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蒼咎のシックザール  作者: ZERO-HAZY
第三章 冥幽との邂逅
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24-B -サンサーラの器-

 浜辺に(あらわ)れた女性。女性は月花を見て臨戦態勢(りんせんたいせい)に入った。月花も身構(みがま)えるが、そこへ桔梗(ききょう)桜羅(さくら)が……。

 月花は二人をこの場から避難(ひなん)させようとしたが……。



桔梗「わぁぁー! 蓮華(れんげ)ちゃーん!」


 意外にも、桔梗が女性へと()け寄った。桜羅(さくら)も後に続いて向かってゆく。女性は(おどろ)いた表情で絶句(ぜっく)していた。月花も絶句していた。


桜羅「蓮華ちゃん…! 本当に蓮華ちゃん…?」


 桔梗と桜羅は(おどろ)きながらも(よろこ)び、蓮華と呼んだ水色の髪の女性の(こし)へと()きついた。


蓮華「お前達…! 死んだんじゃなかったのかい!?」


桔梗「えっ…!? アタシ達は蓮華ちゃんが死んじゃったって…」


蓮華「何言ってるんだい。アタイはお前達が…って、なんて格好してるんだい。その服に躊躇(ためら)いはないのかい」


 お(そろ)いの巫女服(みこふく)を着た二人を交互に見る蓮華。


桜羅「ボク達は脱走したから平気…この服はお気に入りで…」


桔梗「蓮華ちゃんは訓練中(くんれんちゅう)に死んだって、ずっと前に聞かされて…」


蓮華「アタイは一度だって死んじゃいない。しばらくの間、戦闘訓練に熱中(ねっちゅう)していたのは確かだけど、結局は実力不足でE生物(スティグマ)に落ちた。戻ってみると芙蓉(ふよう)も桔梗も桜羅も死んじまったって聞かされた」


 どうやらイーバは、お(たが)いに違う情報を流していたようで、話が()み合わない。


月花「とにかく…知り合いなんだったら、一度戻りましょうか」


桔梗「そーだよ! 蓮華ちゃんが生きてるって知ったら、芙蓉ちゃんも(よろこ)ぶよ!」


蓮華「芙蓉も…!? 予定されていた分解(バニシング)(おこな)われてったんだね…よかったよ」


 そう言って、安堵(あんど)した()みを浮かべた。桔梗と桜羅、そして芙蓉が生きていたことが判明したことを知った(よろこ)びの表情だった。月花は皆と花の屋敷(やしき)に戻ることにした。


月花「ところで桔梗ちゃんと桜羅ちゃんは、どうしてここに?」


桜羅「ディアナちゃんが…お兄さんが外へ歩いて行ったって言うから…」


桔梗「そーだよー! どこ行くのかなーと思って積極的(せっきょくてき)に追いかけてきたら、蓮華ちゃんと会ってて…ビックリした!」


蓮華「すまないね。そんな真っ黒な見てくれだから、どうも先入観(せんにゅうかん)(てき)かと思い込んで躊躇(ためら)いなく攻撃しようと…」


月花「いえ、気にしないで下さい。こちらも同じこと思いましたから」


 月花も蓮華もお互いが敵同士ではないのは確かだと思い、安心した。



  一方その頃…


蒼輝(そうき)奈樹(なじゅ)…!」


 蒼輝、バサラ、マリア、リリアが目を覚ました。奈樹の変貌(へんぼう)した様の一部始終(いちぶしじゅう)を見ていたマリアから事情(じじょう)を聞いた蒼輝は、(いそ)いで奈樹が(ねむ)っている部屋へと走ってきた。


 部屋には颯紗(さらさ)が付きっきりで(そば)に居た。


蒼輝「颯紗…奈樹は…」


颯紗「…命に別条(べつじょう)はないって…ムトさんが言っていた…」


 奈樹はスヤスヤと(おだ)やかな表情で眠っていた。ただ単に寝ているだけ。そういった様子で、少し安心した。



桔梗「たっだいまー!」


 玄関(げんかん)から桔梗の大きな声が聞こえた。この部屋の空気とは真逆(まぎゃく)雰囲気(ふんいき)がした。蒼輝は廊下(ろうか)に出て、声のした場所へと歩いていく。


蒼輝「おいおい、寝てる人がいるんだから…あまり大きな声出すなよなー」


 蒼輝が目にしたのは月花と桔梗と桜羅…そして見たことのない女性。誰だと思ったところで桔梗の声を聞いてか、芙蓉が来た。


芙蓉「!? 蓮華…?」


蓮華「芙蓉…」


 (おどろ)いた芙蓉は蓮華の前に歩み寄る。


蓮華「お前まで、なんて格好(かっこう)してるんだい…?」


芙蓉「なんて格好? これは巫女服(みこふく)って言って、巫女の格好しているのよ」


蓮華「今の『なんて』は、服の名前を聞いているわけじゃなくってだね…」


 蓮華は(あき)れたように言った。


芙蓉「…死んだと思ってたけど…生きてて良かったわ」


蓮華「アタイのセリフだよ。三人で隠居(いんきょ)なんてズルいじゃないか」


 芙蓉と蓮華は笑った。再会を(よろこ)びあった後、颯紗から奈樹が目を覚ましたと知らせがあった。傷は()えているが身体はまだ動かせる状態ではないらしく、皆は奈樹のいる部屋に集まることにした…。 奈樹だけ布団に横になったまま、まずは蓮華の紹介をすることにした。


蓮華「アタイは蓮華。E兵器(クリミナル)で、イーバでは芙蓉と桔梗と桜羅と一緒に居たもんさ」


蒼輝「どことなく芙蓉と雰囲気が似てるな」


 気が強そうで……と、言いかけたが身の危険を感知して言わないでおいた。


蓮華「まぁね。芙蓉とアタイは姉妹だから似てても仕方ないね」


蒼輝「えっ!?」


芙蓉「桔梗と桜羅みたいに同時じゃないけど、ほぼ同時刻に近い時に生まれた。私が姉で、蓮華が妹よ」


 月花は蓮華を一目見て誰かに似ていると感じた。それは芙蓉だった。


桔梗「つまりだよー? 芙蓉ちゃんが一番上のお姉ちゃんで、蓮華ちゃんが下のお姉さん! そんでアタシが居て、末っ子が可愛い桜羅だよ!」


 そう言って()きつき、桜羅のほっぺにチューをする桔梗。

 

桜羅「くすぐったいよ……桔梗ちゃん…」


芙蓉「蓮華はイーバに居た頃……戦闘訓練中に再生不可になるほどの事故(じこ)に合って死んでしまったと聞かされてたんだけど…」


蓮華「全然そんなこと無いんだよ。アタイは逆に芙蓉達が死んじまったって聞かされてた」


 お(たが)いが死んだと伝えていたことは、イーバにとって不都合でもあったのか…それはわからなかった。皆は蓮華に自己紹介(じこしょうかい)をして、今日起きたことの本題に入った。


 紫闇(しおん)という悪魔が(あらわ)れたこと、冥幽界(めいゆうかい)の存在、アスモデス四死公(ししこう)のゼパイルとの戦いとその強さ、その後の奈樹の変貌、同じくアスモデス四死公のグレモリーの存在。その出来事(できごと)(すべ)てを語った。

 

勾玉「アスモデス四死公か……そこまでの強さとはな……」


奈樹「私…そんなことに…。私がゼパイルを圧倒していたなんて…信じられない…」


ムト「不思議なことはない」


 布団で横になったまま、奈樹が言った。それに(たい)して即答(そくとう)した声。皆は溶接(ようせつ)マスクをしたムトを見た。


ムト「お(ぬし)の身体には、ただの人間やE兵器(クリミナル)とは違う血も流れておる」


奈樹「人間と…違う…?」


ムト「そうじゃ。それが何かは判別できんかったがの」


蒼輝「そんな…それじゃ一体…」


マリア「悪魔…?」


 マリアがボソッと呟いた。ゼパイルと戦った紫髪へと変化した姿。あれはまさに悪魔と言ってもおかしくない姿だった。ムトは言葉を続けた。


ムト「その正体が何かはわからん。その何かと人間のハーフであることは間違いない。しかし、その血族(けつぞく)の力はE兵器(クリミナル)としての性質によって大きく制御(せいぎょ)されておるようじゃ」


マテリア「奈樹のその力が目覚めたのは一体…」


ムト「自身の命の危険から出た生存本能(せいぞんほんのう)、仲間の危機、悪魔との接触、冥幽界と繋がった影響…どれが原因かは判断できん。一つ言えることは、人外の力を持っているということじゃ」


 今は奈樹が何の血を引いていて、力の正体が何なのかはわからない。少しの沈黙(ちんもく)があったが、話を切り出したのはディアナだった。


ディアナ「そうだ…あのね、紫闇(しおん)っちゃんから手紙(てがみ)(あず)かってたの」


蒼輝「えっ…? 手紙? いつの間に?」


ディアナ「家にまで来たの。それでね、自分になにかあったら島で助けてくれた人に(わた)してくれって」


 皆は、その紫闇の行動の意図が理解できなかった。何故、危険を(おか)してまで館から出てディアナの家に行ったのか。何故、ディアナに手紙を渡したのか。何故、ディアナであったのか。


バサラ「悪魔なんて訪問(ほうもん)してきたら、ブラックが(だま)っちゃいなかっただろ?」


ディアナ「んーん。ブラックは危ないよって感じで反応しなかったし、一目(ひとめ)でイイ子だって思ったから。それに(あたま)ナデナデしてくれたし、この衣装も可愛いって()めてくれたの!」


 屈託(くったく)のないニコニコとした笑顔。間違いなく(うそ)など言っていない。まず、ディアナは嘘を言うような子ではなかった。


マリア「わざわざディアナさんを(たず)ねてきたということは、紫闇さんと面識(めんしき)があったのですか?」


 マリアは皆が思っていた疑問(ぎもん)を、ディアナに問いただした。


ディアナ「ないよ? 全然ないよ? けどイイ子だってわかったもん。紫闇っちゃんはイイ子!」


蒼輝「イイ子って……その意見はわからんでも無いけど、まるで自分の方が年上みたいな言い方だなぁ」


 蒼輝は(あき)れつつ言った。ディアナの根拠(こんきょ)は解らなかったが、妙な感覚と自信のある発言だった。紫闇の手紙は月花が受け取った。


月花「では…読みます…」



『この手紙が読まれているのであれば、きっと私は冥幽界(めいゆうかい)へ連れ戻されている。

 城はまだ建国中で兵は少なく、力不足の者が多い。ならば追っ手は恐らくアスモデス四死公(ししこう)だろう。そうであれば、もう生幽界にも逃げ道はない。私は大人しく戻っているはずだ。

 生幽界で君達に出会えたことが、私にとって最後の癒しであり、幸福だった。


 心配してくれて、ありがとう。何の関係も無い人間である君達に迷惑をかけた。本当にすまない。

 私は妃として元気に暮らしてゆく。できることなら、私のことは忘れてほしい。さようなら。


                                       紫闇』



 月花は手紙を閉じた。文面からノスタルジアの者達を気遣っている様子と、己の運命を(あきら)めつつも、無理に(つよ)がっている(さま)が伝わってきた。


奈樹「紫闇さん…紫闇さんは…諦めてしまっている…」


マリア「このままでは…望まぬ婚約(こんやく)をさせられることになる…」


バサラ「そんなの…許されるはずない。国を()べる者が、権力を振り(かざ)して横暴(おうぼう)であっていいはずがない!」


蒼輝「けど…俺達じゃ悪魔に(かな)わない…」


 悪魔であるゼパイルの圧倒的な力を体感した蒼輝達は(だま)ってしまった。


月花「紫闇さんを…助けることはできないんですか…?」


蒼輝「…無理だな…。悪魔の強さは異常だ…俺達じゃ束になっても勝てない。それに冥幽界に行く方法は無い…」

 

風魔「いや、あるね」


 部屋に響いた強い言葉。冥幽界に行く方法があると確信しているかのような風魔……果たして、その策とは……?

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