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ゲームキャラで異世界転生して、大草原ではじめるスローライフ  作者: 鏑木ハルカ
本編 ゲームキャラで異世界転生して、大草原ではじめるスローライフ
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第八十九話 肉を始末するには

 それから数日掛けて営業状態の悪そうな道具屋を回って、ベヒモスの素材を卸していった。

 もちろん彼らのプライドも関わるので、無料ではない。

 こちらとしても充分に利益の出る卸値を提示し、それを商ってもらうことで利鞘を出し、店を建て直してもらうのだ。


 街中の道具屋が焼かれたと言っても、せいぜい数軒である。

 骨や皮、爪、牙などを個別に卸したので、それぞれに需要があるだろう。


 同じ物を大量に市場に流した場合、値崩れする可能性もあるが、店ごとにバラバラの素材を渡しておいたので、その心配はたぶん無い。




「そんな訳で今ボクの手元には、大量の『肉』が余っているのである」

「いや、そんなこと相談されましても……」


 アリューシャの通う学校の応接室で、ボクは校長先生と会談中である。

 応接室は相変わらず質素な装飾なのだが、センスがいい物が揃っている。

 あの皿とか伊万里焼みたいに華やかじゃないか。ぜひ屋敷に持って帰りたい。


 さてベヒモスの肉だが、インベントリーの中に仕舞えるとは言え、収納枠一つを占領されているのが現状である。

 肉だけならこの機会に処分してしまいたい所だ。


「そこでバーベキューです!」

「校内のイベントに取り込むおつもりですか」

「せっかく海が近い訳ですし、浜辺で焼肉と洒落込みましょうよ」


 トン単位の肉を処分するには、まず戦力を確保せねばならない。

 ボクのアバターは小食だし、センリさんも女性らしくそれなり程度しか食べない。

 アリューシャも育ち盛りとは言え、五百グラムを食べるので精一杯。


 もちろんスラちゃんに食わせると言う選択肢も存在するが、それはそれでもったいなく感じてしまうのだ。

 それにおよそ六トンの肉を食わせて、大増殖されたら困るし。


 そこで思いついたのが、食い盛りの子供達が集まる学校に寄付する方法である。

 アリューシャの学年は一学年で百名程度だが、それが六学年もあるのだ。

 六百人の児童とその保護者が集まれば、数トンの肉と言えども一網打尽である。


「ノルマは一人五キロくらいですかね?」

「死にますよ?」

「ボクは無理ですが」

「私だって無理です」


 そんな訳で打ち合わせをトントン拍子で進め、一ヶ月掛けて学年ごと六回のバーベキュー大会を開催することが決定した。

 一ヶ月も掛けるのは、引率の教員やボクの負担を考えての事だ。


 肉の提供者であるボクとアリューシャは、すべてのイベントに参加せねばならない。

 そして引率の代表者である校長も、参加しないといけない。こちらは教頭で代理可能だそうだが。


 連日バーベキュー大会だと、さすがにボクの胃袋が死ぬので、週二回ペースで開催する事にしたのだ。

 それでも大概なハードスケジュールである。アリューシャ、すまん……


「まぁ、海で泳いで身体を鍛え、肉を食らって親睦を深めると言うのも教育には良いかも知れませんしね」

「そうですわね。最近暑いですから」


 季節は夏真っ盛り。

 連日の猛暑にスラちゃんベッドが手放せない毎日である。

 そういえば、開催が決定したので、この見た目美女なエルフの校長先生の水着も拝めると言う事になるのか。

 それは実に楽しみである。


 センリさんも引っ張り込んで、目の保養も行うとしよう。



 校長先生の奮闘で、二週間後からバーベキュー月間が始まる事となった。

 それまでにボクとしてはやらねばならぬ事がある。

 すなわち――


「水着選びである!」

「ねぇ、本当に私も行かなきゃならないの?」

「家で一人でお肉食べますか? 五キロがノルマです」

「それは侘しすぎる。っていうか死ぬわよ、その量」


 アリューシャはすでに学校指定の水着があるので、新規に買いなおす必要は無いが、ボク達は別である。

 草原の迷宮にも海ステージはあったが、モンスターの襲撃があるため、大抵は装備を着けたまま泳ぐ事になっていた。

 今回は普通に海水浴なので、泳ぐための『お洒落な』水着が必要になってくる。

 そういう訳で、街の服飾店の水着売り場へやってきたのだ。


「ふむ、このアバターでスクール水着と言うのも、犯罪的でいいかもしれないけど」

「さすがにマニアック過ぎるわよ。それにもったいないわ」


 どうこう言ってもセンリさんも女性である……まぁ、多分だけど。

 服飾店に入って、色とりどりの衣服を見てテンションが上がる所は、実に女性らしい。


 センリさんはいそいそとビキニ風の水着売り場へと足を運び、数着を持って戻ってきた。


「これ、ユミルにぴったりじゃない?」

「紐でしょ、これ! どこの痴女ですか!?」


 そういって差し出してきたのは、ビキニの前にマイクロが付く類の物だった。

 どうしてこんな物まで売ってるんだ、この店……


「いや、そもそもなぜそれを真っ先に持ってきたし」

「んー、場を和ませる冗談かしら?」

「せめて隠せる物を持ってきて」

「これでも隠せるわよ? ぎりぎりだけど」

「じゃあ、センリさんがそれを着ると言う事で」

「うん、これは無いわね」


 あっさりと手の平をひっくり返し、ポイっと棚に戻していく。

 その後、花柄ワンピースとか、フリル付とか、どう見ても『子供向け』を勧めてくるのはどう言う意味があったのか。


「あ、いや、ユミルの体型なら似合うかなぁって」

「ボクだってくびれとかちゃんとあるし! 胸だってしっかりあるし!」

「少しだけね」

「コロス」


 メキリと拳を握り締めて、半眼になる。

 実際に人を殺せる拳である事は、証明済みだ。

 それを知ってるだけに、センリさんのこめかみに一筋の汗が流れた。


「いやいやいや、一部の趣味の人達に人気があるのかなって! ほら、ユミルってばそういう境界線上にいるじゃない?」

「ヤな境界線ですね」


 もちろんこっちも本気ではなかったので、あっさりと拳を解いてみせる。

 それを見て、センリさんはあからさまに安心した表情を見せた。


「本気で殴ると思ったの? 自分でやっといてなんだけど、それはなんだか心外だ」

「そうは言ってもね。わたしも『あれ』見せてもらったわよ。完全にスプラッター映画だったわよ」

「アリューシャに手を出せばどうなるか、思い知らせる意味もあったので」

「それ、後付けの理由よね?」


 実際その通りではあるので、視線を逸らせておく。

 逆上して、スキルまで使って全力で殴り続けたのだ。

 石造りの床まで陥没していたのはご愛嬌と言う事にしておこう。


 後から来た組合の人がドン引きしてたのは確かだし……


 結局その後は普通に選んで、センリさんはスポーティなセパレートを、ボクは淡い水色のワンピースを選んだところで店を出た。

 あまりにもシンプルすぎるデザインにセンリさんは『もったいない』を連呼していたけど、さすがに凝ったデザインや露出が高すぎるのは遠慮と言うか、引け目を感じてしまったのだ。


 女の体になってもう二年。だがしかし、まだ二年とも言える。

 まだまだ照れを捨てて開き直る域には達していなかったのだ。




 もちろん水着選び以外にもやる事は多い。

 焼肉と言ってもドンと皮を剥いだベヒモスの死骸を放り出していい訳ではない。

 そもそもそんな物を見せられたら、子供がトラウマになってもおかしくは無い。アリューシャは別として。


 そんな訳で庭にベヒモス死骸を放り出して解体作業を行うことになった。

 時刻は夜半過ぎ。

 真っ暗な庭に篝火を焚き、巨大な死骸を取り出して解体するのである。

 これはちょっとしたホラーかもしれない。


 屋敷中のスラちゃん達を集めて、血や残骸の処理に回ってもらうので、臭いとしてはそれほど酷くはならないはず。

 ご近所さんの迷惑にならない事が救いかもしれない。


 センリさんと二人掛かりで切り分けて、切り出した部分をスラちゃんに渡していく。

 スラちゃんは受け取った肉に『浸透』し、血抜き処理とたんぱく質の酵素分解を行って、柔らかい上質肉へと変貌させていく。

 元々ベヒモス自体の味は悪くないらしいのだ。

 脂身が少ない分、ヘルシーな肉が出来上がる事になった。スラちゃん、芸が多彩だ。


 ここで更なる問題が発覚した。

 切り分けた肉をインベントリーに収納しようとすると、切り分けた塊ごとに一枠消費してしまうのだ。

 これではさすがにボクの収納量にも入りきらない。


「これは予想外……」

「私とアリューシャの分使っても、入りきるか疑問よね」

「わたし、まだ入るよー!」


 そりゃ、ボクも余裕を取っているけど。

 それはいざと言う時用の緊急スペースとも言うべき物だ。いや、今がその『いざと言う時』かもしれないけど。


「凍らしておく? ユミルは【フリーズブラスト】使えるんでしょ?」

「この量ならそれもできなくは無いけど……あれ、一日もしたら自然解凍しちゃうからなぁ」


 バーベキュー祭は二週間後からだ。

 それまで毎日死骸を凍らせるのは、少しばかりメンドクサイ。


「センリさん、冷蔵庫作れませんか?」

「それこそ作れなくは無いけどってやつね。すぐにはちょっと……」


 スキル的に作れる装備や薬と違って、生活用品は構造面から組み上げるので、時間がかかるらしい。

 カンカンピロリンで完成とは行かないようだ。


「とりあえず地下室にでも放り込んで置きましょう」

「そうね、ついでにあそこ、氷室に改装しちゃいましょうか」


 厩舎脇の地下室への入り口は放置したままになっている。

 あれからタルハンに巣食っていた不穏分子は一掃されたから、侵入を試みる不埒者は現れていない。

 それに、セイコとウララが見張ってくれているので、潜り込む隙も無いのだ。


「氷室として利用するには、少し屋敷から遠いのが難点だけどね」


 だが地下室である以上、気密はばっちりである。

 天井付近に【フリーズブラスト】を撃ち込んで凍らせておけば、冷気は地下室中に広がって逃げ場が無い。

 室温が零度近くまで下がるので、天井の氷も数日は溶けずに残っているはず。


 その後センリさんとアリューシャでえっちらおっちら肉を運び込んでいる間、ボクはひたすら地下室の屋根に向かって魔法を撃ち続けていた。

 全面がびっしりと凍りついた所で、肉を運び終える。


「うわ、これは予想以上に冷えるわね……」

「すずしー! 今日はここで寝る?」

「いや、さすがに凍死するよ」


 アリューシャの無謀な一言に、ここに見張りを置いておこうと決断する。

 子供が冷凍庫に潜り込む事故と言うのは、わりとよく聞く話だ。

 とりあえずセイコとウララ、後入り口にスラちゃんも配置して、イゴールさんの巡回ルートにも入れて置いてもらおう。


「とりあえずは肉はこれでいいとして……次は運ぶための馬車だね」

「今のままじゃ駄目なの?」

「うーん、二台で運んでもいいんだけど、重量が重量だから負担が心配で」

「ああ、馬じゃなくて馬車の方の耐久度ね」


 ボク達が使っている馬車は、車軸を使った上に荷台を載せる構造ではなく、突起物に車輪を嵌めて動かす構造なので、通常の馬車よりも耐久性が低い。

 元々の用途が(そり)なのだから、仕方ないとは言えるけど。

 そこに肉をトン単位で乗せるとなると、少しばかりでは無く心配なのだ。子供十人乗せるのとは訳が違う。


「ま、そこは本職に任せましょうか。私もポーション作りを止める訳には行かないし。確かカザラさんだったっけ?」

「いや、あの人は武器職人でセンリさんのライバルだよ。馬車職人じゃないから」

「作れるならなんでもいいのよ」


 そんな暴言とともにカザラさんに仕事が回る事になったのだ。

 彼、ベヒモスの素材を入手して今忙しいとか言ってた気がするけど……まぁ、いいか。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] ちょいちょい理解できないのが、何で主人公は普通の女子のような言動するのか?何か変な部分で女子的な反応ばかりでイラっとします。水着選びのシーンとか、普通に中身が男なら体型がどうこうとから…
[一言] ベヒモスの肉、肉屋に持ち込まないし
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