表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蒼咎のシックザール  作者: ZERO-HAZY
第三章 冥幽との邂逅
125/176

30-A -禁断の血-

 イーバの侵攻。降り立ったのは幹部(かんぶ)陽子(ようこ)とハルベルト。そして観戦(かんせん)に来たアリス。

 陽子の作り出した重力空間(グラビティ・スペース)によって地に伏したまま動けなくなった蒼輝(そうき)奈樹(なじゅ)勾玉(まがたま)、マテリア。咎霧領域(フォッグ・アリーナ)の外では、ハルベルトの作り出した鉱石結界(アレキサンド・ランド)によって現れた人型の鉱石のような物体と戦う風魔(ふうま)刹那(せつな)、バサラとマリア、レイ。



陽子「このまま降伏(こうふく)すれば、わざわざ痛い目に合わなくて済むのよ?」


蒼輝「誰がイーバみたいな悪党(あくとう)なんかに……」


奈樹「どうして……先日話をしていた時は悪い人だと感じなかったのに……」


陽子「私は最初から悪い人のつもりはないんだけど。それに貴方が言ったのよ? 『人の心には、(いん)(よう)……影と光がある』と。貴方達に正体を明かさず話をして(だま)していた時が影ならば、今の私は何も包み隠さない光の状態(じょうたい)。悪党なんかじゃないわ」

 

勾玉「イーバに所属(しょぞく)しておいて……自身は悪ではないと言うのか?」


陽子「何を言ってるの……? イーバがいつから悪になったと言うの?」


 手を前に出して重力空間(グラビティ・スペース)を作り出しつつ、不思議(ふしぎ)そうに聞き返す陽子。


マテリア「イーバは悪です……。 私利私欲(しりしよく)のためにE兵器(クリミナル)を作って…」

陽子「E兵器(クリミナル)を作り出すからイーバが悪だと言うの? E兵器(クリミナル)が悪だと言うのなら、アナタ達が金雀児(えにしだ)奈樹(なじゅ)を初めとした同種を(かば)う理由は?」


蒼輝「奈樹(なじゅ)はE兵器かも知れないけど悪じゃない……刹那(せつな)も、芙蓉(ふよう)も……この島にいるE兵器(クリミナル)はイイ奴ばかりなんだ」


陽子「悪でないE兵器(クリミナル)E生物(スティグマ)を生み出しているイーバ自体は悪…おかしいと思わない? それってただの決めつけじゃない」


 どうして理解できないのか、と少し(あき)れ気味に言った。イーバを信じて(うたが)わない、(まった)く迷いの無い様子で語る陽子だった。


勾玉「だったら…マテリアの一族や楼黤(ろうあん)王国はイーバによって(ほろ)ぼされた……それでもイーバが正しいと思うのか……?」


陽子「私はイーバが正しいと思っている。 世界の反乱分子(はんらんぶんし)を消して行くことは、より良い環境を作り出すために仕方のないこと。人間の身勝手(みがって)で動物の殺処分(さつしょぶん)を行ったり、殺虫剤(さっちゅうざい)除草剤(じょそうざい)を使うのと、していることは同じよ」


奈樹「なぜ……なぜ……陽子さん……貴方からは咎力や圧力……殺気を感じなかった。」


陽子「それは私が本来(ほんらい)の力をセーブしているから。人として、穏便(おんびん)に暮らすために」


蒼輝「力を……セーブ……?」


陽子「兵器でありながながら、そんなことも知らなかったの? 強力な力を持つE兵器(クリミナル)(ほとん)どは本来自身が持つ力の(わず)かしか使うことができないように(かぎ)を掛けてセーブされているのよ。それは幹部であれば必然(ひつぜん)なの。エビルも、マッドも、その力の30%以下しか解放できていない」


 陽子の言葉に、蒼輝達は動揺(どうよう)した。


蒼輝「……なに……!?」


勾玉「あの力が……30%以下だと……!?」


奈樹「(いく)ら何でも……あの力が全力じゃないなんて――」


 あのエビルでさえ――たった三割程度の力しか発揮できていなかったなどという言葉を、信じられるはずが無かった。


陽子「今日は……許可されているから」


マテリア「許可……?」


陽子「見せてあげる……これが幹部の……力を解放する行為よ……!」


蒼輝「なんだって!?」


 陽子は目を閉じ、小さく(つぶや)いた。


陽子「開錠(かいじょう)


 突如(とつじょ)(すさ)まじい咎力(きゅうりょく)(あふ)()し、砂煙(すなけむり)が立ち込める。その中心から強く(はげ)しい熱風(ねっぷう)()く! ピリピリと伝わる威圧感(いあつかん)。そして――(おさ)えられていた力が解放された。


 陽子に(きつね)の耳と()()え、顔にも狐の(ひげ)がフワリと生えていた。


陽子「咎尾(きゅうび)炎姫(えんき) 妖狐(ようこ)

挿絵(By みてみん)


 明らかに先ほどまでと違うことが伝わってくる。重力空間(クラビティ・スペース)によって地に伏せられているが、今は開錠(かいじょう)にるプレッシャーで動けないような感覚に(おそ)われてしまう。


ハルベルト「開錠」


 陽子に続いてハルベルトも力の解放、開錠を行う! またしても(すさ)まじい圧力が襲いかかってくる! 


 巨漢の身体にゴツゴツとした透明色(とうめいしょく)鉱石(こうせき)を、まるで(よろい)のように(まと)っている。


ハルベルト「アーマーモード・アレキサンドボディ」


蒼輝「動けねぇ状態で…このままじゃ……!」


 地に伏せたままの蒼輝、奈樹、勾玉、マテリア。危機的(ききてき)状況(じょうきょう)の中で開錠を行った陽子とハルベルト。


陽子「幹部二人が開錠して力を解放した。貴方達は私の重力空間で動けない。降伏すればどう?」 


奈樹「動けなくても……攻撃する手段はあります……!」


 奈樹は親指、人差し指、中指の三本の先を陽子に向けた! 


奈樹「トライ・サンダー!」


 冥幽界(めいゆうかい)でアスモデス四死公(ししこう)のグレモリーに教わった通り、必要最低限の咎力を一瞬で溜め、三本の雷を発射した!


陽子「……!」


奈樹「この速度の攻撃……()けられるはずありません」


 陽子の右肩、左肩、腹部を貫通する! 陽子は吹き飛んで倒れた。しかし……。


蒼輝「どういうことだ……!? まだ身体に重みが……」


 倒れている陽子。しかし、重力空間(グラビティ・スペース)を発動させている手は、吹き飛んだ時、倒れた状態でも前に出したままだった。


奈樹「……! どうして……!? 当たったはずなのに……」


 陽子がゆっくりと立ち上がった。その身体に、貫通したはずの傷は無かった。


陽子「私の開錠……咎尾(きゅうび)炎姫(えんき)の能力……」


勾玉「能力だと……!」


陽子「そう……それは超再生能力(ちょうさいせいのうりょく)。私は受ける攻撃を避ける必要すらない。回避という防御行動を削除し、攻勢(こうせい)(たも)つことが可能。これこそ、完全なる受け……絶対的な防御手段。これが私のスタイル」


アリス「素晴らしい力です。陽子さんにとって、その程度の雷攻撃は避ける必要すら無かったということです。陽子さんを倒そうと思ったら……地面に横になっていないで、再生が追いつかないほどの攻撃をするしかありませんね」


 陽子を(した)うアリスは自分のことのように、(うれ)しそうに語った。


陽子「つまり……そんな姿勢で私を攻撃したところで、重力空間(グラビティ・スペース)を解除することは不可能よ」


奈樹「そんな……これじゃ……」


 何も出せる手が無かった。それでも(なお)、攻撃するということも考えたが、無為(むい)に力を消耗するわけにもいかなかった。


ハルベルト「はてさて……いつやられるかも知れないという恐怖を与え続けるのは、良くないんだな」


 重力空間(グラビティ・スペース)の発生している中へ歩いてくるハルベルト。開錠した力なのか、まるで影響を受けていないかのように立っている。


ハルベルト「ここは柔軟(じゅうなん)な対応で――早めに始末してやるんだな」


陽子「金雀児(えにしだ) 奈樹(なじゅ)には手を出さないように」


ハルベルト「わかってるんだな」


陽子「……単細胞(たんさいぼう)だから忘れてるかと思ったわ…」


 ()かないハルベルトに対し、小声で陰口(かげぐち)を言ってしまう陽子。アリスには聞こえていたのか、クスッ笑った。


ハルベルト「目標が降伏(こうふく)するように仕向(しむ)ければいいんだな……だったら周りを順番に圧殺(あっさつ)してやるんだな」


奈樹「……! やめてっ!」


 ハルベルトは地面を前転してから跳躍(ちょうやく)し、10メートルほど高く跳ね上がった! クルリと前方に回転し、尻餅を着くようにして急降下する! 


ハルベルト「アーマーボディ・隕石直下(メテオ・ドロップ)!」


 地に伏せて攻撃を回避することは許されない状況。無情(むじょう)にも蒼輝の背の上に直撃した!


蒼輝「ぐあっ……あぁ……!」


 (いきお)いよく落ちたハルベルトが身体に乗りかかり、内臓(ないぞう)がギリギリと圧迫される!


奈樹「蒼輝ーー!」


 蒼輝はガックリと脱力して倒れる。ハルベルトが立ち上がる。


陽子「いつ見ても、美しくない技ね」


 重力空間(グラビティ・スペース)で相手を伏せさせて身動きを取れなくし、ハルベルトの隕石落下(メテオ・ドロップ)で仕留める。嫌っているハルベルトと組まされた理由は合理的で単純明快(たんじゅんめいかい)。個々の能力の相性だった。


ハルベルト「戦いに美しさなんて不要なんだな。勝ちとは(きたな)(みにく)いものだな」


陽子「美しく勝利してこそ栄誉(えいよ)があるものよ。戦争にだってルールがあるのと同じよ」


 それで嫌いな相手と組まされるのだから、陽子にとっては(うれ)しくない話ではあった。


勾玉「ルールだと……? イーバにそんなものがあるとは思えんがな……」


陽子「そうかしら……正々堂々としているじゃない。今日だって真正面からやってきたじゃない。何故なら……(むし)ろこちらとしてはゲーム感覚に近いのよ」


蒼輝「くっ……! ゲーム……だと?」


陽子「えぇ。手段を()わないのであれば、こんな島を略奪(りゃくだつ)することなんて造作もないこと」


 地に突っ伏せさせられたままの皆は、その陽子の言葉が信用できなかった。


陽子「一番手っ取り早い手段を言ってあげましょうか? それは誘拐(ゆうかい)することよ。イーバの者ということを隠して近付き、完全に油断しきっているところでイーバに連れ返すなんて簡単なこと」


 先日、陽子は一人でノスタルジアへやってきていた。仮に奈樹と二人きりになっていたら、その時点で拘束(こうそく)するするようにしがみつき、粒子帰還(リターン)をすれば無理矢理ながらも連れ帰ることは可能である。


陽子「それ以外なら、E兵器(クリミナル)にのみ耐性が持てる毒ガスでも散布(さんぷ)して島の者を一網打尽(いちもうだじん)にして殺してしまえば、金雀児(えにしだ)奈樹(なじゅ)を取り戻すことは簡単なのよ。けど、頭領(とうりょう)はそのような下劣(げれつ)行為(こうい)(この)まない。それがイーバの方針だからよ」


勾玉「ゲームに……頭領か……イーバの目的はなんだ? 何故(なぜ)E兵器(クリミナル)を作り、世界を恐怖に(おとしい)れる?」


 ハルベルトは質問した勾玉を見る。


ハルベルト「俺達が語りたいならともかく、わざわざ質問に答えてやる必要はないんだな。さぁ、このまま降伏(こうふく)しなければ次はお前の番だな」


勾玉「動けない状態にして一方的になぶるとは……いい趣味(しゅみ)とは言えんな……」


ハルベルト 「一方的にいたぶる事は人間の好きなことなんだな」


蒼輝「ぐっ……!」


 ハルベルトは、蒼輝の背にどっしりと座り直した。


ハルベルト「本能で弱いものを痛め付けるのが人間 。その感情を理性で(おさ)えつけているだけなんだな。本当は甚振(いたぶ)りたくて仕方ないんだな」


奈樹「……」


 奈樹の記憶がフラッシュバックする。燃える廃墟(はいきょ)で人間を虐殺(ぎゃくさつ)した記憶。痛めつけるのが本能。それが自分自身の望んだことでなかったと思っていた。しかし、それが本能なら――自らが望んで殺したということも……。


 奈樹は顔を伏せた。蒼輝が()みつけられているのに、何も出来ない無力な自分にも嫌気(いやけ)()していた。



ハルベルト「人間は生まれた()が子を虐待(ぎゃくたい)して、他人を(ないがし)ろにし、自身を守る為に他人を(しいた)げる」


陽子「そして……(わず)かな違いのある者を差別し、排他(はいた)する……この私のような存在を」


勾玉「どういう……ことだ?」



 陽子は悲しげな瞳を浮かべていた。それは……陽子の過去に関係していることだと気付いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ