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ゲームキャラで異世界転生して、大草原ではじめるスローライフ  作者: 鏑木ハルカ
本編 ゲームキャラで異世界転生して、大草原ではじめるスローライフ
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第九十五話 隠密戦

 街道を遡り、アーヴィンさんと合流。

 一旦崖を降りてダニットさんも呼び戻しておく。

 船のサイズは結構大きいので、特に見張る必要も無いだろう。

 裏口から逃げられるのは心配だけど。


「なるほど、人数的にはそれほど多くは無いんだな」

「はい、それと怪我人がいました。かなり重傷ですので、早く助けないと危ないです」

「人質に使われるかもしれないからな」


 ボクらが今取れる選択肢は三つ。


 一つ、この人数で強襲を掛ける。

 二つ、一旦戻って組合に助力を願う。

 三つ、見捨てる。


 もちろん三つ目の『見捨てる』は存在しないも同然だ。

 アリューシャの前で、そんな格好の悪い真似はしたくない。


 二つ目の助力を願うのも、なかなかに難しい。

 その期間、あの怪我人の男が持ち(こた)えるとは思えない。

 それに下手をしたら、あの女の子も……命は無事でも、無事じゃないと言うこともあるのだ。


 ならば選べる選択肢は一つだけだ。

 この人数で強襲し、一人も逃さず討伐する。

 アーヴィンさんも、この意見には同意してくれた。


「だが、守る箇所が三ヶ所もある。正直人数の不足は否めないぞ」

「一ヶ所、平均二人程度ですからね」


 洞窟の入り口、抜け道、そして捕虜。

 これらを確保しないと、取りこぼしや犠牲者が出てしまう。


「捕虜の確保は隠密行動の技術が必要になるわね」

「そうなるとボクかダニットさんしか選択肢が無いですね」


 ルイザさんが必要な技能から、捕虜確保の人員を確定させる。

 甲板に三人、船内に四人。見張りも入れれば下手をすれば八人。

 ダニットさんだけでは厳しい人数だ。


「でも、抜け道の方もなかなか厄介よ。首領はともかく、下手をしたら護衛にダークエルフも付いてくるかもしれないわ」


 今度はセンリさんだ。確かにダークエルフはまともにやりあうのは遠慮したい相手だ。

 出来るなら、ボクかセンリさんで一気にカタを付けたい。


 それに、親玉が一人で逃げるとは考えにくい。

 ああいう連中は、必ず保身を脳内に置いている。

 いざとなれば自分一人で逃げるだろうが、そこまで追い詰められずに撤退を選ぶなら、護衛は必ず付けるはずだ。

 だとすれば、選ばれるのはあのダークエルフに違いない。


 魔法に長けた種族を相手するのなら、ルイザさんの存在は外せない。

 そして接近戦の苦手な彼女を守るための、前衛も。


「そっちだけじゃないわよ。洞窟正面だって、あの細い通路や桟橋で海賊どもを押さえきらないといけない。かなりの制圧力が必要になって来るわ」


 こうなってくると、ボクの配置に非常に迷う。

 狭い空間で問答無用の戦力を発揮できるから正面にも置いておきたい。

 隠密で捕虜を確保でき、しかもやってくる海賊を追い払えるのも、ボクが適任だ。

 さらに抜け道の狭い空間での戦闘となれば、それこそボクの専売特許である。

 壁や天井すら足場にできるボクは、あの空間内に置いて無敵の存在なのだ。


「ここは最初の目標を忘れずにいこう。俺達の目標は捕らえられている人たちの安全を確保することだ。ここは最大戦力であるユミルに行ってもらいたい」

「なるほど、判りました」


 依頼……と言う訳ではないけど、最初の目標は捕虜になっている人たちの確保だ。

 たとえ数人を見逃したとしても、助け出しさえすればそれでこちらの目標は達成される。


「単独行動だと不安が残るので、ダニットも補佐に付いてくれ」

「了解した」

「正面の攻撃は範囲殲滅力の高いセンリさん。彼女の回復役にローザがサポートに入ってくれ」

「え、わたし?」


 意外と言う顔で反論を唱えるローザ。

 だが正面から攻める分、センリさんは被弾の危険性が大きい。

 回復役を補佐に入れて置くのは定石だろう。


「でもアリューシャがいるじゃ……」

「ただでさえ人数が不利なのに、こんな子供を戦線に巻き込むな。いくら強くても彼女は七歳なんだぞ」

「あ、そっか……」

「センリさんはスレイプニールを使って何とか支えててください。裏口は俺とルイザで押さえる」

「了解したわ」

「ユミルは人質を確保したら、センリさんのサポートを頼む」

「任せて」


 正面の攻略にセイコを利用し、中衛にセンリさん、後衛にローザ。

 ここは出来るだけ距離を置いた戦闘を心がける。


 抜け道の攻略にアーヴィンさんとルイザさん。

 おそらくは閉鎖空間での魔法戦になるから、ルイザさんは外せない。


 アリューシャは崖下で隠れててもらう。


 悪くない配置だとボクは思う。

 後は襲撃のタイミングを相談して、行動に移すのみだ。




 ダニットさんとは同じ攻略目標を持つ訳だが、いきなり別行動する事になった。

 これはボクとダニットさんの潜入の速度の違いが問題になったのだ。


 心配なのはアリューシャだ。

 できるならボクの目の届く所にいて欲しいが、今回は隠密行動なので、それはできない。


 ボクは【クローク】を使えば、堂々と正面から進入する事ができるが、ダニットさんはそうは行かない。

 見張りの目を避けるために海の中を泳いで船腹をよじ登り、甲板掃除の下っ端の目を盗んで船内に潜りこまねばならない。

 何かアクシデントが起こったら、センリさんの襲撃までに捕虜の確保ができないかもしれないのだ。


 それならばボクが先行して、最低限の安全を確保した方がいい。

 そう判断してのことだ。


 単独で先行し、見張りをすり抜けて檻のある部屋のそばまでやってきた。

 通路の角からこっそり入り口を窺って見ると、やはり二名の海賊が見張りを行っている。

 通路の角から見張りのいる場所まで、およそ十メートルほど。

 無理すれば、一気に懐まで突っ込む事ができるけど、ここで無駄に危険を冒す必要も無いか?


 ボクはわざと小さく物音を立てて、【クローク】で影に潜む。

 見張りたちは案の定、物音を聞き咎めて、相談を始めた。


「何だ、今の音?」

「飯の時間じゃないよな?」

「交代でもないぞ。ひょっとして侵入者か?」

「ちょっと見てくる。警戒は解くなよ」

「判ってるって」


 そんなやり取りの後、一人がこちらに向かって歩いて来る。

 角を覗きこんでいるが、影に潜んだボクを見つける事はできない。

 物音の正体を探るべく、角を曲がってもう一人の視界から消えた瞬間、ボクは背後から襲いかかった。


 音も無く背後に姿を現し、標的の口元を押さえ、喉を掻き切る。

 ビクリと痙攣を起こし、息絶える見張り。

 死亡を確認してから流れるように死体をインベントリーに隠し、再び【クローク】で姿を消した。


 後は残った一人を同じような手段で無力化してお仕舞いだ。

 手早く死体のポケットを漁り、扉と檻の鍵を見つけ出す。

 そのまま死体をインベントリーに隠蔽し、扉を静かに開けて中に滑りこんだ。


「だ、誰だ!?」


 いきなり部屋に入ってきた水着姿(武装付き)の少女に、商人風の男が狼狽した声を上げる。

 いや、確かにこの状況では意味が判らないだろう。

 ボクだって混乱する。何で水着なんだって。


「タルハンの冒険者です。助けに来ました」

「タルハンの? 組合証は……」


 あ、組合証はインベントリーの中だ。

 さすがにこの人の前で開く訳には行かないな。


「えと、持ってるように見えます? ボク達はリゾート中に助けを求めるメッセージを拾ったのでここに来たんですよ」

「そうなのか? いやでもいきなり君のような子供の言う事を信じる訳には……」

「ならそのまま檻にどうぞ。ボクの目的はビンにメッセージを入れて助けを呼んだ人ですから」

「それは私です!」


 ボクの言葉に素早く反応したのは、十五前後の女の子だ。

 やはりこの子か。優しそうで機転も利きそうな表情をしてたもんな。

 窓から遠い檻の男三人は違うと思ってたんだ。


「待ってて、すぐ出して上げるから。でもまだ部屋を出ちゃダメだからね?」

「なぜ?」

「こっそり侵入してきたから。もう少しで仲間が騒ぎを起こすから、それが一段落するまで、ここで待ってるんだ」

「騒ぎに紛れて逃げるのはダメなのか!?」


 そこへ割り込んできたのは、水夫の男だ。


「ボク一人で六人全員を守りきるとか、手が回りませんよ。それに一緒に来たのは少人数ですが腕利きです。海賊二十人程度ならあっさり殲滅してくれますよ」


 そもそもセンリさんはオーク二千匹焼き払った経歴がある。

 安全圏からの広域殲滅力に関しては、ボク以上の物があるのだ。


「少人数? 一体どれくらいの――」

「ボクを含めて七人」

「なっ、三分の一じゃないか!」


 憤慨したように声を荒げる商人。

 この人、ちょっと騒々しい。隠密行動中だって言ってるのに。


「あまり声を荒げると、敵の増援が来るかもしれませんので静かにしてもらえます?」

「せっかく助けが来たと思ったら、子供を含めて七人……期待した私達の失望が、君に判るかね!」

「――黙れ」


 大声を立て、騒ぎ出した商人を黙らすべく、ボクは剣を引き抜き目の前の檻に叩きつけた。

 その剣は目にも止まらぬ速さで檻のある空間を駆け抜け、一拍遅れて音も無く切り抜かれた鉄格子が床に転がり落ちる。


「こう見えてもボク達はタルハン有数の腕利きだ。嫌ならおとなしくそこですっ込んでいろ」

「あ、あぁ……すまな、かった……」


 今考えると、鍵なんて要らなかったなぁ。

 斬り飛ばせばすぐじゃん?

 そんな事を益体も無く考えていると、部屋の扉が控えめにノックされた。


 最初に三回、続いて二回、そして三回。


 これはダニットさんと即興で作った合図だ。

 そんなものでも決めていないと、ボクは扉が開いた瞬間に攻撃を仕掛けてしまう。


「どうぞ。早かったですね、ダニットさん」


 声と共に扉が開き、するりと影のように忍び込んでくる。

 その間、音一つ立てないのはさすがだ。


「そちらこそ。すでに見張りは無効化していたのか」

「死体は見つからないように処分しておきました。方法はナイショです」


 ボクの軽口にコクリと頷いて返す。

 この人は性格も誠実だし、腕も確かなんだけど、愛想がまるで無いのが本当に残念だ。

 顔も悪くないから、人付き合いさえ良ければアーヴィンさん以上にモテたかもしれないのに。


「時間は後どれくらいです?」

「五分ほどだな。こちらが早く済ませ過ぎたかも知れん」

「早い分には問題ないですよ。その間に船内の賊を掃除してきます。皆さんをよろしく」

「判った」


 ダニットさんがいるなら、ここの安全はほぼ確実だろう。

 入れ替わりにボクが船内を制圧して回ろう。後でセンリさんの援軍にも行かないといけないし。


 足音一つ立てず船内を疾走する。

 その速度は視認すら難しいほど疾い。

 まずは厨房、ここに一人海賊のコックが常駐していた。


 扉は開いていたので、正面から飛び込み懐まで駆け抜ける。

 そのまますれ違うように斬り抜け、背後からトドメの一太刀を浴びせる。

 声を上げる暇も無く、崩れ落ちる男。

 ついでに見張り二人の死体もここに放置しておこう。


 火事になると捕虜達が危ないので、火の元だけは確認して次の目的地へ。

 次は船橋に当たる部分に1人。

 これは船の監視役として常駐している。


 これを倒すと後は甲板掃除の三人だけになるので、扉を切り払って乱入し、音に気付いて振りかえった所を斬り捨てる。

 まさに問答無用だが、今まで戦ってきた相手が強すぎたのだ。

 ベヒモスとか、ゴーレムとか、オークロードとか、転移者とか。

 ボクはもっと楽に生きたいのに、騒動の方からこっちに擦り寄ってくる。困ったものだ。


 これで船内は制圧したので準備は完了。

 後はセンリさんが正面から押しかけ、敵を陽動して作戦開始だ。


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― 新着の感想 ―
ワタシなら燻すな。 洞窟だとかなり音が反響するから、間違いなく商人の声でバレたよ? むしろバレなかったらおかしい。
[気になる点] 誤記:援軍に 入れ替わりにボクが船内を制圧して回ろう。後でセンリさんの援軍いも行かないといけないし。 [一言] 抜け道とは狭いものでは?出て来たなら先ず塞ぐ!: 「でも、抜け道の方もな…
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