。


銀色の髪の女性「銀ちゃんを殺さないで!」

挿絵(By みてみん)


 その声に、その後ろ姿を見た銀楼の表情は(おどろ)いていた。


銀楼「どけっ……! ラミア……!」


 銀楼は知っていたようで、その銀色の髪の女性をラミアと呼んだ。


ラミア「銀ちゃんはいい人なの……! だからお願い……!」


 月花は困惑(こんわく)した。この女性は何者なのか。何故(なぜ)、身を(てい)してまで銀楼を(かば)うのか。


奈樹「いつの間に……一体何処から……」


アルテミス「あの者は……」


 アルテミスは(おどろ)いていた。その表情を見た蒼輝と奈樹は、アルテミスの知っている者なのだと判断した。そして再び、月花を見た。


蒼輝「月花……」


 ラミアと呼ばれた女性は、(ふる)えていた。泣いているからだけではない。剣を突きつけられている恐怖。それでもこの場を退()こうとしない理由は……。


銀楼「月光嗔……! この女は関係ねぇ……! 俺を殺せっ……!」


ラミア「ダメッ! お願い! もうこれ以上、銀ちゃんを傷つけないで!」


 ラミアは振り返り、銀楼を抱きしめて必死に()()で庇っている。その涙、その姿を見た月花は……。



月花「わかった」


 返事をして、月詠七星剣を手元から消した。


月花「ラミアさん。貴女に(めん)じて、ここは去りましょう」


 ラミアは月花を見た。月花は銀楼を見ていた。


月花「銀楼……お前のことをこんなにも想ってくれる人がいるんじゃないか……。こんな無茶をして悲しませるものじゃない」


 手の平にニ羽の氷鶴を作り出し、治療させるために銀楼の傷口へ飛ばした。


月花「彼女を……大切にしろよ?」


 月花は銀楼に告げた。二人に背を向け、アルテミスの所へ歩いて行った。



ラミア「あ……ありがとう! 銀ちゃんを助けてくれてありがとうっ!」


 ラミアは月花に叫んだ。抱きしめていた銀楼を横にして()かせた。



アルテミス「よくやりました……勝つと信じていましたよ」


蒼輝「月花。お前にそんな力があったなんて(おどろ)いたぜ。あの月の宝具(ほうぐ)も凄かったぜ」


奈樹「咎力(きゅうりょく)を使用した新しい技も……とても素晴らしかったです」


月花「……? 新しい技……?」


奈樹「ほら、新式って言ってた……」


蒼輝「白蛇の銀鎖も、どうやって無力化したんだ? なんかタネがあるんだろ?」


 月花は何を言っているのか解らないといった表情をしていた。


蒼輝「無意識だったのか?」


月花「正直に言うと……腹を刺された所までは覚えているんですけど……気が付いたら銀楼の(ふところ)に潜り込んでいて……。すぐさま反応して攻撃したら勝っていたって感じで……」


 不思議そうに話をする蒼輝、奈樹、月花。ただ、アルテミスだけがその答えを知っていた……。


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