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ゲームキャラで異世界転生して、大草原ではじめるスローライフ  作者: 鏑木ハルカ
本編 ゲームキャラで異世界転生して、大草原ではじめるスローライフ
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第七十話 六層攻略

 トイレの中にすっ込んだスライムを見て、少し考えてみる。

 ウチのスライムは言うなればトイレ第一号である。この村で最年長と言っていい。

 ならば、レベルアップしてもおかしくは無いはず。


「いやいや、レベルアップしたからって人語を解すほどの変化ってありえないか」

「お姉ちゃん?」


 考え込んだボクにアリューシャが心配げに声を掛ける。

 そこで返事を返そうとして、ふと気が付いた。


「待てよ……まさかアリューシャの能力が……?」


 よく考えてみれば、ボクはアリューシャと正確にパーティを組んだ記憶がない。

 彼女は最初っから一緒に居た存在であり、離れていた時間なんて数えるほどだ。

 だから『初期設定でパーティに編入されていた』と考えていたりしたのだが……


「よく考えてみれば、アリューシャとボクが出会ったほぼ同時期に、このスライムも一緒に居た訳で……」


 仮想キーボードを呼び出して、最初機能チェックをした時以来触ってなかったパーティウインドウを表示する。

 そこにはボクとアリューシャ、そしてセンリさんの名前の他に、『スラちゃん』と『セイコ』、『ウララ』の名前もあった。


「なんでえぇぇぇぇ!?」

「うひゃ!?」


 つまりは……あのスライムはアリューシャの影響下で『レベル制限解放』と『転職制限解除』を受け、上位のスライムに『転職』してしまっていたと言う事だった。


「アリューシャ、パーティにスラちゃん入れた?」

「んーと……うん、大分前に。確かベヒモスを倒した時に一回入れたかなぁ?」

「うん、それで?」

「タルハンに行ったときに一度外してぇ、ンで昨日また入れてあげたの!」


 そして真犯人はここに居た。


「アリューシャ、スラちゃんをパーティに入れちゃいけません」

「えー、いいじゃない。かわいそうだよ?」

「いけません、なんでもかんでもパーティに入れちゃダメですっ」

「スラちゃんかわいそう、お姉ちゃんの鬼ぃ!」


 いや、なんでトイレ用スライムにそんなに入れ込んでるの?

 とにかく、奇怪な進化を遂げたスライムである以上、放置する訳には行かない。

 お風呂は後回しにして、センリさんを呼びに行かねばなるまい。

 彼女の持つ【鑑定】スキルはモンスターの能力を見抜くことができるのだ。




「また珍妙な事をしてるわね?」

「ボクのせいじゃないです」

「わたしのせいじゃ――」

「間違いなくアリューシャのせいだから!」


 ボクの呼びかけに応えて這い出してきたスライムは、センリさんに手(?)を振って挨拶してたりする。

 それを見たセンリさんが頭を抱えながら【鑑定】を使用してみたところ、確かにスライムは進化していた。

 アシッドスライムから、メルトスライムという上位種へ。

 そして反応が敵対的から中立、さらに知性が無しから人並みへ。


「どういう事なの……?」

「私に聞かないでよ」

「良かったねー、スラちゃん」

「――」


 うにょうにょと動いて頷き、返事をするスライム。いや、スラちゃん。


「でもこれ、流石にトイレに使用するのは気がひけますね」


 仮にも知性を持つ生命体である。

 今後も気にせず、排泄物をぶっ掛け続けると言うのは、不可能だ。


「まぁトイレに関しては別のスライムを用意すればいいだけだけど……」

「あ、スラちゃん。今からお風呂入るからお掃除よろしくー」

「――!」

「アリューシャ、ナチュラルにスラちゃんを利用しちゃダメー!?」


 アリューシャの命令にビッと敬礼(?)をしてから、風呂場にニョロニョロと向かうスラちゃん。

 そして床を這いずり回り、木目にこびり付いた湯垢を丁寧に捕食していく。

 その洗浄力はボクが擦るよりも遥かに高い。


「いいのか、それで……」

「もうあなた達の行動を詮索するのは疲れたわ」

「ボクのせいじゃないですからね」


 大事な事なので、念を入れておく。


「まぁいいわ。お湯を沸かしたんなら、ついでに私も一緒に入っていいわよね?」

「はぃ?」


 確かに、センリさんからは錬金術を行った時特有の薬品臭い匂いが漂っている。

 それはそれとして……一緒に入るですと?


「そ、そそそれは、ボク達と――?」

「ここのお風呂広いから3人くらいいけるでしょ。それにあなた達ちっちゃいし」

「ちっちゃくないし」

「そうよ、お姉ちゃんより大きくなるもん!」


 いや、いくらなんでもアリューシャに追い抜かれるのはしばらく先……じゃなくて!

 話は付いたとばかりに、さっさと服を脱ぎだすセンリさん。

 そのスタイルはなかなかにいい。


「ふおおぉぉ……」

「なに変な声だしてんの?」


 こう見えても女性化してはや二年。自分を含め女体は何度も目にして耐性はできてると思ってたけど。

 セクシーな女性の脱衣シーンというのは、そのシチュエーションだけで燃える。

 ちょっと鼻血でそう。


 その後の一時間は、わりと至福の時間でした。やっぱ、おっきいのも良いな。




 翌朝、アーヴィンさんを始めとした多人数攻略レイドが迷宮に集まっていた。

 ボク達も念のための支援要員として、後ろから付いていく事にしている。

 参加している人数は五パーティで総数三十人程度。やや多目のパーティ編成だ。

 アーヴィンさんの掛け声と共に、一斉に迷宮の中に乗り込んで行く様は、壮観にすら見える。


 途中のモンスターたちを相手に連携の確認を取ったりしつつ、順調に迷宮を進軍する。

 モンスターもこれだけの人数を見て敬遠しているのか、いつもより遭遇数が少ない。

 斥候も数人いるため、罠に掛かることもほとんど無い。

 一層を抜け、二層三層を蹂躙し、難関だった四層の海エリアへと辿り着く。


「なんというか……これは、ある意味カワイイかも」

「うん、ちゃぷちゃぷー」


 個々のパーティでいるときは船を用意したりして突破するそうだが、今回は数が数なので用意できなかったらしい。

 そもそも、船と言っても丸太を繋いだ筏のような物なので、ヘタに攻撃されると壊れて海に落ちてしまう。

 そこで役に立つのが、動物の腸を使った浮き輪である。

 ビニールより密度が高くないので、じわじわと空気が抜けていくのが難点だが、それでも一時間程度は持つ。

 折を見て浮き輪を交換しながら進めば問題はない。


 問題があるとすれば……外見である。


 重厚な鎧を着た厳つい連中が浮き輪を使ってバシャバシャ泳いでいくのだ。

 しかも三十人。これは怖い。


「おい、シャークバイトが来たぞ」

「剣はろくに振れない。前衛が押さえるから魔術で倒してくれ」

「応!」


 いや、『応!』じゃなくて……!

 威勢のいいやり取りを、渚の海水浴的光景から発せられて、ボクは思わず噴き出してしまった。


 まぁ見た目はともかく、ボス倒しに行く連中が危険度四とは言え、そこらのモブに負ける訳が無い。

 敵が水中なので派手な火炎系の魔術は飛ばなかったが、氷の矢やら風の刃やら石の弾丸などが雨あられと降り注ぐ。

 その猛攻に耐え切れず、ズタボロになって沈むモンスター。


「見た目はアレだけど……怖ぇ」

「すっごいねぇ」

「もはやこの村の前線組は、大都市部のトップ冒険者に比肩してるからな」

「あ、アーヴィンさん。指揮はいいんですか?」


 いつの間にか、ボク達の横にアーヴィンさんがやってきていた。

 一応リーダーなんだから、指揮しないと。


「あの程度の敵なら適当に相手させてても大丈夫さ。それに俺は攻撃役だから、ここじゃ役に立たん」

「そりゃそうですけど」


 水中では剣をまともに振ることは難しい。

 ボクの様にスキルで遠距離からバッサリなんて手段が無いなら、致し方ないところだ。

 まぁ、見かけはともかく、後衛だけの攻撃であの火力なら、戦力は充分ありそうだ。

 実際の殲滅力を目の当たりにして、少し安心したボクだった。




 五層も軽々と突破し……むしろ足場がしっかりとある分、四層よりも楽そうだったが……六層へと降りる。

 現在はボスの部屋の前で、準備をしている所だ。

 斥候役が扉を固定して、閉まらないように細工をしている。

 そしてアリューシャはルイザさんに捕まっていた。ボクはそれを横目に見ながら、アーヴィンさんに話しかける。


「ホントに大丈夫なんですかね?」

「ま、出なくても、それはそれだな。検証の結果にはなる」


 扉が閉まらないとボスが出ないと言う検証か。

 そういうのも、『あれば便利』な知識なのかも知れない。

 あとルイザさん。アリューシャを解放してあげて。


「固定終わったぞー」

「よし、それじゃ各員準備は済んだな?」

「塩水のおかげで手間取ったけどな」

「手はずはきっちり覚えてるな? 気を引き締めていくぞ!」


 戦闘ではやや実力の劣る斥候役が扉を押さえ、前線要員が部屋へと入っていく。

 扉が自動的に閉まろうとしたけど、楔やロープに固定されているため、それができない。

 そして、部屋の中央に巨大な影が現れ始めた。

 それを見て慌てて後に続く後衛陣。


「それじゃ、私も行ってくるわね」

「センリさんも気をつけて。ポーションは持ってます?」

「子供じゃないんだから……」


 呆れたような表情を見せるセンリさん。

 でも、彼女の戦力ならきっと大丈夫だろうとは思う。

 それでもやはり、心配は心配なのだ。


「お、オイ……!」

「コイツは――」


 その時、室内の方から驚愕の声が聞こえてきた。


「ベヒモスじゃ……ない!?」


 絶叫に視線を送る。

 そこに現れていたのは体高五メートルほどの巨大な犬。

 漆黒の毛並みと鬣、そして毒蛇の尻尾。


 すぐさまセンリさんが【鑑定】を飛ばす。


「――オルトロス!」


 機敏な敏捷性と攻撃力を持つ巨犬。

 尻尾の蛇は毒も持っているらしい。


「センリさん、アーヴィンさん!?」


 想定外の事態に、ボクは慌てて短剣を構え立ち上がる。

 アリューシャもそれに続くが……その時、アーヴィンさんと視線が交わった。

 余裕を持ったその表情から、彼がこのまま押し切るつもりであることを悟る。


「落ち着け! 冷静に対処すれば充分に勝てる相手だ! むしろベヒモスより優しいだろ!」

「あ、ああ……よし、散開しろ! 前衛は標的を絞らせるなよ」

「後衛、毒対策とヒール、切らすな!」


 アーヴィンさんの一喝で、浮き足立った冒険者達が即座に体勢を立て直す。

 ボクはまだ部屋の外だけど、ボスは普通に出てきてる。

 それよりも……


「ベヒモスより弱い? 確かに、プレッシャーはそれ程でも……」

「わたし達が強くなったからじゃないの?」

「それも多少はあるんだろうけどさ」


 目の前では、タンク役がオルトロスの牙を防ぎ、蛇の首を抑え込み、攻撃を支えている。

 その合間に剣で斬りかかる前衛や、炎の魔術が飛び交っている。

 オルトロスに与えられているダメージ量は、明らかにベヒモスよりも多い。

 それはオルトロスがベヒモスよりも装甲の薄いモンスターだからという事だけではない。


「うん、落ち着いて見ると、確かに弱いね」


 強さ的には五層のモラクスの防御力に、四層のシャークバイトの攻撃力、それプラス毒という所か。

 あれなら、当時のボクでも回復薬無しで倒せるだろう。

 現に、彼らの猛攻に押され、オルトロスの出血も激しくなってきている。

 そして冒険者の怪我は支援パーティの回復魔法で瞬く間に癒されていく。

 特にセンリさんは、解毒ポーションや回復用の初級ポーションをぽいぽいと投げて前衛を支えていく。

 詠唱がないため、その回復ペースは他の支援役よりも遥かに早い。


 そして数の暴力に晒されたオルトロスは、ついに地に沈んだのだった。


次は明日に更新します。


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