25-B -冥幽の世界-
次の日……光芒結社の用事を済ませたレイが島へ戻ってきた。事情を全て説明した。紫闇のこと、悪魔が訪れたことや、紫闇を連れ戻しに冥幽界へ行くということを……。
そして数日が経過した…。蒼輝、奈樹、マテリア、颯紗は商店街の喫茶店に来ていた。
マテリア「ふぅ…ここのミルクティーは絶品です」
颯紗「奈樹ってケーキ好きだったの? 知らなかった…」
奈樹「小さい頃に食べてから、苺のショートケーキが好物なの」
蒼輝「へー、俺は甘い物だったらなんでもイケルな」
奈樹「辛い物でも何でも食べてるイメージあるけど…」
マテリア「ケーキは太りそうで食べられないです…」
平和そのものといった雰囲気で雑談していた。冥幽界への門を無事に開けるか…それすら判明していなかったが、ここ数日ずっと修行をしていた。それは悪魔の力に対抗するためだけでなく、いつ侵攻してくるかわからないイーバに対抗する意味でも修行は必要だった。
そうしていると先日、ムトから知らせがあった。冥幽界を往復することが可能ということが判明したのだ。
真っ先に決断したのは月花だった。紫闇を守ると言いながらも、自身の居ない所で連れ去られたことが悔しくて仕方なかったのだ。それに続いてバサラが申し出て、マリアも同行すると決めた。レイも悪魔の力を自身の目で確かめてみたいと言い、同行することを決めた。
そして既に行くことを決めていた蒼輝、奈樹、風魔。勾玉とマテリアも冥幽界へ向かうことにした。
一同は作戦を立てた。冥幽界に乗り込み、城へ潜入、そしてアスモデス四死公だけでなくアスモデスも倒さなければ、本当の意味で紫闇を助けたことにはならない。
連れ戻すだけでは、また生幽界に追っ手が来るかも知れないからだった。
そうして…一日が経過し、手すりのある崖の上へと来た。
ムト「この下が冥幽界と最も近い場所じゃ。四人の咎力で冥幽界への門を開く」
芙蓉が左手で桔梗と、右手で桜羅と手を繋ぐ。桔梗は右手で芙蓉と、左手で蓮華と手を繋ぐ。蓮華は右手で桔梗と、左手で桜羅と手を繋ぐ。桜羅は右手で蓮華と、左手で芙蓉と手を繋ぐ。
四人が輪を作るように手を繋いだ。
芙蓉「行くわよ…集中して」
四人は目を閉じた。芙蓉から流れた咎力が桔梗、蓮華、桜羅へと流れ、再び芙蓉へ帰還する。そして何度も循環していく内に、桔梗と桜羅に芙蓉の強大な咎力が少しずつ宿っていく。
奈樹「凄い…これが…サンサーラの器…」
桔梗と桜羅から邪術の力を感じる。二人に負担が掛からないように、調整しながら咎力を与えてゆく芙蓉と蓮華。絶大な力が四人を包んだ後、その力は花火のように打ち上がった!
そして天より渦巻きながら崖の下へと落下してゆき、その咎力は海へと落ちずに空間に衝突した!
芙蓉「成功ね…!」
桔梗「ふぃー! 積極的にやったから疲れたー!」
桜羅「毎日、精力的に練習したから…成功して良かった…」
蓮華「さぁ、後はお前さん達の仕事だよ! 今になって躊躇うんじゃないよ!」
風魔「それじゃお先っ」
風魔は手すりをヒョイと飛び越えて降りていった。狭間に入ると、風魔の姿は消えた。続いて月花は手すりの上に立ち上がった。下には暗闇が漂う狭間が発生している。
刹那「月花様! 気を付けてね!」
手すりの上で振り返る月花。
月花「ありがとう、刹那ちゃん。それに芙蓉さん、桔梗ちゃん、桜羅ちゃん、蓮華さん…ここを開いてくれてありがとう。行ってくるよ」
後ろに倒れるようにして飛び降りた! 狭間へ入り、姿が消える。
リリア「マリア様…お気をつけて…」
結局、同行することはせずマリアを止めることも出来なかった。リリアは、自分に出来るせめてもの行いをすることにした。それは皆が留守の間、ノスタルジアを守るということだった。
マリア「神に遣える者として、決して悪魔に屈したりしない。行って参ります」
バサラ「あぁ。絶対にアイツをぶっ倒してやるサ!」
そう言うと、バサラはマリアをお姫様抱っこをして持ち上げた。
マリア「ち…ちょっと…!」
バサラ「ちゃんと掴まっとけよ、マリア」
予想外のことに照れながらも観念して、バサラの首に両腕を回してしがみつく。そして手すりを乗り越え、二人が落下して狭間へ入り込んだ。
芙蓉「ほら、アンタ達も同じことすれば?」
後ろから奈樹の両肩に手を置き、蒼輝へ向かって軽く押した。
蒼輝「か…からかうなよ…」
奈樹「普通に降ります! 普通に!」
奈樹は、よいしょよいしょと手すりを跨ごうとするが、微妙に身長が足りなかった。よじ登ろうとするが、上手く乗り越えられずに苦戦している。
蒼輝「よっと。それじゃ、行ってくる」
奈樹「結局こうなっちゃった…」
ディアナ「お土産よろしくねー!」
蒼輝「あるかよ、そんなもん!」
ディアナ「えぇー!? お土産屋さんとか無いの!?」
奈樹「行ってみなきゃわからないけど……多分無いかな」
マイペースなディアナに癒され、少し緊張感の解れた蒼輝は奈樹を抱え上げて、狭間へと飛び込んだ!
勾玉「やれやれ…緊張感の無い奴らだ…」
マテリア「それでは、私達も行くです」
勾玉「留守を頼む」
マテリアがゆっくり手すりを跨ぐ。勾玉も乗り越える。
マテリア「……」
崖から飛び降りる…と言うこともあってか、躊躇してしまっている。
勾玉「怖いか…? …心配するな。俺も恐れている」
マテリア「勾玉さん…」
勾玉「己の力が、悪魔相手に通用するのか…。不安であれば…惨めな思いをするくらいなら行かない方がいいのかも知れんがな…。それでも…仲間が一致団結して戦いに赴くと言うのだから放っておけんものだ…」
マテリアを見て、フッと笑った。そして崖を前に臆しているマテリアの手を握り、崖を飛び降りた!
マテリア「ひっ…きゃああああぁぁ!」
勾玉とマテリアの二人も狭間へと入り込んだ。こうして蒼輝、奈樹、勾玉、マテリア、風魔、バサラ、マリア、レイ、月花は冥幽界へと突入した。
見送った者は刹那、芙蓉、桔梗、桜羅、蓮華、ディアナ、ブラック、ムト、サツキ、リリア。
ムト「それでは、ワシらは家に帰って無事に戻ることを祈るとするかの」
サツキ「はい、ムト様」
リリア「本当に…大丈夫なのでしょうか…?」
ムト「心配無用…とまでは言わんが、ワシの発明品を幾つか持たせてある。その一つは冥幽界でのみ発揮する、所有者の力を増幅させる腕輪、冥増輪を持たせた。手強いと言っておった悪魔相手でも多少は戦えるようになるじゃろう。問題はない」
何故、ムトが冥幽界でのみ……などと言う、ピンポイントに効果を発揮する装置を造ることができるのか……そのことについて、触れるものは居なかった。今はただ、冥幽界へと旅立った者達を心配していた……。