3-B -風の落とし子-
蒼輝と勾玉がぶつかり合った同日。弁当を届けてくれたE生物の子供達と打ち解ける奈樹。昼食後、蒼輝は眠ってしまい、風魔と奈樹は二人で散歩に出た。
一本だけ大きな木がそびえ立つ丘。島のほぼ真ん中にある為、この場所から色々な場所が見渡せる。
風魔「あそこがさっきまで居た森だよ」
風魔が指をさす。そのまま商店街の場所も教える。何故かは説明しなかったが、奈樹が一人で行かないように忠告する。
奈樹「あそこは…?」
風魔「あれは公園。その隣に崖があって、その下は浜辺だね。あぁ、崖には手すりがあるから安心して。まだ春だし、もうちょっと暑くなったら浜辺で泳いでもいいんじゃない?」
今まで森の中にしかいなかった奈樹は、見晴らしの良い風景に見とれている。
風魔「ねぇ…奈樹さん…」
奈樹「はい?」
奈樹が風魔の方を振り向く。しかしそこに風魔はいない。
奈樹「えっ…? …!」
後ろから肩に手を置かれる。
風魔「隙だらけだね…それでも戦闘用のE兵器?」
奈樹は硬直している。
風魔「戦闘用なら察知能力くらいあるはずなんだけどな…。で、奈樹さんは創造型? それとも改造型?」
奈樹「…!」
風魔「せっかく『誰もいなくて』静かな場所なんだからさ。教えてくれてもいいんじゃない?」
肩に乗せていた手がゆっくり動き、指が首筋に触れる。触れられた感触と『誰もいない』と言う言葉に奈樹はビクッと反応し、後ろを向けずに僅かに震え始める。
奈樹「目的は…なんですか…?」
風魔「俺ね…君のこと…昔から知ってたよ」
奈樹「……!?」
風魔「金雀児博士が娘だか孫だかのように可愛がっているE兵器がいる…。E生物落ちになって廃棄寸前だった所を博士が拾ったとかね。意外な出来事だったせいで、当時のイーバでは有名な話だったからね。下の名前しか知らなかったから、最初は君のことって気付かなかったけど」
奈樹「…あ…あなたは…一体…何を知って…」
風魔「今…イーバで何が起きているのか…。一体何があってこの島へ逃げてきたのか…。色々興味あってね…そういうのも聞きたいんだよね」
奈樹「貴方は…貴方は何者なんですか…!?」
風魔「ここまで言ってても気付かない?」
指を銃のように二本指を立て、奈樹の首筋に触れる。そして耳元で囁いた。
風魔「君と同じ『E兵器』だよ。」
ガサガサッ。木の枝が風で大きく揺れた。奈樹の心の動揺と同調するかのように。
「おい、蒼輝。」
勾玉が寝ている蒼輝を起こす。
蒼輝「ん…?あっ…勾玉…戻ってたのか…! さっきはスマン! 結構マジで殴って…」
勾玉「構わん…。泉で殴られた箇所と…頭も冷やしてきた…。俺こそ冷静になれなくて、すまなかった」
蒼輝と勾玉はお互いを理解し合うように笑う。
蒼輝「そうだ。届けてもらったからさ、弁当あるから食えよ?」
勾玉「あぁ…それより…風魔と奈樹はどこへ行った?」
蒼輝「え?」
小屋の中を見渡すが、二人の姿はない。
蒼輝「飯食ったら寝ちまったからなぁ…。風魔が一緒だし安心だと思ってな…あっ、もしかしたら二人で散歩でも行ってるんじゃないか?」
寝起きな蒼輝は伸びをして、頭を掻きながら言った。
勾玉「まぁ…風魔が一緒なら心配はないだろう」
蒼輝「勾玉が弁当食い終わったら、二人に合流しに行くか」
そう言ってホームでのんびりする蒼輝と勾玉。
一方その頃、丘の上では強い風が吹いていた…。