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ゲームキャラで異世界転生して、大草原ではじめるスローライフ  作者: 鏑木ハルカ
本編 ゲームキャラで異世界転生して、大草原ではじめるスローライフ
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第六十九話 レベルアップ?


 大雑把な打ち合わせを終え、解散しようとしたタイミングでセンリさんとアーヴィンさんが食堂にやってきた。

 珍しい組み合わせに、二人の関係を疑いニンマリとした笑みを浮かべる。


「おやおやぁ。センリさん、アーヴィンさんとご一緒ですか?」

「ユミルちゃん、その表情は似合わないからヤメテ」

「…………あっ、ご一緒ですかぁ?」


 最初ボクの反応が理解できず、キョトンとしていたアリューシャも、すぐに把握して追随する。

 この子はこういった色恋沙汰に食いつきがいい。

 そのわりには趣味が無骨だけど……女の子がメイスを集めるのは、どうかと思うんだ。

 ボクが鈍器系の装備持ってなかったせいなのもあるけどさ。


 魔導騎士は全職業の中でも武器制限はとりわけ緩い。

 使えないのは暗殺者専用武器のカタール系とか、魔術師系の杖くらいの物だ。

 だけど攻撃力の高い片手剣や壊れない両手剣を持っている以上、あえて鈍器系を使用する必要が無かったのだ。

 なので、今回ももちろん持ち込んでおらず、結果としてアリューシャは切実な武器不足に陥っている。

 彼女が武器に拘っているのは、そういう面もあるからだろう。

 『自分専用』が恋しいお年頃である。


「私達は明日の打ち合わせよ。ほら、もうすぐキングベヒモス攻略のレイドがあるって言ったじゃない」

「そう言えばそんな事を……」


 五層で足踏みしてる冒険者たちは数パーティ連携してキングベヒモスの攻略を企んでいた。

 そのリーダー格がアーヴィンさんだ。


「だけど大丈夫なんですか? ボクでも結構苦労したんですけど」

「数は力だと信じたいね。それに撤退できるように慎重に行動するつもりだし」


 アーヴィンさんの構想では、こうだ。

 まず監視班が扉に張り付いて楔を打ち込み、閉じ込められないようにする。

 また、扉が強引に閉まったりしないように、支える役目を受け持つらしい。

 扉が開いている以上はいつでも退却できるので、安全に戦えると言う事だ。


 次に四つのパーティが連携してベヒモスに当たる。

 前衛攻撃・タンク・回復支援・後衛攻撃この四つが連携する事で、被害を最小限に押さえる狙いがある。

 アーヴィンさんは前衛攻撃チーム、センリさんは回復支援のパーティに所属してもらうそうだ。


 火力不足な点は、数で補う事にしたらしい。

 ボクの火力を数値に直すならおよそ五百。アーヴィンさん達はその十分の一程度。

 ならば十倍の手数を用意すれば良いと判断したらしい。

 あのバケモノの装甲を抜くのは苦労すると思ったら、センリさんがボクの持ちかえったキングベヒモスの骨で武器を造り、それを配る事でフォローするとの事。


 しかも今のセンリさんは錬金術師。

 マギクラフト・オンライン錬金術師には、敵の装甲を柔らかくする【アシッドレイン】というスキルがあるので、それに期待しているそうだ。


「ふぅん……思ったよりしっかり対策してるんですね」

「まぁ、大型モンスターや大氾濫で大量に出た時なんかの対策と同じ手だけどな」


 話をしながら手際よくウェイトレスへ注文をする。

 肉食系のセンリさんが、珍しくパンケーキのセットとか頼んでやがる。ぐひひ。


「そう言えばトーラスさんは、厨房に戻らなくてもいいんですか?」

「ええ、今の時間なら料理人たちの手も空いてますから」


 主任料理人でもあるトーラスさんだが、最近の人口増加には部下を雇い入れて対応している。

 もちろん部下の人も腕は良いのだが、やはりトーラスさんには一歩劣る。

 だがパンケーキや肉を焼く程度の技術はあるため、アーヴィンさんたちの注文を聞いた限りでは、戻る必要は無いと判断したらしい。


「それじゃ、こちらも作業があるのでトーラスさんを少しお借りしますね」

「また、なんかやらかすのか?」

「どうしてみんな同じ反応するんですかねぇ!?」


 この村でのボクの立ち位置と言うのは、実はかなり微妙である。

 一応よろず屋という職業は持っているが、その中身は本当の意味で『何でも屋』だ。

 新たな仕事を開発したり、商品を作り上げては、新規の入植者に投げっ放している。

 これは、ボク自身がその商品を維持する時間がないのもある。

 銭湯も結局はボクの発想から、他人の経営へと委ねようとしているのは、ボクに暇がないからでもある。


「まぁ、色々考えて実行するのは楽しいですけど、それを毎日維持する暇がボクにはありませんから」


 それに、村が発展すれば結果的にボクへの収入へと還元される。

 そして最大の理由の一つが……


「それにみんなが忙しそうにしてる中、ボク一人のんびり隠居というのは精神衛生上あまり良くないんで」

「お嬢、その歳で隠居するつもりか……」

「ワシャもう疲れたよ」


 ユミルさん十五歳。村造りに奔走してすでに一杯一杯である。




「しかしセンリさんもアーヴィンさん狙いかぁ。ルイザさんも大変だ」

「ルイザお姉ちゃんも?」

「うん。三角関係だね、ドロドロだ」


 銭湯の建設予定地をアルド親方とトーラスさんが測量している。

 ボク達はこの段階ではすでに不要な存在なので、空き地の隅っこに座ってアリューシャとジュースを飲んでいるのだ。

 遠くではアルドさんとトーラスさんが間取りで喧々囂々のやり取りをしていた。


 ボクは大雑把な間取りだけ要求しておいたので、もう用は無いのだ。

 要求した構造は、玄関から男女に分かれて、脱衣所にロッカーと番台を設置し、その先にそれぞれの湯船と洗い場がある造りである。

 つまりオーソドックスな銭湯スタイルだ。


「大量の水を引かないといけないから、ポンプ構造なんかも考えないといけないなぁ」

「ぽんぷ?」

「大量の水をラクチンに汲み上げる装置。まぁ、そのへんはセンリさんに投げておけば、怪しい錬金術ぱわーで何とかしてくれるでしょ」

「センリお姉ちゃん、便利だよねー」

「むぅ、アリューシャ。人を利用するような人間になっちゃ、イケないんだヨ?」


 最近のアリューシャは、そこはかとなく黒い。

 そう言えば大司祭職に就いている人は、なぜか腹黒い人が多かった気がするなぁ。偏見だけど。


 そのセンリ氏だが、ただいまアーヴィン氏と談笑中である。

 この一年でちょっと見た事がない感じの、乙女な笑顔を浮かべて。

 そういえばクラヴィスさんも、めでたくルディスさんと交際を始めたとか?

 パーティを解散するとか言う所までは行かないらしいけど、ちょっとコンビネーションがギクシャクしてきたとルイザさんが愚痴を漏らしていた。


 そのルイザさんはというと、脳筋鈍感系主人公のアーヴィンさん相手に空振りを続けている。

 そしてセンリさんも、おそらく空振りするだろう。

 あの男は剣の腕しか目が行ってないバカ野郎である。もげろ。むしろもぐ。


「はぁ、どこもかしこも春満開ですねぇ。初夏だけど」

「暑くなってきたねー」

「暑いねー」


 ここに転移してきて二年。三度目の夏である。

 こちらの気候が日本のように寒暖激しい物ではなく、穏やかな事はすでに知っているが……それはそれで日本の夏も懐かしく思えてくるのだ。

 桜の花見とかもできないし。


「それにもう二年か……向こうとこっちの時系列がどうなてるのか判らないけど、同じだとしたら事件になってるだろうな」

「事件?」

「アリューシャとか、お母――」


 そこで言葉を(つぐ)んでしまう。

 記憶を失っているが、彼女だって母親は恋しいはずだ。

 無条件でボクに慕っているのは、両親の影を重ねているのかも知れない。

 その傷跡を今、無理に抉る必要はないだろう。


 アリューシャの頭を抱き寄せ、優しく包み込む。

 彼女はいきなりの抱擁に困惑した表情を浮かべていたが、何も言わずに目を細めた。


 そこでふと、思ってしまった。

 ボクは元の世界に戻りたい。だとすると――


 いつまで彼女と一緒にいられるんだろう……?




 微妙な感想を抱いたまま夜になった。

 ボクはそれなりに料理ができる方なので、食堂は利用せずに自炊している事が多い。

 干し肉に加工した残りを使ったり、挽肉にしてソーセージにしたりと手を加えるのは嫌いじゃない。

 とは言え、アリューシャの両親について思いを致して、微妙な感情のまま夕食を終えたのは彼女にも伝わったみたいで……


「お姉ちゃん、なんか変?」

「変とは失礼な。ボクはいつも正常です」

「でも今日はおしゃべりが少ないよ」


 まぁ、こんな風に心配を掛けてしまったのは、凄く反省点だ。

 明日はアーヴィンさんの付き合いで迷宮に潜るのに、心配掛けてどうするんだ。


「ん、ちょっと考え事があっただけさ。ほら、お風呂に入って早く寝よう?」

「うん」


 ボクの小屋にはお風呂が付いている。と言うか、最近は増設している小屋が増えてきている。

 冒険者達は水浴びがメインだが、入植してきた一般家庭は、お風呂をつけている所が増えてきているそうだ。

 水汲みの労力や薪の問題があるけど、身体を拭くだけとか、井戸端で水浴びと言うのはやはり味気ない。

 そういう訳で、週に一度くらいのペースで入浴できるように、わざわざ設置する家庭が増えているらしい。


 まぁ、ボクんちには薪代という問題はほとんど無いのだけど。

 インベントリーから取り出した水で風呂桶を洗い、水を張る。

 ぽいっと聖火王の冠を放り込んで準備完了。


「じゃ、ボクはちょっとおトイレ」

「もう、そんなのは報告しなくてもいいんですー」

「はぁい」


 最近のアリューシャは、少し説教臭くなってきてるかも知れない。

 それが背伸びしてるようで微笑ましくもあるけど。

 そんな事を考えながら裏口へ出る。トイレは臭いの関係で家の外に併設してあるのだ。

 スライムが即時吸収、捕食分解するのでほとんど無いと言っても、やはり気になるものは気になるのである。

 裏口を出てすぐ横にあるトイレの扉を開くと、そこには一面を覆いつくす水色が存在した。


「ふおぉぉぉぉっ!!」

「な、何、お姉ちゃん、どうしたの!?」


 ボクは絶叫して、慌てて飛び退すさる。

 反射的にインベントリーを操作し、剣を構える。

 その速度も、この一年で大分速くなってきている。いや、今はそれよりも……


「はぅあ!」


 アリューシャもトイレの中を覗いて驚愕の声を上げる。

 そこには便座から溢れたスライムの姿があった。

 ボクは限界だった事もあって、ちょっとちび――いや、なんでもない。

 それより、ウチはそんなに供給量が多くないから、溢れるとかありえないんですけど!

 うぞうぞ動いたスライムは便座や壁、床を這い回ったあと、こちらに向かって一礼(?)してから再び中に戻っていった。


「なに、あれ……」

「あ、壁とかピカピカ」


 アリューシャの指摘で気が付いたけど、確かに壁や床がピカピカになっている。


「まさか……トイレ掃除、してくれてた?」

「スライムってそんな知能あったっけ?」

「ははは、まさか……」


 そう言えばせっかく便座から這い出たのに、また中に戻って行ったし、こちらに礼っぽい動作もしてたし?

 アレは知能ある所作と言えないことも無いかも知れない……


「スライム、レベルアップした?」

「えー、それこそまさかだよ……しないよね?」

「どうだろう……」


 この世界のスライムは、少し油断できない存在のようだった。


レベルが上がったのは……スライムでした。

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― 新着の感想 ―
スライムは(ふたりのアレなアレを吸収して)レベルが上がった! 体積が増えた! 体力が上がった! 知力が大幅に上がった! ニヒルな性格を得た!
[気になる点] 脱字:っ 「それにもう二年か……向こうとこっちの時系列がどうな・てるのか判らないけど、同じだとしたら事件になってるだろうな」 誤変換:思い至って とは言え、アリューシャの両親につい…
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