31-B -金色の瞳をした死神-
夕方になり海水浴を終え、暗くなると花火をして楽しんだ。
はしゃいで楽しむ者、静かに楽しむ者、花火を合体させて遊ぶ者。それぞれが思い思いに楽しみ、花火を終えた。そして海岸から引き上げた一同。
紫闇とグレモリーは、一緒に冥幽界へ帰っていった。
家が同じ方角の勾玉、マテリア、刹那は一緒に帰って行く。揃って芙蓉、桔梗、桜羅、蓮華は花の屋敷へ帰っていった。
氷牙「よし、それじゃあ氷雨ちゃん。俺っち達も愛のマイホームに帰ろうとしようか」
氷雨「はい。帰って夕飯の支度をしましょう」
いつも通り聞こえているのか聞こえていないのか、氷牙の愛を語る言葉を受け流す氷雨であった。
蒼輝「そうだ月花、なんかいつの間にか森の中に家建ててたんだよな?」
月花「俺が建てたんじゃないんですけどね」
奈樹「一度どんな家なのか見に行こうって言ってたのよね」
シアン「奈樹さん! 是非とも見に来てください! なんだったらオイラのお部屋にだって案内します! 布団の中までご案内します!」
奈樹「ふ……布団の中……?」
蒼輝「おい! 絶対させねーからな!」
良からぬ考えを持つシアンと、その意味に気付かない奈樹。全力で阻止する蒼輝であった。
ディアナ「恋夢ちゃんの家かぁー! 一緒に見に行こっかなー! ねー、ブラック!」
ニコニコしながらブラックに言った。返事をするわけでもないが、ディアナはいつも語りかけていた。こうして皆は氷牙が建てた家を見に行った。
蒼輝「こりゃまた立派なの建ててんなー」
奈樹「自作でこれって……」
樹の周りに木の螺旋階段。枝の上に建てられた部屋。五人が生活するには不自由のない家だった。
家の中を一通り見る。そこで颯紗が発見する。
颯紗「これは……?」
ロープが固定された手すりのある椅子。上には滑車と繋がっている。
氷牙「そこに座ってみな」
颯紗「こう?」
ロックを外すと、颯紗は椅子ごと二階から下へと落ちる!
颯紗「きゃあぁーーーーー!」
ディアナ「すっごーい!」
椅子とロープで繋がれた重りが木の枝に引っかかって、地面ギリギリで止まる
蒼輝「なるほど、階段を使わずに下に降りれるのか感じか」
奈樹「颯紗ー。大丈夫ー?」
颯紗は椅子から降りる。重りが下に降り、椅子が上昇してくる。
颯紗「……」
颯紗は四つん這いになり、今にも吐き出しそうになっていた。
奈樹「乗り物酔いしやすいのに……大丈夫かしら」
ディアナ「やりたーい!」
恋夢「ディアナちゃんだと降りれないよ?」
ディアナ「えーっ!?」
氷雨「重りの関係で、体重が40キロほど無ければ下がらないのです」
蒼輝「もっと大きくなってからだな、ハハッ」
ディアナ「ちぇー」
ふてくされるディアナであった。蒼輝達はフラフラになっている颯紗の所へ行き、家も見たことなので帰ることにした。
恋夢「ディアナちゃんの見送りに行きたーい!」
氷牙「あぁん!? そんなもん勝手に帰らせとけよ!」
すぐさま反論する氷牙。
氷雨「そうですか……お一人で行かせるのは不安ですね……。それでは旦那様、わたくしは恋夢ちゃんとお見送りに行って参ります」
氷牙「よし、恋夢! それじゃ散歩がてらに見送りに行くか!」
月花「相変わらず意見の切り替え早いな!」
蒼輝はズッコケた。月花はこのやりとりに慣れてはいるものの、ツッコミを入れずにはいれなかった。
氷雨の肩に手を回し、デレデレしながら歩き始める氷牙。いつも氷雨は嫌がるような様子は見せない。
恋夢「いっつも氷雨お姉ちゃんの前だと調子いいんだからー!」
シアン「親分やっぱ変わったよなぁ……気のせいかなぁ?」
恋夢は浮遊しながら、月花とシアンはその後ろを歩いた。
奈樹「颯紗……?」
颯紗「うん……?」
颯紗の顔を覗き込んだ奈樹。先ほどの落下のせいで元気が無いのかと思っていたが、それにしては様子がおかしい……青ざめたような顔をしていた。
颯紗「なんでもない……大丈夫」
そう言って歩き出した颯紗だったが、奈樹は心配になって問いただした。
奈樹「大丈夫? 先に家に戻る?」
颯紗「うん……ちょっとはしゃいで疲れたみたい」
今日の海水浴で遊び疲れていたらしく、颯紗は途中にある奈樹の家へと先に入っていった。
蒼輝と奈樹、月花、氷牙、シアン、氷雨、恋夢はディアナとブラックの見送りがてらに散歩で一緒に丘へ行くことにした。
蒼輝「颯紗も来ればよかったのになぁ。こんなにも月が綺麗なのに」
奈樹「蒼輝にしてはロマンチックなのね」
蒼輝「そうか? まぁ……なんか最近の月はよく輝いてるように見えてな。なんでだろ?」
ディアナ「ウサギさんが一生懸命アピールしてるんだよ? 助けてー! って」
蒼輝「ウサギが居るかはともかく、なんで助け求めてくるんだよ!」
ディアナ「そっかー。って、アレ!? 何言ってるの! 月にウサギさんはいるよー!」
ふてくされたように言うディアナ。その様子に恋夢は便乗した。
恋夢「そうだよそうだよー! 蒼輝兄ちゃんったら『ろまん』が足りないと奈樹お姉ちゃんに愛想尽かされちゃうよー! 」
奈樹「そ……そんなこと……。って、恋夢ちゃん! 私は愛想とか……」
シアン「なるほど、そうなると奈樹さんの想い人はオイラだけってことに……」
月花「どうしてそうなるんだ……?」
氷牙「まぁ、俺っちは氷雨ちゃんがどんなことしたって愛想尽かしたりしないぜ? 俺っち達の百年の愛……いや、千年の愛は冷めることはないんだぜ……」
氷雨「はい。わたくしも一途な想いというのは素敵だと思います」
相変わらず、自分に対して言われていると気付いていない様子の氷雨であった。月花は綺麗に輝く月を見上げた。
月花「月か……全ては月と花の導きのままに……」
皆は雑談しながら丘を登っていった。一本だけ生えている木の下に人影が見えた。
蒼輝「ん? 誰かいるな」
丘には人がいた。三角座りをして、月を眺めていた。遥か頭上にある月の照明が、その人物だけを照らしているように感じた。そして、その姿がしっかりと見えた。ブラックは、その人物を視ると少しだけ様子が変わった。
ディアナ「ブラック……?」
黒い髪に整った前髪で、ポニーテールの女性。夏だというのにタートルネックの長袖の黒いセーターを着ている。女性は気配でこちらに気がつき、立ち上がろうと地面に手を着いた。
その時……その手に触れた草が枯れていった。