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ゲームキャラで異世界転生して、大草原ではじめるスローライフ  作者: 鏑木ハルカ
本編 ゲームキャラで異世界転生して、大草原ではじめるスローライフ
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第七十八話 初登校に備えて

 厨房の水道がスラちゃんによって清掃されて利用可能になったので、早速調理してみる事にした。

 せっかく綺麗な水が使い放題な訳だし、麺類に挑戦してみる。

 この世界にももちろん麺類は存在しているので、自前で麺打ちする必要は全くない。

 ただ、小麦から作られる麺はパスタに近いものだけなので、そのうち蕎麦とかうどんに挑戦してみたい所存。


 たっぷりの水を鍋に突っ込んで沸騰させ、塩を一つまみ投入。

 このたっぷり水を使うと言うのが、村や旅の途中ではなかなか機会がないのだ。

 村にも井戸はあるのだが、水汲みの労力を考えると、つい水を節約してしまう。


 パスタと言うのは便利なもので、塩味さえ効いていれば、粉チーズだけでも美味しく食べられる。

 もちろんそんな粗食をする必要はないため、各種野菜やベーコンなどと絡めて、オリーブオイルっぽい調味油で炒めておく。

 これだけで充分主食になるのだ。


 スラちゃんとセイコとウララの大活躍で、この屋敷には外から人を雇う必要はなくなった。

 でもこうやって考えると、きちんとした賄いの人は来て欲しいかなぁ?




 夕食の食卓で、センリさんと情報を交換する。

 だが、彼女もボクと同程度の物しか入手してはいなかった。


「それにしても一年前は行方不明事件とかなかったのにね」

「大氾濫がきっかけで守衛の兵士が少なくなったからと聞きましたけど」

「私もその話は聞いてたわ。確かに門を通る時に見た顔は、一年前では見かけなかった顔だったわね」

「センリさん、数日しかいなかったじゃないですか……」


 彼女がこの町に滞在した期間は、ボクよりもさらに短い。

 それなのに、さも通ぶって語っているのは、なんだかかわいらしいぞ。

 盛大に汚しながら食事するアリューシャの口元を拭ってやり、ボクも自作パスタに取り掛かる。

 顔に掛かる髪を耳にかけて、芋やナスっぽい野菜を串刺しにして口に運んでいると、センリさんが眉間にしわを寄せていた。


「どうしたんです? 美味しくないですか、ご飯」

「そんな事はないんだけどねー。あなた達を見てると、わたしもカワイイ系のアバターにすればよかったなって思っただけ」

「見てくれで損する事もありますけどね」


 いつまで経っても子供扱いとか、現在進行形でされてるんだよね。

 ボクもこの世界の年齢では十五歳で、めでたく成人になってるはずなのだけど、アリューシャと並んで頭を撫でる人が続出である。


「まぁ、今はアリューシャの問題ですね。そういうトラブルがある以上、ボクかセンリさんで登下校をフォローしたいので、お手伝いしてもらっていいですか?」

「それは全然オッケーよ。あ、でも近いうちに一度村に戻らないといけないかも」


 そこで、ふと思い出したとばかりに、宙を仰ぐセンリさん。

 村で何か問題でもおきたのだろうか?


「うぅん、単にポーションの貯蔵が足りなくなったってきただけ。アイツら、まだ調薬の成功率が完全じゃないから、失敗が多いのよね」


 センリさんの言う『アイツら』とは、村に残してきたお弟子さん達である。

 彼女と違い、調薬の基本ステータスが高くないため、成功率がなかなか上がらないのだそうだ。

 それでも一般的な錬金術師よりは成功率は高くなってるらしいけど。


「センリさんほどの器用さがないから、それは仕方ない所でしょ。でもそういう事情なら仕方ないです。出かける時は一声掛けてください」

「そりゃ、何日も空ける訳だから、声くらい掛けていくわよ」

「アリューシャ~、しばらく2人っきりだってー」

「んぅ~」


 パスタをもぐもぐするアリューシャの頭を抱え込んで、じゃれついてみる。

 センリさんはそんなボク達を見て、溜息を吐いた。


「アナタ、そのうち犯罪に走りそうで怖いわ」

「なんでですか?」

「アリューシャちゃん、ユミルには気をつけるのよ?」

「ん」

「アリューシャまで!?」


 よく判らないと言う体で、それでも肯定の意思を返したアリューシャにショックを受けてみせる。

 とりあえずそういう訳で、会議はあまり実りなく終了したのだった。




 翌日には学校から教材が届き、さらに次の日に制服や鞄、各種体操着などの必需品が送られてくる。

 これは学校の学費を一括で支払い、さらに寄付までした効果が出ているっぽい。

 ボクが大口の出資者になれば、学校側もアリューシャにはきちんと気を配ってくれるだろうと判断しての事だ。


 その間、アリューシャも校則を読み込み、予習なんかを楽しげな表情で行っている。

 もちろんしっかりと遊びに行くのも忘れない。

 ラキとテマと再会して毎日のように庭を駆け回っている。

 だがジョッシュは残念ながら引っ越してしまったようだ。行方不明事件には関わっていないようなので、そこは一安心である。


 実はラキもテマもアリューシャより少し年上で、テマにいたってはすでに十歳になっていた。

 身長もぐんと伸びて、ボクとそう変わらないほどになっている。


 大きく変わったところは二人とも剣を模した木剣を持ち歩いている事だ。

 どうやらテマが一年前のボクの戦いを見て、冒険者に憧れてしまったようなのだ。

 冒険者に憧れると言うのは、子供のかかる流行病のようなもので、両親も今の所は大らかに見守っているらしい。

 本当になってしまったら、それはそれで騒ぎになりそうなんだけど。


「じゃあ、明日には学校に来れるのか?」

「うん。たのしみだよー」

「僕もう二年生だから、学校案内してあげるよ!」

「あ、ずるい! 俺なんて三年だぞ。俺も行くからな」


 賑やかに騒ぐ子供たちの横でボクは馬車を改造する。

 といっても、車輪周りをセンリさんに強化してもらったので、幌を取り払う程度だけど。


 アリューシャはあれから三日後の明日には学校へ編入されることになる。

 その登下校はもちろん心配なので、ボクが考えたのがスクールバスならぬ、スクール馬車である。

 セイコやウララに馬車を牽かせ、この屋敷から大回りして下町を通り、子供たちを拾ってから学校へと向かうシステムだ。

 これならば、親の負担も格段に減る。


 御者をするボクの負担にはなるけど、それは元々アリューシャを送るついでなので、労働量としては変わらない。

 それにこのシステムが有効に機能すれば、学校側も便乗してくるかも知れない。


 そんな訳で明日の登校に備えて、準備していたのだ。


「テマ、ラキ。明日の待ち合わせの場所は覚えてる?」

「うん、大通りの角のところだよね」

「明日はどっちの馬で来るんだよ?」

「テマは言葉遣い悪くなってきたね? いや、とりあえずはセイコの方に頑張ってもらおうかな」


 ボクの選択に、セイコが勝ち誇ったように嘶きを上げる。

 逆にウララはボクに抗議の頭突きを撃ち込んで来た。もちろん、回避特化職である暗殺者のボクには当たらない。


 それを遊びと勘違いしたのか、セイコも突撃する。

 さらにはアリューシャも。

 それをヒョイヒョイ躱していると、今度は頭上からスラちゃんが落ちてくる。


「うわ、スライム!?」

「モンスターだ! ラキ、アリューシャ、逃げろ!」

「スラちゃんはモンスターだけど、違うよー?」


 この屋敷にはスライムとスレイプニールとゴーストが居るのだから、慣れてない人は混乱するだろう。

 アリューシャが説明した所で、テマとラキは混乱を静め、ペタペタとスラちゃんに触りだした。

 こういうところ、子供は恐れがない。


「スラちゃんはすごく頭がいいから、食べたりしないよ。お布団にだってなれるんだから!」

「へー、じゃあ乗っても大丈夫なのか?」

「乗る……? できるのかな?」


 メルトスライムのスラちゃんは、基本粘体生物である。

 ゼラチン状の身体なので、いろんな形状を取れ、浸透し、捕食する。

 だが形を変えると言うことは、その身体の強度を操作すると言うことではないだろうか?


 案の定スラちゃんはアリューシャを乗せてプヨプヨ弾みだした。

 それを見てテマとラキも飛び乗っていく。

 子供たちが明後日の方向に飛んでいかないように、形を平面に変化させてトランポリンのような形状を取るスラちゃん。


「スラちゃんってば、万能だなぁ」

「――――!」


 にょろっと脇から手っぽい何かを出してサムズアップしてくる。

 こっそり芸が増えてるよ……




 翌日、いつにも増して早起きなアリューシャに叩き起こされて、ボクは目を覚ました。

 急かすアリューシャを微笑ましげに眺めてニ度寝を決め込むセンリさんに、妬ましげな視線を向けながら準備を整える。

 セイコに足を隠す布を掛け、馬具を繋いで馬車を作り出した。


 その間に顔を洗って、サンドイッチと言う簡単な食事を済ませたアリューシャが駆け寄ってくる。

 ボクの食事は御者台の上で、サンドイッチを齧るだけだ。


「それじゃ行って来ます」

「いってきまぁす!」

「行ってらっしゃいませ、お嬢様方」

「てらぁ」

「――――」


 窓から顔を出したセンリさんと、壁に張り付いたスラちゃんが手を振ってくる。

 イゴールさんは朝だと言うのに門まで出てきて一礼してお見送りしてくれる。

 通りがかりの一般人が腰を抜かせているので、今後はぜひとも遠慮していただきたい。


 朝もそれなりの時間なので、人通りはそこそこ多い。

 そこを大型の馬車が闊歩していくのだから、注目度は結構高い。

 開店の準備をする者、迷宮へと足を運ぶ者、畑仕事へ向かう者。この街の活気は一年前といささか衰えていない。


「おっと、アリューシャ、これをインベントリーに入れておいて」


 ボクは懐から缶コーヒーくらいの小瓶を取り出してアリューシャに渡す。


「これなに?」

「スラちゃん。ただしミニサイズ」

「連れてっていいの!」

「本当はダメだけどね」


 言うなればミニスラちゃんは、アリューシャの護衛なのだ。

 いざと言う時は解放するように、それまではけっして外に出さないように、彼女に命じておく。

 前もって渡さなかったのは、意思を持つ彼? 彼女? とにかくスラちゃんを切り分けて瓶に詰めるのが可哀想だったからだ。

 すでにスラちゃんもボク達の家族の一員である。


「スラちゃんは護衛だから。それと武器も校内で取り出しちゃダメ。後、全力も出しちゃダメだよ?」


 アリューシャの身体能力は子供どころか、大人さえも足元に及ばない。

 言うなれば異端である。そういう能力を持つ者は、集団では差別されやすい。


「だいじょーぶだよ。ラキとテマもいるし」

「学年が違うからねぇ」


 誰かと合流する前に注意事項を言い含めておく。

 そうしていると、待ち合わせの場所にあっという間に着いた。


「あ、セイコとアリューシャだ! 母ちゃん、あれがセイコだよ!」


 大声でこちらを指差すのはテマだ。

 それにしても馬を先に呼ぶとは。そんな気遣いではモテないぞ、少年。


「おはようございます、ユミルさん……ですね? 今日はこの馬車で?」

「おはようございます。そうですよ、えと、テマ君のお母さん?」

「あ、はい。失礼しました。フェニと言います。よろしくお願いしますね」


 フェニさんは細身でスタイルのいい美人で、肉屋の女将とはとても思えない。

 今日は初日と言うこともあって、保護者同伴で学校まで運ぶことになっている。

 近隣の家庭にも知らせてもらっているので、十人ばかりの人が集まっていた。


「今日からこの子も学校に通う事になったんです。みんなよろしくね」

「よろしく!」


 ぺこりとお辞儀するアリューシャ。

 彼女を初めて見る子供たちは、その美貌に見惚れていた。


「うわー、髪きれい……」

「肌が真っ白だよ、病気なの?」

「バッカ、日に焼けてねーだけだろ」


 そこかしこで上がる賛辞に、アリューシャの顔は真っ赤になっていた。

 そう言えば、彼女に対する褒め言葉って、可愛いが大半で綺麗って言うのは少なかったな。

 子供たちはお喋りしながら馬車に乗り込んでいく。そして親達も、それに続いた。

 座席代わりに角材を乗せて居るので、皆が並んでそれに座る。

 元々大型の荷台だったが、子供十人とその親を乗せると、さすがに一杯になった。


 やや狭いが、それでもサスペンションの効いた馬車は快適に走る。

 こうしてアリューシャの学校生活が始まったのである。


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[一言] 朝と夕方で後退させれば。: 逆にウララはボクに抗議の頭突きを撃ち込んで来た。
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