35-B -女神と咎人-
アルテミスから告げられた言葉。それはノスタルジアの仲間であるディアナは、月の女神ダイアナの生まれ変わりだということであった。
蒼輝「ディアナが月の女神だって……?」
二人は驚いたが、ショックを受けたり呆然となることはなかった。ディアナには今まで不可思議な点が多数あった。だからこそ、意外と感じなかった部分があった。
そう思っていた奈樹だが、蒼輝は否定的な感想を言った。
蒼輝「冗談キツイぜ。いくらなんでも女神の生まれ変わりだなんて……」
アルテミス「『ダイアナ・ムーンライト』。私と共に月へやってきて、共に都を築き上げた月の女神です」
奈樹「……」
蒼輝「そりゃまぁ名前は似てるけど…」
アルテミス「ダイアナは元気いっぱいの笑顔を全ての者に振りまき、周りの者まで笑顔にする素晴らしい神でした…。先程、貴方が言っていた紫闇。そして澪。その二人は、ダイアナ専属の四使徒だった者達です」
蒼輝「…えっ…!? 四使徒って……紫闇は悪魔だし、澪は記憶喪失だし……」
アルテミス「まさしくその二人がディアナと居たことはありませんか?」
蒼輝「……そ……それは……」
奈樹「あります」
奈樹はハッキリと答えた。蒼輝は奈樹を見た。
アルテミス「では教えましょう……ダイアナと二人の関係を」
アルテミスは、当時ダイアナが話をした紫闇と澪との出会いを語った……。
月の都から離れた大地。一人で散歩に出ているダイアナ。部屋に閉じこもっているのが好きではないアウトドア派で、いつも宮殿から抜け出しては都の外に出ていた。
ダイアナ「ふんふふーん」
鼻歌交じりに歩く。気配を感じた。ダイアナは覗いた。そこには全裸に近い状態の黒い髪の女性が、ボロボロになって倒れていた。それは、かつての澪。
ダイアナ「だ……大丈夫!?」
すぐさま駆け寄り、身体を揺らそうとした。だが、傷が悪化しそうなので触れるか触れないような状態で声を掛ける。
澪「…う……」
ダイアナ「折れてたりしない? 平気? すぐに運んであげるからね!」
ダイアナは澪をおぶって都へ走った。澪の息は小さく、今にも呼吸が止まってしまいそうだった。都に運んだダイアナは宮殿の廊下を走った!
廊下で出くわしたアルテミスは、プンプンと怒っていた。
アルテミス「ダイアナ! また勝手に出掛けて……」
ダイアナ「大変だよ! 大変!」
急いで澪を空き部屋に運び込み、治療を開始した。ダイアナは必死に弁解するが、勝手に出掛けたことをアルテミスにこっぴどく叱られた。
20分ほどして、ようやく説教が終わった。
ダイアナ「あーんなに怒んなくてもいいのにねー?」
眠っている澪に話しかけたダイアナ。誰よりも心配しており、自身が率先して様子を見ていた。三日が経過すると、ベッドで横になっていた澪は目を覚ました。酷い怪我だったが、命を取り留めることができた。
澪「ん……」
手を握られている感覚に気付いた。その方向を見た。
ダイアナ「起きたー! よかったー!」
ニコニコしているダイアナ。澪は、この様子を見て神だとは思っていなかった。何故、自分がここで目を覚ましたのか、この女性は誰なのか不安になっていた。
ダイアナ「ねー! 名前なんて言うの?」
澪「ミオ……私は……澪……」
ダイアナ「そっかー! 澪っちゃんって言うんだね! よろしくね!」
ダイアナはニコニコしていた。澪は、その笑顔を見ているだけで心の内の不安が消し飛んでいった。
ダイアナ「あー、でも澪っちゃんだと、おっちゃんになっちゃうなぁ……じゃあ、澪ちゃんでいいか!」
澪「あなたは……」
ダイアナ「私はダイアナ! この月の都で女神やってるんだよ!」
澪「女神……」
澪はダイアナと語り合った。澪は、とある戦闘部隊の一員だったそうだ。しかし戦果を上げられず、次に戦いに敗れれば一族から追放という条件と、強い覚悟で戦いに挑んだ。
しかし、結果は敗戦。瀕死になっていたところをダイアナの発見したのであった。
ダイアナは、そのまま澪を保護した。行く宛のない澪を、自身の使徒として遣わせることにした。
そして……紫闇との出会い。それもまたダイアナが出掛けていた時だった。
月に棲まう怪物に襲われ、追い詰められている紫闇がいた。見た目の年齢は12~13歳くらいで、幼さが残っている。怪物の本体から伸びる無数の触手によって四肢を拘束され、ギリギリと締め上げられていた。
ダイアナ「今すぐ放しなさい!」
紫闇「……!」
ダイアナは怪物に向かって崖上から飛び降りた!
ダイアナ「宝具……瞋恚の月光!」
手に発生した球。光輝き、それを自分の身体に当てる!
ダイアナ「ドレスアップ!」
身にまとったドレス。クルクルと回転し、裾が鋭利な刃へと変化する! その刃で次々と触手を切り裂き、紫闇を救出する。
ダイアナ「ドレスアップ!」
その声と共に服が変わる。騎士のような格好になり、鋼鉄の剣を手にする。その剣で本体を切り裂き、一撃で倒した。そして宝具の力を解除し、元の衣装に戻る。
紫闇「あ……あなたは……」
ダイアナ「私はダイアナ。月の都の女神だよ!」
紫闇「め……女神様でしたか……。失礼しました……」
紫闇はすぐさま頭を下げた。
ダイアナ「あー、いいっていいって! 畏まらないでっ。そういうの苦手だからっ! それより可愛い服着てるねー? どこの子?」
胸元が出ている露出の多い服。あらゆるところを、まじまじと見ている。
紫闇「か……かわいい……。わ……私は紫闇……。あ……悪魔です」
紫闇は恥ずかしがって胸元を隠しながら自己紹介をした。
ダイアナ「紫闇っちゃんね! よろしくね! 冥幽界から来たの?」
紫闇「はい……私にもよくわからないのですが……」
冥幽界にて怪物と戦っていた紫闇。追い詰められていた時に、近場に発生していた次元の狭間に落ちて月の地で彷徨っていた。傷付き、弱っていたところに月で怪物に襲われ命を落とす寸前だった。
紫闇は冥幽界に戻ることはせず、命を救ってくれた恩人であるダイアナに忠誠を誓い、の四使徒となった。
そして数ヶ月後……
アルテミス「澪。単調な動きでは相手に読まれてしまいます」
澪「はぁ……はぁ……。すみません……」
アルテミス「紫闇はフェイントを掛けようとし過ぎて、スタミナを消耗が激しくなっています」
紫闇「改善します……」
澪と紫闇は肩を上下させて息を切らしている。四使徒となったからには修行に妥協はしなかった。
「ダイアナ様の役に立ちたい」。「ダイアナに恩を返したい」。二人はいつも言っていた。
―――……
アルテミス「澪と紫闇はダイアナを守るために、凄まじいほどの努力を続けました」
奈樹「話を聞いてみると……紫闇さんに強い力があるのも、澪さんに不思議な力があるのも納得できる……」
蒼輝「アルテミス様って、自分は戦わないのに指摘は出来るものなのか?」
アルテミス「わ……私だって戦えます……! ただ……身体が弱く、戦わないようにとダイアナと約束をしたので……自衛でなければ戦いません……」
蒼輝「……そうか……。約束したんなら仕方ないよな」
蒼輝は奈樹を戦わせないと誓った。アルテミスを思うダイアナの気持ちを強く理解できた。