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ゲームキャラで異世界転生して、大草原ではじめるスローライフ  作者: 鏑木ハルカ
本編 ゲームキャラで異世界転生して、大草原ではじめるスローライフ
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第六十二話 防衛戦

「チクショウ、どうなってやがる!」


 レグルは苛立ちを隠せず、毒吐(どくづ)いてみせる。

 ユミルを送り出し、間をおかずしてモンスターの大部隊――大氾濫の本隊が押し寄せてきた。

 斥候の報告よりもかなり早い到着。しかもこちらの攻撃をまったく無視して城壁に取り付いてくる。

 この様相がまるでホラー映画の化け物のような恐怖感を与え、守備兵たちの戦意を大きく削ぎ落とす。


「こいつら、どっから湧いてくるんだ……」


 すでに守備兵たちが倒したモンスターの総数は、百や二百ではきかない。

 だというのに、敵兵は()()を下回ったようには見えない。まるで無限に湧き出す軍隊を相手にしているかのような錯覚に囚われて来る。


「支部長、南門の守備隊が援軍を要請してきています!」

「南門は衛兵の詰め所があっただろ、そこを起点にして二次防壁を築け。最悪城壁は放棄してもかまわん」


 南門は住民が避難を済ませており、重要施設も存在しない。

 多少なら市街戦に持ち込まれても取り返せると素早く判断して、そう指示を飛ばす。


「北門も不利です! 増援を――」

「くそっ!」


 北門はロマール川が通っており、街の水源の半分を請け負っている。

 ライフラインに直結するので、北側は死守しないといけない。だが兵力が――


「アドリアンさん、行ってください!」


 そこに口を挟んできたのは、カロンだ。

 この街を旅立った頃は卵の殻も取れないヒヨっ子だったが、ヤージュの教育が良いのか、現在ではそこそこ成長の跡を見せる時がある。


「いいのか? お前達の主力だろう」

「北が落ちれば、もっと危険ですから。出来ればアーヴィンさんもそちらから差し向けて欲しい所ですけど」

「いいだろう。アーヴィン、頼めるか?」

「了解です、死守すればいいんですね」

「ああ、任せる」


 モンスターたちは梯子(はしご)のような道具を使わず、壁に爪を突き刺して這い上がってくる。

 人ではありえない、無茶苦茶ななりふり構わぬ攻め方。だがこれが人側の守護兵に戸惑いを覚えさせる。

 梯子が掛かるなら敵の攻め手が集中するので、ある意味守りやすいともいえる。だがこれでは、城壁全域を守らねばならなくなるのだ。

 スピード重視のアーヴィンとアドリアンは、這い上がってくる敵兵を斬り捨てながら駆け出していく。


 城壁を這い登ってくるのはオークが大半で、この場を守るためならレグルが一人踏ん張るだけでも、戦力としては何とかなる。

 彼とて無限に体力がある訳ではないので、1人で死守と言う真似は出来ないが、それでも主戦力として君臨するだけで士気は大きく跳ね上がる。


「カロン、お前も城壁前面に来い!」

「え、僕ですか?」


 カロンに接近戦闘力はない。彼には、モンスターとの矢面に立つ最前線に移動しても、あまり役に立つとは思えなかった。

 だが、レグルはそれとは違う認識を持っていたようだ。


「敵の数が減らない。どういうカラクリが有るか判らんが、敵の戦力が補充されるポイントを見つけてくれ。お前が一番目がいい」

「わ、わかりました……護衛お願いします」

「任せとけ!」


 レグルの意図は明白。

 敵が減らない、戦況が動かない。そういった悪循環を打開したいのだ。

 そのためには敵の戦力が減らないと言うカラクリを見抜かなければならない。

 高い視力を持つカロンにその役目を託したいのだろう。


 カロンも城壁前に張り付いて敵の増援ポイントを見抜くべく、目を凝らす。

 敵はすでにゴブリンやウルフといった雑魚はすでにいない。一面を埋め尽くすのはひたすらにオークのみ。

 最初に居た時はこれほどのオークは居なかったはず。

 するとわずかにモンスターの密度が濃くなった地域を見受ける事が出来た。


「あれ……レグルさん、あそこ! 城壁から二百メートル先、街道から南に三十メートル付近!」


 オークたちの群れの中、派手な角飾りをつけた個体を見つける事が出来た。

 その周囲に一瞬オークの群れが出来ては散開して行く。


「あいつ、あいつが召喚術をかけてるんです!」

「あそこか――! 弓兵隊、あそこを――」

「グルァァァァァ!」


 指示を出した一瞬の隙に這い上がってきたオークがカロンを襲う。

 カロンはとっさに鎚鉾(メイス)を翳して身を守ろうとする。だがその鉄棒は二メートルを超える巨体にはあまりにも儚げに見えた。


「【ふぉーすすらっしゅ】!」


 そこに飛び込む白い霊光。

 いくつもの光弾がオークに殺到し、一瞬の元に巨体を屠っていく。


「アリューシャちゃん、なぜここに!?」

「ゆーねを待つの! わたしもここでがんばるんだから!」


 決意を込めて雄々しく立ちはだかる姿は、あまりにも小さい。

 そんな彼女をカモと判断したオークが二匹アリューシャに迫るが、彼女はこれを素早く回避して痛撃を加えていく。


「嬢ちゃん、危ないから下がってろ」

「やだ、ゆーねの帰ってくるところはわたしが守るんだもん!」


 彼女としてはただ守られるだけの存在になりたくない、そういう思いからの行動だろうが、カロンとしては気が気ではない。

 ユミルのアリューシャへの愛情は、家族のそれを超えている様に見える。

 それなのにアリューシャの身に何かあれば、どれほどの怒りが関係者に落ちるか……考えるだに恐ろしい。

 正直、何かが起きる前に安全な場所に引っ込んでいてほしい。


「でも……今のタルハンに安全な場所が……」


 ここを抜かれれば後はない。

 南門と違い、この西門は背後は直接大通りになっており、一気に街の中央まで駆け上る事が出来てしまう。

 ここを抜かれれば、それだけで街は陥落の危機に襲われるのだ。

 ならばまだ目に付く所に居てくれた方が、安心とも言える。そう判断した。


「わかった、アリューシャちゃんは僕と一緒にレグルさんのサポート、お願い」

「うん、やる」


 そこに弓兵の部隊がやってきて、指示された場所に矢を射掛けていく。

 だが、距離が開いている事と、相手の防御の高さに大したダメージを与えられているようには見えない。


「くそ、決定打にならん……嬢ちゃんの魔法は届くか?」

「だめ、あそこまでは届かない……わたしの魔法は射程距離狭いもん」


 【フォーススラッシュ】の魔法は高い攻撃力と速い展開速度を持つが、射程距離に大きな難点を抱えている。

 長距離での使用には適していないのだ。


「やべぇな。このままじゃ数に押し切られる……」

「撃って出ますか?」

「それこそ奴らの思う壺なんだろうけどよ――」


 だがこのままではジリ貧だ。

 しかも三方の門を塞がれた状態では、ユミルの帰還も覚束(おぼつか)ない。


「こうなったら、海上から別働隊を出して、後背を突くとか……もっともそんな戦力は残ってないか」


 じりじりと消耗していく戦況。

 無限に湧き出す敵の戦力に、舌打ちしたい心境になってくる。


「そもそも敵を召喚するモンスターとか、迷宮のフロアボスレベルじゃねぇか」


 迷宮内部に現れるような強敵が、フィールドに現れたと言う話は聞いた事がない。


「ヤージュたちを襲ったゴーレムと言い、何かが起こってる……のか?」


 迷宮内部とフィールドでは明確にモンスターの生態が違う。

 その境界が崩れつつある気がするのだ。


「とにかく、この苦境くらいは乗り越えないと、調査どころじゃないか」


 再び這い上がってきたオークを薙ぎ払いつつ、一人ごちる。


「さぁて、どうやって倒してやるかな――」

「【フレイムビート】!」


 どう打って出るか頭を悩ますレグルの思考を、轟音が遮る。

 城壁に立つ一人の女性が放ったスキルだ。

 年の頃は二十歳程度の女性。スラリとした肢体と長い黒髪、そして長い耳が特徴的だ。

 その彼女が放ったスキル――いや、スキルといっていいのだろうか……彼女は大型の金属製の筒を抱え、そこから金属製の球体を射出し、それが着弾すると同時に大量の火炎を周囲に撒き散らす。

 その火炎はオークをまるでゴミの様に焼き払っていく。


「【フレイムビート】、【フレイムビート】、【フレイムビート】おぉぉぉ!」


 続け様に撃ち放たれた擲弾に、二百メートル先のオーク達は為す術もなく焼き尽くされる。

 安全圏から援軍を送り続けると言う戦術が、彼女の登場で一気に覆されてしまったのだ。


「ふん、ようやく『取り巻き』が消えたわね。それじゃ本番行くわよ!」


 抱えた筒を背中のバックパックに戻し、今度は細長い斧を取り出す。


「食らえ、【エンドセクション】!」


 そのまま斧を振り下ろすと、衝撃波が城壁から大地へ降り注ぎ、巨大なクレーターを作り出していく。


「お、おい、あんた……」

「なにしてんの、あんたが責任者でしょ。ほら打って出るわよ!」

「あ、え? お、おぅ?」


 そのまま彼女は二十メートル近い城壁から軽々と飛び降り、大地に小さなクレーターを作る。

 あの高さを飛び降り、少なくないダメージを足に受けたはずなのに、彼女は全く意に介する風でもなく、そのままオークの群れを蹴散らし召喚モンスターへと攻め上がっていった。

 角飾りの付いたモンスターを一瞥し、吐き捨てるように呟く。


「オークジェネラルね。こんなのも居るんだ――」

「ブルルオォォォォ!!」


 自らの戦術を無効化し部下を蹴散らしてきた女性を見て、怒りの雄叫びを上げる。


「うっさいわよ、【ショックウェイブ】!」


 頭部に叩き込まれた斧の一撃で、オークジェネラルが大きく仰け反る。

 そのまま体勢が整う前に、連続攻撃へ移る。


「【ブラッドフィート】、【アックスラッシュ】!」


 彼女の宣言で斧に赤い光が纏わり付き、その攻撃速度が大幅に加速する。


「おらおら、死んじゃえ!」


 華奢な外見に似合わぬ重い攻撃が立て続けにオークジェネラルに襲い掛かる。

 秒間五回を超える重撃が降り掛かり、あっという間に血だるまになるオークジェネラル。

 そこへ後を追ってきたレグルの一撃が叩き込まれる。


「女子供だけに目立たせてたまるか! 【連剛撃】!」


 真上から戦槌(ウォーハンマー)を叩き落し、直後跳ね上げるように打ち上げる。

 浮いた所にアリューシャの【フォーススラッシュ】が叩き込まれ、追撃を加える。

 その威力はレグルの連撃に勝るとも劣らない。


「へぇ、子供なのにやるわね……」


 前衛の作り出した隙を逃さぬ追撃に、女性が思わず声を上げる。

 オークジェネラルもやられっぱなしではいられぬとばかりに、スキルの詠唱状態に入る。

 それを見て、すかさず女性がトドメを繰り出す。


「させるかっての! 【エンドセクション】!」


 一気にオークジェネラルを追い詰めた一撃必殺の大威力範囲攻撃。

 それが再度放たれ、オージェネラルの首を側面から捉え、大きく捩れる。

 限界を超えた衝撃を受け、ついに血泡を吹いて膝を付き、ゆっくりと大地に沈む。


「グ、グブゥ……」


 力なく地に這ったオークジェネラルの頭に、アリューシャの魔法がもう一度突き刺さった。

 この一撃に耐え切れず、オークジェネラルの目から力が抜けていく。


「うわ、容赦ないわね……」


 一気にねじ伏せられた自らの首領の姿に、オークたちが戸惑いの様子を見せる。


「おねーちゃん、いまのうちに雑魚散らし」

「あ、うん。【フレイムビート】!」


 アリューシャの勧めに従い、再度擲弾を撒き散らし、残敵処理に入る。

 レグルの出陣を見てタルハンの守護兵たちも出てきて、情勢は一気にひっくり返った。


 こうしてタルハンの防衛戦は、幕を下ろしたのだった。


一部、ROをモデルにしてないスキルもあるので、説明しますと――


フレイムビート……連射可能な火属性範囲物理攻撃

エンドセクション……大威力範囲攻撃。技後硬直時間大。

ショックウェイブ……単体気絶攻撃。ボスにも効果あり。

ブラッドフィート……攻撃力増加付与スキル。

アックスラッシュ……攻撃速度増加スキル。


となっております。

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これは「お仲間」かな? フレンドだったり。
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