27-B -暗躍の交錯-
魔王アスモデスと対峙した蒼輝と奈樹の二人。
アスモデスに攻撃を仕掛けるが、風魔に阻まれた。そして、風魔は詠唱して出した風旋斧トルネドで攻撃しようとした……その時だった。
ドゴオォォォォォォォォォン!
突如、轟音と共に壁を突き破り、巨大な狼が風を纏って室内に侵入してきた! 突き破った壁の破片を巻き上げ、吹き飛ばした!
奈樹「この力は…!」
奈樹は狼と目が合った。奈樹はこの狼の持つ力が何によるものか理解した。その大きな身体の全身を見渡した。その背には二人の男女が乗っていた。
勾玉「遅くなったな」
奈樹「マテリア! 勾玉さん!」
蒼輝「やっと着いたのか…えらく遅かったじゃねーか」
マテリア「私達は…牢屋に捕らえられていたです…」
勾玉「その通りだ…そこにいる…風魔の手によって…!」
奈樹「…!」
風魔は勾玉とマテリアを見て、ニヤリと笑っている。
アスモデス「…この力…幻召獣か…? なぜ冥幽界に…!?」
マテリア「風迅狼 ハリケウルフ…私の召喚術です」
アスモデス「下がっていろ、風魔」
風魔はフッと風旋斧トルネドを消滅させ、数歩後ろへ下がる。
アスモデス「アスモデス四死公を倒したことを賞賛する。そして…感謝せねばなるまい」
蒼輝「感謝…?」
アスモデス「その通り…四死公は…」
広げた手を上に翳す。 蒼輝達を隔てて分厚い咎力の壁が出現する! その手から、四つの光線が放たれ、床を貫通して下の階へ向かって伸びてゆく!
奈樹「…! なに…!?」
蒼輝「これは…!」
アスモデス「わざわざ集めてやった四死公。それは余が力を吸収するためだけに存在している! 感謝するぞ! これで私は完全なる力を持つ魔王となれる!」
マテリア「させません!」
幻召獣、風迅狼ハリケウルフが勢いよく壁に体当たりをする! が、壁にビリビリと電流が走る! マテリアは弾き飛ばされ、落下する!
マテリア「きゃああああぁぁ!」
蒼輝と奈樹が落下地点で待機するが、落下中のマテリアを勾玉が抱えて着地する! 風迅狼ハリケウルフは消滅する!
マテリア「そんな…!」
アスモデス「この障壁は絶対に破れん……。何故なら妨害されることを絶対に阻止するため、余の力の半分を消費して作り出した! その程度で崩せると思うな…!」
奈樹「このままじゃ…!」
蒼輝「四死公の全ての力が…アスモデスに集まるってのかよ…!」
伸びていた光線が、収縮してアスモデスの手に戻ってくる! そして、その光線の先端に三つの掌サイズほどの大きさで、火の玉のような塊。玉と言ったところだろう。
その塊は、アスモデス四死公の咎力を含めた力そのものだった。アスモデスは階下にいる四死公の魂を抜き取り、その力を吸収しようとしていた。
アスモデス「む…三体分か…まぁ良かろう…全て余の力となるがいい!」
伸びたゴムが縮むように勢いよく、アスモデスの手元に吸い寄せられる! 全ての魂がアスモデスの手に収まる…。
その直前に…三つの玉は消え去った!
アスモデス「なに…!?」
思いがけない事態。その動揺から、手にしていた咎力も障壁も解除される。周りを見渡したアスモデスが10メートルほど先で目にしたもの…それは三つの四死公の魂。
勾玉「フッ…」
蒼輝「へへっ…」
それを手にして背を向けて立っている…風魔の姿だった。
アスモデス「風魔…!」
風魔「やっぱりね…そんなカラクリだと思ってたよ…」
マテリア「風魔…さん…!?」
風魔「紫闇が力を奪われたと言っていた時点で、アスモデスが他の悪魔を吸収して強くなるタイプ。つまり……四死公さえも自らの力にしてしまう気だと判断できた」
アスモデス「ほう……余を裏切るのか…風魔…」
風魔「裏切る…? 俺は最初からアンタに従ったつもりはない。最初から四死公の力を吸収させることだけは絶対に阻止する。最初から、今の今までそれだけが俺の目的さ」
奈樹「風魔さん…そこまで考えて…?」
蒼輝「奈樹。本気にしてたのナイスだったぜ」
奈樹「えっ? 蒼輝は知ってたの…? 風魔さんの目的」
蒼輝「いや、知らないぜ。 けど、風魔が俺達を裏切るはず無いからな」
風魔「悪いね、ナッちゃん。言った通りでしょ? 俺は正気だって。つまり…敵を騙すにはまず味方から…そういうコトさ」
奈樹「迂闊……」
これで何度、風魔に騙されたか解らなかった。今までは冗談で済んでいたが、今回は冗談でも作戦でも無いと本気で思っていた。
勾玉「俺と蒼輝は騙せていなかったがな…。全く…わざわざ牢に捕らえられて、叫ぶ真似をするほど暑苦しい演技までしてやったんだ…」
マテリア「…気付かなかったです…」
風魔が手の平に魂を維持したまま、蒼輝達の所へ宙返りをしながらジャンプし、着地する。
アスモデス「おのれ…おのれ…! 余を出し抜くとは…許さんぞ…!」
城全体が揺れるほどの地震が起こる。アスモデスの怒りが大地を震わせていた。
風魔「力を吸収していないのに、まだ余力があるか…マテリアちゃん、これを下の階に…頼んだよ」
浮いた四死公の三つの魂を、マテリアに渡す。両手で掬うように持ち、呆然とする。
マテリア「ど…どうすれば…?」
風魔「行けばわかるよ」
勾玉「マテリア、頼む」
奈樹「ここは私達に任せて」
マテリアは頷いて、走って部屋を出て行った。蒼輝、奈樹、勾玉、風魔が並んで、アスモデスに向き合った。
風魔「風旋斧トルネド…」
蒼輝「陰剣ブレイド・シャドウ!」
蒼輝と風魔の二人は武器を出現させた。
アスモデス「その程度では…余には及ばん…。散れ!」
アスモデスが目を見開く!
奈樹「きゃああぁぁ!」
奈樹が突然、眼力から発せられた衝撃で吹き飛んで倒れる!
蒼輝「奈樹!」
瞬時に移動していた風魔が、アスモデスの後方の空中に現れ、背後から斧を振り下ろす!
アスモデス「来ると思っていた。もう理解したぞ。そういう者ということをな」
風魔「しまっ…!」
アスモデスは斧を右手で受け止める。そして、左手を風魔へと向ける。
アスモデス「闇術・冥弾黒衝波」
無数の弾が指から発射され、風魔の全身にヒットする!
風魔「ぐわああぁぁぁぁ!」
そのまま勢いよく天井に叩きつけられる! そのまま埋まり、張り付いたまま落ちてこない。
奈樹「風魔さん…!」
アスモデス「余を騙した罰だ…今の力では、この程度のダメージしか与えられんがな…」
勾玉「紅蓮掌…蛇炎痛打拳!」
頭上を見上げていたアスモデス。その懐へ潜り込んでいた勾玉。炎を纏った拳。高速で10発のパンチを叩き込み、最後に強力な一撃を腹部に打ち込む!
アスモデス「ぐっ……! おのれ…その程度…!」
反撃に出たアスモデスは、腕を振り下ろす! しかし、光の壁が出現してその腕は勾玉に当たる直前で止まる!
奈樹「ライト・シールド…!」
勾玉「炎獄掌…蛇紅灰燼拳!」
炎を膨張させ、強力な一撃を腹部に打ち込む! 勾玉の拳から出た炎が、アスモデスの腹部から背を貫通する!
アスモデス「…! 舐めるな!」
勾玉「ぐっ…!」
殴り飛ばされる勾玉! 20メートルほどある扉の近くまで吹き飛ばされ、倒れる!
蒼輝「陰式・日没落とし」
アスモデス「…! させるか…」
高く跳んで、剣を振り下ろそうとする蒼輝。アスモデスは手を向けて受け止めようとする。
奈樹「闇術…ダーク・ミラージュ…」
落下していた蒼輝が奈樹の闇術によって黒い霧に包まれる! 霧はアスモデスの後方へ移動し、蒼輝が落下を開始してブレイド・シャドウで背を斬りつける!
蒼輝「陰式・黎明返し」
奈樹「アクア・スプラッシュ!」
勾玉「双蛇炎!」
逆手に剣を持ち替え、切り上げる蒼輝。そして奈樹は近距離から水圧波、勾玉は接近しながら蛇となって襲いかかる炎で攻撃した。三人で畳み掛ける!
アスモデス「舐めるな…この程度!」
三人の攻撃を全て咎力で受け止め、反撃に出て左羽で勾玉、右羽で奈樹、頭で蒼輝に突進する! アスモデスは急停止し、三人は吹き飛んでゴロゴロと転がる。
アスモデス「ハァ…ハァ…余が力を吸収していれば…一撃で倒せたものを…」
蒼輝「…まだ余力あるのかよ…」
勾玉「くっ…」
奈樹「……」
このままではアスモデスを倒すことは出来ない……。そう考えた奈樹は、危険な賭けに出ようとしていた……。