4-B -降り立つ刺客-
E生物の子供達と遊ぶ奈樹。島に来た当初は誰にでも怯えた様子だったが、その状態は無くなった。その姿に安心する蒼輝。
子供達が帰り、蒼輝は飲み物を取りに小屋へ入る。すると、一人になった奈樹を呼びかける声がした。奈樹は無意識のように声のする方向へ歩いて行く…。
「奈樹」
ホームの小屋付近では、もうこの声はしない。蒼輝が小屋から出てくる。
蒼輝「おまたせ…って…あれ? 奈樹…?」
周りを見渡すが姿が見えない。座っていた場所を入念に見てみる。
蒼輝「土と草を見る限り、争ったような後はなさそうだ…。物音や奈樹の声もしなかった…。トイレでも行ったのか?」
トイレをノックするが、返事はない。扉を空けてみるが誰もいない。
イーバの追っ手に声を上げる間もなく誘拐された。そんな不吉なことが頭を過ぎる。
蒼輝「奈樹…。どこ行ったんだよ…!」
蒼輝は周囲を探しに出る。
「奈樹」
奈樹は丘の上にまで来ていた。
奈樹「声は…ここから…」
丘の上に生えている一本の木を見る。
「奈樹…」
声の主は木の陰から姿を現した。
「…奈樹…」
茶色の長い髪に大きなヘッドバンドとリボンをして、傘を持った少女。
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奈樹「…!」
奈樹は驚きを隠せなかった。
奈樹「マテリア!」
駆け寄って両手を握る。
マテリア「久しぶりです…奈樹…」
奈樹の手を握り返す。
奈樹「イーバから脱出できたの?良かった…私…心配してた…」
マテリア「警備が薄くて逃げることができたです…。心配してくれてありがとうです…」
奈樹「イーバでいた…たった一人の友達だもの…。心配しないはずないじゃない」
手を握ったまま目を見つめ、奈樹が微笑む。
マテリアはイーバで出会った友達。お互いに時間があればいつも会っていた。イーバの中では楽しいことなんて殆ど無かったが、二人でいることは楽しかった。辛いことも相談し合った。
奈樹はある時から一年以上マテリアと出会えなくなった。それから脱走をしてこの島に来たので、お互いにしばらく、どうなっていたかは知らなかった。
奈樹「そういえば…どうしてこの場所へ呼んだの? 声が近くからして森にいたと思ったんだけど…。」
マテリア「それは…奈樹がどこにいるかわからないから…『あの力』を使ったです…」
奈樹「えっ…そう…そうだったのね」
奈樹は少し違和感を覚えた。声の主がマテリアだとわかって、ここまで来たが…それにしてはマテリアの『あの力』を全く感じなかったからだ。
マテリア「奈樹…」
考え事をしてしまっていたところに声を掛けられる。
奈樹「えっ…? どうしたの?」
マテリア「奈樹は今…一人です?」
奈樹は質問の意図がよくわからなかったが、一応答えた。
奈樹「この島に私を助けてくれた人達がいて…その人達にお世話になってるの。今は一人でここまで来てしまったけど…」
マテリア「そうですか…」
奈樹「皆に紹介するから。マテリアのことも、きっと歓迎してくれる。ねっ? 行きましょう」
マテリア「あっ…けど…」
奈樹「大丈夫よ、本当に良い人達だから…。私…この島のこと大好きになったから。」
マテリア「わ…わかったです…」
マテリアは申し訳なさそうにしながらも微笑んだ。引っ込み思案な性格のマテリア。その様子に先程覚えた違和感は忘れることにした。
奈樹「それじゃ、行きましょう」
奈樹が丘を下ろうと振り返り、歩き出す。マテリアは奈樹の後を歩く。
奈樹「……。(まさかマテリアがこの島に…脱出できて本当に良かった…)」
そう心の中で思う奈樹。
その奈樹の背後で、マテリアは懇親の力を込めて握った傘を両手で持ち、頭上高く振り上げていた。