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ゲームキャラで異世界転生して、大草原ではじめるスローライフ  作者: 鏑木ハルカ
本編 ゲームキャラで異世界転生して、大草原ではじめるスローライフ
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第七十七話 編入と不穏な話

 お昼を過ぎてから、ボク達はタルハンの初等学校へ向かうことにした。

 目的はアリューシャの編入。

 組合にはすでに住居変更を申し出ていて、こちらに居を構えているので、編入条件は達成しているはずなのだ。


 ボクはいつもの職業規定の衣装ではなく、質素なブラウスとスカートを用意して身に纏う。

 アリューシャも、地味目のプリーツにシャツとサスペンダーをセットで用意しておく。

 子供は腰のくびれが無いので、腰周りがずれやすいらしい。


 真っ赤な子供用ローファーを履かせて、お出かけ準備完了……と、思っていた時期がボクにもありました。


「アリューシャ、メイスは置いていきなさい」

「えー、武器はひっすだよ?」

「迷宮に行くんじゃ無いんだから……」


 イカン、この子の脳内はすでに脳筋に染まりつつある。

 早く常識を学ばさせねば。


「でもセンリお姉ちゃんも……」

「ん? 私は組合に行くから武装してるだけよ?」

「ずるいー」


 どうしてそれがずるく感じるのだろう……?

 ボクはその、一見ほのぼのした光景を見て、笑顔のまま冷や汗を流すのだった。




 下町と富裕層の居住地の境目付近にある学校へと向かう。

 門の入り口で編入希望のため来た事を告げて、中に案内された。

 センリさんは組合の方へ用事があるらしいので、ここでお別れだ。


 初等学校の敷地の広さは屋敷とほぼ同じくらい。

 屋敷と大きく違うのは、校庭の隅に遊具の類がいくつか据えられている事だろうか。

 あれはウチの屋敷にあってもいいな……今度作ってみよう。


 他には体育館やプールがある所は日本の学校と変わらない。

 と言うか、世界的な視点で見ると、プールがあると言うのは実は珍しいんじゃないだろうか?

 アリューシャはすでに、校庭の遊具に目が釘付けになっていた。


「お姉ちゃん、あれすべり台? 行ってきていい?」

「だめー、ちゃんと手続きを終えてからね」

「あぅ、早く行こう! 行ってあれで遊ぼう」

「目的を忘れないでね?」


 今日の目的は編入手続きである。

 できれば今後の生活のために、大人しめの印象を与えておきたい所だ。

 彼女の実力も人目を引きまくるほどに高いのだから。


 そのまま応接室へ案内され、一通りの説明を受ける。応対に出てくれたのは、この学校の校長と教頭先生らしい。

 校長は三十前に見えるエルフの女性だ。この世界でもエルフは長命な種族らしいので、きっと見た目どおりの年齢じゃないのだろう。

 教頭は五十位の男性。すでに白髪混じりの毛髪で、結構苦労してそう?

 女性の方が上に立つと言うのは、珍しいかも知れない。


 すでに組合から推薦状を始めとした書類一式貰ってきているので、手続き自体はすんなりと済ませられた。

 問題はアリューシャの学力試験を行うと言う点。


「えと、ここはタルハンの市民であれば誰でも入れると聞いたのですが……」

「あ、ええ。入学に関しては問題ありませんわ。ただ学力は揃えたクラスに入れておかないと、色々と問題が発生する恐れがありますので」

「問題……ああ――」


 そう言えばいじめとかの可能性もあるのか。

 子供と言うのは意外と残酷なもので、なんだかんだでカーストランキングを作ったりする。

 それらの基準となるのは、大体が身体能力と学力だ。

 もちろんそれらが劣っていても人気のある生徒はいるし、逆の生徒もいる。

 だがクラス分けでそれを揃えておくと、前もってその手の問題を押さえられるかも知れないと言うのは、まぁ納得できる。


 アリューシャが試験を受けている間は、ボクは一緒に居ることができない。

 教頭が試験官に着く事になっているので、ボクは校長先生と別室に移動することになった。


「それにしても、あのアリューシャさんが転入してくるとは思いませんでした」

「え、知ってるんですか?」

「ええ、一年前の防衛戦で活躍してましたもの」


 そういえば、センリさんが大活躍だったので目立ってはなかったけど、アリューシャだって最前線に立って敵を倒していたのだ。

 それを見ていると言う事は……?


「ひょっとして、校長先生も当時?」

「ええ、門で戦っていました。攻撃魔術が得意ですので」


 なるほど、実戦派だから男性教諭の上に立てている訳だ。

 男女差別する訳ではないが、男性側にはそう言う視点を持つ者はこの世界でも、やはり多い。


「ところで、ユミルさんはやはりあの『烈風姫(かぜひめ)』の?」

「それ、やめてください。まぁ、そう呼ばれてはいますけど」

「それでしたら、安心ですわね」

「なにがです?」


 唐突に飛び出した『安心』と言うワードに疑問を抱く。

 『安心』がすると言うことは、『不安』な要素もあると言うことだ。


「申し上げにくいことなのですが……この街では最近、行方不明事件が多発しておりまして。しかも被害は幼い子供に限定されているので、私としても気が気ではないのですよ」

「誘拐事件、ですか?」

「おそらくは……それで登下校には保護者の方に付いていてもらっています」

「それは心配でしょうね。ボク――私もできる限り協力しますよ」

「ありがとうございます。とても心強いですわ」


 一応目上の人なので一人称は改まったものにしておく。

 まぁ、アリューシャを誘拐できるような人が居るとは思えないけど……いや、ボクのような転移者ならば可能か。

 どっちにしろ心配なのは間違いない。この学校も屋敷から結構距離はあるし。

 ついでにスラちゃんの瓶詰めもインベントリーに入れておいて、護衛につけておこう。


 その後も校長と雑談は弾んだのだけど、後から考えてみるとあれはボクの身辺調査だったのかも知れない。

 それを感じさせない会話を展開していたのだとしたら、なかなかに聞き上手だ。




 しばらくしてアリューシャの試験が終わった様だった。

 教頭先生が呼びに来たので、応接室へと戻ることになる。

 応接室では試験を終えたアリューシャが果実水を飲んで待っていた。

 こういうのって、サービスしてもらえる物なのだろうか……普通はお茶で済ますものだと思ってたけど。


「あ、お姉ちゃん、おかえり!」

「うーん、その挨拶はどうだろうね?」


 家に帰った訳でもないのに『おかえり』は正しいのだろうかと、どうでも良い事が気になってしまう。

 対面のソファでは試験を即採点した教頭が、結果を校長に渡していた。

 ざっと目を通した校長が、こちらへと書類を回す。


「学力の総合では、全く問題ありませんわね。ただ、知識の偏重がかなり見られます」

「偏重?」

「そうですね……生物や植物などの自然知識はすごく高いです。ですが歴史や地政学などの分野は激しく――その、問題がありますね」


 そう言えば、アリューシャはサバイバル知識はすごく高かったのに、街の位置とか全然知らなかったな。

 国の問題も知らないようだったし、その知識チートには偏りがあるみたいだ。


「それと、数学――算数や魔術知識はむしろ、教師の方が教えてもらいたいくらい高いです。結果として、初等部では物足りないかも知れません」

「彼女の知識には私も助けられましたから。その分彼女は人との関わりが薄くて……」

「なるほど、そう言う目論見でしたか。いや、目論見と言う言葉は悪いかも知れませんでしたね。では飛び級など使わず、同年代の学級の方がいいでしょう」

「お願いします」


 そんな会話を交わすボク達を心配そうに見るアリューシャ。

 ボクはその頭を軽く撫でて、安心させてあげる。


「大丈夫。成績すっごく良かったって。頑張ったね」

「えへへ、うん」


 ニッコリ笑ってジュースを一口。

 おっと、その前にちゃんと注意しておかねば。


「あ、そうだアリューシャ。学校の登下校はボクが送り迎えするから、勝手に出歩いちゃダメだよ?」

「んぅ? なんで?」

「ん~……最近、怖い人が居るみたいなんだ」


 誘拐犯が居ると直接告げるのは、怖がらせるかも知れないと思い、なるべくソフトな言い回しを心掛ける。

 これで良いかどうかは、判らないけど。

 でもアリューシャは僕の申し出が純粋に嬉しかった様で、ニコニコと笑っている。

 これは信頼の証と自惚れてもいいだろう。


「ユミルさんはお若いのに、まるで本当のお母さんのようですわね」

「お母……それは少し微妙な気分です。私はこれでも十五歳ですよ?」

「失礼、あまりにも仲睦まじいもので、つい」


 この世界ではモンスターの急襲と言うものが多い。

 それだけに孤児の発生率もそれなりに高いため、ボクのように子供を引き取っている独身者も多いらしい。

 ただボクほど若いのに子育てしているのは、あまりいないようだけど。


「お二人の様子だと、生活の方も大丈夫そうですわね」

「こっそりそこも採点基準だった訳ですか」

「さて、どうでしょう?」


 ニッコリと笑いつつも、その視線には探るような光が感じられる。

 まぁ、ボクみたいなのが保護者なら、教育者としてそこまで心配するのは当然かも知れない。

 逆にそこまで気を回せる人にアリューシャを預けれるとあって、ボクの方は逆に安心した訳だけど。




 手続きを終えて、ボク達は組合に向けて足を進めた。

 アリューシャはすべり台に後ろ髪を引かれていたみたいだけど、確認事項ができたので、ここは我慢してもらおう。

 こうして我慢できるってことが、この年頃にしては彼女が成熟してる証でもある。


「いらっしゃいま――あー、アリューシャちゃん、いらっしゃーい!」

「エミリーさん、すでに近所のオバチャンみたいです」


 アリューシャを発見するなり奇声を上げるエミリーさんに、警告を入れておく。

 当のエミリーさんは、『オバチャン』の一言にダメージを受けたみたい。

 彼女もまだ二十にもなってないんだけどね。


「で、ユミルちゃん。今日は何の用事?」

「滅茶苦茶フランクですね? いや、最近行方不明事件が発生してるって聞いて」

「あー、あれね。こっちでも情報集めてるんだけど、あまり芳しくは無いのよね」

「アリューシャを学校に預ける身としては、すごく心配なんですよ」


 そのアリューシャは早速ドーナツを貰って食べている。

 この子、どこへ行っても何か貰ってくるな……要領がいいと言うか……


「さっきセンリさんもそれ聞いていきましたよ。やっぱり気になるんでしょうね」

「後で話聞いておきます」


 そこでエミリーさんはちょいちょいと手招きしてくる。

 これは通常の声量では話せないことを話したいのだろう。

 それを察して、顔を寄せるボク。


「どうも最近、正体の判らない輩が街の中に入り込んでるみたいなのよね。ほら、一年前の襲撃で衛士が結構死んじゃったから」

「門番にも影響が出たって事ですか?」

「ええ、雇いの兵士が兼務することが増えているそうです。そのせいで入市のチェックが甘くなってるそうで」

「その結果が、この行方不明事件に繋がっていると?」

「組合ではそう見ています。現在はレグルさんが探りを入れている状態です」

「なるほど、大きな声で言えない訳ですね」


 そうなると、この街は犯罪者が闊歩している状態になっているのか。

 少し焦りすぎたかも知れないな……


「それにしてもそう言う事情があるなら、前もって話しておいてくださいよ」

「そう言われましても、あまり口外するなと言う命令も来ているんですよ。ユミルさんは信頼できるのは当然ですけど、どこから話が漏れるか判りませんから」


 ボクとしても知り合いが危険な目に遭うのを看過するつもりはない。

 レグルさんとしては、下手に足を踏み込んで欲しくないが故の処置だったのかも知れないけど……


「それでアリューシャの身に何かあったら、ボク暴れますよ?」

「ごめんなさい、本気で勘弁してください」


 とにかく、これは家族会議の必要性があるな。


「それでセンリさんは?」

「ポーションの卸値を確認して帰りましたよ? 今まで安すぎたとか」

「あー、それは……うーん……」


 センリさんとしても初級のポーションでこれ以上の高額を取るのは、気が引けると思っての価格設定なのだが、それでも安すぎたと言うところか。

 ゲーム内通貨では四十を切ってたからなぁ……今ですら十倍だ。


「後はここからユミル村への輸送時間の変化とかですね」

「一週間ほどに減ったのでしょう?」

「今は五日を目指して頑張ってます!」

「……無理はしないでね」


 交易路の高速化が激しいな、最近。

 それが性質の悪い輩を呼び寄せている原因かも知れないけど。


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