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蒼咎のシックザール  作者: ZERO-HAZY
第四章 銀の鎖と空の鏡
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37-C -月の都を防衛せよ-

銀楼ぎんろう「……」


 銀楼は人一人ひとひとり居ない、しずまり返った廊下ろうかを低い姿勢しせいで走りけた! 階段をがり、かえしてふたたび走り、アルテミスが待つ玉座ぎょくざへと到着とうちゃくした。


アルテミス「銀楼……」


 アーク・オブ・アルテミスに座った女神。玉座のある段差の上から、銀楼を見下ろしていた。


銀楼「ババァ……月光嗔げっこうしん何処どこだ?」


アルテミス「その呼び方は止めなさいと言ったでしょう?」


銀楼「何千年と生きてるんだろ? ババァじゃねぇか」


アルテミス「……」


 くやしかったが、威厳いげんたもつために表情を変えなかった。


銀楼「ここに月光嗔が居るって反応が出てんだ。かくすなよ」


アルテミス「……どうして……そこまで月光嗔を……」


銀楼「語る気はねぇよ。今のアンタと同じようにな」


 銀楼はさやから邪刀じゃとう三日月みかづきを、ゆっくりといた。やいばの音がさやかすれる音がしずかに聞こえる。そして構えた。


アルテミス「私にやいばを向けるつもりですか……?」


銀楼「出てくるつもりがないってんなら……引きずり出してやるよ。伸びろ! 邪刀(じゃとう)三日月(みかづき)!」


 躊躇ちゅうちょすることなく、その刃をアルテミスへ突き出した! 湾曲わんきょくしながらアルテミスの胸へと向かっていった!



氷遊折花紙(ひょうゆうおりがみ)四式(よんしき) 手裏剣(しゅりけん)


銀楼「!」


 銀楼へ向かう無数の氷の手裏剣! すぐさま危険を察知して回避する! 銀楼自身が動いて軌道きどうが変わったことで、アルテミスには当たらず部屋の壁に刺さった!


銀楼「…やっぱり居るんじゃねぇか…。この俺から一体(いったい)何処どこまで逃げてたんだ?」


月花(げっか)「逃げちゃいないさ……。少し準備に手間取っただけだ」


 ついに対峙たいじする月花と銀楼。二人は20メートルほどはなれた位置で、お互いの眼を見ていた。


銀楼「月の四使徒の使命から逃げ出したテメェをこの手でぶっ殺す。そして俺が上ということを知らしめてやるぜ。月光嗔っ!」


月花「今の俺は月光嗔じゃない。俺の名前は月花。悠久ゆうきゅうの島 ノスタルジアの島民……月花だ」


 月花の瞳には強さ。銀楼と戦うことに躊躇ちゅうちょしていない眼差まなざし。その胸には闇討やみうちされたマテリア、恋夢こゆめ氷牙ひょうが。悲しみの表情を浮かべていた氷雨ひさめを思い浮かべていた。

 

月花「大事な家族を、仲間を傷付けたお前を倒す。そして俺は帰る……待ってくれる人達がいる島へ」


アルテミス「……月花……。頼みましたよ……」


 アルテミスは小さな声で言った。浮遊する月の宝具に乗って銀楼の方を見たまま移動し、自動で開く扉をくぐって自室へと入っていった。


銀楼「ババァを逃がしたか。テメェらしいぜ」


月花「これが望みなんだろ? お前だって月の四使徒(しと)……アルテミス様を傷付けたくないはずだ」


銀楼「俺はもう脱退してんだよ。俺の望みは月光嗔……お前との決着だ」


月花「決着か……。なら……やっぱり望み通りの展開のようだな」


銀楼「違いねぇ」


 ニヤリと笑い、三日月をかまえた。月花は武器を取り出した。それを見た銀楼の表情が一変する。


銀楼「ソイツは……!」


月花「解放せよ」


 月花の持っていたのは大きなフレームのある(まる)い鏡。


月花「円月輪鏡(えんげつりんきょう)


銀楼「リュートの……宝具……」


 銀楼の表情が先程までとは違うけわしいものとなった。こうして月花と銀楼……二人の戦いは始まる……。



 アルテミスは移動してきた先は、自室から廊下に抜けて蒼輝と奈樹の居る修行部屋。蒼輝と奈樹はアルテミスの様子を見て、少し違和感いわかんを覚えた。


奈樹「どうか……したんですか?」


蒼輝「何かあったのか?」


 アルテミスはここへやってくる前に、都の中を映像化して様子を見ていた。その様子からE兵器(クリミナル)達を順調に倒しているのを見た。(のこ)る問題は月花と銀楼。


アルテミス「銀楼が、宮殿内に進入しました」


蒼輝「なんだって!?」


アルテミス「地上から援護(えんご)して下さった者達のお(かげ)で、都の中は問題ないと思います。残るは月花……」


蒼輝「月花は大丈夫なのか!?」


 アルテミスは考えるように(うつむ)いたが、すぐに顔を上げた。そして、真っ直ぐな視線で。


アルテミス「わかりません……。ただ、貴方達に戦いを見届けてもらいたいのです」


奈樹「私達に……?」


アルテミス「はい。月の宝具を使う二人の戦いを見れば……きっと貴方達が宝具を使いこなすコツを掴めると思ったのです。どうでしょうか……?」


蒼輝「聞かれるまでもねぇ。 月花は俺達の仲間だ! すぐに行くぜ、奈樹!」


奈樹「えぇ。行きましょ、蒼輝!」


 アルテミスが先導(せんどう)し、月花と銀楼の戦う部屋へと(いそ)いで移動する。到着すると、二人は激しくぶつかり合っていた。

 銀楼の伸びてくる三日月を、今は亡き月の四使徒 リュートの使用していた宝具『円月輪鏡(えんげつりんきょう)』で(はじ)く。


月花「氷遊(ひょうゆう)折花紙(おりがみ)九十(きゅうじゅう) 久寿玉(くすだま)


 銀楼の上に久寿玉(くすだま)が発生する。 中身が開くと氷の玉が無数に降ってくる! しかし銀楼は三日月を縮小(しゅくしょう)させながら一回転しながら回避する。


銀楼「いっつも遊んでた折紙(おりがみ)を攻撃にしやがったか」


月花「なるほど……。月光嗔の俺はこの技を編み出していなかったってことか……」


銀楼「……」


 銀楼は今の月花の言葉の意味を思考する。だが、その考えが(まと)まる前に月花は次の行動に移っていた。


月花「解放せよ」


 腕に装着している円月輪鏡の鏡の中に手を向ける。それは別空間に繋がっているかのように、手が奥へと入ってゆく。そして、ゆっくりと引き抜く。その手には月輪のような形をした(つるぎ)


月花「円月輪劔(えんげつりんけん)

挿絵(By みてみん)


銀楼「ほー……。その姿になるまで完成させていたか」


 ニヤリと笑った。そのみは、余裕を(ふく)んでいた。


蒼輝「スゲェ……。あれが月の力……」


奈樹「鏡による盾と、その中から取り出された(つるぎ)……」


 この数日で月の宝具を解放して我が物にしていることに(おどろ)いた。


銀楼「円月輪劔……だが、そんなもんは付け焼き刃だ。こんな数日で使いこなせるはずがねぇ。それは宝具を持つ者ならわかるはずだ」


月花「リュート……俺に力を貸してくれ」


 そして二人はぶつかり合う。一進一退(いっしんいったい)。銀楼の攻撃を鏡で弾き、(つるぎ)で反撃する。銀楼は器用に身体を(ひね)らせて回避し、三日月の伸縮を利用して月花を追い詰めてゆく。


奈樹「銀楼……。あの人……強い……!」


蒼輝「氷牙を倒したんだ……。並の実力じゃないとは思ってたけど……」


 蒼輝と奈樹の二人は真剣に戦いを見ていた。徐々に追い詰められる月花。それは月花が弱いわけではない。銀楼の宝具の熟練(じゅくれん)が完全に上回っていただけだった。


奈樹「宝具を完全に使いこなしている。まるで自身の身体の一部のように……」


アルテミス「聖刀(せいとう)三日月(みかづき)白蛇(はくじゃ)銀鎖(ぎんさ)も、銀楼は長年使い続けてきた宝具。それはもう彼の手足同然となっています……」


 銀楼の跳び膝蹴ひざげりが月花のあごにヒットする! 回転して即頭部そくとうぶを蹴り飛ばされる月花は吹き飛び、ゴロゴロと転がった後、跳ね起きて体勢たいせいととのえた。


月花「……」


銀楼「そんなチャチな攻撃じゃ俺は仕留しとめれねぇぞ?」


 銀楼の言う通りだった。ここ数日で、月の都で多くの民と話をした。

 月の四使徒に(あこが)れる子供や、月を警護する様々な者達。中には桔梗(ききょう)桜羅(さくら)彷彿(ほうふつ)とさせるような姉妹がおり、月花にとっては都だけでなく護るべき対象として見るようになっていた。

 そして……月の都の者達と触れ合うことで、月の四使徒としての使命感を取り戻していた。


月花「俺は……多くの人の想いを背負ってここに立っているんだ……」


 リュートの使用していた宝具を、そのリュートの意志いしと、妹のリュラの想いを共にゆずり受けた。しかし、ここ数日で使用可能になる状態にしただけで使いこなしているとは言えない状態だった。


 月花は立ち上がった。そして……円月輪劔を仕舞(しま)い、手を前に出した。そこへ光が集まる……。その光は、月光。


銀楼「この……光は……!」


月花「解放せよ」


 光が集まり、それは長く伸びて装飾(そうしょく)された剣となる。


月花「月詠七星剣(つくよみしちせいけん)


 月花は構え、その剣を10メートルほど離れた銀楼に向かって振った!


銀楼「……!」


 回避する銀楼。月花が振り抜いた後に発生した斬撃。その形は弦月(げんげつ)。斬撃は壁に当たる前に消滅する。月花は二度、三度、四度、と剣を振る! その度に斬撃が銀楼に向かって飛んでゆく!


銀楼「チッ……!」

 

 ギリギリで回避し切った銀楼は着地する。

 

月花「銀楼。お前に罪をつぐなわせる。月と花の(みちび)きのままに」




  第三十七話 -(つき)(みやこ)防衛(ぼうえい)せよ- End

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