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蒼咎のシックザール  作者: ZERO-HAZY
第三章 冥幽との邂逅
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29-C -陰と陽-

陽子「……」


 イーバ内部。陽子は脱出ポッドの排出口(はいしゅつこう)の前に立っていた。真隣(まとなり)には雲間から見える青空が広がっており、髪もセーラー服もスカートもバサバサと(なび)いている。部屋の入口には、今日のお出かけ用に新調した帽子(ぼうし)(かぶ)った(ひいらぎ)アリス。


陽子「それじゃ、アリス。後で会いましょう」


アリス「はい。連絡があるまで転送室(てんそうしつ)で待っています」


 陽子は素直なアリスの様子を見て微笑(ほほえ)むと、外へ飛び出し、目的地を見据(みす)えたまま()(さか)さまに落下していった!

 その眼に映るモノはノスタルジア。まるでスカイダイビング。だが、パラシュートなどの荷物や道具は身につけていない。


 

 陽子は島の中央付近の平原を落下地点と定め、(いきお)いを上げてゆく!


 到着(とうちゃく)する前にクルリと半回転すると、地面に衝突(しょうとつ)しそうな(いきお)いだった身体が地面から2メートル手前ほどで急停止(きゅうていし)する。そのまま平然(せいぜん)と着地する陽子。



陽子「……」


 陽子は表情一つ変えず、前方に立っている人達を見た。


奈樹(なじゅ)「本当に……来たんですね。それも空から直接……」


蒼輝(そうき)「まさかイーバの者だったなんてな…」


陽子「お揃いみたいね…」


 陽子の前には蒼輝、奈樹、勾玉(まがたま)、マテリアが立っていた。


陽子「随分(ずいぶん)と数が少ないようだけど…これで全員なの?」


蒼輝「……」


 風魔(ふうま)刹那(せつな)、バサラとマリア、レイは島の各所(かくしょ)待機(たいき)していた。

 もしもイーバの侵略(しんりゃく)してきたE兵器(クリミナル)がバラバラで現れた場合の対処(たいしょ)だった。移動速度が(はや)い刹那は、(つね)に島全体を監視(かんし)することができ、逐一(ちくいち)状況変化が起きた時の伝達役(でんたつやく)として島を見て回っていた。


陽子「言うつもりはないのね。差詰(さしずめ)、島全体の警備(けいび)にでも回っているのかしら?」


勾玉「……そこまで(さっ)しがいいのであれば、(だま)っている必要は無いようだな」


陽子「そんなことしなくてもいいのに…。私達、イーバは正々堂々と戦うのだから」


奈樹「正々堂々なんて…イーバの口から聞けるなんて思いもしませんでした」


マテリア「陽子さん…アナタはE兵器(クリミナル)ですか…? それとも……」


 マテリアの質問に、陽子は(つつ)(かく)すことなくアッサリと答えた。


陽子「(あらた)めて自己紹介(じこしょうかい)しておくわ…。私はイーバ幹部(かんぶ)葛葉(くずのは) 陽子(ようこ)


蒼輝「やっぱり……幹部の一人だったってのかよ」


奈樹「どうして、二日前に島に来ていたか……答えてくれますか?」


陽子「言ったはずよ。観光(かんこう)に来たと」


奈樹「それだけだなんて信じられません…」


陽子「……そう。残念ね。手を出すことなく帰還したのだから、観光以外に理由は無かったと思って貰えるはずだったんだけど……。それじゃあ……そろそろ正々堂々と、増援(ぞうえん)を呼ぶことにするわ」


 陽子はポニーテールにしている髪留(かみど)めに(くく)りつけていた(つつ)を外し、手に取って(ふた)を開ける。それを地面に落とした。筒から黄色い(きり)が発生してゆく……。


陽子「穏便(おんびん)に始めましょうか……。戦いの場……咎霧領域(フォッグ・アリーナ)


 蒼輝達は、陽子は話し合えば(わか)り合える相手ではないかと考えていた。だからノスタルジアに一人で降り立っても手を出さなかった。だから今、この段階で不意打ちをすることは考えなかった。

 しばらくして、辺りが霧に包まれた。陽子は腕時計のスイッチを押した。これは、イーバへの通信サイン。少しすると陽子の後方に、二つの(かみなり)が落ちた!



ハルベルト「ようやく出撃だな……さぁ、任務(にんむ)の時間だな」


アリス「……」


 ハルベルト首を慣らしながら、ゆっくりと陽子の隣に歩く陽子。陽子はそれに合わせて、少し横に歩いて距離を()ける。アリスは前に出ず、陽子達の位置より5メートルほど離れている。


蒼輝「お前達も…幹部なのか…?」


ハルベルト「ハルベルト・レギールング。イーバ幹部の一人だな」


マテリア「……!」


奈樹「幹部が三人……!?」


陽子「一ヶ月間、タッップリと溜め込んでおいた咎値(きゅうち)だもの。けど……この後ろの子は気にしないでいいわ。ただの観戦者(かんせんしゃ)よ」


奈樹「観戦者……?」


アリス「はい。私のことは気にしないで下さい。幹部でも何でもありませんから」


 ニコッと笑うアリス。蒼輝達にとっては傍観(ぼうかん)するだけの意味が解らなかったが、三人掛かりでないのなら、その方がいいに決まっていた。だが、問題はその言葉が本当かどうかである……。


勾玉「その言葉を信用しろと言うのか?」


アリス「私は手を出しません。そういう、決まりです」


ハルベルト「戦いもしないのに、わざわざ連いてきた意味がわからないんだな」


陽子「……」


 わざわざ口にしなくてもいいようなことを言うハルベルトに嫌気(いやけ)が差す陽子。


蒼輝「まぁなにが狙いか知らないけど、手を出さないのなら好都合だぜ」


 蒼輝は陽子の言葉を信じた。アリスも見たところの印象で悪い子に見えなかったので、その言葉をそのまま信じた。


陽子「他の仲間は呼ばないの?」


ハルベルト「そうだな。たった四人なんて相手にならないんだな」


蒼輝「……」


陽子「まぁ気持ちはわからなくもないわ。一度に全員が集合して一網打尽(いちもうだじん)にされる方が都合が悪いものね」


奈樹「どうして……陽子さん……貴方からは殺気(さっき)闘志(とうし)微塵(みじん)も感じられないのは、どうしてですか?」


 奈樹は疑問(ぎもん)に思っていたことを質問した。


陽子「知りたいの? …まさか、私に戦う気が無いなんて思ってるんじゃないでしょうね?」


マテリア「少なくとも先日話をした時の感じからは…戦う気は感じられませんでした」


陽子「それはそうよ……だって……」


 ゆっくりと、指を広げた手を前に出した。


陽子「私の目的は戦うことじゃない。『降伏(こうふく)』させることだから」


 突如(とつじょ)、蒼輝達の身体に重力のような負担(ふたん)が掛かる!


陽子「重力空間(グラビティ・スペース)


 頭部(とうぶ)(かた)背中(せなか)(うで)(あし)(すべ)てに押さえつけられているかのような感覚が(おそ)う!


勾玉「これは……!」


マテリア「くぅ…うぅ…」


 真っ先にうつ()せに倒れたのはマテリアだった。身体中にのしかかる重力。耐え切れない者は地に伏せるのみとなってしまう。


蒼輝「クソッ…!」


 どうにかして重力が弱まらないかと(ねば)っていたが、蒼輝も倒れる。


勾玉「蛇炎(じゃえん)!」


 重みに耐える姿勢(しせい)(くず)さず、陽子に向かって炎を放った!


陽子「見え見えよ」


 重力を(あや)っているであろう手を差し出したまま、一歩横に歩くだけで炎を軽く回避する。


奈樹「…くっ…!」


 勾玉と奈樹も重力の前に平伏(ひれふ)し、うつ伏せで倒れてしまう。


勾玉「まさか重力を操る能力とはな…」


奈樹「しかしこのままでも…咎力(きゅうりょく)を放つことくらいなら…」


陽子「まだ戦う気でいるの? 動けないのに」


蒼輝「当たり前だろ! 俺達はイーバに(くっ)しない!」


ハルベルト「降伏すれば痛い目に合わずに済むのに、(おろ)かだな」


 咎霧領域(フォッグ・アリーナ)外の遠方から様子を見ていた刹那。

 

刹那「奈樹様が…このままじゃ…! 皆に知らせなくっちゃ!」


 持ち前の移動速度で、島の各所に居る風魔、バサラとマリア、レイの元へ転々と移動し、相手が重力を操って動けなくなっていることを伝えた。



 一方その頃……森の奥。


氷雨(ひさめ)「こんな良い天気なのに……雷が落ちませんでしたか?」


恋夢(こゆめ)「なんか怖いよ…」


 家の周囲を掃除(そうじ)していた氷雨と、(おび)えて氷雨に()きつく恋夢。


氷牙「おい、月花! この気配…イーバじゃねぇのか?」


 家の建っている()を背にして、もたれ掛かって座っている月花に呼びかける氷牙。


月花「……」


氷牙「オイオイ、知らんぷりか? 今頃(いまごろ)よぉ、他の奴らが戦ってんだろ?」


月花「…俺が行っても…役に立たないさ」


氷牙「何言ってんだテメェ?」


月花「俺は強くない……足を引っ張るだけさ」


 冥幽界(めいゆうかい)で、アスモデス四死公(ししこう)のキマイレス相手にまとも戦えなかった。他の者達は四死公を倒したのに、自分だけ敗戦(はいせん)してしまった。それによって自信を喪失(そうしつ)していた。


シアン「親分(おやびん)、ほっときましょうよ。やる気ないってんなら無理に言わなくても……」


月花「もうそっとしておいてくれ……」


氷牙「そうはいかねぇん…だよ!」


 氷牙は月花の胸ぐらを(つか)んで立ち上がらせ、(ほほ)(なぐ)った! 月花が吹き飛び倒れる。


氷雨「月花様!」


 氷雨が月花へ()()る。


氷雨「旦那(だんな)様……! 一体何故……」


月花「…っ…。なにを……」


 月花は氷の(かたまり)を作り、頬に当てて冷やす。


氷牙「俺がイーバの刺客として島に来た時は何だったんだよ。テメェは真っ先に俺の前に来ただろうが!」


月花「俺は自分の弱さを知ったんだ…」


氷牙「あぁ!? じゃあ、今度から自分より弱い奴としか戦わねぇのかよ!? 違うだろうが。相手の強さがどうだろうが、堂々と立ち向かっていけよ!」


月花「……」


氷牙「俺の前に立ちはだかった月花って男はな…こんなヘタレじゃねぇんだよ。死んでもいい覚悟をして戦ったテメェは何処(どこ)に行きやがった!?」


月花「氷牙…」


 黒猫と呼ばれ一人だった時……ノスタルジアへ凶悪兵器(きょうあくへいき)抹殺任務(まっさつにんむ)を受けて()り立った時……イーバの侵攻が来た時に氷牙と戦った時……冥幽界に乗り込んだ時……。その時の月花は無謀(むぼう)だった。恐れを知らない、失敗を考えない。

 少なくとも、氷牙が知っていた月花はそういった姿だった。


 しかし……再会してからの月花は(たましい)が抜けたかのように、何もやる気がないような状態だった。まるで()の当たらない(かげ)(おお)われた場所に咲いた花。心まで(かげ)に染まっているかのようだった。


氷牙「氷雨ちゃんを追わせたときみたいに、いちいち俺が言わなきゃ走り出せねぇようになっちまったのか!? 何とか言ってみろよ!」


氷雨「…月花様……旦那様……」


月花「……」


 心配そうな表情で、氷牙と月花を交互に見る氷雨だった。月花は(だま)って、氷牙を見ていた。その視線、(ひとみ)に徐々に決意が宿(やど)る。氷牙の言葉の一つ一つの熱意によって、凍りついた心が少しずつ溶けていくかのような気分だった。



 

 ――イーバ幹部が降り立った場所へと風魔、刹那、バサラとマリア、レイが向かい、咎霧領域(フォッグ・アリーナ)へ到着した。そこには……。


レイ「これは……隔離(かくり)されているみたいだね」


風魔「咎霧領域(フォッグ・アリーナ)の外部に結界を張ったのかな」


 皆は何処(どこ)かに入口となる部分が無いか、手分けして探した。周りには四つの柱。それぞれが柱の前に立つ。


マリア「バサラ! この柱……生きている!」


 四つの柱と思っていたモノは、グニャグニャと形を変えて、人型へと変化していった。


バサラ「やってやろうゼ……コイツを倒せば、この結界を破壊できるもな」


 四つの柱だったものが変化した人型の生物。風魔、刹那、バサラとマリア、レイは結界を打ち砕くために立ち向かうのであった。



 ――咎霧領域(フォッグ・アリーナ)内部


ハルベルト「鉱石球体場(こうせききゅうじょう)…アレキサンド・ランド」


 鉱石で(おお)われた咎霧領域(フォッグ・アリーナ)の内部。ハルベルトの咎力(きゅうりょく)で作り出された結界が発生していた。


陽子「結界……余計なことしなくてもいいのに」


ハルベルト「結界の外には鉱物兵士(ハード・ソルジャー)が配置され、外部からの破壊による侵入を防ぐんだな。今ここで、任務を確実に達成させるためだな」

 

奈樹「このままでは…何も出来ずに……」


 作り出された鉱石結界(こうせきけっかい)の中、イーバ幹部の陽子、ハルベルト、そして観戦しているアリス。のしかかる重力によって倒れたままの蒼輝、奈樹、勾玉、マテリア。

 こうしてイーバ幹部二人との戦いは始まった……しかし、状況は最悪と言える状態だった。




 第二十九話 -(いん)(よう)- End

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