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ゲームキャラで異世界転生して、大草原ではじめるスローライフ  作者: 鏑木ハルカ
本編 ゲームキャラで異世界転生して、大草原ではじめるスローライフ
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第六話 素材を入手しました

 洞窟……というか迷宮内で狼達を撃退した俺達は、そのまま探索を続ける。

 とりあえず水袋はこの狼の胃袋で作ってみようと思う。だが、それだけでは足りない。

 水袋の数もそうだが、暮らす上で必要となる物……燃料になる薪や紙、水。そういったものが全く足りていないのだ。

 もちろんこんな迷宮内に、紙の様な文明的な物は存在しないはず。

 だがゲームだと、スクロールとか色々な紙製品が出てきたのだ。魔法が使える以上、ここは地球ではないはずだ。

 おそらくはどこか、異世界と呼ばれる類の物だろうと思う。

 しかもゲームキャラに転生しているのだから、ゲームに準拠したアイテムが出てきてもおかしくは無い。


「ねっ、ねっ! アリューシャ、やくにたった? おてつだい、できた?」

「うん、最初の【ファイアボール】は凄くいいタイミングだったよ。えらい」

「えへへぇ」


 にへら、と相好を崩すアリューシャの頭を、わしわしと撫でてあげる。

 彼女はこういったスキンシップを好む傾向にあるようで、犬の様に頭を擦り付けてねだってくる。

 ふわふわした柔らかな髪を撫でながら、俺は先ほどの狼の素材について考えていた。


「皮は毛皮とか(なめし)革に使える。胃袋は水袋に。肉は……食べられるのかな? 犬の肉を食べる文化はあるけど、臭みとかあるって話は聞いたことがあるな。まぁ、物は試しで焼いてみるかな? あ、香辛料とか無いなぁ」

「こーしんりょー? それあるとおいしい?」

「うん、とっても」

「すごい! おねーちゃん、さがそう!」


 ぴょこぴょこ跳ねて期待を表現するアリューシャ。この子は素直で感情表現が凄く豊かだ。感受性の高さが見て取れる。

 さすがに『贔屓の引き倒し』という奴かも知れないが、今なら親馬鹿の心境が理解できる。


「うん、でも今は木の方が先かな。トイレ、困るでしょ?」

「う……こまる」


 アリューシャは興奮して万歳していた手を、所在無げに下ろして眉尻を下げる。

 その頭をぽんぽんと叩き、俺は彼女を励ました。


「香辛料は木から取れるからね。ひょっとしたらまとめて入手できるかも知れないよ」

「あ……わかった。わたしがんばる」


 むん、とガッツポーズをしてみせるアリューシャ。この身振りが激しいのは、こちらの世界の標準なんだろうか?

 だとしたら随分と……馴染みにくそうな世界だ。俺は地味で奥手な日本人だから。




 あれからさらに狼を三匹倒した俺達は、一階の探索を終えて、さらに下に続く階段を発見した。

 一階で肉と袋の材料を見つけたのだから、無理をするべきでは無いかも知れない。

 だが『おいしいご飯』の魅力に取り付かれたアリューシャは、やる気が満ち溢れていた。


「ほら、おねーちゃん。はやくいこう!」

「わかったから手を引っ張らないで……階段だと危ないから!?」


 本来、小さな子供に引きずられるほど非力ではないのだけど、この身体は十代前半の幼げな少女だ。

 アリューシャほどではないが、体重も比較的軽い。ちょっとした事で重心が崩れてしまう。

 やる気に流行るアリューシャを(なだ)めながら、おっかなびっくり階段を下りる。その先に広がっていた光景は――


「なんだ、これ?」

「うわぁ、木がいっぱい!」


 通路いっぱいにひしめく、大量の木……なんだろうか? 高さ二メートルくらいの切り株のような物体が蠢いていた。

 しかも風も無いのにワサワサ動いてるし――歩いている連中だっていたぞ。

 トドメはアリューシャの大声に反応して、動きをピタリと止めやがった。明らかに知性がある。


「友好的……には見えないよなぁ? だったら動き止めるはずがないし」

「ふぁいあぼーで焼いちゃう?」

「【ファイアボール】ね。まぁ、攻撃された訳でもないし、ボクが近づいて様子を見てくるよ。もし攻撃されたら、離れた所の木をお願い」

「わかった!」


 もちろん動きを止めて擬態したって事は悪意がある可能性が高い。

 だが、こちらから遠距離で攻撃した場合、数に任せて殺到されたらアリューシャの身の安全が確保できない。

 ならば俺が囮として懐に入り、敵の攻撃を引き付ければ……ああ、怖い。

 意図的に攻撃を受けるとか考えたくねぇ……でも仕方ないか。

 防御を重視するために、今回は数少ない盾を構えて片手剣を装備する。

 謎の樹木生物は、案の定近寄った俺に向かってその枝を振り下ろしてきた。


「やっぱりな……【バーストブレイク】!」


 振り下ろす枝の速度は――やはり遅い。

 この迷宮は初級の難易度と見て間違いないだろう。

 敵の先手を確認してからタイミングを合わせ、カウンター気味に範囲攻撃スキルを発動させる。


 【バーストブレイク】――武器使用時でのみ使用できる一次職の剣士のスキルだ。

 高い攻撃力と炎属性を持った衝撃波で周囲を一掃する能力がある。

 ドゥン――と、迷宮全体を揺さぶる様な重い地響きが鳴り響き、剣風に乗せられた熱気が周囲に踊る。

 樹木生物達はその一撃で、文字通りに木っ端の様に吹き飛ばされていた。


「おねーちゃん……やりすぎぃ」

「うん、ボクもそう思った」


 粉々に吹き飛んだ樹木生物達を見て、アリューシャは苦言を呈する。

 だが彼女の場合、どちらかと言うと出番を奪われた不完全燃焼感が有り有りと顔に出ていた。

 表現豊かなのはいいが、もう少し腹芸を覚えさせた方がいいかも知れない。

 俺は唇を尖らせたアリューシャに苦笑しながら、バラバラにされた樹木生物達をインベントリーに収めていった。




 二階の構造は一階と違い、ただ通路が組み合わさっているだけではなかった。

 俺は敵の接近のみに注意を向けていたので、無警戒に踏み出した足が罠を踏み抜いた事に気付かなかったのだ。

 カキン、と何か金属質な音が鳴り響いたと思ったら、不意に足元の感覚があやふやになる。

 とっさに視線を足元に向けると、床に切れ込みが走りギシギシと落とし穴が開いていく途中だった。

 幸い蝶番が錆びていたのか、対応できない速さではない。可能な限り迅速にアリューシャを確保し、反対側にジャンプして回避。


「うにゅっ!?」


 襟首を引っつかまれた勢いで、アリューシャが猫のような声を上げる。

 苦しかったかも知れないが、さすがに今は構っていられない。

 開いていく床を蹴った反動で壁に到達。今度はしっかりとした足場を蹴って一気に落とし穴の圏外へと飛び退った。


「あ、危なかった……ユミルの身体能力じゃなかったら落ちてたな」

「うきゅうぅぅぅぅ」

「あ、ごめんアリューシャ。大丈夫だった?」

「目がまわったぁ」

「急だったからね。でもああしないと、そこに落ちてたし」


 いまだぱっくりと開いたままの落とし穴を覗いてみる。

 穴の底には槍衾の様な凶悪なトラップは無かったが、なにやら粘液質のアメーバ状の物がうねっていた。


「うわぁ、粘液スライムプレイかよ……」

「なになにぃ?」


 俺に釣られてアリューシャも中を覗き込む。

 穴の深さは五メートルほどで、側壁はツルツルとした素材で作られていた。

 高さはそれほどでもないが側面がこうも滑らかだと、登るのには苦労するだろう。


「うねうねしてるぅ」

「スライム……ということは落ちたら、あれに食べられるのかな?」

「え、あれ食べられるの?」


 驚いた顔でこちらを伺うアリューシャ。どうも『食べられる』と言うのが食用に適しているという意味で捉えたらしい。

 さすがにそれは俺だって遠慮する。食に関しては悪食な日本人でも、スライムを啜るのはなかなか想像し辛い。


「それにしても、登り難い落とし穴に捕食型スライムか……敵は弱いけど、トラップは強烈だなぁ」

「きょーれつぅ」

「あ、でも待てよ……コイツ何とかして連れ帰れないかな?」

「え、やっぱり食べるの?」

「食べません」


 この子は食いしんぼ属性持ちなのか……?


「とりあえず、このポーションの瓶に少し入れてみるか」


 瓶には水を入れて帰るつもりだったけど、使い道がありそうなのでスライムを詰め込んでみる事にする。

 短剣を蓋の床に突き刺して足場にし、ぶら下がるようにして穴底へと降りていく。

 ぎりぎり手が届く場所から掬う様にしてスライムを詰め込む。

 少し指先が触れた場所からジワリとした痛みが広がっていく所から、結構強力な酸を持っているのかもしれない。

 幸い瓶を溶かされる事はなく、おとなしく納まってくれた。


「これでよし。問題はインベントリーに入るかどうかだけど」


 いつものように……といってもまだ三日目だけど、アイテム操作をすると、インベントリーに取り込む事ができた。

 どうやらポーション類と同じ扱いになるらしい。

 この後二階をくまなく探索してみたが、落とし穴が数箇所あっただけで目立った敵などはいなかった。

 スライムが六匹と樹木生物が十二匹居ただけだ。

 さらに下に潜る階段を見つけた所で、アリューシャが疲れた様子を見せたので戻る事にする。


「ごめんね、おねーちゃん」

「気にしない。でも戦闘になったらすぐ降りてね?」

「うん、おとしてもいいよ?」


 疲労でフラフラしていたアリューシャを背負いながら、出口に向かう。

 彼女の体力がこの程度と言う事は、あの平原を渡りきるのは難しいか?

 更なる課題が積み上がったところで出口が見えてきた。帰りはすんなりと敵に出会わずに済んだようだ。




 外に戻ったら、日は大きく傾き地平線に沈む寸前だった。

 暗くなる前に俺は早速寝床を作ることにする。

 へとへとになったアリューシャを寝かせるためだ。と言っても、昨日の刈り草の残りを広げてマントを掛けるだけ。

 後は立つ気力も無いアリューシャを寝かせてマントを掛ける。

 夜にお腹が空いて目を覚ますかも知れないので、魚の塩焼きを枕元に置いておく。飲み物も必要だろうけど、入れ物がないので後で準備しよう。


 次に俺がやる事はトイレの穴を深く掘り下げる事だ。岩の裏辺りに二メートルほどの穴を掘り、中を焼き固めてから底にスライムを放流しておく。

 これで排泄物はスライムが吸収し、処分してくれるはずだ。

 そして穴が広くなりすぎて跨ぐには辛い大きさになったので、上に板を渡して足場を作る。この板は樹木生物の木切れから作った。

 後はトイレの周囲に木切れを立てて、草を編んだ紐で結び固定する。屋根も付けたいところだけど、そこまでの時間はないので、追々やっていく事にしよう。

 少なくとも周囲から見えるという状況は改善できた。


 最後に空き瓶に水を汲んでおく。

 これはアリューシャが眠っている今のうちに、ダッシュで小部屋まで行って汲んでくる。

 肉体的に強化されているユミルの敏捷性は凄まじいの一言で、ほんの数分で小部屋まで到達し、大急ぎで容器を洗浄して水を汲み、戻ってくる。

 往復で掛かった時間は十分も経っていないだろう。

 一本をアリューシャの枕元に置いておき、後はゆっくりと夕食を取る事にした。


「やれやれ、大急ぎだったけどようやく一息吐けたかな? あとは……皮をなめして、水袋を作るだけか」


 この作業は皮が乾燥する前に済まさねばならないらしい。

 ところがすでに日は沈み、刃物を使って皮下の脂肪層を削るなどという細かい作業はできそうにない。

 なので血抜きと内臓の処理だけしておき、残りは明日ということにした。

 乾燥するとカリカリに固まる事もあるらしいけど、インベントリーに入れておけば問題ないだろう。

 なにせ十年以上前に購入した魚やアイスが現役で食えるのだから。


「俺も疲れた……今日はこの辺にしておくか」


 こうして、三日目の遭難生活もクリアする事になった。


落とし穴が開くのが遅いのではなく、ユミルがとんでもなく速いのです。

そしてその自覚は、ありません。


今日はここまでです、次はまた明日。

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