27-C -暗躍の交錯-
魔王アスモデスと戦いを開始した蒼輝、奈樹、勾玉、風魔。
背後からの一撃を狙ったものの、既に性格から攻め手を読まれていた風魔は闇術によって天井に叩きつけられた。
三人でアスモデスに立ち向かうが、アスモデスの力が上回っていた……。
アスモデス「闇術…ダーク・ショット!」
20近い闇の弾丸が蒼輝に向かう! 身体を捻ることで回避しようとするものの数発被弾してしまう!
蒼輝「ぐっ……!」
蒼輝はゴロゴロと転がって倒れる。倒れていた奈樹は、ゆっくりと立ち上がった。アスモデスの攻撃で倒れている蒼輝。勾玉は一人でアスモデス相手に善戦していた。
勾玉「……っ!」
激しく燃える炎が拳に宿る。攻撃を回避し、何度もアスモデスの身体へ撃ち込む。飛竜一族の得意とする戦い方。剣を捨てて体術の鍛錬にのみ専念してきた勾玉は、見違える程に強くなっていた。
アスモデス「これしきで……余を倒せると思うな!」
咎力を身に纏い、それを急激に放出して爆発を起こす! 勾玉は爆発に巻き込まれないように、距離を空けてジャンプして着地する。
蒼輝「ぐっ…ダメだ…! このままじゃ…勝てないぜ…」
勾玉「ハァ……ハァ……四死公の力を吸収せずとも……人間と悪魔に……ここまで力量差があるとは…」
凄まじい耐久力。このまま攻撃を続けても、先に自分達が消耗し切ってしまうのは時間の問題だった。
蒼輝「…! 奈樹は…!?」
見渡すが奈樹の姿が無い。 その時、アスモデスの背後に強力な咎力が発生する! そして、奈樹が背後からアスモデスに掴みかかっていた!
アスモデス「なに…!? くっ…余から離れろ!」
身体をブンブン振り、奈樹を振り落とそうとする! 奈樹にゆらゆらと白い炎を身に纏うようなオーラが発生する! それは……禁術。
奈樹「聖術…セイント・バースト…!」
奈樹はアスモデスもろとも、大爆発を起こす!
蒼輝「奈樹……ッ! 奈樹ーーーーーーー!」
自爆戦法。強大な咎力を至近距離で、アスモデスの身体へ直接発生させた。相手にもダメージが大きいが、自分にもダメージが大きい諸刃の剣。焦げてボロボロになった服。煙を上げながら、放物線を描いて奈樹がゆっくりと吹き飛ぶ。
蒼輝は急いで落下地点へ走り、その小さな身体を受け止める。
蒼輝「奈樹!」
奈樹「ぐ…ぅ…」
目を強く閉じて、痛みに耐えている奈樹。蒼輝は奈樹を横にして寝かせる。
蒼輝「なんで…こんなムチャしたんだよ…!」
奈樹「ハァ…ハァ…。こう……するしか……」
勾玉「かなりダメージは負わせれたようだが…」
フラフラとしながらも、まだアスモデスは立っている。だが、かなりのダメージを負わせれたのは確かだった。
蒼輝「クソッ…! まだ…」
蒼輝の手が、小さな手に握られた。ボロボロになった奈樹の手だった。
奈樹「蒼輝…お願い…。蒼輝…」
蒼輝「なんだ…? 奈樹…」
痛みを我慢しながら出す、小さな声。蒼輝は手を握られたまま、耳を近付けて言葉を聞き取る。蒼輝は迷うことなく、奈樹の提案を受け入れた。その内容は…。
蒼輝「確かに…受け取ったぜ…奈樹…!」
奈樹の聖術の咎力が、蒼輝の手に宿る…! そしてその咎力が長く伸びる。それは白い炎で作られた剣。小さく揺らめきながら燃える、邪を切り裂く聖剣。
蒼輝「聖術…セイント・ソード」
蒼輝が持つ聖術の剣。奈樹はその姿を見て、柔らかく微笑んだ。残った力を蒼輝に全てを託した。それを受け入れてくれた。
アスモデス「クッ…」
アスモデスに聖術が有効なことは把握していた。蒼輝が走る! 勢いを付けてジャンプし、剣を上に翳す!
勾玉「コイツも…受け取れ!」
勾玉が両手で放った二つ炎。その咎力がセイント・ソードへと吸収される!
アスモデス「そんなもの…受け止めて…。ぬ…! なんだ…これは…!」
風魔「わざわざアンタの攻撃を受けただけあったよ……。気付かれずに完成させることができた。発動せよ、風陣結界・天狗風の包囲」
アスモデスの周りに凄まじい風が吹き荒れる! アスモデスは天井に張り付いたままの風魔を見上げる。
アスモデス「…風魔…!」
風魔「結界の詠唱と発生に手間取ったけど…これでアンタは逃げられない。後は頼むよ、蒼輝」
風魔は天井から風の咎力を放つ。蒼輝の持つセイント・ソードへ吸収される! 炎、風、聖の力を融合させた剣で、蒼輝は身動きの取れないアスモデスの上から剣を振り下ろした!
蒼輝「双蛇烈風聖光斬!」
一刀両断。蒼輝は真っ直ぐ切り裂いて着地した。セイント・ソードで斬られたアスモデスが炎に包み込まれ、風が吹き荒れ、刃のように身を刻む! そして聖術の白い爆破が巻き起こる!
その凄まじい衝撃によって蒼輝は吹き飛ばされ、ゴロゴロと奈樹の近くにまで転がる。セイント・ソードは消滅した。
蒼輝「ハァ…ハァ…。やったか…?」
勾玉「これで決まらなければ…もう力は残ってないぞ…」
風魔は天井から蒼輝達の近くに落下し、地面に落ちる直前にフワリと風を起こして勢いを殺し、ゆっくりと着地する。が、余力が無いのか膝が折れて座り込む。
風魔「付き合い長いけど……何気に三人で共闘したのって初めてだったなぁ。流石に今回は疲れたな…」
横になっている奈樹は、アスモデスが居た場所を見つめていた。爆発による煙で、その様子が見えない。
奈樹「……!」
アスモデスは立っていた。ボロボロになりながらも、まだ立っていた。
アスモデス「余を…ここまで追い詰めるとは…な…」
蒼輝「マジかよ…!」
セイント・ソードは、もう残っていない。奈樹は立ち上がれる状態ではなく、勾玉も風魔も余力は残っていない。
勾玉「くっ…」
風魔「……」
蒼輝は奈樹を庇うように、背にしてしゃがんでいる。勾玉と風魔は膝を付き、ただただアスモデスを見ていることしか出来なかった。
アスモデス「どうやら動けぬようだな…ならば喰らうといい…余の力を…!」
アスモデスが咎力を溜めた…! もう、この力の前にどうすることも出来ない…そう思い蒼輝は動けない奈樹を守るように抱きしめた。
奈樹「蒼…輝……」
蒼輝「奈樹…奈樹だけでも…生き残ってくれ…!」
奈樹「ダメ…蒼輝…そんなの…ダメ…!」
蒼輝にはもう対抗する力が無かった。せめて、守ると誓った奈樹だけでも……そう決意しての行動だった。咎力を溜めるアスモデス…しかし、その力は停止した。
蒼輝「…!」
アスモデス「ぐっ…」
聞こえたのは銃声。アスモデスは血を吐き出し、ゆっくりと背後を振り返った。
『all right all right! 結構結構。悪魔掃除の時間だ』
アスモデス「な…に…」
四死公のキマイレス。その散弾銃の弾がアスモデスを貫通していた。
アスモデス「何故だ……何故……余に手を掛ける……!?」
キマイレス「冥土で冥土の土産に教えておこう、俺はただの悪魔じゃない。ただの流浪の旅をしていた悪魔でもない。別国からアスモデスの建国を阻止するように雇われた…アサシンだ」
アスモデス「…バカな…そんなこと…」
キマイレス「横暴すぎた。悪魔に対する傍若無人な扱い。無理矢理に妃にする者を拐い、四死公とした手下さえその身に吸収しようと企てていた。王になる器じゃないってことだ。消え去れ、アスモデス」
キマイレスが銃を乱射し、アスモデスを撃ち抜く! アスモデスは叫び声を上げることすらままならずに力尽き、火の玉のような魂となった。
その様子を見ていた蒼輝は、呆然としていた。
蒼輝「た…助かった…のか…?」
勾玉「……」
勾玉は、まだキマイレスが敵として襲ってくる可能性を捨てず、余力は残っていないが身構えていた。
バサラ「おーい! 大丈夫かー!」
下の階からやって来たマテリア、バサラ、マリア、レイ、月花が合流した。
風魔「ふぅ…終わったね。お疲れサン、キマイレス」
皆が一斉に風魔を見た。
勾玉「どういうことだ…?」
キマイレス「俺は風魔がアスモデスの所へ訪れ、配下になりたいと申し立てた時点で狙いに気付いていた。そして俺は自分の目的を風魔に教えることを条件に問いただしたのさ」
風魔「俺達の目的、キマイレスの目的はどっちもアスモデスを倒すことだった。利害が一致していたから、手を組んで暗躍していたのさ」
マテリア「私と勾玉さんを捕らえた理由は…?」
風魔「作戦通り召喚術で城を壊しながら進むなんてやったら、アスモデスと四死公が手を組む可能性が少なからずあったかも知れない。四死公だけを倒し、その力を得ようとするアスモデスを阻止すること以上に厄介な展開になりかねない」
キマイレス「仲間を裏切って捕らえたなんて非道なことすれば、アスモデスの信用を勝ち取れる。尚、騙しやすい環境が整うってワケだ」
マリア「仲間である者達がどう動くか未確定なのに、そんな非人道的な行為をやってのけるなんて、私には考えられません」
人を信じることを第一に考える聖女にとって、味方を騙す作戦なんて考えられなかった。
風魔「夢物語のようだけど……少なくとも、蒼輝と勾玉は俺に何か考えがあるに違いないって信じてくれてる……そう俺も信じてたってことさ」
蒼輝「まぁ…本当に考えがあってくれて助かったぜ」
奈樹「うん…。えっと…あの…蒼輝? そろそろ放してくれても…」
蒼輝は奈樹を抱きしめたままだった。アスモデスの攻撃から身を庇うために、抱きしめた時からずっと同じ姿勢だった。
蒼輝「あぁ! ご、ゴメン!」
そっと奈樹を寝かせた。ボロボロになっている奈樹を見たマリアは駆け寄り、奈樹の横に座る。
マリア「治療します。そのまま安静にしていて下さい」
マリアが法術で奈樹の治療を開始する。
蒼輝「そういえば…四死公はどうなったんだ?」
『私なら無事ですわ…』
声のした方を見た。そこにはグレモリー…そして…隣には紫闇が立っていた。
蒼輝「紫闇!」
バサラ「俺達が紫闇を救出したんだゼ。」
バサラ、マリア、レイ、月花がキマイレスの後を追って進んだ先……その道は地下牢へと繋がっていた。
見張りが居なかったため、すぐさま勾玉、マテリア、紫闇を救出した。すると、そこへキマイレスが現れた。勾玉とマテリアだけ先へ進ませ、キマイレスは残った者達へ風魔との暗躍を全てを語った。
レイ「四死公の力そのものである魂が奪われることは阻止することは出来ないが、それを奪い返して肉体へ戻すことはできると知った」
四死公の魂を吸収しようとしていること、四死公が倒されれば動けない内に魂を奪うと考えているということ、そして抜かれた魂を元に戻すことが必要ということをキマイレスから聞いた。
アスモデスと戦っていた部屋から出て、四死公の魂を持って戻ったマテリア。バサラ達は四死公の魂を元の肉体に戻していたため、来るのが遅れたのだった。
キマイレスだけは動けないほどの傷を負ったわけではなかったため、魂を抜かれずに済んだ。
月花「だから戦いの途中で立ち去ったわけですね……」
本気で立ち向かったのにも関わらず、キマイレスにイイ様に使われていた気がして、あまりいい気はしていなかった。
勾玉「それで…残りの四死公は…?」
グレモリー「…アスモデスにイイように使われちゃったことで、プライドが傷付いたみたい…。もう城から去って行きましたわ」
紫闇「私を救うために…生幽界から来るとは…。そして四死公だけでなく、アスモデスさえも倒してしまうとは……信じられない…ありがとう」
蒼輝「礼なら月花に言ってやってくれよ。一番乗り込む気満々で、月花が言い出さなかったら俺達もここまで来たかわからないからな」
紫闇は月花を見た。
紫闇「ありがとう…。この恩はいつか返そう…。勿論、島の者達にもだ」
月花「いえ…俺は特に何かできたわけじゃないんで…。ここまで来たのは…ただ紫闇さんを放ってけなかっただけですから」
紫闇「優しいんだな…君は」
そう言って少しだけ笑った。グレモリーが後ろから、紫音の両肩に手を置く。
グレモリー「さて、紫闇…戻りましょ。その失った眼の治療もしないと」
蒼輝「治せるのか?」
グレモリー「……無理かも知れないけど…試さないより…。ね? とにかく検査しなきゃ」
レイ「とにかく、一件落着と言ったところだね」
キマイレス「それじゃ、俺はそろそろ国に戻る。また会うことがあれば、会おうじゃないか」
風魔「あぁ。またいずれ」
キマイレスは人差し指と中指を立てて別れの合図をした。勾玉とマテリアが突入して倒壊した壁から飛び降りて出て行った。
勾玉「結局……あの四死公キマイレスがいなければ…俺達が紫闇を救うことは不可能に近かったということか…」
マテリア「色んな偶然が重なったことで達成できたです」
バサラ「まぁ…俺はゼパイルに借りを返せて満足だけどな」
レイ「ふふっ…。悪魔との戦い…楽しめたね」
マリア「やっぱり…治らない…」
皆が、一人呟くマリアを見た。
バサラ「おい、どうしたんだ? マリア」
マリア「以前もそう…私の法術では、奈樹さんだけが治療することができない…」
蒼輝「一体なんで…」
そう言った瞬間、脳裏に過った可能性。それは奈樹が変貌した姿や、人間の血でないものが影響しているのかもしれなかった。
奈樹「大丈夫です…動けないだけで…そこまで辛い状態ではないので…」
マリアは治療を中断した。ムトから渡された傷を癒すスプレーを使ったが、こちらもあまり効果が無かった。奈樹を休ませるために生幽界に戻ることにした。蒼輝は奈樹をおぶって立ち上がった。
こうして、アスモデスを倒した一同。四死公は解散し、紫闇は自由の身となった。
出口である冥幽界へ降り立った地点へ戻るため、城の門へ向かった。
まだ残っている、火の玉のように浮かんでいるアスモデスの魂。球体型の機械を向けると、魂が中へと吸い込まれる。それを握って、ニヤリと笑っていた。
風魔「悪魔王アスモデスの力……封印完了…」
風魔はその機械をポケットに入れ、何食わぬ顔で皆と合流した…。
第二十七話 -暗躍の交錯- End