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蒼咎のシックザール  作者: ZERO-HAZY
第一章 ノスタルジア
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3-C -風の落とし子-

 昼食後、散歩へと丘へ来た風魔(ふうま)奈樹(なじゅ)

 最初は島の場所を教えてもらったり、丘からの(なが)めを楽しんでいた奈樹。しかし二人きりになるように仕組んだ風魔は、ついに動いた。


 風魔は奈樹のこと、イーバのことを聞こうと尋問(じんもん)し始める。なかなか答えようとしない奈樹に、風魔は自身がE兵器(クリミナル)と明かした。




風魔「この指に(まと)っている力…。これだけ近くなら…わかるよね?」


 奈樹の首に当てられた風魔の二本の指に、風が渦巻(うずま)いている。


奈樹「咎力(きゅうりょく)…! この力は…」


風魔「俺の属性は風…。これで何者かわかってくれたかな?」


奈樹「……」


 首筋から汗が()れてきて、風魔の指に当たる。


風魔「さて…それじゃ…ここからが本題」


 風魔が背後から消え、3メートルほど距離を()けて前に立つ。


風魔「戦おっか」


奈樹「…えっ…!」


 風魔がポケットに手を入れつつ、軽く構える。


風魔「ずっと誤魔化(ごまか)してるよね…? 俺が地上に来た後だから当時のイーバのことは詳しく知らないけど…世界各地で起きた最凶(さいきょう)クラスのE兵器(クリミナル)による厄災(やくさい)…。

(あお)悪魔(あくま)】と呼ばれた存在…この名前と外見から考えて奈樹さんが一致(いっち)してるんだよね。」


奈樹「知らない…私は…そんなの知らない…」


 奈樹はかぶりを振りながら、青ざめてゆく。


風魔「俺の力が蒼の悪魔にどれだけ通用するか…手合わせ願いたい」


奈樹「私じゃない…! そんなの…知らない…!」


 奈樹は(ひざ)を折り地面に手を付き、四つん()いになる。


奈樹「知らない…そんなの…私じゃない…」


 風魔は(うつむ)く奈樹を見つめている。




 一方その頃…


蒼輝「二人とも帰って来ねーな」


勾玉「心配はいらんだろうが探しに行くか。また追っ手が来ている可能性もある」


蒼輝「そうだな…。風魔が一緒なら平気とは思うけど…いっちょ探しに行きますか!」


 二人が小屋から出て、外に出る。


勾玉「ん…? あれは…」


 二人が丘の方を見る。


蒼輝「えらく木が揺れてるな…。行ってみようぜ!」


 二人は駆け足で森の中を走っていった。




奈樹「私は…戦わない…。戦いたくない…戦えば…誰かを殺すことに…。そんなの…もう…」


 (しぼ)り出すように(ふる)える声を出し、拒絶(きょぜつ)する奈樹。その様子を見た風魔は…。


風魔「じゃあ、仕方ないね。戦うのはナシってことで」


奈樹「え…?」


 意外な返事を聞いた奈樹は驚いた表情で風魔を見る。


風魔「嫌がってるのに強要するつもりはないよ。奈樹が何をしてきていようと、俺が奈樹の何を知ってようと、俺達は今は島の仲間。無理に戦う理由はないよね」


奈樹「…は…はい…」


風魔「仮に奈樹が蒼の悪魔だったとしたら…そんな強力なE兵器(クリミナル)が仲間にいるなんて、とんだ夢物語(ゆめものがたり)だよね」


奈樹「……」


 アッサリ(あきら)めて戦わない…じゃあ…どうして戦おうなんて言ったんだろうと思ったが、今は(あらそ)いごとを避けれたことに安堵(あんど)していた。


風魔「ほら、立って立って」


奈樹「は…はい…」


 まだ不安があったが、風魔は明るく振舞(ふるま)っている。どこまでが演技で、どこまでが本心なのかわからない。今まで以上に、風魔の様子に対して不安を覚える。

 奈樹はゆっくりと立ち上がった。


蒼輝「おーい!」


奈樹「…!」


 奈樹はホッとした。蒼輝が来てくれた。勾玉と一緒に来た様子から仲直りしたことも(さっ)することができた。


風魔「やっ、起きたんだ」


蒼輝「あぁ、二人ともいないんで探しに来たぜ」


勾玉「ここで何をしていた?」


奈樹「えっと…」


 奈樹の言葉を風魔が(さえぎ)るように言った。


風魔「ここから色んな場所を教えてただけさ。ねっ、ナッちゃん」


奈樹「え…?」


 風魔がウインクする。会話を合わせるようにしてと言うサインと気付いた。


奈樹「ええ…そうです。丘まで案内してもらって…とっても素晴らしい島ってわかって…」


勾玉「奈樹」


 奈樹に向かって言った。


勾玉「安心していい…。お前は何があっても戦わなくていい」


奈樹「……!」


勾玉「この島に居たい気持ちはわかった。戦いを好まないことも…殺しをしたくない気持ちも…」


 奈樹は何も言わなかった…。静かに勾玉の言葉を聞いていた。


勾玉「もし次の追っ手が来ても…俺達がお前を戦わせない」


風魔「俺も協力するよ。ナッちゃんをイーバに殺させないし、引渡(ひきわた)しもしない」


蒼輝「そうだぜ…約束だ…って、なんだよその呼び方!」


風魔「打ち解けようと思って許可してもらったんだよねー? ナッちゃん」


奈樹「え…はい…そうですね」


蒼輝「ふーん…そうそう、飲み物持ってきたぜ。せっかくだし、ここでゆっくりしようぜ!」


 今朝(けさ)買ってきたペットボトルを袋から取り出す。


風魔「じゃあ俺、『はっさくちゃん』の八朔(はっさく)味で」


蒼輝「勾玉はコーヒーだったよな。後二本だけど、奈樹はどっちにする?」


奈樹「えっと…水で大丈夫…」


 風魔がはっさくちゃん、勾玉がコーヒー、奈樹が水を受け取る。


蒼輝「俺は『飲むパスタ』のナポリタン味だな。それじゃ、カンパーイ!」


 皆で丘の上で座り、景色を(なが)めながら飲む。


 奈樹はしばらく風魔への不安があったが、徐々にそんな気持ちはなくなった。1対1で話し合うことで勾玉と風魔の内心(ないしん)を知り合えることができた。

 そして蒼輝と居るこの時間…。今はその喜びに(ひた)っていた…。





 イーバ研究室


「F-106…金雀児(えにしだ) 奈樹(なじゅ)はどうなったカナ…?」


 白衣を着た男が言った。部下が報告(ほうこく)する。


部下「追跡したイーバ装甲兵(ポーンズ)は復元中です。傷口から二体は咎力(きゅうりょく)によるダメージですが…一体は物理による斬り傷です」


白衣の男「金雀児 奈樹は武器を所持していない…。(あつか)いにも()れていないはず…。降りた島に…(かくま)う者がいる…と言ったところカナ…。

ならば例のアレを降ろしていいカナ…アレは何度も調整(ちょうせい)したけど…戦闘への意欲が不足している以上、伸びしろはないカナ…。任務に成功しようと失敗しようと用済みカナ…」


部下「出撃は明日になりますが、よろしいですか?」


白衣の男「あぁ…頼んだカナ…」


 部下が部屋から去っていく。白衣の男はモニターの奈樹の写真を(なが)め、そこに映る白い(ほほ)を何度も何度もゆっくりと()でる。


白衣の男「金雀児…奈樹…。君は…どう対処するのか…ここに帰ってくるのか…それとも死ぬのか…実に楽しみカナ…ククク…」


 薄暗い部屋で笑いが部屋に響いた。空中を浮遊し続けるイーバはノスタルジアへ方向転換(ほうこうてんかん)を始めていた。

 そう…島へ新たな刺客が送り込まれようとしていた…。



第三話 -風の落とし子- End

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