29-A -陰と陽-
遠く離れたグリーミア大陸から、八束水 氷雨という少女を連れてノスタルジアへとやってきた刃塚 氷牙とシアン。
氷雨は探し人が居た。その人物とは月花だった。月花と氷雨は八束水家で育てられた幼馴染らしく、当時は身の回りの世話をしていたという。
氷牙とシアンはノスタルジアの森の中に家を建て、月花と氷雨、そして居合わせた恋夢と一緒に住むことが決まった。
……一方その頃。蒼輝、奈樹、マテリア、颯紗の前に……正体を明かしていないイーバ幹部の葛葉 陽子が立っていた…。
奈樹「ん……」
颯紗「よかった…目を覚まして」
奈樹「私……。そうだ……恋夢ちゃんに驚かされて…」
マテリア「すぐに目が覚めて良かったです」
奈樹は陽子の姿に気が付いた。陽の光で輝いているように見える金髪、風に揺れるポニーテール。片目が隠れ気味で、その影響か少しミステリアスな雰囲気がする印象を受けた。
奈樹「あっ…」
奈樹が目覚めるまで、皆で雑談をしていた。内容は氷牙達とたまたま遭遇して一緒に行動していたこと。意識が戻ったので、自己紹介をすることにした。蒼輝、マテリア、颯紗が挨拶をした。そして奈樹も自己紹介した。
奈樹「私は金雀児 奈樹です。よろしくお願いします」
陽子「よろしくね。私は葛葉 陽子。太陽の陽に子供の子で陽子よ」
蒼輝「ほほう……陽子って姉妹がいるのか?」
陽子「いえ…姉妹は居ないけど…どうして?」
蒼輝「名前が陽子だから、妹に陰子とかいると思って…」
颯紗「そんな安直な…名前に銀が入っているとしても、兄弟に金がいるなんてことはないと思う…」
蒼輝「そ、それもそうか」
マテリア「インコだと鳥の名前になるです」
蒼輝と颯紗のやり取りと、マテリアの発言に笑う陽子。
陽子「クスッ…。そうね…けど陰子って悪者の名前に感じるわ。陰湿なイメージがする」
蒼輝「人の心には、陰と陽…影と光がある。仮に陰湿なイメージがしても、きっと明るい心を持ってたりするものだぜ」
陽子「そう…。だったら……陽である私の心には影があるってこと?」
蒼輝「あぁっ、いやいや、そういう意味で言ったんじゃなくて…」
機嫌を損ねてしまったと思って、急いで謝る蒼輝。
陽子「気にしてないから。ところで…どうして車椅子に座っているのかしら?」
奈樹「ちょっと先日から風邪で…随分と良くなりましたけど」
陽子「風邪…。早く治るといいわね。出来るだけ早く、万全に」
奈樹「はい、もう二日ほどあれば完治すると思います」
奈樹は心配掛けさせまいと、柔らかく微笑んだ。
陽子「そう…。それじゃ…観光は終わりにして、そろそろ帰ろうかしら」
蒼輝「帰るのか? もっとゆっくりしていっていいんだぜ」
マテリア「また会えるですか?」
陽子「えぇ、会えるわ。近い内に…」
颯紗「あっ…皆で見送りに……」
陽子「ここで構わないわ。それと…少し離れておいて」
陽子は静止するように、手を伸ばした。そのまま距離を空けていく。
蒼輝「離れる?」
陽子「えぇ。近いと眩しいから」
奈樹「眩しい…? 一体どういう…」
陽子「金雀児 奈樹と、そのお仲間さん…また会いましょう。恐らくは二日後…『次は、敵同士として』」
その言葉に驚く蒼輝達。陽子の身体が光の粒子に包まれてゆく。
陽子「粒子帰還」
光と共に、空へと飛んでゆく! 蒼輝達は、その様子を黙って、何も言えずに見ていた。
蒼輝「……」
マテリア「……」
颯紗「き…消えちゃった…どういうこと…?」
奈樹「あれは…イーバの…帰還技術…」
颯紗「イー…バ? 陽子さんはイーバの人だったということ……?」
奈樹「それだけじゃない…『次は敵同士』と言った…。つまり…イーバのE兵器…もしくは…」
マテリア「幹部…」
皆は黙った。今、起きた出来事を脳内で整理していた。
蒼輝「二日後…二日後にイーバがノスタルジアへ来るってことか!?」
奈樹「皆に伝えなきゃ…!」
颯紗「……」
蒼輝達は急いで蒼の館へと移動し、仲間達を集めて集合することにした。