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蒼咎のシックザール  作者: ZERO-HAZY
第三章 冥幽との邂逅
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26-C -四死公-

 アスモデス四死公(ししこう)であるグレモリーを、サイクロプスの(こぶし)から守った奈樹(なじゅ)蒼輝(そうき)。その行動に、グレモリーは(おどろ)きを(かく)せなかった。


グレモリー「なぜ…助けるの…?」


奈樹「貴方は…悪い悪魔ではありません!」


 蒼輝が攻撃を受け止めている(あいだ)に、奈樹が最小限(さいしょうげん)咎力(きゅうりょく)()める。


グレモリー「…! お(じょう)ちゃん…」


 グレモリーに(おそ)わった咎力を(あつか)う技術。それは下地(したじ)と言えるもの。それは咎力を無駄に消耗(しょうもう)しないための土台。


奈樹「アッパー・グラウンド!」


 地面から突起(とっき)した硬化(こうか)した土が飛び出し、サイクロプスの身体(からだ)を貫通する! グレモリーの攻撃によって後僅(あとわず)かという状態だったため、今の一撃が決定打となって倒れた。


グレモリー「……」


奈樹「大丈夫(だいじょうぶ)ですか?」


グレモリー「……敵を助けるなんて…優しいですわね」


蒼輝「敵じゃないさ」


 蒼輝は迷わず言った。


蒼輝「まるで敵対心(てきたいしん)を感じなかった。アンタは奈樹に、何か伝えたかったんじゃないのか?」


奈樹「私も…そう思いました。話して下さい。アナタの…目的を」


グレモリー「……」


 グレモリーはしばらく(だま)っていた……。そして……。



 一方その頃、サイクロプスが唯一(ゆいいつ)出現しなかった第四(フォース)悪魔(デーモン)ゼパイルの間。バサラとゼパイルは、ひたすらぶつかりあっていた。

 ただ、二人の戦いは互角ではない。ゼパイルが何度もバサラを圧倒していた。


 ゼパイルの手甲(てっこう)から放たれた(くい)が、バサラの腕を貫通した。そして火薬によって爆破を起こし、バサラは(もう)スピードで吹き飛んだ!


バサラ「ぐああああああああっーーー!」


マリア「バサラーーーーッ!」


 柱に衝突(しょうとつ)して、力無く(たお)れるバサラ。すぐさまマリアが()()る。そして、幾度(いくど)となく行われた法術での治療(ちりょう)を開始する。


ゼパイル「大口(おおぐち)(たた)いてた(わり)にこんなもんかぁ!?」


バサラ「……。へへっ…そろそろ…だな…」


ゼパイル「何を言っている…痛みで気が狂ったか?」


 ゼパイルは何度も何度もバサラを倒した。デッドパイルで貫通させ、殴り飛ばし、何度も再起不能(さいきふのう)にしたつもりだった。だが、マリアが何度でも治療する。


バサラ「……サンキュー…マリア。 これでまた…戦えるゼ」


ゼパイル「ッ…! しつけぇ…」


 何度も、何度でも勝てないと(わか)っているはずの自分に何度も(いど)んでくるバサラ。普通ならば痛みや恐怖(きょうふ)で立ち向かう気力を(うしな)うはずだった。バサラの底知(そこし)れぬ精神力(せいしんりょく)(おそ)れを感じ始めていた。



ゼパイル「もう倒れろ! 倒れていろっ! しつこいんだよっ!」

 

 怒声(どせい)を上げて(さけ)ぶゼパイル。だが、バサラは気にも()めず立ち上がった。


バサラ「これで…最後だ…。次の俺の一撃で、勝負は決まる」


ゼパイル「…! 何を思って断定(だんてい)している…!」


バサラ「確信しているからサ。もう条件は(ととの)ってる。(のろ)いの宣告は始まっている」


 バサラの身体に、黒い(きり)のようなモノが発生し始める。


ゼパイル「呪い…?」


 バサラは駆け出した! ゼパイルは手甲でバサラを殴り飛ばす! …はずだった。


 今まで一度たりとも避けられることのなかった攻撃を、バサラは回避した。その事実に、その現実にゼパイルは(ひる)んだ。

 そして、その(わず)かな(すき)をバサラは見逃さなかった。ゼパイルの腹部に、バサラの右手の刀、楼黤(ろうあん)宝刀(ほうとう)益荒男(ますらお)が突き刺さる!


ゼパイル「ガフッ…! グッ…」


 バサラの一撃で吐血(とけつ)し、歯を食いしばって痛みに耐えるゼパイル。


バサラ「これはアンタにやられた…奈樹の姫の痛みだっ…!」


ゼパイル「調子に…乗るなよ!」


 刺されたまま、右手を振って手甲でバサラの頭部に殴り掛かる!


バサラ「ソイツはもう、当たらない」


 手を振り始めた瞬間には、もう軌道上(きどうじょう)にバサラの頭は無かった。


バサラ「これが…蒼輝と傷つけられたリリアの姫の分だ!」


 左手の楼黤(ろうあん)宝刀・手弱女(たおやめ)袈裟(けさ)斬りで、胸部を切り裂く!


ゼパイル「グッ…ア…ッ!」


 この戦況(せんきょう)はマズイと判断し、腹部に刺さった刃を強く握る! (いきお)いよく引き抜き、大きく距離を空けてジャンプする!


ゼパイル「バカな…何故…急にこんな力を…!?」


 落下地点を見る。その着地する先に、バサラは待機していた。


ゼパイル「…な…!?」


バサラ「剣技・双羽蝶(ツイン・バタフライ)!」


 迎撃(げいげき)するように剣技・羽蝶(バタフライ)を両手の剣で二度、ゼパイルを切り裂いた!


バサラ「今のは『俺の』…マリアの分だ…!」


 斬られた(あと)から桜色の蝶が舞うように飛び血が()き出した! 着地し、出血したゼパイルは力無くうつ伏せで倒れる。


ゼパイル「…なぜだ……なぜ……この…オレ様が…」


バサラ「呪いサ…」


ゼパイル「呪い…?」


バサラ「咎力(きゅうりょく)高等術(こうとうじゅつ)楼黤(ろうあん)一族…王家特有(おうけとくゆう)の力…。それは『呪術(じゅじゅつ)』」


 右手の指に装着した五つの指輪。それをゼパイルへ向ける。


ゼパイル「呪…術…」


バサラ「こいつは呪術の力を増幅(ぞうふく)させる指輪。俺の持つ呪いは五種類。その内の四つを使い、時間を掛けてアンタの防御力(ぼうぎょりょく)移動速度(いどうそくど)攻撃速度(こうげきそくど)攻撃反応速度(こうげきはんのうそくど)減少(げんしょう)させていたのサ…。アンタが気付かないように、徐々にな」


マリア「バサラは…大きな一撃を与えて倒す機会を(うかが)っていました。呪術の影響を感じさせないように、()えて攻撃を受けていた…。本当は避けることができたのに」


ゼパイル「なん…だと…。そんなこと…できるはず…悪魔を前に…そんな悠長(ゆうちょう)とした戦法を…」


バサラ「俺は悪魔と戦う恐怖を捨てて来た。人は恐怖を乗り越えた時、強くなれるんだゼ…」


マリア「人は、人を信じることで強くなれます。バサラは私の治療を、法術の力を信じてくれた。だから、攻撃を受け続けた…その精神力の強さが勝利へ結びつきました」


 バサラはマリアの肩に手を回し、抱き寄せた。


バサラ「俺達の勝ちだ」


 それを見たゼパイルは笑っていた。バサラの思い切った戦術に狂気(きょうき)を感じ取っていた。だが、それに喜びを感じていた。自分が闘士(とうし)であることを、戦いが好きで、戦いがやめられないことを再認識(さいにんしき)したからだった。


ゼパイル「ケッ…。気に入ったぜ…お前…」


バサラ「バサラ・楼黤(ろうあん)。それが俺の名だ」


ゼパイル「覚えとくぜ…次は…オレ様が…」


 そう言った所でゼパイルは気を失った。


バサラ「……」


 戦いの緊張感(きんちょうかん)が切れたのか、バサラは(ひざ)を付いた。ムトから貰った冥増輪(めいぞうりん)の力が、限界を(むか)えつつあった。


バサラ「効果も終わりか……。へっ、十分だゼ……」


 マリアに支えられて立ち上がる。


マリア「バサラ…次の部屋へ…」


 バサラとマリアは仲間の様子を見るため、先へと進んだ。そこには三つの扉。二人はまず右の部屋を確認するため、駆け出して扉を開けた。



月花「……」


 月花が座っていた。倒れた巨大なサイクロプス。バサラとマリアは、そのサイクロプスが四死公の一人なのだと思った。


バサラ「おっ、どうやら先に倒したみたいだな」


月花「倒せてないんていませんよ…」


マリア「どういうことですか…? これは…」


 アスモデスが召喚した巨大なサイクロプスを見ているマリア。


月花「四死公は去りました。きっと俺の力が(およ)ばないから…戦う気が()せたんです」


 月花は説明した。四死公のキマイレスに翻弄(ほんろう)され手も足も出なかったこと、突然現れた巨大な悪魔をキマイレスが倒したこと、そしてキマイレスは自分にトドメを刺さずに立ち去ったこと。


月花「クッソ…こんなんじゃ…紫闇さんを守れない…!」


 (くや)しくて(こぶし)(にぎ)()めていた。強く、強く。自分の弱さに(にく)ささえ覚えていた…。


マリア「落ち着いて下さい…。とにかく今は…他の皆さんと合流を…」



『こっちは、もう終わったみたいだね』



 突然の声に(おどろ)いて振り返るバサラ、マリア、月花。


バサラ「レイ…無事そうだな」


月花「勝ったんですか…?」


レイ「うん、四死公なら倒れているよ」




 アスモデス四死公(ししこう)。アシュの間……アシュは仰向(あおむ)けで倒れ、天井を見つめていた。


アシュ「……」


 手にしていたレイピアは折れていた。ダメージにより、身体を起こすことが出来なかった。


アシュ「人間があのレベルまで使いこなしているとは……悪魔でさえ恐れるあの(ひとみ)……」


 アシュはレイの開いた瞳を見た。そして、その力の前に敗北した。だが、レイの美しい勝利の相手となれたことに、心から(よろこ)びを感じていた……。そして……身体を休めるため、目を閉じた。


 


 キメイレスとグレモリーが多少なりとも苦戦する巨大な悪魔を瞬時(しゅんじ)に倒したアシュ。そのアシュをレイは容易(たやす)(たお)し、バサラとマリアと共に月花のいる部屋に合流していた。


レイ「後は…蒼輝と奈樹だね」


バサラ「よし、合流しようぜ!」


月花「待って下さい…」


 月花が引き止めた。皆が月花を見る。


月花「四死公のキマイレスは……向こうの扉へ向かいました」


 バサラとレイが入ってきた扉とは別に、もう一つの扉が部屋の(すみ)あった。


マリア「……」


バサラ「どうする…?」


レイ「四死公が向かったのなら、放っておくことはできない。行ってみよう」


 四人はキマイレスの入っていった扉を開けた…。



 一方その頃…アスモデスの間。


アスモデス「()の好意を無為(むい)にするとはな…。拾ってやった(おん)を忘れたか…」


 アスモデスは思い返した。近隣(きんりん)にある貧民(ひんみん)の村で警備兵(けいびへい)をしていたグレモリー…。自身の実力を評価されず、そのことに対してコンプレックスを(かか)えていたアシュ…。闘技大会(とうぎたいかい)闘士(とうし)として毎日傷だらけになって戦い、賞金を得ることで何とか生きてきたゼパイル…。行く()てもなく流浪(るろう)の旅をしていたキマイレス…。


アスモデス「…………」


 四人を思い浮かべた後……口角が上がり、笑った。


アスモデス「…これでいい。これでこそ(すべ)()の計画通り…」


 


 蒼輝と奈樹は、傷ついたグレモリーを介抱(かいほう)していた。ムトの発明品で、法術を水分に変換させて封じ込めたスプレーで治療していた。まだ傷を負っているが、グレモリーは途中で治療を止めさせた。


グレモリー「もう大丈夫ですわ…。ありがとう…」


奈樹「いえ…。それで…教えてくれませんか? 貴方が私に伝えたかったことを」


グレモリー「…えぇ。これはお嬢ちゃんにだけ教えることに……」


蒼輝「えっ、なんでだよ。俺にも話してくれても…」


 その発言に(たい)し、グレモリーは蒼輝に()()った。その動作に蒼輝はドキッとしてしまう。そして耳元で(ささや)くように、小さな声で言った。


グレモリー「声が大きいとアスモデスに聞かれてしまう…」


 蒼輝は言っている意味が、しばらく理解できなかった。グレモリーは(はな)れて、次は奈樹に寄りかかって耳打ちするように自分の真意(しんい)を伝えた。


蒼輝「…四死公…。アスモデス…どういうことなんだ…?」


 脳裏(のうり)交錯(こうさく)する様々な(かんが)え。ただ、一つ言えることはグレモリーは完全に敵ではないと思えることだった。



グレモリー「お願い…。紫闇を…助けてあげて…」


奈樹「…えっ…?」


グレモリー「ワタクシは近隣の村で兵団(へいだん)結成(けっせい)し、リーダーとして紫闇と警備兵(けいびへい)をしていた…。貧しい生活だったけど、それなりに幸せだった…。


 グレモリーは己の心境と事情を語った。蒼輝と奈樹は黙って話を聞くことにした。


グレモリー「なんのトラブルもない平和な日々……そこへアスモデスがやってきた…。人に近い姿と(ちまた)で有名だった紫闇を(きさき)にするため連れ去ろうとしている考えを、兵団のリーダーであったワタクシに打ち明けた」


 その時、アスモデスは紫闇の名すら知らなかった。グレモリーは(ことわ)りを入れたがアスモデスは聞き入れず、二人は衝突した。しかし、グレモリーの力では(およ)ばず返り討ちにあった。自分ではどう足掻(あが)いても止めることはできない、紫闇を助けることはできないと思い知らされた。


 アスモデスは紫闇のことを教えなければ、村を破壊すると脅迫(きょうはく)した。もはやグレモリーだけでは、どうすることも出来ない。村を守るため、やむを得ず紫闇を差し出すしかなかった。


グレモリー「紫闇はワタクシの妹同然の存在…。望まない婚約なんて…あの子が可哀想で…不憫(ふびん)で仕方なった。せめて紫闇が孤独(こどく)を感じないように……仕方なくアスモデスの配下(はいか)(くわ)わり四死公となりましたわ…」


奈樹「……」


 その話からは、(くや)しさが感じ取れた。紫闇を助けたい。けど、どうしようもない。嫌でもアスモデスに(したが)うしかなかったという気持ちが伝わってきた。


グレモリー「紫闇は知らないでしょうけど…脱走できるように(くわだ)てたのはワタクシ…。異世界(いせかい)にまで逃がせれれば、アスモデスも流石(さすが)に追うことはないと思ってた…。…ワタクシの考えでは…生幽界(せいゆうかい)にまで向かうとは思わなかった…」


奈樹「そこへ…追っ手のゼパイルが…」


グレモリー「そう…ワタクシは(いそ)いでゼパイルの後を追った。すると暴走しているような状態でゼパイルを圧倒するお嬢ちゃんの姿が…。そのままゼパイルを倒して欲しいくらいだったけど……精一杯(せいいっぱい)の何食わぬ顔で…四死公としての対応で、戦いを止めさせた」


 颯紗(さらさ)から聞いた話を思い出した。グレモリーが放った粉が降り注ぎ、自分達の傷を(いや)したのだと。それは、グレモリーは最初から敵意を(いだ)いてなかった証拠であった。迷惑を掛けてしまった生幽界の者達への、せめてもの(つぐな)いであることが理解できた。


グレモリー「もう紫闇を助けることは出来ないと(あきら)めていましたわ…。けど……冥幽界にまで乗り込んで来て、お嬢ちゃんがこの部屋に入って来た時…可能性を感じれずにいれなかった。きっと…これは運命なんだって……お嬢ちゃんなら、紫闇を救ってくれると…」


奈樹「……!」


グレモリー「だから…ワタクシの技術の全てをお嬢ちゃんに(たく)した…。いい…? 私の教えたこと…忘れないで…。きっと力になれるはずですわ…」


奈樹「はい…。咎力の扱い…覚えました」


 奈樹が思い悩んでいたモノ……それは咎力を(もち)いた(あら)たな戦い方。それを模索(もさく)する日々だったが、グレモリーによってその答えは見つかった。


グレモリー「ありがと…。お嬢ちゃんの力なら、きっとアスモデスにも通用する…奴の力はそこまで強大ではないから…。お願い…アスモデスを倒して…紫闇を自由にしてあげて…」


 奈樹にもたれ掛かっていたグレモリーが力無く倒れる。


奈樹「グレモリーさん!」


グレモリー「ちょっと疲れただけですわ…。ここに部屋に来た時に十字路(じゅうじろ)があったでしょう…? 他の四死公がいない今なら、交差地点にアスモデスの部屋へ入る仕掛(しか)けが作動するはず…」


奈樹「わかりました…」


蒼輝「行こう! 奈樹!」


 奈樹は横たわるグレモリーにお辞儀(じぎ)をして、蒼輝と一緒に部屋を出た。その小さな背に希望を(たく)し、グレモリーは見送った…。




 第二十六話 -四死公(ししこう)- End

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