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蒼咎のシックザール  作者: ZERO-HAZY
第三章 冥幽との邂逅
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27-C -暗躍の交錯-

 魔王アスモデスと戦いを開始した蒼輝(そうき)奈樹(なじゅ)勾玉(まがたま)風魔(ふうま)

 背後からの一撃を狙ったものの、(すで)に性格から攻め手を読まれていた風魔は闇術によって天井に(たた)きつけられた。

 三人でアスモデスに立ち向かうが、アスモデスの力が上回っていた……。


アスモデス「闇術…ダーク・ショット!」


 20近い闇の弾丸が蒼輝に向かう! 身体を(ひね)ることで回避しようとするものの数発被弾してしまう!


蒼輝「ぐっ……!」


 蒼輝はゴロゴロと転がって倒れる。倒れていた奈樹は、ゆっくりと立ち上がった。アスモデスの攻撃で倒れている蒼輝。勾玉は一人でアスモデス相手に善戦していた。


勾玉「……っ!」


 (はげ)しく燃える炎が(こぶし)宿(やど)る。攻撃を回避(かいひ)し、何度もアスモデスの身体へ撃ち込む。飛竜一族の得意とする戦い方。剣を捨てて体術の鍛錬(たんれん)にのみ専念(せんねん)してきた勾玉は、見違える程に強くなっていた。


アスモデス「これしきで……()を倒せると思うな!」


 咎力(きゅうりょく)を身に(まと)い、それを急激(きゅうげき)に放出して爆発を起こす! 勾玉は爆発に巻き込まれないように、距離(きょり)()けてジャンプして着地する。



蒼輝「ぐっ…ダメだ…! このままじゃ…勝てないぜ…」


勾玉「ハァ……ハァ……四死公の力を吸収せずとも……人間と悪魔に……ここまで力量差(りきりょうさ)があるとは…」


 凄まじい耐久力(たいきゅうりょく)。このまま攻撃を続けても、先に自分達が消耗(しょうもう)し切ってしまうのは時間の問題だった。


蒼輝「…! 奈樹は…!?」


 見渡(みわた)すが奈樹の姿が無い。 その時、アスモデスの背後に強力な咎力(きゅうりょく)が発生する! そして、奈樹が背後からアスモデスに(つか)みかかっていた!


アスモデス「なに…!? くっ…()から(はな)れろ!」


 身体をブンブン振り、奈樹を振り落とそうとする! 奈樹にゆらゆらと白い炎を身に(まと)うようなオーラが発生する! それは……禁術(きんじゅつ)


奈樹「聖術…セイント・バースト…!」


 奈樹はアスモデスもろとも、大爆発を起こす!


蒼輝「奈樹……ッ! 奈樹ーーーーーーー!」


 自爆戦法(じばくせんぽう)。強大な咎力(きゅうりょく)を至近距離で、アスモデスの身体へ直接発生させた。相手にもダメージが大きいが、自分にもダメージが大きい諸刃(もろは)(つるぎ)()げてボロボロになった服。(けむり)を上げながら、放物線(ほうぶつせん)(えが)いて奈樹がゆっくりと吹き飛ぶ。

 蒼輝は(いそ)いで落下地点へ走り、その小さな身体を受け止める。


蒼輝「奈樹!」


奈樹「ぐ…ぅ…」


 目を強く閉じて、痛みに耐えている奈樹。蒼輝は奈樹を横にして寝かせる。


蒼輝「なんで…こんなムチャしたんだよ…!」


奈樹「ハァ…ハァ…。こう……するしか……」


勾玉「かなりダメージは負わせれたようだが…」


 フラフラとしながらも、まだアスモデスは立っている。だが、かなりのダメージを負わせれたのは確かだった。


蒼輝「クソッ…! まだ…」


 蒼輝の手が、小さな手に握られた。ボロボロになった奈樹の手だった。


奈樹「蒼輝…お願い…。蒼輝…」


蒼輝「なんだ…? 奈樹…」


 痛みを我慢(がまん)しながら出す、小さな声。蒼輝は手を握られたまま、耳を近付けて言葉を聞き取る。蒼輝は迷うことなく、奈樹の提案(ていあん)を受け入れた。その内容は…。


蒼輝「確かに…受け取ったぜ…奈樹…!」


 奈樹の聖術の咎力が、蒼輝の手に宿(やど)る…! そしてその咎力が長く伸びる。それは白い炎で作られた剣。小さく揺らめきながら燃える、邪を切り裂く聖剣。


蒼輝「聖術…セイント・ソード」


 蒼輝が持つ聖術の剣。奈樹はその姿を見て、(やわ)らかく微笑(ほほ)んだ。残った力を蒼輝に(すべ)てを(たく)した。それを受け入れてくれた。


アスモデス「クッ…」


 アスモデスに聖術が有効なことは把握(はあく)していた。蒼輝が走る! (いきお)いを付けてジャンプし、剣を上に(かざ)す!


勾玉「コイツも…受け取れ!」


 勾玉が両手で放った二つ炎。その咎力がセイント・ソードへと吸収(きゅうしゅう)される!


アスモデス「そんなもの…受け止めて…。ぬ…! なんだ…これは…!」


風魔「わざわざアンタの攻撃を受けただけあったよ……。気付かれずに完成させることができた。発動せよ、風陣結界(ふうじんけっかい)天狗風(てんぐかぜ)包囲(ほうい)


 アスモデスの周りに(すさ)まじい風が吹き荒れる! アスモデスは天井に張り付いたままの風魔を見上げる。


アスモデス「…風魔…!」


風魔「結界の詠唱(えいしょう)と発生に手間取(てまど)ったけど…これでアンタは逃げられない。後は頼むよ、蒼輝」


 風魔は天井から風の咎力を放つ。蒼輝の持つセイント・ソードへ吸収される! 炎、風、聖の力を融合(ゆうごう)させた剣で、蒼輝は身動きの取れないアスモデスの上から剣を振り下ろした!


蒼輝「双蛇(そうじゃ)烈風(れっぷう)聖光斬(せいこうざん)!」


 一刀両断(いっとうりょうだん)。蒼輝は()()()()いて着地した。セイント・ソードで斬られたアスモデスが炎に(つつ)み込まれ、風が吹き荒れ、刃のように身を(きざ)む! そして聖術の白い爆破(ばくは)が巻き起こる! 

 その(すさ)まじい衝撃によって蒼輝は吹き飛ばされ、ゴロゴロと奈樹の近くにまで転がる。セイント・ソードは消滅(しょうめつ)した。


蒼輝「ハァ…ハァ…。やったか…?」


勾玉「これで決まらなければ…もう力は残ってないぞ…」


 風魔は天井から蒼輝達の近くに落下し、地面に落ちる直前にフワリと風を起こして(いきお)いを殺し、ゆっくりと着地する。が、余力が無いのか(ひざ)()れて座り込む。


風魔「付き合い長いけど……何気(なにげ)に三人で共闘(きょうとう)したのって初めてだったなぁ。流石(さすが)に今回は(つか)れたな…」


 横になっている奈樹は、アスモデスが居た場所を見つめていた。爆発による(けむり)で、その様子が見えない。


奈樹「……!」


 アスモデスは立っていた。ボロボロになりながらも、まだ立っていた。


アスモデス「余を…ここまで追い詰めるとは…な…」


蒼輝「マジかよ…!」


 セイント・ソードは、もう残っていない。奈樹は立ち上がれる状態ではなく、勾玉も風魔も余力は残っていない。


勾玉「くっ…」


風魔「……」


 蒼輝は奈樹を(かば)うように、背にしてしゃがんでいる。勾玉と風魔は膝を付き、ただただアスモデスを見ていることしか出来なかった。


アスモデス「どうやら動けぬようだな…ならば()らうといい…余の力を…!」


 アスモデスが咎力を溜めた…! もう、この力の前にどうすることも出来ない…そう思い蒼輝は動けない奈樹を守るように()きしめた。


奈樹「蒼…輝……」


蒼輝「奈樹…奈樹だけでも…生き残ってくれ…!」


奈樹「ダメ…蒼輝…そんなの…ダメ…!」


 蒼輝にはもう対抗(たいこう)する力が無かった。せめて、守ると(ちか)った奈樹だけでも……そう決意(けつい)しての行動だった。咎力を溜めるアスモデス…しかし、その力は停止した。


蒼輝「…!」


アスモデス「ぐっ…」


 聞こえたのは銃声。アスモデスは血を吐き出し、ゆっくりと背後を振り返った。


all(オール) right(ライト) all(オール) right(ライト)! 結構結構。悪魔掃除(あくまそうじ)の時間だ』


アスモデス「な…に…」


 四死公のキマイレス。その散弾銃(さんだんじゅう)の弾がアスモデスを貫通していた。


アスモデス「何故(なぜ)だ……何故……余に手を掛ける……!?」


キマイレス「冥土(めいど)冥土(めいど)土産(みやげ)(おし)えておこう、俺はただの悪魔じゃない。ただの流浪(るろう)の旅をしていた悪魔でもない。別国(べっこく)からアスモデスの建国(けんこく)を阻止するように(やと)われた…アサシンだ」


アスモデス「…バカな…そんなこと…」


キマイレス「横暴(おうぼう)すぎた。悪魔に(たい)する傍若無人(ぼうじゃくぶじん)(あつか)い。無理矢理(むりやり)(きさき)にする者を(さら)い、四死公とした手下さえその身に吸収しようと(くわだ)てていた。王になる器じゃないってことだ。消え去れ、アスモデス」



 キマイレスが銃を乱射(らんしゃ)し、アスモデスを()ち抜く! アスモデスは叫び声を上げることすらままならずに力尽(ちからつ)き、火の玉のような(たましい)となった。


 その様子を見ていた蒼輝は、呆然(ぼうぜん)としていた。


蒼輝「た…助かった…のか…?」


勾玉「……」


 勾玉は、まだキマイレスが敵として襲ってくる可能性を捨てず、余力は残っていないが身構(みがま)えていた。


バサラ「おーい! 大丈夫かー!」


 下の階からやって来たマテリア、バサラ、マリア、レイ、月花が合流した。


風魔「ふぅ…終わったね。お(つか)れサン、キマイレス」


 皆が一斉(いっせい)に風魔を見た。


勾玉「どういうことだ…?」


キマイレス「俺は風魔がアスモデスの所へ(おとず)れ、配下(はいか)になりたいと申し立てた時点で狙いに気付いていた。そして俺は自分の目的を風魔に教えることを条件に問いただしたのさ」


風魔「俺達の目的、キマイレスの目的はどっちもアスモデスを倒すことだった。利害(りがい)一致(いっち)していたから、手を組んで暗躍(あんやく)していたのさ」


マテリア「私と勾玉さんを()らえた理由は…?」


風魔「作戦通り召喚術(しょうかんじゅつ)で城を(こわ)しながら進むなんてやったら、アスモデスと四死公が手を組む可能性が少なからずあったかも知れない。四死公だけを倒し、その力を()ようとするアスモデスを阻止すること以上に厄介(やっかい)展開(てんかい)になりかねない」


キマイレス「仲間を裏切(うらぎ)って捕らえたなんて非道(ひどう)なことすれば、アスモデスの信用を勝ち取れる。(なお)(だま)しやすい環境(かんきょう)(ととの)うってワケだ」


マリア「仲間である者達がどう動くか未確定なのに、そんな非人道的(ひじんどうてき)な行為をやってのけるなんて、私には考えられません」


 人を信じることを第一に考える聖女にとって、味方を騙す作戦なんて考えられなかった。


風魔「夢物語のようだけど……少なくとも、蒼輝と勾玉は俺に何か考えがあるに違いないって信じてくれてる……そう俺も信じてたってことさ」


蒼輝「まぁ…本当に考えがあってくれて助かったぜ」


奈樹「うん…。えっと…あの…蒼輝? そろそろ放してくれても…」


 蒼輝は奈樹を抱きしめたままだった。アスモデスの攻撃から身を庇うために、抱きしめた時からずっと同じ姿勢(しせい)だった。


蒼輝「あぁ! ご、ゴメン!」


 そっと奈樹を寝かせた。ボロボロになっている奈樹を見たマリアは()()り、奈樹の横に座る。


マリア「治療します。そのまま安静(あんせい)にしていて下さい」


 マリアが法術で奈樹の治療(ちりょう)を開始する。


蒼輝「そういえば…四死公はどうなったんだ?」



『私なら無事ですわ…』


 声のした方を見た。そこにはグレモリー…そして…隣には紫闇(しおん)が立っていた。


蒼輝「紫闇!」


バサラ「俺達が紫闇を救出したんだゼ。」


 バサラ、マリア、レイ、月花がキマイレスの後を追って進んだ先……その道は地下牢(ちかろう)へと(つな)がっていた。

 見張りが居なかったため、すぐさま勾玉、マテリア、紫闇を救出した。すると、そこへキマイレスが(あらわ)れた。勾玉とマテリアだけ先へ進ませ、キマイレスは残った者達へ風魔との暗躍(あんやく)(すべ)てを語った。


レイ「四死公の力そのものである魂が奪われることは阻止することは出来ないが、それを奪い返して肉体へ戻すことはできると知った」


 四死公の魂を吸収しようとしていること、四死公が倒されれば動けない内に魂を奪うと考えているということ、そして()かれた魂を元に戻すことが必要ということをキマイレスから聞いた。

 アスモデスと戦っていた部屋から出て、四死公の魂を持って戻ったマテリア。バサラ達は四死公の魂を元の肉体に戻していたため、来るのが遅れたのだった。

 キマイレスだけは動けないほどの傷を負ったわけではなかったため、魂を抜かれずに済んだ。


月花「だから戦いの途中で立ち去ったわけですね……」


 本気で立ち向かったのにも関わらず、キマイレスにイイ様に使われていた気がして、あまりいい気はしていなかった。


勾玉「それで…残りの四死公は…?」


グレモリー「…アスモデスにイイように使われちゃったことで、プライドが傷付いたみたい…。もう城から去って行きましたわ」


紫闇「私を救うために…生幽界(せいゆうかい)から来るとは…。そして四死公だけでなく、アスモデスさえも倒してしまうとは……信じられない…ありがとう」


蒼輝「礼なら月花(げっか)に言ってやってくれよ。一番乗り込む気満々で、月花が言い出さなかったら俺達もここまで来たかわからないからな」


 紫闇は月花を見た。


紫闇「ありがとう…。この恩はいつか返そう…。勿論(もちろん)、島の者達にもだ」


月花「いえ…俺は特に何かできたわけじゃないんで…。ここまで来たのは…ただ紫闇さんを放ってけなかっただけですから」


紫闇「優しいんだな…君は」


 そう言って少しだけ笑った。グレモリーが後ろから、紫音の両肩に手を置く。


グレモリー「さて、紫闇…戻りましょ。その(うしな)った眼の治療もしないと」


蒼輝「治せるのか?」


グレモリー「……無理かも知れないけど…試さないより…。ね? とにかく検査(けんさ)しなきゃ」


レイ「とにかく、一件落着(いっけんらくちゃく)と言ったところだね」


キマイレス「それじゃ、俺はそろそろ国に戻る。また会うことがあれば、会おうじゃないか」


風魔「あぁ。またいずれ」


 キマイレスは人差し指と中指を立てて別れの合図をした。勾玉とマテリアが突入して倒壊(とうかい)した壁から飛び降りて出て行った。


勾玉「結局……あの四死公キマイレスがいなければ…俺達が紫闇を救うことは不可能(ふかのう)に近かったということか…」


マテリア「色んな偶然が重なったことで達成できたです」


バサラ「まぁ…俺はゼパイルに借りを返せて満足だけどな」


レイ「ふふっ…。悪魔との戦い…楽しめたね」


マリア「やっぱり…治らない…」


 皆が、一人呟(ひとりつぶや)くマリアを見た。


バサラ「おい、どうしたんだ? マリア」


マリア「以前もそう…私の法術では、奈樹さんだけが治療することができない…」


蒼輝「一体なんで…」


 そう言った瞬間(しゅんかん)脳裏(のうり)(よぎ)った可能性。それは奈樹が変貌(へんぼう)した姿や、人間の血でないものが影響しているのかもしれなかった。


奈樹「大丈夫です…動けないだけで…そこまで(つら)い状態ではないので…」

 

 マリアは治療を中断した。ムトから渡された傷を(いや)すスプレーを使ったが、こちらもあまり効果が無かった。奈樹を休ませるために生幽界(せいゆうかい)に戻ることにした。蒼輝は奈樹をおぶって立ち上がった。

 

 こうして、アスモデスを倒した一同(いちどう)。四死公は解散し、紫闇は自由の身となった。

 出口である冥幽界へ降り立った地点へ戻るため、城の門へ向かった。



 まだ残っている、火の玉のように浮かんでいるアスモデスの魂。球体型(きゅうたいがた)機械(きかい)を向けると、魂が中へと吸い込まれる。それを(にぎ)って、ニヤリと笑っていた。


風魔「悪魔王(あくまおう)アスモデスの力……封印(ふういん)完了…」


 風魔はその機械をポケットに入れ、何食わぬ顔で皆と合流した…。



 第二十七話 -暗躍(あんやく)交錯(こうさく)- End

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