26-A -四死公-
紫闇を奪還するため、冥幽界に乗り込んだ蒼輝達。
だが、勾玉とマテリアを裏切り、牢へ投獄することでアスモデスの側近となった風魔。
そして城へ突入した奈樹、バサラとマリア、レイ、月花は各部屋でアスモデス四死公との決戦を始めようとしていた…。
ゼパイル「オレ様に一撃でやられたお前に、勝つ可能性があると思っているのかぁ?」
バサラ「やってみればわかるサ」
ムトから貰った冥増輪を腕に付けていることで、身体能力が増加している。恐れる表情を見せず、バサラは二本の剣を右手と左手に持ち、構えた。
バサラ「前は準備が周到じゃ無かったからな。今回は二本ともあるゼ」
ゼパイル「武器ってのは多く持てば強くなるってモンじゃねぇんだよ」
バサラ「この剣は二本で一対。そして見せてやる…楼黤の秘技を…!」
ゼパイル「人間の分際で冥幽界にまで来た愚か者め…第四悪魔ゼパイルの前で、楽に死ねると思うな!」
手甲を前にし、構えるゼパイル。マリアもバサラのサポートに入るため、ロッドを強く握って構える。
ゼパイル「パイル・バレット!」
バサラへと向けた手甲から鉄の杭を発射する!
バサラ「見えてるゼ」
最小限の動きで、飛んできた杭を回避する。
ゼパイル「ほう…今のを見切るとは」
冥増輪によって、動体視力も上がっていた。バサラは今の攻撃を回避できたことで、これなら何とかなると確信を持てた。
バサラ「借りは返させて貰う…! うおおおおおおおおおぉぉぉ!」
姿勢を低く構えて気合を入れ、二本の剣に咎力を注ぎ込む! 剣が形を変え、刀へと変化してゆく…!
バサラ「楼黤宝刀・手弱女…そして楼黤宝刀・益荒男…!」
ゼパイル「ハッ…! 形状変化しただけで、オレ様を倒すつもりか?」
マリア「倒します…バサラと私で…!」
生幽界でゼパイルの力を知っていながらも、マリアはバサラの後方に立つ。バサラがいるから、一緒に戦うと決意したから怖くは無かった。
レイ「アスモデス四死公のトップの実力を見せてもらおうかな…」
アシュ「いいだろう! 私の美しさに見惚れるな!」
アシュは小剣を地面に突き刺す! 地から薔薇の棘が生えて来て、剣に巻き付ついてゆく。
アシュ「我の誇りは養分。華麗なる姿を顕現させ、冥幽に狂い咲け!」
小剣が輝き、スーッっと少しずつ浮かび上がる。アシュはその剣を手に取った。
アシュ「ローズ・レイピア 百花繚乱」
紫色の薔薇の装飾が施された小剣を構える。
アシュ「純粋悪魔アシュ・タイロークス様の華麗なるワルツ…その目に刻むといい!」
器用なポーズでレイに剣先を向ける!
レイ「僕も…武器を用意させてもらうよ」
広げた手の平。そこへ光が発生し、神々しい輝きが集まる。
レイ「天空で鎮座せし日輪よ。今こそ全てを照らし、その光で世界を赤く染めるといい」
頭上に現れた太陽のような球体。それがレイの下に降りてくる。レイはその中に手を入れる。
レイ「赫灼槍 パニッシュ・スピア」
その球体を握り、横にスライドさせると、一本の赤く輝く槍となった。
キマイレス「どうした? かかって来ないのか?」
キマイレスはソファーで横になったまま言った。
月花「そんな状態で戦うつもりですか?」
キマイレス「all right all right! 結構結構。見上げた精神だが、若い内はワイルドに攻めたほうが実りがあるもんだぜ」
パチパチと拍手をするキマイレス。しかし、ソファーから起き上がる様子はない。
月花「戦う気はあるんですか? 無いのなら俺は紫闇さんを探しに行きますよ?」
キマイレス「俺を倒さずに、それは助けたってことになるのか? 自分に素直になったほうがいいぜ」
月花はその言葉を挑発と受け取り、咎力を集めた。
月花「氷遊折花紙四式・手裏剣」
月花は10個の手裏剣を飛ばした! キマイレスはコロッと回転しながら背もたれを超えて転がり、ソファーの後部に降りて回避し、背もたれを蹴飛ばす! 手裏剣の刺さったソファーが猛スピードで月花の頭部へ飛んでくる!
月花「…!」
屈んでギリギリで回避することができた。ソファーは反対側の壁にぶつかり壊れた。もし冥増輪で身体能力が強化されていなけれっば直撃していただろう。そうなっていれば頭蓋骨が砕けていた。
カチャ
キマイレス「all right all right…結構結構。だが、これが実力差だ」
屈んでいる月下のこめかみに、散弾銃の銃口が当てられた。
月花「なっ…!」
キマイレス「恐れず向かってきたことは賞賛する。しかし、そんなヤワな遠距離攻撃じゃ倒すなんて不可能だ。若い内は、もっと果敢に攻める勇気が必要だ」
月花「……!」
キマイレス「第五悪魔 キマイレス・ルマット・ランページ。ここの頭で記憶しておきな」
銃口が、グッと頭に押し当てられた。
四死公のグレモリーは自身の髪を椅子のようにして座っていた。自分から仕掛けないと何も始まらないと思った奈樹は、一瞬にして手に咎力を溜めた。
奈樹「スターファイア!」
奈樹は先制攻撃を仕掛けた! ジャンプして火球をグレモリーへと放つ!
グレモリー「……」
ゆっくりと立ち上がり、髪は自然な状態に戻る。そして飛んでくる火球に手の甲を向ける。火球と手の甲が衝突した瞬間に、払い除けて火球の軌道を変える!
ドオオオォォォォォォン!
室内の壁が轟音と爆煙を上げながらガラガラと崩れる。奈樹が着地して、グレモリーに向き合う。
グレモリー「お嬢ちゃんの咎力、素晴らしいわ……。才能感じちゃう」
奈樹「…片手で弾いておきながら言うセリフですか……?」
グレモリー「これでも第六悪魔の階級ですもの……。それにワタクシは咎力の扱いにおいては定評がありますわ」
奈樹「……」
グレモリー「拗ねなくてもいいじゃないのぉ。可愛いわね。お嬢ちゃんだって素晴らしい力ですわよ? まるで人間じゃないみたい。人間を簡単に殺せそうな力だなんてね」
話をしながら、グレモリーは髪を自在に動かしている。
奈樹「…!」
グレモリー「けど咎力を溜める速度を重視しているせいで、必要以上に溜めすぎてますわ。必要最低限の量を調整しなきゃ。少し無駄に使っちゃていますわ」
髪をフワリと地に付け、再び椅子のようにして座る。
グレモリー「咎力を上手く使えば、今みたいに最小限の力で弾くなんて簡単なのよ? ほら、見ててあげるから……焦らずに溜めてみなさい」
奈樹「挑発のつもりですか…?」
グレモリー「違うわよ? お嬢ちゃんの才能を見越して、ここでアドバイスをあげようと思ってるの」
まるで目的が理解できなかった。しかし奈樹は独特の雰囲気の前に、不意打ちをする気にはなれなかった……。