24-A -サンサーラの器-
浜辺に現れた悪魔、ゼパイル。その圧倒的で容赦のないパワーと残虐性の前に為す術もなくやられた。紫闇が冥幽界へ連れ戻された。
浜辺で起きた奈樹の大きな咎力に気付き、島の仲間が駆けつけた。そこにはたった一人だけ意識のある颯紗。紅い瞳を見開いて座り込んでいて、息が上がってまるで先程まで悪夢でも見ていたかのような様子だった。
気を失っている蒼輝、奈樹、バサラ、マリア、リリアを花の屋敷まで運んだ。
颯紗に事情を聞こうとしたが、『冥幽界の悪魔が紫闇を連れて行った』という簡潔な内容だけ伝えられ、眠っている奈樹の傍で泣いていているだけで、まともに話を出来る状態ではなかった。
刹那も奈樹と同じ部屋で心配そうにしていて、マテリアも付きっきりで眠っている人達の様子を見ていた。
…――――三時間後
時間は午後三時を過ぎていた。蒼輝達はまだ眠ったままだった。ムトが診察したところ、怪我はしておらず命に別条はないという。颯紗だけが、その理由を知っていた。
グレモリーが去り際に放った粉末状の咎力。あれは傷を癒す法術だったのだと。
しかし意識が戻るには時間が掛かる。何があったのかわからない以上、バラバラになるのは危険と考え、それまで皆は花の屋敷で待機していた。
花の屋敷の塀の外。月花は一人で座っていた。
月花「…紫闇さん…」
自分が居ない間に紫闇は連れ去られた。月花は落ち込んでいた。まさか追っ手がこれほど早く来るとは想定していなかった。もしも追っ手が紫闇の元へやってきてもいいように、蒼の館の中に居た。しかし、紫闇は何故か館に居なかったらしく、外で連れ去られてしまった。
ふと、立ち上がって門へ向かう。特になにか用事があるわけではないが、庭を覗いてみた。双子巫女の桔梗と桜羅、そしてディアナが幻召獣のプリプムと遊んでいた。黒豹のブラックはその様子を見ながら横になっていた。
ここだけ見れば平和そのもの。しかし、屋敷の中では恐らく交戦して倒れてしまった者達。一体、この島で何が起きたのか知らなかった。
月花は、その辺りをブラブラすることにした。もしかしたら、まだ浜辺には冥幽界へ関係するヒントが眠っているのかも知れない。
ディアナ「それでね、ドコかに行っちゃって……。ん…?」
ディアナはブラックと一緒に居た。桔梗、桜羅、プリプムと一緒に庭で遊びながら話をしていたが、ふと門の外を見た時に何処かへ歩いていく月花に気付いた。
桜羅「ディアナちゃん、どうしたの…?」
桔梗「なになに? どーしたの?」
月花は歩いた。ずっと紫闇のことを考えていた。初めて会ったはずなのに、どこかで会った気がした。けど思い出せない。そもそも紫闇が自分について何か知っている様子はなかったし、悪魔である紫闇と知り合いであるはずもないのに…。
ただ、放っておけない。そんな気になっていたから護衛を申し出たのだった。
月花「はぁ……」
深い溜息をつきながら、気が付けば浜辺に到着していた。
紫闇と追っ手が来た悪魔……何かヒントがあるかも知れないという縋るような気持ちでやってきた。
そこには女性が立っていた。水色の長く整った髪に桃色の瞳。黒くて革製のパンクな服に身を包んでいた。その風貌から、硬派な男らしさが漂っている。島で見たことない女性。ただ……誰かに似ている気がした。この女性は、一体何者なのか…。
『……』
女性は月花に気付いた。月花は立ち竦んだ。まさか、蒼輝や奈樹達を襲ったであろう悪魔が再び現れたのではないかと構えた。女性は何も言わず、手を広げた。手のひらに花びらが集まる。その花びらは集合体となり形を作った。
それは拳銃のような形。引き金、リボルバーに応る部分もある。
その銃口を月花に向けた。突然の敵の襲来…月花は身構えた。
桜羅「あれ…?」
声がした。月花の後方に、桔梗と桜羅が立っていた。
月花「桔梗ちゃん、桜羅ちゃん! 危険だ! 逃げるんだ!」
月花は声を上げた。これ以上、島の皆を傷付けてしまうわけにはいかない。何としても避難させるつもりだった。