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蒼咎のシックザール  作者: ZERO-HAZY
第四章 銀の鎖と空の鏡
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31-C -金色の瞳をした死神-

 海水浴を終えた蒼輝(そうき)達。氷牙(ひょうが)の建てた家を見た後、ディアナを家に送りつつ散歩に出た。そして丘に行った時……黒い髪で金色の瞳をした女性が座っていた。



 この力の持ち主。それはイーバで『死神』と呼ばれていた女性。草木に触れれば()れてしまい、物に触れれば(こわ)れ、人に触れば骨が折れてしまう。

 ダークはこの力が、どういった能力で、どれほどの力なのかを研究するために実験をしていた。そのせいで陽子は、文字通り何度も骨を折ることになった。

 

「……」


 黒髪の女性は立ち上がった。その(はかな)げな大きな(ひとみ)は金色をしていた。月光のスポットライトに照らされ、月明かりのせいか、その瞳は少し輝いているように見える。その輝かしい金色の瞳は少し不気味に見えた。

挿絵(By みてみん)


 それも無理はない。なんせ触れてしまうだけで、生物の命さえも(うば)いかねない能力を持っているのだから……。


 女性の姿を見たシアンは、脊髄反射(せきずいはんしゃ)で駆け出した。


シアン「わぁ! 美人……! なによりデカイ! って……うわわわわ!」


 いつものように近付こうとしたが、進行を(はば)まれた。(おどろ)いて後退し続け、坂道のためバランスを崩してゴロゴロと転ぶ。シアンの行く手を(さえぎ)ったのは……。


ディアナ「ブラック……」


月花「猫ちゃん……どうしたんだい?」


 黒豹(くろひょう)のブラックがシアンを制止(せいし)していた。


蒼輝「ブラック……」


ディアナ「危ないよ…?」


 シアンだけでなく、ブラックはディアナ以外の者が、金色の瞳の少女に近づけないように立ち回った。倒れたシアンは起き上がった。


シアン「(いっ)てぇー!」


氷牙「自業自得だ。だろ? シアン」


シアン「おうともよ! 親分(おやびん)! いやぁ一途じゃないだけ、熱い怪我(けが)をするってもんよ!」


氷雨「黒豹(くろひょう)さんが警戒(けいかい)しています…」


奈樹「私達は近づいちゃダメってこと……?」


ディアナ「近づいちゃダメ。ここで待ってて」


 自分が警告(けいこく)したにも(かか)わらず、ディアナは女性の所へ歩いて行った。


蒼輝「オイ! 危ないんだろ!?」


ディアナ「うん! けど大丈夫!」


恋夢「ディアナちゃん!」


ディアナ「皆はダメだけど、私は平気。ブラックも言ってる」


 まるで心の中で会話でもしているかのように言った。そのブラックは心配でないのかディアナの方を見ておらず、皆が女性へと近付かないように見張(みは)っている。



 トコトコと歩いていく。身長差が30センチ以上は違う、金色の瞳の女性と向き合うディアナ。


ディアナ「こんばんは」


「……」


 ニッコリ笑うディアナ。女性は不安そうな、悲しそうな表情を浮かべていた。


ディアナ「お名前なんて言うの?」


「……」


 ディアナは更に一歩、近付いた。


「ダメ……」

 

 女性はその分、後ろへ下がる。


ディアナ「?」


「触ると……死ぬ…」


 ディアナは(だま)り込んだ。皆もその言葉に(おどろ)き、黙ってしまった。ただ、ディアナを守るはずのブラックは何故か動こうとはしなかった。


「手で触ったもの……全部死ぬから……」


ディアナ「死なないよ。私は死なない」


 ディアナは歩き、女性の目の前に立った。


蒼輝「ディアナ! やめろ!」 


奈樹「そうです! その人の手は何か不思議(ふしぎ)な力が……!」


 手に触れた草が枯れるのを見た。そして、触れたものは死ぬと言った言葉からディアナを必死に制止した。しかし、ディアナは女性の手に、手を伸ばした。女性は触らせまいと手を引く。

 だが、ディアナはニッコリと笑った。


ディアナ「大丈夫。大丈夫だから……(みお)ちゃん」


「……!」


 ディアナは女性の両手を握った……!


ディアナ「……」


 女性は(おどろ)いた顔をしていた。月光のスポットライト下ので、ディアナは笑いながら女性の両手を(にぎ)()めてした。そのディアナの手は……何ともなかった。


「…(みお)の名前を……どうして……?」


ディアナ「えっ!? 澪ちゃんで合ってたんだ! なんでかな? なんでだろ? そんな気がしたの」


澪「……」


 ブラックは蒼輝(そうき)達の行く手を(さえぎ)りながら、二人の様子を見ていた。その光景を呆然(ぼうぜん)と見ている蒼輝達。


蒼輝「知り合いだったのか?」


ディアナ「わかんない!」


 即答するディアナ。皆はズッコケた。


ディアナ「なんかねー、ピコーンって(ひらめ)いたの!」


 奈樹は澪へ質問した。


奈樹「では……澪さんはディアナさんのことをご存知だったり……」


 澪は(うつむ)いた。


澪「澪は……自分のこと……わからない……。記憶が無い……」


月花「名前しか覚えていない……記憶喪失(きおくそうしつ)ですか……」


 月花には澪の気持ちが痛いほどわかった。記憶の無い。それがどれだけ不安であり、いつ自身の記憶のせいで今の暮らしが(くず)れてしまうかわからないから。


月花「……」


 月花は澪に続いて、ディアナを見た。もしかしたら、ディアナも記憶喪失なのではないかと思えた。そうでなければ、澪との邂逅(かいこう)には不明な点が多い。

 一目見て何かを感じ取り、澪に近付いた点。危険(きけん)な力を持っていることを察知(さっち)していながらも、自分には影響(えいきょう)の無いと感じ取っていたのか澪の手を(にぎ)った点。その後、澪の名前を言い当てた点。そして……あの守護者(しゅごしゃ)と言える存在であるブラックがディアナと澪が触れ合うのを許した点。 


 この点を一つの線に(つな)げると……ディアナと澪は二人して記憶喪失だが、元々知り合いであった可能性が高い。そして、ディアナとブラックは澪の能力を知っていた。

その能力を知りながらも触れ合うことを許したブラックは、二人の関係性を知っている。



 そうなれば……ブラックは……『ディアナの正体を知っている?』



 月花の脳裏(のうり)で繰り広げられる推測(すいそく)

 しかし、それが正解かどうかは確かめようがなかった。ディアナ自身は何も知らず、ブラックは(しゃべ)らない。そうこう考えていると。蒼輝は10メートル近く離れた距離から、澪へと問いかけていた。


蒼輝「とにかく……澪でいいのかな。ブラックがエラく警戒(けいかい)しているんだけど」


澪「触ると……死ぬから」


奈樹「死ぬ……?」


澪「死神……。澪の力は……死神……」


ディアナ「そんなことないよ! 澪ちゃんは死神じゃないよ!」

 

 ニコニコ笑っているディアナ。澪はその姿を見て、不意に微笑(ほほえ)んでいた。


ディアナ「じゃあ皆、お見送りはここまででいいよ! 行こっ! 澪ちゃん!」


 一緒に歩くように手を(つな)ぐ。


蒼輝「お、おい! 大丈夫なのか?」


ディアナ「大丈夫! 澪ちゃんに手を使わせなかったらいいから!」


蒼輝「いや、そういう意味じゃなくて……」


 もしかしたら澪の能力が効かないのは一時的なものかもしれないと思い、心配に思う蒼輝だったが、ディアナは気にせず歩いてゆく。


ディアナ「あっ、恋夢ちゃーん! またねー!」


恋夢「うーん! またねー!」


 手を振る仲良しの二人。ディアナは手を繋ぎ、澪を引っ張って丘を下っていった。ブラックも後ろを追って行ってしまった。



 その光景を呆然(ぼうぜん)と見ていると、ディアナとブラックと澪の姿は見えなくなった。


氷雨「しかし、手を使わずに生活するというのは(むずか)しいのでは……」


氷牙「そこに気付くなんてな。流石(さすが)は俺の(よめ)なだけのことはあるぜ」


月花「いや、もっと他に問題いっぱいあるから!」


 うんうんと(うなず)く氷牙だった。すかさずツッコミを入れる月花。皆は丘から下りて戻ることにした。


奈樹「ディアナさんとブラックが居なかったら……澪さんの力で何らかの被害(ひがい)が出ていたかもしれないと思うと……」


蒼輝「最初に会った時からそうだけど、本当にただの黒豹(くろひょう)じゃねーよなぁ。ブラックは……」


 どれだけ忠誠心(ちゅうせいしん)の強い動物であっても、ここまで人の言葉と行動を理解できているのは異常だと思ってしまう。


月花「……猫ちゃんもいるし、今晩だけならなんとかなるかも知れませんね」


 話をしていると奈樹の家の前に到着した。月花、氷牙、シアン、氷雨、恋夢は家へと帰っていった。蒼輝と奈樹は二人で話をしていた。



蒼輝「とりあえず今日は帰るとするけど……澪のことも色々聞きたいし、また明日になったらディアナの様子を見に行ってみるかな」


奈樹「そうね……。会いそびれた颯紗(さらさ)にも澪さんの紹介しなきゃ」


蒼輝「疲れて眠そうだったし、もう寝ちゃってるだろうからな。それじゃ、また明日な。おやすみ」


奈樹「おやすみなさい。また明日」

 

 蒼輝は大きく手を振って、家へと歩いて行った。奈樹は微笑(ほほえ)んで小さく手を振り、蒼輝の後ろ姿を見送った。



 その奈樹と蒼輝の姿を、見ていた者が居た。



颯紗「ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……」


 息を(あら)げた紅い瞳の持ち主が、二階の()(くら)な一室に居た。部屋の(まど)……そのカーテンの隙間(すきま)から奈樹を見つめていた。



 そして同時刻……。誰も気付いていなかった……。ノスタルジアの者でない者が丘の上に居ることに……。木の下にある人影。澪の座っていた位置を観察(かんさつ)していた。


「しばらく草が()まれていた跡があるな……さっきまでここに人が居たか……。この辺りから気配がしていたのは、どうやら間違いねぇみたいだな」


 銀色の髪を揺らし、腕に巻いた銀色の(くさり)を鳴らし歩いた。


「待ってな…絶対(ぜってぇ)この俺の手で……ぶっ殺してやる……」


 男を照らす月の明かり。その月は一部が雲に(かく)れ、まるで三日月のようになっていた……。




  第三十一話 -金色(きんいろ)(ひとみ)をした死神(しにがみ)- End

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