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ゲームキャラで異世界転生して、大草原ではじめるスローライフ  作者: 鏑木ハルカ
本編 ゲームキャラで異世界転生して、大草原ではじめるスローライフ
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第九十六話 攻略開始

終盤、視点変更がありますのでご注意ください。

 艦橋から作戦の開始を待つ。

 ボクの役目はここから踊り出る事で敵の注目を集める事だ。

 正面からセンリさんとローザが殴り込みを掛け、ボクが船のタラップを外して捕虜や奴隷の安全を確保する。

 船に乗り込めないようにすれば、彼らは安全になるだろう。ダニットさんはそれまでの護衛でもある。


 船の安全が確保できたら、後は自由に蹂躙を開始すれば、それで済む。

 敵の数は二十人程度なのだから、力押しの殲滅が可能なはず。


 そもそも敵の陣容には注意すべき人材があまりいない。

 せいぜいあのダークエルフくらいである。


 転移者でもいればまた話は変わるのだろうが、その気配は欠片も存在しない。

 そしてこちらには転移者が二人……最悪アリューシャにも手伝ってもらえれば三人である。

 負ける要素は見当たらない。




 程なくして、センリさんが水面を走る馬車で乗り込んでくる。

 ここまで三度ほど【ウォーターウォーキング】の魔法を使用しているので、ルイザさんのMPもかなり心配だ。

 それもあって抜け道封鎖に回ってもらったわけだけど……


「お前、一体――」

「問答無用! 【フレイムビート】射出ー!」


 抱え上げた榴弾発射筒から、グレネードを射出する。

 これは機械式の武器に見えて、れっきとしたスキルなのだそうだ。

 発射筒は、彼女の主力スキルでもあるので、馬車に乗せて置いた事にしている。


 幌を外して荷台だけになった馬車の上から(水着姿の)仁王立ちでグレネードを射出。

 これが奥の壁面に直撃し、盛大な破裂音を撒き散らす。


「てめぇ、何しやがる!」


 海賊どもの大半は奥のホールで宴会中。

 唯一彼女を視認していた、船の見張りが腰の剣を引き抜き、襲い掛かろうとする。


 スポーティな水着姿の女性と武装した少女が一人。

 自分一人でも取り押さえられると判断したのだろうが、それが間違いの元だ。

 センリさんは男を充分引き付けた上で、左に持った拳銃を男に向け、無造作に引き金を引いた。


 ダン! と、派手な発砲音を響かせ、男の頭が爆ぜる。


 あの拳銃は元はオックスと言うFPSからの転移者が持っていた物だ。

 研究開発と言う名目で今はセンリさんが預かっている。

 弾丸も三百発ほどは予備があったのだが、開発師のセンリさんはそれすらも【複製】で増やす事ができるのだ。

 なので、残弾に関してはまったく気にする必要が無い。


 拳銃に使われている45ACPと呼ばれる弾丸は、弾速は遅めだが、破壊力に優れる。

 もっとも遅いと言っても、ボクみたいなトンデモキャラ以外は視認すらできない速度だけど。


 その殺傷力は見ての通り。

 たった一発で充分人が死ぬレベルである。


 この時点でようやく奥のホールから人が集まりだし、甲板掃除をしていた海賊も船を降りてきた。

 センリさんは馬車の荷台を盾に、敵を寄せ付けないように銃を乱射している。

 後ろにはローザがいるので、近付かれるのはまずい。


 ガンガンと乱射し、敵を長距離に貼り付ける。

 だが銃の弾倉だって無限じゃない。やがては弾が尽きる。

 センリさんは、スライドが下がり、弾切れを示した拳銃を背後のローザに渡す。


「交換、お願い!」

「は、はい!」


 ローザがたどたどしい手つきで弾倉を交換する。

 その銃撃の合間を隙と見たのか、物影に隠れて銃弾をやり過ごしていた海賊が、ここぞとばかりに姿を現す。


「野郎、好き放題しやがって! たっぷり可愛がってや――ギャブッ!?」


 のうのうと悪態を吐いていたバカに、センリさんは短機関銃に持ち換えて攻撃をしかける。

 チャンスとばかりに姿を現していた海賊達は、この銃弾の嵐にあっという間に薙ぎ倒されて行った。


「くそっ、影に隠れろ! 弓を使って反撃するんだ!」


 お、なかなか判断が早い奴がいるな?

 海賊船と言うだけあって、弓と大砲、そして剣や銛といった武器はそこいらにある――が。

 こいつら、装備の手入れもろくにしてやがらない。銛や大砲は錆付いていて動作が怪しそうだ。


 矢が唸りを上げて飛来するが、大半は馬車に突き刺さって止まっている。

 馬車を牽いて来たセイコも、こっそり馬車の陰にうずくまってやり過ごしてる。相変わらず、頭がいい。


 放たれた矢のうち何本かが馬車をすり抜け、センリさんに迫った。

 彼女の耐久力なら、矢の一本や二本は特に問題は無いだろうけど、やはり怪我は怖い。だが、そのためにローザを配置している。


 当たる――そう確信した瞬間、緑色の光柱がセンリさんを包み、矢が弾き返された。


「あ、アリューシャ……ほんとに、もう!」


 ボクはセンリさん達の背後の岩陰に、こっそり隠れているアリューシャの姿を見つけた。

 あの子は一人で置いていかれるという事に、すごく恐怖を感じるトラウマがあるようだった。

 今回も、『一人で待っている』と言う事態に我慢できなくなったのだろう。


 ボクの視線に気が付くと、こっそりとピースサインを送ってきてニカッと笑う。

 その自慢げな表情を見ていると、怒るに怒れない辺り、ボクも甘い。


 続いてローザにも緑色の光柱が飛び、射撃武器を完封してのける。


 あの緑色の光は侍祭系初期クラスで覚える事のできる【プロテクトアロー】だ。

 アローと言っているが、実際は射撃武器なら何でも完封してしまう非常に強力なスキルでもある。


 ミッドガルズ・オンラインは遠距離系の攻撃が非常に強く、それだけで前衛が薙ぎ倒されかねない程の火力を持っていた。

 それ故に、射撃攻撃に対する防御スキルも、多彩に存在する。


 正直、オックスと言う男との戦い、アリューシャがいてくれればもっと簡単に事は済んだのだ。

 あの時、アリューシャの意識を奪っていたのは、敵のファインプレーだったとも言える。


 先手でウララと言う足を潰し、反応する隙も与えず彼女を無力化する毒を散布する……あの一件は敵の対応が上回ったと評価するしかない。


 【プロテクトアロー】の効果は数十秒しか持たない。

 アリューシャはそのタイミングを見計らって、掛け直しを放ち、弓の攻撃を封殺する。

 これで海賊達は手詰まりも同然だ。

 顔を出せばセンリさんの銃弾が襲いかかり、影から攻撃する弓は無力化された。

 後は後続にさえ気を付ければ、彼女が敗北する事は無いだろう。




 さて、甲板の敵がいなくなったことだし、ボクもそろそろ仕事を果たすとしよう。

 艦橋の窓を叩き壊し、一気に甲板へと飛び降りる。

 艦橋と言ってもせいぜい十メートルそこらの高さしかない。

 ボクの脚力なら、ダメージも負わずに済む。


 現在、桟橋に集まった海賊はせいぜい十五人。

 まだ十人近くがホール側に残っていることになる。


 あっさりと拠点を捨てる判断を下したのか、それとも切り札でもあるのか?

 とにかく、船に乗り込まれないようにタラップは破壊しておくとしよう。


「【スマッシュ】!」


 戦士系基本クラスのスキルだが、木の板を破壊するならこれで充分だ。

 これを壊すと、奴隷達が下船するとき困るだろうけど、それはセンリさんに【修復】してもらえば、何の問題も無い。


 後は、いまだ姿を現さない後続を殲滅しに行くとしよう。


「センリさん、ここは頼みます。ついでにアリューシャも」

「むしろアリューシャちゃんが本命でしょ、そのお願い」

「当然です」


 悪いけどボクにとって、捕虜や奴隷達の命よりアリューシャの方が重いのだ。

 もっとも、ここの連中ではアリューシャには傷一つ付けれそうに無いけど。


 すでにセンリさんの銃撃で半数以上が戦闘不能となっている。

 その半分はすでにお亡くなりになっているみたいが、それもまた自然の摂理と言うものだ。

 女を食い物にしてきた連中に、慈悲は無い。


 奥の階段へと掛けだしたボクの前に、無謀にも立ちふさがる海賊がいた。

 二人程度だったが、無謀と言わざるを得ない。


「行かせるか、このガキ!」

「こうなったらテメェをひん剥いて、人質にしてやる!」


 ボクを人質に? 状況の打開案としては悪くない。ボクを取り抑える事ができれば、だけど。


 あからさまに面倒臭そうにボクは剣を振る。

 その一撃は海賊の構えた剣をへし折り、革鎧を両断し、体を縦に二分してのけた。


「――え?」


 いきなり()()()にされた相方の惨劇に、間の抜けた声を漏らす海賊。

 もちろんボクは立て直す隙なんて与えない。


 そのまま横薙ぎに剣を振り払い、これまた体を二つに斬り分けた。


 この程度の雑魚なら、スキルや技を使うまでも無い。

 強さの桁が、文字通り違うのだ。


 なんとなくこの世界に来て苦戦ばかりだった気がするけど、今まで戦ってきた相手がおかしいだけで、充分ボクは強者の範疇にある……はずである。


「そんな気分が全然しないのは、今までの相手が悪かったからだよなぁ」


 残った海賊は五人ほど。

 彼らは二人のあまりにも身も蓋も無い最期を目にして、完全に戦闘意欲を削がれた様だった。


 ボクが奥の階段を掛け上がるころには、両手を上げてセンリさんに無条件降伏を申し出ていた。



◇◆◇◆◇



 アーヴィンは、センリたちと別れた後、急いでユミルに教わった抜け道の出口へと向かった。

 早く出口を押さえないと、センリたちの攻略が始まってしまう。

 彼女達ならば、圧倒的な戦闘力であっさりと制圧してしまえると信じてはいるが、それだけに逃げを打つ輩は必ず出るだろう。


「ルイザ、MPはどれくらいだ?」

「中規模の魔法を三回ってところね。正直、心許ないわ」


 ルイザは馬車に水面歩行の魔法を掛け続けて、かなり疲労している。

 それでも、ダークエルフを相手にするには、彼女の力量が必要になる。


「済まないが、もう一頑張りしてくれ」

「わかってる。ダークエルフくらいは抑えて見せるわ」


 気丈にそう答えはしているが、額を流れ落ちる汗までは隠せていない。

 限界は近いのだろう。そう確信しながらもアーヴィンは森の中に歩を進めたのだった。




 街道脇の森の中。

 その岩陰の隅にぽっかりと開いた洞窟を見つける。

 これが海賊の抜け道なのだろう。


 すでに日は翳り始めているが、明かりは点けず、剣を抜いて、来るべき敵を待ち構える。

 しばらくして洞窟の奥から爆発音が響き、続いて断続的な破裂音が聞こえてきた。


 悲鳴と怒号。

 それら全てが野太い男の声である事が、彼女達の無事を証明する。


 そして奥から聞こえてきた男の声に、アーヴィンは本気の怒りを覚えた。


「お前らは早く加勢に行って来い。侵入者に女がいたら殺すなよ! お前らはこの奴隷どもを縛り上げて人質にしろ!」


 ユミルの偵察では、ホールには四人の女性達がいたはずだ。

 それを攻撃部隊への人質に流用しようと言うのだ。

 散々もてあそんで置いて、使い捨てるつもりなのだ、この男は。


「カシラは?」

「俺はこの卵を隠して来る。なんせ一番のお宝だからな!」

「判りやした、お早いお帰りを」

「ジャニエ、お前も付いて来い!」


 そんなやり取りが聞こえてくる。

 確かに卵を抱えたままでは戦えない。だから、早々に逃げを打ったのだろう。

 無事撃退できたのなら、そ知らぬ顔で戻ればいい。

 そうで無いなら、こそこそと逃げ出せば、生き延びられる。

 ドラゴンの卵があれば、それこそ海賊業のやり直しなんて簡単にできるのだ。


「ルイザ、来るぞ」

「ええ。あの名前、ダークエルフね」


 ユミルから聞いていた敵の名前と一致する。

 ならばこの抜け道が、決戦の場となるのだろう。


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[一言] センリのさんなら銃の複製もできるし: 弾丸も三百発ほどは予備があったのだが、開発師のセンリさんはそれすらも【複製】で増やす事ができるのだ。
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