表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蒼咎のシックザール  作者: ZERO-HAZY
第四章 銀の鎖と空の鏡
140/176

32-C -銀の三日月-

 突然の闇討(やみう)ちにあった氷牙(ひょうが)恋夢(こゆめ)。傷付いた氷牙を運び込みつつ、奈樹(なじゅ)の家に集合した。そして、闇討ち犯がいるので外は危険だという連絡を島の皆に伝えていた。


奈樹「ん……?」


 伝信機(でんしんき)受信音(じゅしんおん)刹那(せつな)からだった。ボタンを押すと、画面に刹那の顔がドアップで(うつ)し出される。


刹那「奈樹様ー! こっちは大丈夫だよお! (みーんな)屋敷(やしき)にいるよお!」


奈樹「ありがとう、刹那。今、外に出るのは危険だから、一緒にそこに居るのよ? いい?」


刹那「うん!」


 元気一杯(げんきいっぱい)の返事。奈樹は何かあったら連絡するように伝え、通信を切った。

 

 一方その頃……風魔(ふうま)に連絡を入れた勾玉(まがたま)は、マテリアに連絡を入れようとしていた。


勾玉「マテリア……何故(なぜ)出ない……?」


 心配する勾玉だったが、何か用事か離席(りせき)していて取れない状態にあるのかと思い、少し間を置いて連絡しようと考えた。

 だが、その頃……丘へ向かう道の途中。地面に落ちている伝信機が鳴り(ひび)いていた。


マテリア「うぅ…」


 肩を刺されて血を流し、(うずくま)るマテリア。その前には……銀髪の男。腕に巻いた(くさり)が音を鳴らす。それは曲刀を振り上げたことで鳴った音。


マテリア「ひっ……」


 たまたま散歩に出ていたマテリア。そこへ突然(とつぜん)闇討(やみう)ち。何が起きたかわからなかった。現状(げんじょう)を理解する前に、どうすることも出来ずに死が(せま)っていた。

 蒼輝と月花は氷雨(ひさめ)達を(むか)えに行っている。勾玉は風魔と連絡を取り、マテリアが通信に出ないのことを知らせていた。奈樹、颯紗(さらさ)、レイ、氷牙(ひょうが)は奈樹の家に居る。刹那と四人の巫女(みこ)は花の屋敷に居る。

 

 闇討ちしている者がいると知った島民は、出来る限り外へ出ないようにしていた。だからこそ、この銀髪の男は誰にも邪魔されず、外へ出ていたマテリアを強襲(きょうしゅう)することができた。

 銀髪の男はマテリアを睨むように見た。


『出てこい……月光嗔(げっこうしん)っ! 島にいるんだろ……! この俺……銀楼(ぎんろう)はここだ…!』


マテリア「月光…嗔…? 銀楼…」


 男の言葉を(たし)かに聞いたマテリア。(みずか)ら銀楼と名乗った。探しているであろう者は月光嗔と言った。だが、それが誰なのか答えは解らなかった。銀髪の男、銀楼は曲刀をマテリアの頭へ振り下ろした!


銀楼「………っ!」


 突如(とつじょ)、銀楼の(ほほ)(こぶし)がめり込んだ! 刀がマテリアに届く前に銀楼は殴り飛ばされ、元居た位置から10メートルほど吹き飛ぶ!


 銀楼は吹き飛びながら姿勢を(ととの)え、地を滑りながら着地する。銀楼を殴り飛ばした拳はジェット噴射(ふんしゃ)で腕ごと宙を飛んでおり、持ち主の元へと自動的に戻った。


マテリア「サ……」


 その視線の先。朱色の髪を(なび)かせ、その(するど)(ひとみ)は銀楼を(とら)えていた。


マテリア「サツキさん……!」


サツキ「対象(たいしょう)排除(はいじょ)します」


 サツキはロケットパンチのように腕を飛ばして、戻ってきた腕を(つか)んでいた。外れている腕を装着(そうちゃく)した。銀楼が立ち上がる。その曲刀をサツキに向けて構えた。 


銀楼「()びろ! 邪刀(じゃとう)……三日月(みかづき)!」


マテリア「サツキさん!」


 刃が湾曲(わんきょく)しながら伸び、サツキへ向かう!


銀楼「なっ……!?」


 サツキは刃を回避(かいひ)して瞬時(しゅんじ)(ふところ)()()み、(ふたた)びその(こぶし)で銀楼を殴り飛ばした!


マテリア「……! つ……強い……!」



 サツキの視点が映し出されるモニター。ムトは家でいつもの溶接(ようせつ)マスクを外し、その鋭い瞳で戦いを見ていた。


ムト「……サツキがお(ぬし)などに負けるはずがない……」


 ムトはグミを一つ、口へ運んだ。そして、サツキへと構える銀楼を見た。そして、(ひと)(ごと)(つぶや)いた。


ムト「ただの使(つか)()程度……とうの昔に分析(ぶんせき)できておるわ」



 サツキの猛攻(もうこう)。氷牙を容易(たやす)重傷(じゅうしょう)へ追いやった銀楼を、一方的に押していた。それは互角(ごかく)などではなく、まるで相性によって得意不得意があるかのように、サツキは圧倒していた。

 二人は丘の上にある一本の木のある場所まで、戦いの場を変えていた。


サツキ「エネルギー充填(じゅうてん)完了」


銀楼「……!?」


サツキ「システム・ムト起動。リミッター50%解除完了。ターゲットロックオン」


 サツキの腹部から収納された砲台(ほうだい)が伸びる。肩と背からウイングパーツが出てきてエネルギーを溜めている。


サツキ「ホロコースト・ダスク・イレイザー」


銀楼「クソがッ……!」


 身の危険を感じ取った銀楼は、咄嗟(とっさ)に丘から飛び降りた! サツキはすぐさまパーツを収納し、飛び降りた位置へ向かい崖下を(のぞ)く。銀楼は器用に崖の壁を蹴りながら降り、崖下にある森へと消えていった。


サツキ「……」


 銀楼を見失ったサツキへ通信が入る。


ムト「もういい、サツキ。男のデータの採取と、メンテナンスをする戻って来い」


サツキ「はい。ムト様」


 サツキは各部位(かくぶい)関節(かんせつ)部分を開いて熱を放出した後、方向転換(ほうこうてんかん)した。何事もなかったかのように平然とムトの家を目指して歩き出した。


 マテリアはサツキが戦っている(あいだ)に伝信機で連絡を取り、奈樹の家へと避難(ひなん)した。家には氷雨、恋夢、シアンが合流(ごうりゅう)していた。マテリアが怪我(けが)の手当てを受けていると、勾玉(まがたま)風魔(ふうま)もやってきた。

 蒼輝は氷牙と恋夢が被害(ひがい)に合ったことを話した。マテリアも銀楼と名乗った男に襲われたことと、サツキに救われたことを伝えた。


 蒼輝はムトに連絡した。サツキは銀楼を追い払うことはできたが、何処へ逃げたのかはわからないとのことだった。


蒼輝「そうか……ムトも気を付けてくれ」


ムト「うむ。まだ何処かに潜伏(せんぷく)しておるかも知れん。気をつけるんじゃぞ」


 ムトは通信を切った。蒼輝は伝信機をポケットに入れた。


奈樹「…闇討ち……銀楼……」


颯紗(さらさ)「……」


 マテリアの(そば)に居る颯紗は異常(いじょう)(ふる)えていた。奈樹は近付いて、颯紗の手を(にぎ)った。颯紗も不安を振り払おうとしてか、ギュッと手を握り返した。


レイ「被害に合った人を考えると、これは無差別(むさべつ)に狙っているとしか思えない」


蒼輝「……」


 蒼輝の脳裏(のうり)にはカノンとの出来事。闇討ち犯に襲撃(しゅうげき)され、カノンは命を(うしな)った。沸々と蒼輝の心に、封印(ふういん)してきた復讐心(ふくしゅうしん)(よみがえ)ってきた。カノンは復讐など望まないと思い、(おさ)えてきた感情。

 だが、この闇討ち犯がカノンを殺した者と同じなら……目の前に復讐できるチャンスがやってきた。その気持ちが徐々に(あふ)れ出し、冷静さを(うしな)わせてくる。


勾玉「無差別か…。イーバはゲーム感覚と言っていたが、あれはイーバなりのルールに(もと)づいて侵攻してきている。だが、今回の者は恐らくイーバではない」


風魔「そうだね……。少なくともイーバのやり方じゃない。戦える者と優先して戦うのがイーバのやり方だからね」


蒼輝「殺す……」


奈樹「蒼輝……?」


 小さな声で言った蒼輝の言葉。奈樹は聞き(のが)さなかった。


蒼輝「無力な恋夢を…氷牙を…マテリアをこんな目に合わせたんだ! とっ(つか)まえて……ぶっ殺してやる!」


風魔「……捕まえるってところには賛成かな」


勾玉「そうだな……。だが動機次第では……俺も感情を(おさ)えられんかもしれん」


 カノンの一件を経験している三人は、闇討ち犯に憎しみを(いだ)きつつあった。少なくとも、蒼輝の心には憎悪(ぞうお)しかなかった。


颯紗「あの……! こ…殺すとか……そこまでしなくても…」


蒼輝「……俺は捕まえたら許さねぇ……。もう二度と……誰かが傷つけられるわけにはいかない……」


 憎悪に染まる蒼輝を見かねてか、制止を(こころ)みる颯紗。だが、蒼輝の感情は爆発寸前だった。


颯紗「けど……いくらなんでも殺すなんて……」


蒼輝「颯紗っ! 誰かが死んでからじゃ遅いんだよ! 氷牙も! 恋夢も! マテリアも! 無事だったからいいものの、死んでたかもしれねぇんだ!」

 

 怒鳴(どな)る蒼輝の気迫(きはく)(おび)える颯紗。


奈樹「蒼輝…!」


 奈樹は颯紗の手を強く握っていた。その震えから颯紗の怯えを感じ取り、蒼輝に(うった)えかけた。


レイ「殺すというのは穏やかな手段じゃない。とりあえず捕まえる、と言うのなら賛成だけど、その後の処置が処刑が正しいとは言えない。勿論(もちろん)更生(こうせい)余地(よち)がない悪であるなら消し去るべきだけどね」


月花「……とりあえず落ち着きましょう。こんな時こそ冷静になるべきです」


勾玉「……そうだな。今は闇討ち犯である銀楼という者の居場所を突き止めるべきだ」


 皆は落ち着くためか、(だま)っていた。一分が経過しようかというときに、風魔が口を開いた。


風魔「なんでこの島に来たのかってことだけど……それってさ、その月光嗔って奴が島の何処(どこ)かにいるってことじゃないの?」


奈樹「だったら……どうして島の人を狙ったりするんでしょうか……」


蒼輝「……月光嗔は…島民の中に居るってことか……?」


 これは推測(すいそく)にしか過ぎないが、皆はこの考えの可能性の高さに息を飲んだ。颯紗だけは、捕まえても殺してしまうなどという物騒(ぶっそう)なことが行われないと思ったのか、安心した表情をしていた。そんな颯紗の様子に気付いた蒼輝。


蒼輝「颯紗……ごめん。ちょっと冷静じゃなかった。怖がらせちまったな」


颯紗「……大丈夫……さっきまで怖かったけど……今の蒼輝さんだったら大丈夫」


 颯紗はぎこちなく微笑(ほほえ)んだ。不安が消し去られていると思い、蒼輝は安心した。


奈樹「サツキさんが追い払った後、銀楼は何処に逃げたのかしら……探し出すほうがいいかも」


月花「確かに…島の何処かにいるなら、見つけ出すことを先決するべきですね」


蒼輝「よし……そうとなれば外を探索だ!」


 話し合った結果、蒼輝、勾玉、風魔、レイ、月花は外へ出ることにした。

 

蒼輝「何かあったら、すぐに連絡するんだぞ?」


奈樹「うん。気を付けてね」


 玄関(げんかん)に見送りに来ている奈樹。悪魔のような姿に変貌(へんぼう)してしまうことが二度あってから、戦うことを極力避けるようにしている。そのためマテリア、颯紗、氷牙、シアン、氷雨、恋夢と一緒に家に待機することにした。


蒼輝「それじゃ……行ってくる!」


 ドアを開けた蒼輝。外に出た者達は、その光景に(おどろ)きを隠せなかった。玄関の扉を閉める前に、奈樹も見ていた。



 天高く浮かぶ月。そこから、一筋の光の柱が伸びており、その柱は家の前に立っていた。



蒼輝「な……なんだ……?」


 その光の柱の中から現れたのは、まるで月のような形をした乗り物に乗った……神秘的な雰囲気(ふんいき)(ただよ)わせる女性だった。その女性は茶色の髪で白い衣服に身に纏い、足は靴を履いておらず裸足(はだし)だった。


『ようやく……見つけました』


奈樹「……! 一体……これは……」


蒼輝「アンタは……一体何者だ……!?」


 女性はその(おさな)(やわ)らかい優しげな表情でありながらも(りん)とした雰囲気が感じられた。そして……衝撃(しょうげき)の正体を口にした。



『私の名はアルテミス……。月よりやってきた……女神です』

挿絵(By みてみん)




  第三十二話 -(ぎん)三日月(みかづき)- End

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ