36-C -明けの明星と創世の樹-
月の都。アルテミスからディアナの前世を聞いた蒼輝と奈樹。アルテミス ルーンは風魔、刹那、レイと一緒に戻ってきた。月花はセレーネを車椅子に乗せて後ろから押し、部屋へ戻ってきた。
アルテミスはディアナとブラックの正体について……そしてアルテミスは蒼輝と奈樹に月の宝具を与えることを伝えた。
風魔「蒼輝とナッちゃんにしか与えてくれないの?」
アルテミス「はい。私はこの二人になら……きっと使いこなせると判断しました」
所持者を選ぶ武器。アルテミスは適性があると思い、蒼輝と奈樹を選んだ。二人は月の都で一週間も滞在し、月の宝具を使いこなす特訓をする。そして、月花もかつて自身の使用していた宝具を再び我が物にするために特訓をする。
月花「銀楼の狙いが俺なんだったら……ここで迎え撃ちます。それが一番都合がいいでしょう」
アルテミス「月と地上を繋いだ柱……きっとあの光りによって、私が島へ降り立ったことを銀楼も気付いているでしょう。そうなれば月の都へ戻ってくる可能性は高い」
ルーン「銀楼が一人で来るとは限らない。月光嗔と戦うつもりなら、徒党を組んできてもおかしくはない」
レイ「僕らを連れて都へ来たのは、つまりそういうことだよね?」
ルーン「あぁ。今、月の都に人手が足りていない。力を貸して欲しい」
アルテミス「恐らく銀楼は単独でやってくることはないと考えていますが……長年蓄えていた分、まだ月と地上を行き来するエネルギーは残っています。必要となる時までは地上に戻っていて構いません」
月の宝具を使いこなす為、蒼輝と奈樹と月花は月の都に残る。刹那も月へ残ると意思を表明した。風魔とレイは一度地上に戻ることにした。
風魔「それじゃ、宝具使えるように頑張ってね」
蒼輝「おう! やってやるぜ」
レイ「見違える実力になっているといいね」
刹那「奈樹様! 月花様! 刹那も応援してるよお!」
奈樹「ありがとう。使いこなせるように頑張るから」
こうして風魔とレイは宮殿を出ていった。その姿を見送り、アルテミスは移動を始めようとした。
アルテミス「それでは、私は月の宝具を授けたら、その修行を見ていることにしましょうか」
ルーン「そういえば……アルテミちゃん、ずっと忘れてない?」
セレーネ「忘れてるんだよもん」
アルテミス「えっ?」
ルーンとセレーネに言われるも、何も気付いていない様子のアルテミス。
ルーン「頭にティアラ付けてないよな?」
アルテミス「あれ? あれれっ?」
自身の頭を触り、確認して焦り始める。
セレーネ「急いで出ていったから付け忘れてたんだよもん」
蒼輝「やっぱりドジなのか……」
アルテミス「ド……ドジじゃありません!」
ルーン「外出時に付ければいいやって、ラフな感じでいるから忘れるんだよなー」
アルテミス「うぅ……。だ、誰にだってミスはあります」
リュラ「あの……ミスではないんですけど……いつも部屋を散らかしたまま出かけるのは困ります……」
奈樹「部屋の掃除してないんですか?」
アルテミス「あ……足が弱いもので……歩くことが難しく、整理整頓が思うようにできないのです」
リュラ「セレーネ様は綺麗にしています」
セレーネ「当然だよもん」
両脚が無く歩けないセレーネ。ベッドの上から動けない分、部屋を散らかさないように意識していた。
アルテミス「わ……私の威厳が……」
ションボリして呟く。
セレーネ「それと、部屋に目を通さないといけない資料が山ほど貯まってるんだよもん」
アルテミス「あ……ありました? 見た記憶は……」
ルーン「誤魔化そうったってダメダメ」
アルテミス「か、代わりに目を通しておいてくれませんか?」
うるうるした小動物のような瞳をする。甘えた表情でセレーネを見る。
セレーネ「大事な書類は、キチンとアルテミス様ご本人の確認が必要だよもん」
アルテミス「ふえーん」
セレーネ「甘えたってダメダメ」
アルテミス「うぅ……厳しい子達……。わかりました。月の宝具を授けたら一度部屋に戻ります……」
今に始まったことではないが、蒼輝と奈樹はアルテミスからあまり威厳が感じられなくなっていた。
蒼輝「ほんと神様っぽくないよな……」
奈樹「親しみやすいのは確かかな……」
アルテミスとルーンに連れられてきた蒼輝と奈樹は、一緒に宮殿内にある訓練所の個室へやってきた。そこは広々とした真っ白な部屋。
ルーンは着ていた鎧を外し、インナーになった。軽く跳んで準備運動をする。
ルーン「さぁ、スパークリングしてみよっか。いつでもかかってきていいよ」
素手で構えすらみせずに立っている。
蒼輝「おいおい、そんな状態で平気なのかよ」
ルーン「俺の宝具は人間相手に使っちゃいけないんだ。素手で特訓に付き合うさ。ある程度使いこなせるようになるまでね」
蒼輝は光の玉を持つアルテミスから、その輝きの中の宝具を受け取った。
アルテミス「暗黒剣ルシフェル」
光が消え、蒼輝の手に握られた漆黒の剣。その禍々しいオーラは、闇の力を纏っていた……。蒼輝は手に取った。
アルテミス「月の者では誰も使えなかった宝具です」
蒼輝「くっ……!」
力一杯握っている。だが、まるで剣が反発するかのように柄から指が離れてしまいそうになる。
蒼輝「ぐ……くああああぁぁぁぁ!」
剣が落ち金属音が鳴る。手放されたことを理解しているかのように……まるで意思を持っているかのように黒いオーラが消える。蒼輝は自分の手の痛みを堪えている。
奈樹「蒼輝っ!」
心配して駆け寄る奈樹。
アルテミス「心配している暇はありませんよ? 貴方にも……この宝具を授けます」
アルテミスが手を差し出すと、ナジュの前に現れる宝具。それは光の玉に包まれた柄。奈樹はそれを手に取った。
奈樹「これは……」
アルテミス「創聖樹・ユグドラシル。この宝具を使いこなせれば、貴方の強い力となるでしょう」
奈樹「これは一体どういった武器なんですか?」
アルテミス「『ほんの僅か』な量の咎力を注いでみてください。扱いに注意するように……」
奈樹は握っている柄に少しだけ咎力を与えた。加減のわからなかった奈樹はアルテミスの言った『ほんの僅か』ではなく、『少し』の咎力を注いでいた。すると……。
奈樹「……!」
伸びた光が、まるで樹の様に枝分かれしてゆく。凄まじい咎力を感じた……が。
奈樹「!」
伸びた枝がコントロールを失ったように動き、奈樹の肩、腕、太もも、身体を突き刺した!
奈樹「くっ……!」
蒼輝「奈樹!」
奈樹「大丈夫……傷……浅いから……」
創聖樹・ユグドラシルを枝が徐々に短くなり、鞘へと収まる。ほんの僅かな咎力で武器となることと、与えられた咎力を失うと力を発揮できないことを理解した。
奈樹「これほどの武器を……一体どうやって作って……」
アルテミス「全ての月の宝具を作ったのはダイダリオス……今の貴方達の仲間であるブラックです」
蒼輝「なっ……」
蒼輝と奈樹は絶句した。
アルテミス「月にやってきて間もなく彼もやってきた彼は、数々の星を駆けて来たと言っていました。その過程で様々な武器を作り出して来たと……月に滞在することになった時に、その武器を月の宝具として都へ献上しました」
蒼輝「ブラックって……すごいやつだったんだな。こんな強力な力を持つ宝具を作るなんて」
アルテミス「私とダイアナ……そして月の使徒の持つ宝具だけではありません。彼の技術は我々の常識を超えていました。その知識は月にとって大きな発展でした」
聞けば聞くほど、ブラックことダイダリオスの凄まじさが伝わってきていた。
蒼輝「星を移動しながら宝具を作って……黒豹の姿になって生まれ変わりのディアナと一緒に居る……。何者なんだよ……ブラックは……」
奈樹「謎だけど……ダイダリオスに関する全てを解明するには、まだ情報が不足している……。とりあえず今は、前世のディアナさんとブラックは悪い人じゃなかった。今はそれだけでいいじゃない」
蒼輝「そうだな……。ディアナに月の話をしない以上、ブラックにも内緒にしておいたほうが良さそうだしな。……しっかし、今度から見る目が変わっちまいそうだな」
蒼輝はハハッと笑いながら言った。奈樹はアルテミスに、ふと思う疑問を聞いてみた。
奈樹「あの……今、宝具を触ってみて思ったんですけど……。どうして……宝具に拒絶しているような反応があるんですか……?」
アルテミス「どの宝具も強力な力を持っています。だからこそ、もしも奪われた場合のことを想定して扱いを難しくしているのです。すぐさま利用されることはないように」
奈樹「なるほど……生半可な者では持っていても宝の持ち腐れになるということですね」
蒼輝「とにかく……今日からこれを使いこなす特訓をするだけだ」
蒼輝はルーンを相手に剣を使って特訓を開始した。奈樹も咎力のコントロールをして宝具を我が物にしようとしていた。
アルテミスは部屋から出る。月花の待機している部屋へ向かった。月花は正座し、目を閉じて精神統一をしていた。アルテミスが中へ入ると、目を開けた。
――月の海。広大な銀の荒野に座る男が居た。
銀楼「情報通り……今は月の都だな。……行くか」
磨いていた邪刀・三日月を鞘へ仕舞い、立ち上がり歩き出した……。
そして……蒼輝達が月の都へ着て五日後……。月花は一人で修行を重ねていた。刹那はこの五日間、修行をする蒼輝、奈樹、月花を見守っていた。蒼輝と奈樹は同じ部屋に居た。
奈樹「もう五日も経っちゃったんだ……」
蒼輝「まだ月の宝具は使いこなせてない……。後二日以内に何とかしないと……」
アルテミスから課された期限は一週間。それまでに使いこなせなければ、適性は無いと判断される。
奈樹「もう少し……もう少しで何とかなりそうなんだけど……」
奈樹は、もう少しで使いこなせるという予感があった。一方の蒼輝は、そんな実感とは程遠い状態であった。
訓練所の外……都の外部をレーダーで観測していた者が異常を感知した。アルテミスの側近であるリュラへ連絡が入り、リュラはアルテミスの部屋へと走っていった。
リュラ「アルテミス様! 月の宝具の所持者が都に向かって接近しています……! 生体反応は……恐らく銀楼と、その他多数です!」
アルテミス「……来ましたか。リュラ、貴方は地上に居る者達へ連絡を。防衛戦の援護要請を頼みます」
リュラ「は、はい……!」
アルテミスはすぐさま都の民へ避難するように通達した。これにより街中で戦闘行われても民達に危害は及ばない。そしてアーク・オブ・アルテミスで移動し、月花の居る部屋へ向かった。
報告を受けた月花は玉座のある部屋へ待機した。銀楼の目的は自身。しかし、アルテミスの身が危険に晒される可能性がある以上、この場を離れる訳にはいかなかった。
リュラは地上から戻ってきた。通達を済ませて地上から戻ってきた。アルテミスと居るのは月花と刹那、ルーン、セレーネ、リュラ。
月の都を守護するために参加する者は、勾玉、マテリア、風魔、レイ。皆は月花の故郷である場所を護るため、この地で修行に専念している蒼輝と奈樹のためにやってきたのだ。
月花「皆……」
勾玉「フッ……何を驚いている。当然だろう?」
刹那「皆で月を護るよお!」
月花「マテリアちゃん、怪我は大丈夫なのかい?」
マテリア「はいです。私も全力で都を護るです」
風魔「蒼輝と奈樹は?」
集合したものの、二人の姿は見えなかった。
アルテミス「お二人は月の宝具を使いこなすために修行に励んでいます。ここは出来るだけ時間を与えたい……そう判断しました」
風魔「苦労してるみたいだね。けど、もし物に出来れば大きな戦力になる」
マテリア「はいです。ここは私達だけで何とかするです」
アルテミス「こちらも勢力を全て注ぎ込みます。都の周囲は我が月の兵で見張り、守護結界を発生させます。そうなれば正面の門から突破するしかありません」
レイ「けど、銀楼も並々ならない覚悟で来るはず。なんたって無関係なノスタルジアの住民を襲ってまで月花を誘き出そうとしたんだから」
月花「……」
レイの言っていることは当たっている。その意味をアルテミスが伝える。
アルテミス「はい。月花との決着のためなら間違いなく、銀楼はどんな手段を使ってでも突破してくるはずです。レーダーの反応から判別できたことですが、多くの手下を引き連れているようです」
勾玉「手下……そんな者を連れているのか?」
リュラ「反応の数からすると、およその数で二百です」
ルーン「銀のヤツ……そんな友達いたのか」
セレーネ「ドコかで知り合ったのかな?」
呑気な発言に聞こえたが、それは銀楼のことを知っているからということと、二人の実力の高さ故の余裕だと感じさせられた。
アルテミス「それでは映像化して確認してみましょうか……」
アルテミスは自身の乗っているアーク・オブ・アルテミスに咎力を与えた。
スクリーンのような画面が照らし出され、そこに映像が映し出される。そこには月面を走っている銀楼の姿。そして、その後ろを走る者達。その姿は……。
勾玉「これは……!」
風魔「間違いないね」
刹那「E兵器……?」
その風貌。外見はE兵器だった。何故、判別できたのか。それは奈樹がノスタルジアへ降り立った日……追っ手としてやってきたE兵器の姿だった。
マテリア「E兵器がどうして月に……」
勾玉「銀楼と手を組んでいるのもおかしい……これは一体……」
険しい表情で画面を見る勾玉。
ルーン「E兵器?」
マテリア「生幽界でイーバという組織が従えている兵器です……けど、どうして……」
風魔「イーバが銀楼と……銀楼がイーバと繋がっている。ただ、それだけだよ」
皆は黙った。口にしなかっただけで、感付いていた。いや、そう考えていた者も居た。アッサリと口に出した風魔に驚き、沈黙してしまっていた。
レイ「けど、これで僕達が月の都を防衛する理由が出来たってことだね」
刹那「E兵器……倒さなくゃ!」
アルテミス「私の身辺警護は月花に任せます。きっと銀楼は私の前に姿を現わします」
月花は何も言わずに立っていた。銀楼と戦う覚悟を決めたのか、平然としていた。
刹那「刹那達はどうすればいいのお?」
アルテミス「まず、遠距離からセレーネの宝具である程度の数を一掃します。貴方達は都内で侵入してきた者を迎撃し、門と宮殿の前で二手に分かれて防衛してください。都に侵入してきた一部はルーンの宝具で仕留めます」
アルテミスは咎力で都の地図を描いた。全体図で全員が理解できるように、細かい指示と作戦を伝えてゆく。
リュラ「アルテミス様! 近辺にまで接近してきています!」
アルテミス「それでは……全員、配置についてください」
その言葉で、皆は配置へと向かった。月の都を護るため、月花と銀楼が決着をつけるため……最善を尽くした手を行使するのであった……。
月の都へとゆっくりと接近し、クレーターとなっている外枠の丘から月の都を見ている銀楼。その後ろには、二百という大群のイーバの装甲兵。
銀楼「行くぜ」
銀楼は月の都へ向かって一直線に駆け出した。後に続く装甲兵達。銀楼は走った。月光嗔のことだけを考え、ただ真っ直ぐに……。
チリーン……。
銀楼「!」
銀狼の耳に聞こえた鈴の音。聞こえたのは確かだったが、止まらなかった。防衛体制である月の都は一体どうなるのか……。今、銀楼との戦いが始まろうとしていた。
第三十六話 -明けの明星と創世の樹- End