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蒼咎のシックザール  作者: ZERO-HAZY
第三章 冥幽との邂逅
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29-B -陰と陽-

 私は粒子帰還(リターン)でイーバへと帰還(きかん)した。今日はハルベルトの出迎(でむか)えがないようで、気分良く廊下(ろうか)を歩いていく。


陽子(ようこ)「……」


 すれ違う兵達が挨拶(あいさつ)をしてくる。ここ数日、私は頻繁(ひんぱん)にイーバを出入(でい)りしている。兵の(あいだ)でもたった一人の女幹部(おんなかんぶ)ということが知れ渡っていた。私の耳には、上司(じょうし)(おそ)れを(いだ)く声、(はん)して私を尊敬(そんけい)するような声が聞こえる。

 ……中には気持ちの悪い欲望(よくぼう)を語る者もいるけど…気にしていても仕方なかった。

 私は真っ先に、ある一室に向かった。そして、そのドアをノックをして中に入った。乙女チックな部屋にいる一人の少女は私に気が付いて立ち上がった。両手を後ろに回し、少し前かがみになって(よろこ)びの()みを浮かべた。


挿絵(By みてみん)

アリス「陽子さん! お帰りなさい」


陽子「ただいま、アリス」


 私の管理しているE兵器(クリミナル)(ひいらぎ)アリスの部屋に入る私。アリスは私の胸へと飛び込んでくる。


アリス「もしかして、今日は時間あるんですか?」


陽子「そうね…少しゆっくりしていこうかしら」


アリス「(うれ)しいっ! カモミール()れますね!」


 アリスはトコトコと(そな)え付けのキッチンへ歩いていく。本当に可愛い子。私の…妹のような存在。

 

陽子「……」


 私の脳裏(のうり)に、ノスタルジアで()わされた会話が(よみがえ)る。陽子に…私に姉妹がいるのなら…。それはアリス。私の可愛い…妹のような存在。そして、この子には(かげ)である部分がある…。

 光と影。それがアリスの本質。私が()であるのなら…アリスに(かげ)そのものなのかも知れない。


 アリスはティーカップに入れたカモミールティーを持ってきた。テーブルの上に置く。私はアリスと一緒に一口味わい、香りを楽しむ。ハーブは心を落ち着かせてくれる。

 落ち着きはアリスには必要な物……。この子にストレスを(あた)えないように、望む物は可能な限り与えてきた。


アリス「陽子さんってば!」


陽子「…! えっ…ごめんなさい、考え事をしてしまって…」


アリス「疲れているんですか? 大丈夫ですか?」


 さっきまで(ほお)(ふく)らませていたのに、すぐさま心配してくれるアリス。


陽子「ねぇ、アリス」


アリス「はい!」


 笑顔を浮かべ、元気よく返事をする。本当に私のことが大好きなのが真正面から伝わってくる。それもそのはず。この子には…私しかいないのだから…。私にとっても…。

 だからこそ、アリスを大切に思うからこそ、私が考えた案。


陽子「アリス。二日後に地上へ侵攻へ行く。アリスも私に付いてきなさい」


アリス「……! それって…!」


 椅子に座っていたアリスが立ち上がり、少し身を乗り出した。


アリス「実戦の出撃許可ですか!? とうとう私も…」


陽子「それは違うわ」


アリス「えっ…?」


陽子「まだ、アリスに戦闘許可は下りていない」


アリス「えっ…? それじゃあ、どうして地上に…」


陽子「戦いを見ておいて。それでいて、絶対に手を出さないこと。」


アリス「……」


 アリスのブレやすい精神状態。それを安定させる為には、あのノスタルジアの連中と接触させてみること……。実戦の現場を間近(まぢか)で見せることが一番だと思ったからだった。


陽子「いい? 何があってもアリスは目標にも、目標以外にも手を出してはいけない。ただ、見ているだけ……。それが守れないのなら……連れて行くことは出来ない」


アリス「……わかりました。私、陽子さんと居れるなら……我慢(がまん)します」


陽子「(えら)いわ、アリス」


 不満そうな顔をしていたけれど、()めるとパッと(うれ)しそうな表情をした。子供のように純粋(じゅんすい)で、本当に(あい)らしい。だからこそ、恐ろしい一面を持っているのだけれど……。


 そうして私は、しばらくアリスと談話(だんわ)した。二日後の決戦まで……私は私の望む通り、学校へ通う。




 一方その頃……ノスタルジア。

 陽子と(じか)に接触した蒼輝(そうき)奈樹(なじゅ)、マテリア、颯紗(さらさ)必要(ひつよう)最低限(さいていげん)連絡しておきたい者で、近場に居た勾玉(まがたま)風魔(ふうま)、バサラと一緒にムトの家へ行って事情を説明していた。


勾玉「……本当にイーバの者なのか?」


 勾玉は、(にわ)かに信じがたいと言った感じだった。それもそのはず。イーバの者が何も危害を加えて来ず、自然に会話までするという事態。あまつさえ、侵攻に来る日を伝えて帰っていったという。

 そもそも幹部であれば咎霧領域(フォッグ・アリーナ)が発生していなければ、おらず、偵察(ていさつ)に来ていたということ自体が信じられたなくなるのも無理はなかった。


奈樹「間違いありません。あの光は…エビルやマッドがイーバへ飛んでいったものと同じでした」


風魔「……」


ムト「しかし、二日もあれば対策を練ることも可能じゃ。来る日が知れておるのなら、島全体の警備もできる」


蒼輝「仲間も随分増えたし、対策なんて無くても幹部の一人くらいならすぐに撃退できるさ」

 

奈樹「そう……かしら?」


 蒼輝は奈樹を見た。


奈樹「わざわざ私達に知らせにきた。これは……絶対的な自信なのかも知れないってこと」


マテリア「……幹部も…一人じゃないかも知れないです」


勾玉「有り得るな。以前、エビルからマッドまでの間が二週間だった」


蒼輝「? それがどうかしたのか?」


風魔「マッドが来た時から、どれくらい経過したか覚えてる?」


颯紗「一ヶ月……」


勾玉「そう、つまり幹部二人が降り立つ分の咎値が溜まっていても不思議ではない」


 皆は黙った。もし幹部が二人来たら……その時に戦いに勝利することは可能なのか……? などと考えていたからだった。


ムト「ふむ……その咎値というやつを感知する装置を作ったほうが良さそうじゃの」


 自分で言いつつ制作意欲が湧いてきたのか、ムトは少しウキウキしたような動きをする。


颯紗「また……戦いが…」


奈樹「大丈夫。颯紗は絶対に私が守るから」


マテリア「そうです。私も一緒だから、颯紗さんは安心するです」


 不安そうにしていた颯紗を(はげ)ます奈樹とマテリア。



 この場に居ない者にも、二日後は蒼の館か花の屋敷に避難(ひなん)するように伝えた。

 そうして……あっと言う間に二日が経過した。

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